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 次の日も、あまり行動としては変わらなかった。


 ただ、あんまり早く屋敷に帰っても暇なのが昨日でわかってしまったので、今日は市場でぶらぶらした。

 珍しい食材も見物したし、綜都で有名な飯店にも行った。有名な甘味を人数分頼んだのだか、護衛の二人は最後まで辞退していた。が、外で待たれると目立つのでと押し切って、一緒に食べた。

 何と、一人は劉家の侍女のお兄さんだった。もっと言えば、最初貴族区画に入る門で私達に親切に対応してくれた人だった。全然わからなかったけど、おごれて良かった。


 多少満足して帰ると、春陽が居た。ちょうど鍛錬の休憩中だったらしい。


「珠香、お帰り。市場は楽しかったか?」

「ええ。姉さんも行ってみればいいのに」

「私はいいよ。それよりどうだ、珠香もたまには身体を動かしてみないか?」

「私も遠慮しとく。それじゃあ、あんまり根詰めないでね」

「ああ。……珠香も」


 別れ際の春陽の言葉が、なんだかいつもと違って聞こえたので、ふと振り返ったが、春陽はもう鍛錬に戻ろうとしていた。

 剣を握って、振って、失望されるのは、もう嫌だな。

 春陽の背中を見送って、私も自室に戻った。


 明日には、環からのお迎えが来る。

 やり残した事は、いいや、できる事は、もう無い。

 環都に帰って、前のように家の事をしながら、たまにおばあさまの相手をして、そしてどこぞの貴族と結婚して、瑞を率いて行く悠陽の地盤を固める。

 そんな、未来。

 前まで、それが自分にお似合いの未来だと思っていた、むしろそうなる事が自然だと思っていた。

 だけど。

 今は。

 ちょっとだけ、胸がもやもやする。


 そんな、言葉にできない気持ちを抱えながら、眠りについた。






 次の日。

 予定であれば、環からの使者は今日到着のはずだ。

 が、朝食の席で劉氏に聞かされたのは、予定が遅れている、という事だけだった。劉氏も、使者の伝令がそう伝えてきただけで詳しくはわからないとの事だ。

 昔からの同盟国だったので、環と綜の間は、それなりに道が整備されている。迷ったりする事は少ないと思うのだが。


 朝食の後、珊瑚にも何か知っているか聞いてみたが、わからない、との事だった。

 黄さんが居てのこの遅れなので、不思議だ。

 おそらく瑞の私兵も護衛として引き連れて来ているだろうから、下手な山賊とかならすぐさま返り討ちにできそうなものなのに。


 帰りたくない、と思っていても、いざ環からくる使者に何かあったかもと思うと、心配で気がそぞろになって、この日は劉家の屋敷から出なかった。

 春陽は変わらず鍛錬、慶珂は使用人の人達と何かお喋りしてたし、珊瑚は外に出てくると言ってたから何か情報を集めているのかもしれない。


 結局、遅れた理由はわからずじまいで、次の日。

 やっぱり心配で、屋敷で待機していた。

 すると、お昼頃になって、


「環の使者様が、今、陽明門に着かれたとのご連絡がありました。そのまま当家に立ち寄られるそうです」


 侍女さんが、そう教えてくれた。陽明門というのは貴族や諸侯しか通れない方の門らしい。

 そこからこの屋敷は近いそうだ。


 そわそわしながら、到着を待つ。

 みんなも、応接間に集まって一緒に待っていた。

 珊瑚は、いつものニヤニヤ顔だったが何かを考えている様子で、春陽はいつも通りだった。

 私と慶珂だけが、心持ちそわそわしている状態だった。






 そして、ついに。


「環の使者様、ご到着です」


 扉の外から侍女さんの声がした。

 ついで、幾つかの足音。

 扉を開けて入って来たのは、


「珠香! 無事だったね、ああ、本当に良かった」

「悠陽! まさか、本当に兄さんが来るなんて」

「おや、珊瑚は教えてなかったのですか?」

「いややわ、あんた、瑞の坊ちゃんとしか書いてへんかったやん」

「そうだったか」


 双子の片割れ、悠陽と、黄さんだった。

 まさか、本当に双子の片割れが来るなんて、いや、もっと言えば双子をよく環から出させたな。何があったんだろう。

 おそらく護衛の兵は、屋敷の外で待機させられてるのだろうな。


 悠陽が、明らかにホッとしたような様子で私を見ているが、私は逆に、少し汚れがついている悠陽が不思議だった。


「悠陽、傷が」

「それより春! お前、勝手に出ていっただろ! 父上、めっちゃくちゃご立腹だったからな!」

「うっ」


 私が、悠陽の頬についた傷に触れようとしたとき、あからさまに話題を変えた。

 そう。悠陽は春陽より機転が利くのだ。

 一方、話題を向けられた春陽は、汗をかきながらそっぽを向いた。

 父に怒られるというのが効いたのだろう。確かに、無断で出て来たらしいし、あの身代わり事件はどうかと思うが、この旅で無事にここまで来られたのは、春陽のおかげも大きい。仕方ない。


「悠陽、春陽がごめんね。でも、春陽が居てくれて助かった事も、沢山あったの」


 ので、今だ怒りが収まらないという風な悠陽に対して、春陽のフォローを入れてみた。

 途端に、眉を下げる悠陽。本当に、顔は同じでも表情が全く違う双子だ。


「珠香……」


 その言葉を発したのは、どっちだったのか、どっちもだったのか。

 さらに悠陽が何か言おうとした時、また扉が開いた。

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