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苦情の多い生物部  作者: タワラヤ
5/8

山ごもり

「で、一昨日話していた土曜日の山籠りにはこれそうか?」

時が経つのは早いものであのカワウソ事件からもう2週間近くが経過した。

その間に星崎青華は部に生物部に加入。(こう書くと僕が部の先輩のように感じるが、実態としてはそうじゃないし、むしろ僕より馴染んでる。)

僕の初めて(エロくない意味での)は奪われた。

「僕は行けますけど、他には誰が行くんですか?」

「ニ城は来ないらしいから私とこのはだな。」

よかった某淫夢のパロディは起こらないらしい。というか後何人か部員はいるはずなんだけど。あれ?誰だっけ。

「道具とかは何を持って行けばいいですか?」

「キャンプ用品は二城に持つそうだからから採集道具と着替えだけで構わないぞ。」

あれっ、参加しない人が荷物持ってる。野獣乱用ダメゼッタイ。

そして迎えた当日

「いやー、ほんと部長酷いですよね。」

今はゴールデンウィーク真っ只中ニセアカシアの花はほころび、草や木の芽はふき、木は若葉を茂らせている。天気も快晴で絶好のハイキング日和といえるだろう。

あっ、テングチョウだ。テングチョウというのはアゴヒゲが天狗の鼻のように長いことが名前の由来となっているチョウで羽は茶色を基調としていて橙色の模様が入っている。島民をすることでも知られていてこの時期にみられるテングチョウのほとんどは冬を経験し羽がボロボロで飛び方もどこか弱弱しいものが多い。だが今目の前を通り過ぎた個体の羽には目立った傷がなく飛び方も力強かった。今年新しく羽化した個体なのだろう。

急に話が飛んだことからも分かるように現在僕は現実を直視したくない状況にいる。傍らに野獣がいるのだ。イノシシか?シカか?クマか?サルか?と皆さんの頭の中には純粋な野獣が浮かんでいることだろう。だが、現実はそれより厄介だ。いや、さすがに冬眠から目覚めたばかりで腹を空かせている可能性のあるクマと比較するとさすがにクマが勝ちそうなので訂正しておく。日本におけるこの季節のクマ以外のどの野獣より厄介だ。

現在僕は二城先輩と二人きりで林道を登っている。なぜならばそう参加するはずのメンバーが僕以外来なかったからである。酷くない?

「・・・」

「あれっ先輩聞いてます?」

「ファッ!?」

あっ、落とし文だ。

確認するが現実から目をそらしたいがゆえに解説パートに入っているわけである。決してアイデアが思い浮かばず文字数稼ぎを行ってるわけではないし、ましてや明日提出の課題から目をそらしているわけでもない。うん、ない。ないよ。ないからね?

落とし文とはオトシブミ類により木から切り落とされた葉っぱのことで、下に落とされた手紙に似ているからそう名付けられたらしい。ちなみに落とされた葉には卵が植え付けられており葉は将来卵から生まれてくる幼虫のエサとなる。オトシブミという名前的に将来生まれてくるこのために今は亡き母から贈られたメッセージを連想させ見つけるたびに感傷的な気分になる。昔は見つけるたびに葉をバラバラにして中に入っている卵や幼虫を放置するということをしていたわけだが人間たかだか数年でここまで変わるのである。将来は文豪も夢じゃないかもしれない。決して脚本を書いたりはしないよ。

「いや、だから部長がひどいですよねという話です。」

「はっきりわかんだね!」

気づいたら肩に茶色っぽい虫が付着していた。

あっ、種類よくわかんないけど、ゾウムシだ。最近ゾウムシの羽の硬さは共生関係にある細菌が原因であるって論文が発表されたね。ちなみに八重山諸島のほうにいるクロカタゾウムシは足で踏みつぶしてもつぶれないレベルに固い。針を刺して標本にしようとしても針を刺すなんて到底できない。ちなみに固すぎて羽は開かなくなっている。もう一度確認するとこれも現実逃避だよ?もちろんこれは文字数稼ぎじゃないし、ゾウムシの種類が指定じゃないのは種類も多く似ているものが多いためそう簡単に見分けがつかないからである。決してネタ切れとかそういうのじゃないよ。

「聞いてます?」

「菅野美穂」

もうヤダ帰りたい。というかなんでひときわでかいんだよ。

その後は無言で林道を征くこととなった。

「ここ」

途中の開けた広場に出た時に妙に上がって下がるイントネーションで先輩がつぶやいた。

「じゃあ準備します?」

「この辺にィ、美味いラーメン屋の屋台来てるらしいっすよ!」

だからどうしろと?Twitterに挙げて飯テロでもしろと?というか来ねぇよこんな場所。

なんにしても近くに小さいけど渓谷はあるし、虫も多いし、人も来ないし何気にいい場所だよなここ。

と思考をめぐらしている間に先輩は組み立て始めた。そして声をかけるタイミングを失っている間に組み立て終わり丁寧にテントの周辺に排水溝まで掘った。その姿はまさに匠のようであった。そしてテントからだいぶ離れた所に向かったかと思うと急に穴を掘り、周囲四隅に棒を突き刺しコの字型になるように膜で覆った。そう、トイレである。

「えっと、この辺トイレないんですか?」

女子くるんだぞ?

「まずうちさぁ、屋上あんだけど・・・・・・焼いて行かない?」

知るかよ。

そうこうしているうちに林道を軽トラックが2台登ってきた。

降りてきたのは部長こと鳳来咲羽とこのはである。長袖のTシャツにデニムという虫を採る人の典型パターンとでもいうようないでたちである。

軽トラあるなら荷物そっちに載せればよかったじゃん。

「二城ご苦労だったな。」

Oh、さすがにひでぇ。

「じゃあ、俺は帰るぞ。でもって昨日確認したらトイレが周辺に無いようだったからそこの隅に作っておいた。」

普通にしゃべれるなら最初からしゃべれや。

「ん?トイレなら持ってきたぞ。可憐なこのはに外で用を足させるわけにはいかないからな。」

そう言ったかと思うと軽トラから作業服を着た男が二人降りてきて荷台に積んでいた箱を下した。それは簡易トイレであった。

「そうか。」

それが先輩の最後の言葉となった。

その後先輩はビニールシートにくるまれ。トイレを載せてた方の軽トラに運ばれて行き荷台に収容され運ばれていった。二階級昇進させてあげたい。

「二城先輩はちょっと可哀そうじゃないですか?」

その後軽トラから荷物を下ろしてる最中に聞いてみた。

「あいつは自らの希望でテントの設営をやったんだぞ?」

「でも軽トラがあるなら載せてくるなりすればいいじゃないですか。」

というか僕も車で来たかった。何が悲しくて男二人で延々山道を歩かなければいけないんだ。

「お前去年最優秀賞とっただろ?」

「へ?」

いつかばれるかもとは思っていた過去だ。

だが、それと同時にもう捨てたし、捨てたかった過去だ。

「去年学生化学コンクールで最優秀賞とっただろ?」

「人違いじゃないですか?」

だが、過去は過去、やはり捨てられなかったようだ。

しかし、僕にはもうそれを背負って生きていくだけの力はなかった。

「そういうことにしておこう。同姓同名の人違いよ。二城のもと憧れよ。だがな二城がお、前と話したくてわざわざあの莫大な荷物をもって山を登ったことだけは覚えておけよ。」

その目的が僕が林道を登りながら思っていたことであればどこまでよかったことだろうと思った。

「そう言えば、このはさんどうしたんですか?」

そして、結局逃げた。

「もう一台のトラックに乗っていたはずだが。」

部長はそう言ってトラックの方を見た。

「出てきませんね。」

「そうだな。様子を見に行くか。」

そうして二人で軽トラックの方へ向かった。

トラックの助手席には気持ちよさそうな姿で寝ている彼女の姿があった。ちなみに半そで半ズボンという自然をなめてるのかと聞きたくなる服装だったけどかわいいならOKです。

「すみません、お嬢ここに来る途中で寝ちゃいまして。」

と、荷物を降ろしている作業服の男が言った。

「昨日はここに来るのが楽しみな様子で夜更かししてたからなぁ。」

遠足前の小学生かよ。超かわいい。

「だが、これはチャンスだな。写真をとらねば。」

そう言って部長はカバンから一眼を取り出して撮影を始めた。そして、しばらくすると

「光源が足りない。」

そう言ってレフ板を差し出し。

「これで下から照らせ。」

と言った。というか命令してきた。

そして僕はその命に従い下から彼女を照らすこととなった。が、それがあだとなった。僕が照らし始めた直後に

「んんっ」

と少しうめき声をあげるとうっすらと目を開けた。

彼女の目に映ったのは一眼を構えて自身の姿をとっている姉とその下でレフ版を構えている先輩である。

「えっ、先輩。」

そうつぶやいたかと思うと急に赤面しダンゴ虫のごとく丸くなり軽トラのドアを閉めた。

その後彼女を引きづり出すのに三〇分ほどかかり最終的にはデータを消したうえで土下座して出てきてもらった。

「あぁ、もったいない。せっかく可愛かったのに。」

出てきた後に部長がぽつりとつぶやいた。

「先輩も可愛いと思うのですか?」

なんだろう怒られているのだろうか。

「当たり前だろう。」

「姉さんには聞いてません。お口はチャックしていて下さい。」

「思うよ。」

「じゃあさっき姉さんが撮った写真も欲しいと思うのですか?」

「うん。」

「じゃあ、一枚くらい残しておいても・・・」

「え、何?」

「何でもないのです。先輩は変態なので先輩の周囲に女の子にまつわるものは一切おいてはいけないということなのです。」

「そっか、残念だな。」

まぁ常識的に考えれば僕が鳳来さん以外の女の子の写真を持つ分には別に構わないはずなんだけどそこにはあえて触れないでおこう。今日なんか辛らつだしね。

「・・・」

赤面してくちをもごもごと何か言いたげに動かしている。なにこの可愛い生き物。

「でもさ、男だったら可愛い女の子の写真がほしいというのは正常なことだと思うんだよ。」

何に使うかとかその人の性的指向はさておき男はそういう生き物なのだ。だからこそ少年誌にすらグラビアが付く。何でもいいけどあれ当たりはずれ大きいよね。

「誰でもいいならその辺の尻軽泥棒猫にでも写真をもらえばいいのです。そういう人なら喜んで裸の写真だろうが何だろうが送ってくれますよ。」

ホントに辛辣だな。なんにしても猫っていいよね。昔は畜生になめられてると考えると無性にイラついたものだけど、それは嘘だって証明されたし。あの自由奔放かつ気高い感じがいいよね。汚したいというかなんというか。あれ?何の話だっけ?まぁ、ともかく僕としては犬より猫のほうが好きだし、擬人化するなら断然猫だし、ケモミミは猫をプッシュするし、何らならマラソンを走らせるまである。あんな距離好き好んで走るのは人間ぐらいだし肉食動物に走らせれば途中で力尽きるのは請け合いだけどね。

そのときポケットからバイブの振動がつたわぅてきた。別に何か変なもの入れていたわけじゃないよ?

ポケットから携帯を取り出し相手の名前も確認せずに通話ボタンを押す。

「もしもし・・・」

「せんぱーーーーいなんで家にいないんですか。」

電話の相手は星崎青華である。うるさっ。

「なんでって虫取りに来てるからだよ。」

「知ってますよ。だから先輩の家に来てるんじゃないですか。だいたい先輩が自分で今週末は虫取りだって言ったじゃないですか。でも連絡が来ないから先輩の家に来たんですよ。」

どういうことだろう。伝達ミスか?

「なんで私も誘ってくれないんですか?」

おっかしいなぁ。確かみんな誘ったって言ってたんだけど。

「ちょっと待ってろ。」

「部長、なんか青華、いや星崎さんから連絡があって今日のことが伝わってなかったらしいんですけど。」

「確かに連絡はしたはずなんだがな。」

「連絡はしたって言ってるよ。」

やっぱりミスか?

「ちょっと待ってください。私そんな話聞いてませんよ。」

「やっぱり知らないって言ってます。」

「通話を替わってくれ。」

そういって半ば無理やり携帯を奪われた。

しばらく話た後

「このはに伝えておくように言っておいたのだがなぁ。」

と部長がつぶやいた。

「それはすまないことをした。今からでも来るか?」

「じゃあ、迎えをやるから場所はそちらで指定してくれ。」

「じゃあそのサークルKに一時間後に」

とやり取りが繰り返されたのち

「もういいぞ。」

と言って返された。

「もしもし、先輩ですか。」

通話相手が切り替わったことを確かめるためにそう聞いてくる。

「うん変わったよ。それにしては災難だったね。」

「鳳来さん少し抜けたところがありますからねぇ。しょうがないですよ。」

やっぱり仲がいいんだな。彼女にそんな一面があるとは気づかなかった。ただなんだろう、少し毒がこもってる気がするのは気のせいだろうか。

「それにしても親は大丈夫なのか?」

青華の親は昔いじめられていたことに起因するのか異常に過保護な面がある。

「大丈夫ですよ。黙って出てくるので!」

大丈夫じゃねぇな。

ちなみにやはり大丈夫じゃなかったのだがそれはまた別の話である。


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