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「これはこれは。環の使者殿。長旅、ご苦労様でした……と、双子そうし殿がお揃いでしたか。なんと良い物を見させていただきました」


 入って来たのは、劉家の当主だった。

 彼もまた、双子が揃った、つまり悠陽自身が使者として来ている事に驚いていた。

  

「瑞家の次期当主、悠陽ゆうようです。劉家の当主、汀桔ていきつ殿ですね。まずは、当家の者達を保護し、もてなしていただいた事に、多大なる感謝を述べさせて頂きたく存じます」


 そんな少し驚いている当主に向かって悠陽は素早く、拝礼という、手と手を合わせておじぎする簡略化した礼をして、口上を述べた。こういう所、機転が利くのよね。

 春陽も、言葉は無いが同じ動作をした。

 その双子の寸分違わぬ拝礼に、当主は動揺を隠せないようだった。

 吉祥と言われ、侯の側にはべる双子が頭を下げたのだ。自分より貴族としての位は下かもしれないが、双子には、そう、相対した者に畏怖を抱かせる何かがあるのだろう。


「い、いえ。とんでもありません。当然の事をしたまでです。どうぞ、使者殿も当家でゆっくり旅の疲れをいやしてください」


 劉氏の言葉に、悠陽はすぐさま首を横に振った。


「お心遣い感謝いたします。ですが、私も長らく環を開けられない身。明朝には出発させていただきたいと思っております」

「そんなに急ぎでですか……いえ。使者殿が決めた事です、口を出すのは野暮でしょう。ならば、せめて今晩は歓迎の宴を準備させますので、ぜひご参加ください」

「かしこまりました。度重なるお心遣い、誠に痛み入ります」


 劉氏の申し出に、悠陽はあっさり頷いた。

 あとは簡単なやりとりだけして、劉氏は戻って行った。忙しそうな貴族だ。仕事柄仕方ないんだろうけど。





  さて。

 劉氏と案内した侍女さんが出て行って、急に身内だけの空間にされた。

 嫌な予感がして、つい、


「ゆ、悠陽疲れてるでしょう、私、お茶淹れてくるね」

「それは後で良いよ。それより、珠香、春陽! ちょっとそこに座って」


 逃げようとしたが、それは悠陽に阻止された。

 春陽とチラリと目線を合わせて、お互い無言で大人しく椅子に座った。悠陽はその前に座る。着いたばかりで疲れているだろうに、元気だな……いや、それだけ腹が立っているのか。

 珊瑚と黄さんは部屋の隅に行って何やら話し込んでいるし、慶珂は出ていった。


「で」

「え?」

「僕に何か言う事ないの。特に春陽」


 キレてる、と表現してもよさそうな悠陽が、目の前で腕を組みながら私達を見ている。悠陽にしては、珍しい態度だ。

 そんな悠陽に、まっすぐ言えば怒られている春陽は、視線を斜め下にして一応悪いと思っているようだった。


「えっと、な? ほら、珠香、心配じゃないか」

「それはそうだよ。で?」

「いや、な、正規の手続きだと、外、出れないだろ?」

「当たり前だよ」


 春陽の言い訳は、悠陽にバッサリ切られる。うう、と言う呻き声をあげて、春陽がついにがっくりとうなだれた。


「すまん悠陽。お前には迷惑をかけた!」


 と思ったら急に大声で悠陽に謝る春陽に、正直ビクッとした。

 手を合わせて謝る春陽に、はぁーと悠陽は大きな溜息をこれみよがしに吐いた。


「全く。帰ったら父上にもっと怒られろよ」

「本当にすまなかった、悠。この埋め合わせは、いつか必ずするよ」

「当たり前だろ」


 そんな悠陽に平謝りして、春陽は一応許してもらえたみたいだ。


「失礼します。お茶が入りましたので、お持ちしました」


 そんな時、慶珂が盆にお茶一式を持って部屋の中に入ってきた。さすが慶珂。よく気が付く子だ。

 ありがとうと口々に言うと、慶珂は目だけで礼をして、お茶を私達三人に出し、珊瑚と黄さんの方に下がって行った。


「で、珠香」


 悠陽が、一口お茶を飲んで、口を開いた。

 春陽が怒られてるのを他人事のように眺めていたのに、急に矛先がこっちに来た。慶珂か持ってきてくれたお茶を飲もうとしていた所だったので、思わず茶杯を卓子の上に戻した。


「へっ、なに?」  


 悠陽の目は、春陽に怒っている時よりは柔らかだが、明らかに憤っている。


「なんで綜に居るの! 戴に行ったあと、尹に行って綜に来たって聞いて、心配で死ぬかと思ったよ!」


 ビックリした。悠陽が私に向かって、こんなに大声を発した事は無かった。


「ご、ごめんなさい、悠陽。心配、かけたみたいで」


 驚いたまま口を開いたら、素直に謝罪が出て来た。

 そんな私を見て、もう一回、悠陽は息を吐いた。お兄ちゃんの方が心配症なのだろうな、うちの家系。

 頭痛そうに額に手をあてて、うつむく悠陽。


「先生が、春陽は珠香の側に居た方が助けになるかもしれない、って言った意味がわかったよ」

「え? 風伯ふはく先生が?」


 力なく呟く悠陽の言葉に、もはや懐かしささえ感じる響きがあって、つい反応してしまった。


「そ。春陽が環を抜け出したあと、行方を探してる時に、先生がそう言ったんだよ。伊芝いし殿もそれを支持して父上に進言したから、春陽は無理矢理連れ戻されなかったんだよ」


 はぁ~、と、何度目かわからない溜息を吐く悠陽。

 先生、そんな事までお見通しだったなんて……あの本とお守りも、あやしくなってきたな。帰ったら丁重にお礼しないと。


「先生の予知は相変わらず恐ろしいな」


 春陽も少しだけ薄気味悪そうに呟いた。

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