表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/152

100


 私達は、つまり私と慶珂は、おそらく燎の使っている一番良いテントに、ほぼ軟禁された。

 出入口には、兵士が二人立っている。

 だが、慶珂と二人っきりにしてもらったのは幸いだった。

 はぁーっと、横で大きな溜息を吐く音が聞こえた。慶珂だ。


「なぁんで、こうなるんだろうなあ」


 独り言のように呟かれる言葉には、答えをあげられない。代わりに。


「慶珂だけでも居てくれて、本当に良かった。ねえ、あそこを出た後、何があったの?」


 気になっていた事を、ようやく聞けた。

 慶珂は、どう言おうか迷っているように耳の後ろを掻いたあと、もう一回大きく息を吐いて、私を見た。


「……俺も、お嬢さんが無事で良かったよ。あの宿を出た後、普通に街道に沿って歩いていたら、峠にさしかかった所で何者かに襲われたんだ。兵士たちは山賊だって言ってた。

で、珊瑚さんが馬車から出てきて、戦えない俺に馬車に乗れって言ってくれて、中に乗ったらお嬢さん苦悶の表情で寝てるじゃん。呆れて起こせなかったぜ……。そんで、兵士たちが馬車守ってたはずなんだけど、馬が急に暴れだして。誰も止められなくて、たぶん、あの崖から落ちたんだと思う。お嬢さんの為に中に座布団敷き詰めてなかったら、危なかったかも」

「あ、それ私も思った。これのおかげで助かったんだろうなって」


 慶珂の話に口を挟むと、慶珂は苦笑だけして、続きを話しはじめる。


「んで、運よく無事だったけど、お嬢さん起きないから、とりあえず水汲んでこようって外に出て川に近寄ったら、あいつらと丁度出くわしてさ。仲間は崖の上だし、大声だしても届かなさそうだしで、一生懸命命乞いしてたら、お嬢さんがのこのこ起き上がってきた、って感じかな」


 言葉にトゲが含まれている……仕方ないじゃない。マジで周りの状況わからなかったんだから。


「そっか。大変だったね、ありがとう慶珂」


 何か言いたい事をグッと堪えて、慶珂は頷いた。そして、頭痛そうに額に手を当てた。


「どうするんだよ、これから」


 私に言ってるというよりは、慶珂の心の声なんだろう。だけど私はそれに答える。


「ごめんね、慶珂。巻き込んじゃって。慶珂だけでも何とか外に」

「できるわけないだろっ」


 私の言葉に言葉をかぶせてくる慶珂。はぁーっと大きく溜息を吐く。何回目かわからない溜息を。


「できたとしても、逆だろ。お嬢さんだけでも逃がして、環に戻ってもらわないと……まさか、好いた男と居たいから敵地に残るなんて、そんな事言わないよな」


 釘を刺すように、厳しい目を私に向ける慶珂。慶珂までそんな事言うなんて。心外そうに頬を膨らます。


「言うわけないでしょ。思戯には、本当に借りた物を返したいだけ。会ったら、すぐ帰るわ……帰してくれるなら、だけど」


 最後の方の言葉は、尻つぼみになってしまった。慶珂も、だよなぁ、と嫌そうにつぶやく。


「おかしいだろ。長永江ちょうえいこうを挟んで対岸に居る筈の、しかも尹と戦してる最中の国の奴らが、なんでこんな中央付近に居るんだよ」

「それなのよ。向こうも、ここに居るの知られたくないっぽいのよね。私が環の人間だって、燎さんは知ってるわけじゃない。なんか、急に引き留めだした感じじゃなかった?」

「そうかな。そこは本当に思い付きで言った、みたいな感じに思えたけど」

「そっか。なんにせよ、戦がはじまってしまって、私はもう用済みの人間の筈なのに、環にすんなり帰してくれない事に、不信感がぬぐえないのよね。あの人自身は良い人かもしれないけど、結局戴の指示には逆らえないじゃない? 怖いよね……」


 私が自信なさげにそう言うと、慶珂は肩を竦めた。


「お嬢さんは、本当に悪運が良いよな」

「だから、悪運が良いって何よ、悪運って」


 わざと拗ねたように言う。そして、顔を見合わせて二人同時に苦笑した。


「まあ、とりあえず様子を見ましょう。本当に思戯に会えるなら、もしかしたら私達を逃がしてくれるかもしれない。燎さんは言っても多分無理だろうし」


 私が苦笑しながらそう言うと、慶珂は微妙な顔をした。な、なんだろう。

 だけど、慶珂が口を開く事はなかった。

 なぜなら。


「よう、邪魔するぜー。おっ、珠香ちゃん元気出た感じ?」


 燎が、急にテントの中に入ってきたからだ。


「はい。だいぶ、良くなりました」

「そっかそっか、良かった。確か、めっちゃ乗り物酔いしてたよな」

「そうです。おかげで、助かりました」


 いつものニヤニヤ顔ではなく、ニコニコという表情でテントの中央部分、私達の目の前に燎は座った。

 ち、近い。パーソナルスペースが近い人だ、この人。

 それに、わざわざ人当りの良さそうな笑顔になってるの、逆に怖い。


「いいのいいの、困った時はお互い様だろ。んでな、思戯なんだけど」


 私がピクッと反応したのを見て、一旦言葉を区切る燎。続きが聞きたいのに、聞きたくない。

 なんだ、この間。

 笑っていた顔をスッと困ったような顔にして、燎が、ゆっくり口を開く。


「ごめんな、ちょっと問題が起きたらしくて、明日こっちに戻って来られないそうなんだ。もうちょっと待っててもらえる? もちろん、その間の面倒はちゃんと見るから、安心してよ」


 瞬間、色んな考えが頭をよぎったが、何も口からは出てこなかった。ただ一言、


「そう、ですか」


 それだけが、こぼれ落ちた。


「そんな、お世話になるなんて申し訳ないです。ご当主様に言いつけられているので、明日には環に向けて出発したいのですが」


 慶珂があくまで従者として意見を言うと、スッと燎の目が細められた。ああ、そうだった。この人、薄笑い浮かべてるからチャラいだけかと思いきや、怖い所がある人なんだった。

 だが、あくまで表面上は穏やかに、慶珂に接する燎。


「そっかー、主人に言われちゃあ、使用人としては困るよなあ。だけど、こっちにも事情があんだよねぇ。……珠香ちゃんはどうしたい?」


 笑っていない目で、笑った風な表情で、私を見つめる燎。答えなんて、一択しか許さないくせに。

 キュッと唇をかんだが、答えないわけないはいかない。燎の無言の圧力がかかる。

 私は。


「わかり、ました。待ちます。思戯を」


 それだけ、何とか言葉にする事ができた。途端に無言の圧力が無くなり、燎の顔がパッと明るくなった。


「そっかそっか、わかった。思戯にはちゃんと早くしろって言っておくよ。ああ、あと、夜中は獣が出たら危険だから、一応、外に出たい時は、外の奴に声かけてくれる?」

「はい」


 燎の言葉に、事務的に返事をする。

 私が素直に返事をした事に気を良くしたように、燎はニコニコと笑ったまま、


「むさくるしい所だけど、良かったらゆっくりしていって。じゃ」


 そう言って、テントから出て行った。


 完全に出て行ったのを待って、慶珂と顔を見合わせる。二人とも浮かんだ表情は、諦め、だった。


「……やっぱりな」


 先に口に出したのは、慶珂だった。


「ええ。素直に帰してくれるとは思ってなかったけど、こうもあからさまだとね。逆にすがすがしいわ」


 私が肩を竦めると、慶珂が苦笑した。


「そうだな。ま、手荒に扱われる事は無さそうだし、お嬢さんの言う通り、様子を見るしかなさそうだな」


 慶珂の言葉に頷く。

 もしかしたら、尹に攫われた時のように、珊瑚が見つけてくれるかもしれない。

 希望を持つ事は悪い事ではないハズだ。

 微かな希望を胸に、謎(戴)の集団の中で大人しく過ごし、様子を見る事にした。


 だけど。


長永河→中央と南部を分断するように流れるこの地で一番長久手大きい河。渡るのに三日かかるとの噂だったが、実際は1日かからず対岸に着く模様それでもでかい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ