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 うぉー!おーおー!!

 おー!うおおお!!


 たくさんの、男の声。一瞬、獣の咆哮かとも思えるような、声。声。声。


 私と慶珂が思わずビクッと身をすくめている間にも、春陽や思戯、理智の連れて来た武装した人達は素早く剣を抜き、構えていた。な、なにこれ、敵襲? だ、大丈夫よね??

 いつの間にか、私と慶珂を守るように、みんなが集まってくる。先ほどまで理智にいいように言われ放題だった二人も、理智と並んで声がした方を警戒している。

 春陽の強さは知っているが、思戯は、戴のこの兵士たちは、どれぐらい強いのだろう。不安の為に手が震えてきた。思わず、慶珂の服の裾を握りしめる。それに気づいた慶珂が、苦笑しならも頷いた。


「大丈夫ですよ、これだけ武装した人間がいるんですから」

「そう、そうよね。春陽もいるんだし」

「うむ、まかせろ」


 前を向き、藪の奥をまっすぐ見つめたまま、春陽が返事をする。その返事の頼もしさと、子供の頃から鬼子とすら呼ばれる強さに、心が少し落ち着きを取り戻す。

 そうだよね。それに、使者殿が連れて来た人達は武装しているし、思戯はどれだけ強いかわからないけどさっき獣を斬った時鮮やかだったし、まあ、大丈夫だろう。あんな牙を向けられて斬れるなんて、凄いと思う。

 さっき、守ろうとしてくれた事といい、理智との言い合いでこちらの味方をしてくれた事といい、なんだか、胸の奥がぎゅっとする。なんだろう、これ。

 そんな事を想っている間にも、前方から、大きな声で何人もこちらに迫ってくる気配がする。でも、何とかなりそう。


 ガサッ


 音がした。

 後ろから。小さく。

 さっきの獣の事があるから、ビクッとして後ろを振り返った。またあの獣だったら、みんなに言わないと……。


「え?」


 手が、伸びて来た。と思った次の瞬間には、グイっと何かに引っ張られていた。まるで重力が背中側になったかのような、急激な引っ張られる感触。何もわからず、首というかデコルテあたりが苦しい。

 慶珂。

 いない。


「だ」


 助けを求めようとした声は、何か大きな物、たぶん手で塞がれ、息苦しくてもがく。

 だがその抵抗は虚しく、後ろに引っ張る重力が無くなったとたん、何かに拘束され、身動きすら取れなくなった。

 目の前では、藪から飛び出してきた、覆面をした男たちの相手をしている、春陽や思戯。こちらに気付いていない。


 助けて!


 この一言が出ない。私を拘束する何かは、私を紐であっという間に縛ったあと、口もあっという間に塞いだ。後ろを振り向く事すら許されず、ついには目まで覆われた。


 怖い。

 純粋に、そう思った。

 身体を拘束され、声も出せず、目も見えないこの状況。殺されるのではないかと、恐怖で身体がこわばる。だが、そんな事おかまいなく、私は何かに持ち上げられ、どこかに運ばれていくようだった。


 喧騒が、遠ざかっていく。

 せっかく、帰れると思ったのに。

 家路は遠く、身の保証も無い。


 今日は、厄日だ。間違いない。

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