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 しばらく、たぶん馬の上だと思うんだけど、揺れて、もう本当に無理。

 死の恐怖や何も見えない怖さで、最初のうちはそれどころじゃなかったんだけど、だんだん、揺られ続けていくうちに、気持ち悪くなってきた。胃がムカムカして、本当にやばい。

 耐えられるだろうか。

 この謎の人物が止まるまで、私の胃は、食道は、もつだろうか。

 無意識に、唸っていたようだ。


「なあ、その女大丈夫か」


 若い、男の声だった。


「お、ほんまやな。いったん下ろすか」

「そうやな」


 それに応じたのは、ドスのきいた、低い男の声。

 その言葉の後にスピードが落ちて、少しも経たないうちに、何か硬いものの上に降ろされた。人の事を、丸めた絨毯かなんかだと思ってない?


「ううぅぅ」

「どうする? なんか病気か? 死なれたら流石に困るな」

「いったん、口布を外してみるか。死にとうなかったら、自分からなんか言ってくるやろ」


 すぐに、口布を取られた。新鮮な空気美味しい! さっきまで最悪だった気分が、だんだん落ち着いてきた。


「み、みず」

「水か。ほら」


 何か、硬いものが唇に触れ、ついで冷たい液体が流れてきた。それを、慎重に飲みこむ。

 気持ち悪いの自体が無くなったわけではないが、何かを押し下げられた、ような気がする。


「これでええか。ならまた」

「まって……。気持ち、悪い。それされたら、吐く。喉、詰まって、死ぬ」


 若い男の声に、できるだけ急いで、簡潔に訴える。

 また、口布されて揺られたら、たまったものではない。いつまで続くかわからないなら、今しか機会が無い、気がする。多分だけど、私を殺す気は今のところ無いし、死なれたら困るみたいだから、無碍にはされないはず……?

 しばらくの沈黙。


「どうする?」

「どうするって……まあ、良いんじゃないか。ここまで来たらあと少しで合流するやろ」

「それもそうやな。女、騒いだらまたはめる。それが嫌なら、せいぜい黙っておくんだな」

「わかった」


 口布をされるぐらいなら、黙っていた方がマシだ。

 気持ち悪さから一刻も早く解放されたい私は、それぐらいしか思わず即答した。男たちはその回答に満足したようで、私の口を再びふさぐ事はなかった。


 さて。

 ここで、冷静になって考えてみようと思う。

 私は、恐らく攫われたのだと思う。そしてここは、あの橋からだいぶ離れた所で、私が声を上げても無駄である、と彼らが判断している場所。……これ、ヤバいよね? 助けが来ないし、呼べないって事だよね?? マジか!

 相手の目的がわからない事には、どうして良いのかわからない。とりあえず命の危機は無さそうだし、様子を見るしかない。


 しばらく横になっていたが、私が唸らなくなってきたことを確認して、また持ち上げられた。

 ぐえっという、汚い声が出たのは、仕方ないと思う。でもまあ、それで若い男の声がたしなめて、扱いがマシになったから、結果オーライだと思う。そうか、ドスが効いた男の方に担がれているのか。どっちでも嫌だけど。

 扱いがマシといっても、ほんの少しのマシさなので、またかなり気分が悪くなってくる。

 しんどい、きびしい、つらい。

 この三言を繰り返し言っていたら、黙れと言われたのが納得いかない。ドスの聞いた声で脅されたので、渋々従う。

 納得いかない。


 私が納得いかないままでも、男たちは容赦なく馬を走らせる。

 しばらく走ったかと思うと、急に馬が止まった。と、周りからざわざわと人の声が聞こえる。何人ぐらいいるんだろう。


「将軍! 無事でしたか」

ばん将軍。それが、例の女ですか」

「お二人で行かれた時はまさかと思いましたが、無事で何よりです」

「そのもう一つの方は?」


 色んな人が、私を拘束しているであろう人物に、声をかける。

 安堵と称賛を口々にかけていくので、まあ、慕われている人物なのだろう。私にとっては悪だけど。


 何か硬いものの上に横たえられる。

 地べたにそのまま転がされた風だが、頬に感じる感触は、布だ。少しは気を使われたのか、たまたまなのか。私の拘束と目隠しは取ってくれないらしい。

 溜息がでる。

 泣きたい。

 気持ち悪いし、あちこち痛いし、これからどうなるかわからないし、慶珂も春陽も、思戯ですら居ないし。困りすぎて、泣きたい。

 泣いたところで、事態は良くならないだろうけどさ。


「お嬢さん。手荒に扱って、悪いね」


 恐らく、私に声をかけているのだろうと思う。若い男の声。攫ってきた人と一緒だろうか?


「そう思うなら、解放して」


 私が、気持ち悪いのをおして、反応したのが意外だったのか、しばらく無言だった。


「喋れる元気があるなら、大丈夫やな。もうちょっと我慢してな」


 なんか優しげに言われたけど、全くこちらの要求は無視ですかそうですか。別に良いけど。もとから期待してなかったし。

 足音が、遠ざかっていく。

 今は、昼なんだろうか、夜なんだろうか。

 確か、春陽達と会ったのはお昼前だったと思うけど、もうどれだけ馬の上で揺られたかわからない。気持ち悪さでお腹は減ってないけど、喉は乾いた。


 みんなは、大丈夫だろうか。

 あれだけの人数いたし、私みたいに不意打ちを受けなければ、負けはしないだろう。

 私が居ない事に、誰が、いつ気付いてくれるだろうか。

 慶珂はすぐに気付いてくれると思うけど、皆、ちゃんと話しを聞いてくれるだろうか。春陽なんかは、戦いだすとそっちが楽しくなっちゃうタイプだから、希み薄いかも。

 あの使者の人も私を、たぶん何かに利用したくて探してたっぽいから、正直そっちに見つかっても、事態は良くならない気がする。

 希望があるとすれば、黄さんかな。気づいてくれればだけど。でも、私達の場所を特定できてたみたいだから、攫われてもワンチャンある、はず。

 そんな事をつらつら考えていた。

 

「そんじゃ、ぼちぼち帰ろか」

「「はっ」」


 あの若い男の声に、幾人もの声が返事をした。一斉に、統制がとれているような返事が出来る、人達。

 そう言えば、さっきの会話で、将軍、と呼んでいるのが聞こえた。将軍、という名前や愛称という可能性もあるが、まあ、どこかの軍のどこかの部隊だと思って良いんじゃないだろうか。


 フッと、また浮遊感。

 ビクッと身体を竦ませていたが、なんかこう、縦じゃなかった。横……? 横って、つまり、これ、あれだよね? お姫様抱っこ。

 うっそ。めっちゃ怖いんだけど?! この浮遊感とぐらつき、かなりヤバいんだけど! あの、抱き上げてる方の首に手を回してるのって、イチャイチャしてるだけじゃないんだ! 怖いんだ!

 新しい発見にちょっと興奮してしまっていたが、すぐ下ろされた。固い、板みたいな上に横向きに寝かされる。と、思ったら、ガクンと揺れて、ゴトゴト動き出した。身体の片側にだけ、めちゃくちゃ振動くるし、揺れるし、身体痛い。これは、荷台か何かに積まれて、運ばれてる。……本当に、丸めた絨毯か丸太かなんかだと思われてない? 人権無さすぎじゃない??


 気持ち悪いのと、身体が痛いのと、何が起こっているのかわからない気持ち悪さで、最悪の気分のままなすすべなく運ばれて行く。


 本当に、一体、何が起こってるのか、誰か教えて欲しい。

 マジでつらい。

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