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 トボトボと歩き続け、ようやく橋にたどり着いた。

 陽は既に中天に差し掛かっていた。結構歩いたけど、橋と、それに続く多少整備された道が見れたから、頑張りも無駄ではなかった。良かった。


「やっと着いた……。思戯、これからどっちに行く?」


 そう。橋に着いて、道が見えたのは良かったのだが、橋のこちら側も、向こう側も、奥が見えない森に続いていた。どちらに行っても、同じようにみえる。看板なんかも無い。


「さすがに、見当もつかなんな」

「そうよね……。ね、この棒が倒れた方に行くっていうのは?」

「なんだそりゃ。あんたの所の占いか?」

「占いって程のものじゃないんだけど」

「まあいいや。やってみようぜ」

「うん」


 二人して立ち行かなくなってしまったので、懐かしい占いをする。

 まず適当な長さの小枝を拾ってきて、道の真ん中に立てる。人差し指をスッと上にあげると、小枝は、私から見て右に倒れた。


「こっちに倒れたね」

「ああ。じゃあこっちに行くか」


 思戯が右を見る。あのボロ……時を経た橋を、結局渡らないのかと、ちょっと残念と安堵の入り混じった溜息を軽く吐いた。私も立ち上がり、右を見た。

 私が立ち上がったので、思戯は道の奥に向かって歩き出した。いったん後ろを振り返り、橋の奥を見た。こちらと同じ風景が続いてる。まあ、いいか。私も前を見て歩き出した。







 同じような風景が続いているが、道の上を歩いているというだけで、安心感が違う。いずれ、誰かに会うか、集落に着けるだろう。そう、前向きにしてくれる。


「案外、早く集落に着いたりしてね」

「そう都合よく事が運べば良いがな。こういう時は、変なところに落とし穴があったりするんだぜ」

「もう、なんでそういう事言うの。せっかく前向きに歩いてるのに。ほら、なんだかもうその曲がり角から人が出てきそ……」


 ガサガサガサ!!


 能天気に話していた瞬間、道脇から音がした。

 思わずビクッとして、思戯の後ろに隠れた。思戯も、音のする方を警戒するように剣を構えていた。

 音は、どんどん近づいてくる。ぎゅっと、思わず思戯の服の後ろを少し掴んでしまう。

 あと、少し。でも、まだ音の正体は見えない。しかも、一つではないみたい。恐怖に竦んでいるから、多く聞こえてしまうのだろうか。でも、一つの方向からじゃない。何個も聞こえる。


 ガサガサッ!!


 バッと、影が躍り出た。それは、犬のような大きさの、獣。

 思戯が剣を横に振ると、機敏に反応して、下がった。その後ろから、同じようなのが四匹、私達の前に躍り出て来た。

 獣は、夜に活動するものが多いけど、昼もいないわけじゃないらしい。


野狗やくだ! 俺の後ろから出るなよ」


 言われずとも。

 うん、と短く答え、思戯の邪魔にならないよう手を放すが、後ろにピッタリ隠れる。

 目の前の獣は、私達に向けて、鋭すぎる牙を剥き出しにして、唸っている。

 犬のようだけど、野良犬よりでかくて、牙がヤバい。しかも、犬みたいに群れてる。

 思戯、大丈夫かな。

 と、思っている間にも、襲い掛かってきた一匹を切り伏せていた。それで、ほかの獣も警戒したように思戯を囲んでいた。


 じりじりと、膠着する時間。

 獣が唸り声をあげた。

 後ろからも、新しくガサガサという音がする。新手かな、やばすぎない?!

 獣が、一斉にとびかかってきた。思戯はバッと一匹を斬り、そのまま反転してもう一匹。すごい、仕留めた! と思ってつい警戒を緩めた瞬間。


「危ない!」

「え」


 獣が、一匹、横から、牙を剥いて、私にーー。


 ギャン!


 やられる! そう思って、思わず手で頭をかばい目を閉じた次の瞬間、何故か獣の鳴き声がした。

 いつまでたっても、痛みが襲ってこない。恐る恐る目を開けると、そこには、


「なんだ、珠香か。何してるんだ、こんな所で」

「ゆ……春陽しゅんよう!」


 キンっと、剣を鞘に収めていたのは、まさかここで顔を見るとは夢にも思わなかった、双子の片割れ、春陽だった。完全にお団子にしていたから、思わず悠陽かと思ったが、この声と顔は、春陽だ。間違いない。


「それは私のセリフよ! 何してるのこんな所で、一人で!」


 そう、獣を切り伏せた春陽は、一人だった。

 え、待って待って。マジで待って。思考と理解が追いつかない。なんで春陽が、一人で、ここにいるの? 悠陽は? そんなことより、なんで環を離れてるの? どうやって戴に来たの??


「一人じゃないぞ。ほら」


 思戯が、残りの獣を斬り、こちらに近寄ってくる。春陽は、そんな思戯なんて全く構わず、獣と、おそらく春陽も出て来たであろう茂みを見ていた。


「や、やっと追いつきましたよ。勝手に飛び出さないでください!」

慶珂けいか!」

「二姐お嬢さん! 無事でよかった。怪我とか無いですか」


 はぁはぁと息を切らせながら、ガサガサと無遠慮に出て来たのは、既に久しく会っていないような気すらする、慶珂だった。

 春陽と、慶珂。安心感と安堵で、突っ込みたかった色々が、もうどうでも良くなった。ちょっと泣きそう。


「瑞の双子そうしと、使用人か。なんでここに?」

「そういうお前は、誰だ?」


 思戯が、剣を腰に差しながら、二人を見た。春陽は、思戯を怪訝そうに見ている。そうだった、思戯と春陽は初対面だった。……あ、思い出した。


「春陽。こちら、戴の将軍で、王 思戯さんというの。環で、一度、お会いするハズだったのよ?」

「え?……あ」


 思いっきり引きつった笑顔で紹介してあげると、最初はわからなかったようだけど、ようやく思い出したようだ。そう! あの、環で使者と会った時の、替え玉事件を! 全く。


「いや~、その、な? えっと、王 思戯殿だな。私は瑞家ずいけ大姐たいしで、春陽という。宜しく頼む」

「……瑞家の大姐とやらには、一回会っているはずだが?」


 春陽が取り繕うように挨拶をすると、予想通り思戯は怪訝そうな顔をした。

 これ見よがしに大きなため息をついて、種明かしをする。


「思戯。あの時居たのは、男子の方なの。だから、春陽とはこれが初対面よ。あの時座っていたのは、悠陽ゆうよう

「はあ? 双子ってのは、凄いな」

「ははは」


 目を泳がせ、誤魔化すように笑う春陽には、もはや呆れしか感じない。助けてもらったみたいだし、安堵も安心もしたけど、正直殴りたい気持ちも存分にある。

 とりあえず、この件の諸々は保留にして、何故か私の荷物を持った慶珂を振り向く。


「それで、慶珂はどうしてここがわかったの?」

「あ、はい。お嬢さん達を此処で見つけたのは、結果的になんですが、黄さんがお嬢さんのいるだいたいの場所と、大姐お嬢さんを見つけてくださったんです」

「黄さんが? どこにいるの?」

「先ほど、あたりを探ってくると言ってどこかへ行ってしまいました」


 つい、きょろきょろと周りを見回してみるが、確かに姿かたちは見えない。


「そう。なら、後でお礼を言わないとね。思戯、戴に戻れそうよ」

「ああ……」


 パッと振り返ると、思戯は何故か浮かない顔をしていた。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない」


 ジッと見ていると、また、あの微妙そうな顔をして、ふいと横を向かれてしまった。なんだろう。変な思戯。


「そう? まあ、いいわ。黄さんを待って、みんなで帰りましょう。これでようやく環に……」



「帰るのは、戴に、ですよ。瑞のお嬢さん」



 不意に聞こえた声に、ビクッと身を竦ませてしまった。

 声の主を急いで探す。私達が進もうとしていた道の先の方から聞こえてきたそれは、


「使者さん……」

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