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 目覚めは快適、といはいかなかった。

 ハッと目が覚めた瞬間、腰やわき腹や腕が痛かった。一瞬で、今までの状況を思い出す。相変わらず私の身体は固い石の上にあり、万全の状態とはいえない。

 もぞもぞと動き、伸びをした。

 眠気は朝の光と、下の固い石のせいで急速に遠のいたので、ゆっくり上半身を起こす。

 欠伸をし、周りを見回す。

 思戯の姿が無い。

 不安になってキョロキョロしながら、耳を澄ます。

 足音がする。思戯だとは思うが、一応、用心のために帯に挟んだ短刀を握りしめる。

 後、少し。足音はすぐそこまできている。胸が、ドキドキする。


「よぉ、起きたか。早かったな」


 声をかけながらこちらに入ってくるのは、間違いなく思戯で。ホッと肩と拳の力を抜いた。そんな私の様子を見て、思戯は苦笑していた。


「……おはよ」

「おはよう。良く眠れたか?」

「そうね、思ったよりは」


 そりゃ良かった、と言いながら思戯は手に持っていた革袋の口を開け、残っていた焚火の跡に水をかけた。ジュウという音がしたので、まだちょっと火が残っていたようだ。


「飯を食ったら、ここを出よう」

「わかった。……夜までに、どこか集落に着くかな」

「さあ、どうだろ。運が良けりゃ、どこかしらにはつくだろ」


 私の、不安そうな瞳に気づいたのだろう。思戯は取り繕ったように笑い、


「何とかなるさ。ほら、とりあえず食えよ」


 そう言って、私にあの兵糧丸を、今度は三つ渡した。

 不安は拭いきれないが、私は今、思戯に頼るしかない状況だ。せいぜい、足を引っ張らないようにする事しかできない。


 とりあえず、それ以上追及する事はせず、また兵糧丸をモソモソと食べた。やっぱり味はしなかったけど、お腹はいっぱいになった。ああ、味のするものを食べたい。

 革袋から水を飲む時に、不慣れで零したり上手く飲めなかったりしたが、とりあえず、朝食は終わった。


 思戯が立ち上がる。

 私も、ゆっくり立ち上がる。体調は万全ではないけど、最悪でもない。なんとかなりそう。ただ、ちょっと、いやだいぶ、半生乾き臭いのが気になるけど。そんな事言ってる場合じゃないよね。


「よし。じゃあ、行くか。そうだ、目を閉じてるなら、手を引いてやるけど」


 一瞬、何の事を言われてるのか、理解できなかった。なんで、目を閉じるのだろう、と。が、次の瞬間ハッと気付いた。そうか、思戯が制圧した痕跡が、あるのか。

 ちょっと、逡巡したが、


「いい。大丈夫。がんばる」

「別に、頑張らなくてもいいんだぜ」


 勇気を出して、断った。私の言葉に思戯は苦笑していたが、私の覚悟を尊重してくれるようだ。

 思戯は剣を持ち、柵の入り口を出る。私も、後に続く。慎重に、赤い線を踏まないように。


 牢を出ると、そこもまだ洞窟だった。ただ、細長い通路のようになっていて、あの牢の中だけが広かったみたい。薄暗い中を、思戯の後ろについて歩く。

 先に光が見える。出口だろうか。ふと、右側に空間が見えた。

 思わず見ようと首を振り向きかけた瞬間、グイっと、手を掴まれた。そっちに気を持っていかれた。思戯が、私を見て首を振った。

 察した。

 思戯を見つめる。頷く思戯。

 そのまま、そっと下を向いた。手が、引かれる。やっぱり、駄目だった。手を引く思戯に、なすがまま、ついていく。心の中で、そっと黙祷した。


 手を引かれて数歩も歩いたら、いきなり草が生えた。ように見えた。

 明るい。

 外に出たようだ。パッと上を向くと、木々と背の高い草で覆われた、なんていうか、森の真っただ中だった。森の中で少し開けた場所にあったようだ。


「出たね!」

「ああ」

「どっちに行こう?」

「まずは、河を探そう。大河なら流域に人の痕跡がある。無数にある小さい川なら、運が無かったな」


 あんまりにも平然と言われたので、あやうく聞き逃す所だったけど、今すごい事言ったよね?


「え、小さい川だとまずいの?」

「ああ、割とな。まあ、食料は獲れるだろうから、地道に探すしかないな」

「……思戯は、凄いね」


 ポロっと、本音がこぼれた。思戯は、おやっという顔をしたが、何も言わなかった。

 とりあえず行こうぜ、という思戯の言葉で、私達は洞窟を離れて歩き出した。







 しばらく、木々の間を歩いていく。

 太陽が昇り、辺りが明るくなってきた。穏やかな新緑が、目に優しい。何もなければ、良いピクニックになりそうだと思った。何もなければ。


「ねえ、思戯。川は見つかりそう?」

「あー? 音はまだ遠いな」


 先ほど思戯が、水の音がする、と言って歩き出して、日が少し昇った。あてもなく歩き続けるのは、少ししんどい。

 まあ、でも、足を動かすしかないので、また黙って歩く。


「……すまんな」

「え、何が? あ、思戯、水の音がするよ!」

「本当か」


 しばらく歩いた後、前を歩く思戯がぼそりと呟いた言葉は、川を見つけた喜びに流されてしまった。


「おー、結構でかい川だな。これは、期待できるぜ」

「本当、良かった!」


 私でも聞こえるぐらい、水の音がごうごうとしたので慌てて向かうと、木々の間からキラキラと光を反射した水面が見え、じきに川の全貌が見えた。

 確かに、大きな川だ。

 泳げる人間にとっても、泳いで渡るのは大変だろう。私はもちろん無理だ。

 川を見渡すと、ずっと下流の方に、細い橋が見えた。人工物を見て、思わずホッとした。


「思戯、橋だよ!」

「ああ。人の気配があるな」

「うんっ」


 今までの苦労も吹っ飛んだ気になって、思わず川岸まで小走りで近づいた。

 遠くで見るより、流れが速い。うん、泳いで向こうに行くのは、舟でも無い限り、橋を渡らないと無理だよね。

 はるか下流にある橋に、少し溜息がでた。


「とりあず、橋まで行こうぜ。道もあるだろうし」

「……うん」


 そして私達は、川沿いを歩き出した。

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