あくる朝
私は星崎青華、先輩の嫁(仮)だ。現在私は先輩のベットの上にいる。
「ふふっ、今日もかっこいいですよ先輩。」
今私がまたがっているのは神領夕月先輩。私の恩人でありあこがれの人だ。
先輩との出会いは私が小学6年生の頃に遡る。
当時生き物が好きであるという理由から周囲から異質な存在として拒絶され、家に引きこもっていた私はお母さんと一緒に研究所が主催している研究者の講演会に来ていた。講演会はもちろん楽しみではあったのだけど一番の目的はその研究者と去年研究所が選出する私が住む市で最も優秀な自由研究所に送られる賞を最年少で受賞した中学1年生の少年との対談だ。それが先輩だった。先輩は大人しかいないこの空間にあって異質な存在であったと思う。そんな中でも物怖じせず自分よりも強い存在を相手に議論を交わす先輩は私とは別世界の生き物みたいでとても眩しかった。
対談が終わり先輩が壇上から降りて来た時に私は我を忘れて駆け寄り叫んだ。
「弟子にしてください!」
会場からは大爆笑が起きた。とても恥ずかしかったけどもう後悔はしていない。先輩は笑って答えた。
「僕はまだ経験が足りないから。」
と、私はそのあと大泣きしてしまった。そ声口走った言葉は私は覚えていないけれども母曰く末代までの恥らしい。先輩はその時もずっと私のそばにいてくれた。会場を片付け始めても、先輩の母親に置いていかれてもずっとずっと。そして泣き止んだ私にこう言った。
「師匠はまだ無理だけど、友達になろう。」
と。その時から先輩に私は恋をしていたんだろう。その日は先輩を私のお母さんが車に乗せて送っていった。その時にいっぱい話を聞かせてもらえた。先輩を送り届け別れる時にとても悲しくなりまた泣きそうになったら先輩はそれを察してか
「またいつでも遊びにおいで。」
といってくれた。今思えば非常識極まりないのだけど、当時の私はそれが嬉しくて、次の日にすぐに遊びに行った。先輩は忙しい中にもかかわらず生き物の話をしてくれた。そのあとも夏休みに入ってからは毎日のように遊びに行き、川で魚を取ったり、早朝からクワガタムシを取りに行ったりもした。私が先輩と同じ学校に入りたいと言ったら自分の勉強も後回しにして受験勉強に付き合ってくれた。学校の中にしか広がっていなかった私の世界を広げ、戦う勇気をくれた。私の笑顔を取り戻してくれた。私の人生は先輩のおかげで存在する。だから私は先輩のために残りの人生を使うと決めたんだ。
「で、どっから入って来た。」
「えへへ、内緒です。」
「玄関です。」
「カギは?」
「玄関です。」
「警察は110番だっけ。」
「・・・」
「あっ、もしもし朝起きたら家に不審者がいt」
「すいませんでした。この合鍵を使いました。」
「で、何のために侵入した?」
「合鍵の没収はしないんですか?」
ちなみに合鍵を使った侵入は今回で6度目である。
「どうせまた作るだろ。」
「はい!」
「で、何のために侵入した?」
「やだなー、忘れたんですか昨日言ったじゃないですか。余裕をもって起きないと朝侵入して犯すって。」
信用値0?というか起こすって一文字違うだけで恐ろしい意味になるな。
「本性出てるぞ。」
「先輩も出してくださいよ。」
「人類は全員変態じゃないぞ。」
「でも先輩、昔言ってたじゃないですか。生物はみな自身の子孫を残すために生きてるって。」
「確かにそうだが、こうも言ったよな優秀な遺伝子をより多く残すためと。」
将来、子供がこんなことしようものなら事案」である。
「私は先輩であればいつでもウェルカムですし、浮気しても許しますよ。」
「変態であるということは現代では少なくとも不利な遺伝子だから。」
「酷い、ド直球。」
「ともかく今回みたいなことはマジでやめろ。」
「どの辺がだめだったんですか。」
「朝起きた瞬間に人の体の上に下着姿で跨ってることがだよ。」
「全否定じゃないですか!」
「全否定だよ。」
「何でですか!」
「なんていうか・・・その・・困る」
長年のやり取りの賜物でこうして普通に会話しているが、この少女星崎青華は美少女だ。しかもその容姿は現実離れしている。透き通るような白い肌に髪は銀色、目は夏の空を思わせるような深い青。実は精霊だと嘘を付かれても普通に信じてしまうような容姿である。それに加えしかも普段から恋愛的な意味でかは分からないが、好意を寄せてくれている。いくら長年接し、妹のように思ってる相手とはいえ、そんな相手が相手が朝起きた時にエロい格好で自身の上にまたがっていれば誰でもよからぬことを思い浮かべてしまうだろう思春期の男子高校生であればなおさらだ。ぶっちゃけ運動部の人間が持てる理由のひとつに運動により体力を使い果たしその欲望を制御可能なものとしているからではないかと思うまである。
「ともかくだ明日以降朝っぱらから下着で人の上にまたがるな。」
「人の上にということはもしかして私がほかの人にもそんな事をすると思ってるんですか。大丈夫ですよ私は先輩専用です。」
「では訂正する。僕の上にまたがるな。」
「もし結婚したらどうするんですか。はっ、まさか全裸以外は認めないと?私にも乙女としての恥じらいぐらいありますよ。」
「下着で性行為とかどんな状況だよ。」
そこまで特殊な性癖は持ち合わせていない。というか僕は全裸に機械派である。全裸で腕時計とかヘッドフォンとか裸という動物本来の姿と人にしか作りえない機械がちぐはぐな感じで共存してる感じがたまらない。
「先輩のドS!鬼畜!」
「でも、先輩にだったらむちゃくちゃにされても。」
「女の子にここまで言わせといて何で何も返答してくれないんですか。はっ、まさかこれもプレイの一環?」
はぁ、昔はもっと純粋だったのになぜ一年弱疎遠だっただけでだけでこんなことになるんだか。というかここ一年もたまにあった時にはいつも通りだったんだよな。ほんとに何があったんだか。
「黙ってこれでも食ってろ。」
そういって彼女の口に棒状のものを差し込んだ。虫屋の強い味方カロリー●イトである。
「ちゃんと朝ご飯食べてもらおうと思ってこんな時間に起こしたのにカロリ●メイトじゃあ意味ないじゃないですか。やっぱり私が作るしかないですね。」
「マジでやめろ!」
「何でですか。」
「学校まで行きつく前に遭難するからだ。」
以前林道に虫取りをしに行ったときに一度弁当を作ってきてくれたことがあり普通においしかった。普通においしかったのだが、なぜか食べた後に体が浮くような感覚がし始め、気づいたら遭難していた。ちなみにその林道は一本道で、どちらの方向に向かっても国道に行きつく本来であれば迷うはずもない道である。
「あれがあってからは練習して、うちのお父さんが30分会社に遅刻する程度で済むようになりましたよ。」
きっと料理が苦手な娘が一生懸命作ってる姿を見て
「危ない物であることに変わりはないね。」
「酷い。」
「事実だろ。」
「先輩困りました。冷蔵庫の中身がスルメとミミズと焼酎しかありません。」
一応補足で言っておくと全部生物関連の道具である。学生の身でスルメを肴に晩酌していたとかではない
「勝手に人の家の冷蔵庫開けるなよ。」
「あっ、昔私が置いていったストッキングはありました。」
補足説明をすると破れて使えなくなったので昆虫用のトラップに使うために彼女が持ってきたものがある。
「トラップ用だな。」
「そんなこと言ってほかの事にも使ってたんじゃないですか?」
「朝っぱらから強姦未遂事件起こしてる痴女の言い草ではないね。」
「またまた~照れちゃって。」
「・・・」
「「グー」」
二人そろっておなかが鳴った。
「しょうがないからコメ●にでも行きましょっか。」
コ●ダとは愛知県民にとっての●タバのようなものである。(愛知県はスタ●の店舗数全国第4位)ここに行けるようになって初めて真の愛知県民として認められるのだ。
「まぁ、まともな飯食べようと思ったら外食しかないが学生が朝からコメダぐらいしかないか。」
「●メダは学生向けのサービスも充実してますよ。筆記用具どころか電卓、定規おまけにコンパスまで貸してくれますし。」
コメダはモーニングというドリンクに無料で朝食が付いてくる愛知県特有のサービスで有名だがその他のサービスも行き届いており子供用のおもちゃから老人用の杖まで妙に色々な貸し出し用の備品がある。ちなみに以前虫取り用の網を貸してくれたこともある。
「いや、勉強する気はないから別に学生向けのサービスがある店舗に行く必要はないから。」
「学生向けでないということは大人向けですか?大丈夫ですきっとコ●ダなら避妊器具も貸してくれますよ。」
「不要だ。」
「まさか、先輩も心の準備ができてたとは。私はいつでもウェルカムですよ。」
「シロノワール食べに行ってくる。」
シロノワールはコメ●の名物でデニッシュ生地のケーキのようなものの上にアイスクリームが乗っており、そこにシロップをかけて食べるものでカロリーは化け物みたいだが真の愛知県民はそれを平気で平らげる。ちなみにシロノワールというものはフランス語で黒という意味のノワールとアイスクリームを指す白を組み合わせた造語である。
「待ってください一緒に行きます。」
数十分後
「もう無理です。」
「早くない?」
コメダに来た後は二人ともドリンクとシロノワールを頼んだ。が、シロノワールはカロリーだけでなく量も半端ではない。多分東京などでおしゃれな格好した男女が行くパンケーキ屋のパンケーキの1,5倍くらいある。それに加えコメダのモーニングはサービスとはいえカフェでお金を払って食べるちょっとした朝食ぐらいの量はある。小柄な彼女がそれを完食することは出来なかったようだ。
「だから2人で分けるか、ミニシロノワールにするかしておけばよかったのに。」
「だって先輩からもらうのはもらうのは申し訳ないし、先輩と同じものを食べたかったんです。」
「普通にどうでもいいわそのこだわり。というか僕は半分で十分といったよね?」
「先輩があーんしてくれたら食べれます。」
「絶対だな。」
そしてさらに5分後。
「あーん」
「えへへ、間接キスですね先輩。」
脳天にチョップをいれた。
「えへへじゃない。」
「痛いじゃないですいか先輩。」
「ほら、あーんだ。」
「え、あの、ちょっと先輩?」
「あーん。」
無理矢理にでもシロノワールを刺したフォークを口元に近づけて行く。
「いやーーーー」
この後無茶苦茶セッショクさせた。
「ううっ、もう動けません。」
「じゃあ、お金は払っておくからゆっくりしてって。」
「昨日学校に遅刻しようが構わないといってたのは誰ですか。」
「だって一緒にいると僕まで不良扱いされるし。」
「完全に不良じゃないですか。」
「あっ、ちょっとまって先輩。」
この時期は個人的に川沿いを散策するのに最もいい時期だと思う。蚊が少ないためかゆみに悩ませることはなく、下草が未だ完全に伸びきっておらず川の全体を楽に見渡せる。また、多くの魚の繁殖期にあたるために動きが激しく見てて飽きない。そのためこの時期は遅刻覚悟で学校に投稿するときは川沿いを問うるようにしている。
おっ、イタドリだ。
イタドリは食べてよし、飲んでよし、おもちゃにしてよし、煙草にしてよしという老若男女すべての人が楽しめる優れものだ。独特の酸味がありマヨネーズと和えると最高だと個人的に思っている。だがイタドリの素晴らしいところはそこではない。イタドリハムシを代表とする多くの虫が集まるということだ。集まるのは基本的に普通種ばかりなのだが、数と種類が豊富なので見てて楽しい。ハムㇱのデパートや。そこでハムㇱを見ていると「本当に置いて行くなんて酷いじゃないですか。」と叫びながらまるで臨月の妊婦のような走り方で星崎青華が追いかけてきた。
「何か面白いのいました?」
「イタドリハムㇱとコガタルリハムシばっかりだったよ。あんまりみれてないけど。」
というようなやり取りの後「よっこらせ」と言いつつ立ち上がりまた川沿いの道を川を見ながら歩いていく。この年齢にして足腰がつらい。おじいちゃんもうだめかもしれない。
「わっ」
その後少しゴミが多いあたりに差し掛かったところでバシャバシャという音とともに水しぶきが上がった。コイの交尾である。
「ちょっと驚いちゃいました。」
舌をペロッと出しながら彼女はつぶやいた。だが、こちらとしては微妙にイラついただけである。かわいいかわいくない以前に川沿いを歩いたせいで思いっきり水しぶきが体の右半分にかかったからだ。お前ら全員一匹残らず駆逐してやる。※この川一帯のコイはリカちゃんという愛称で市民に親しまれており仮にそんなことをしようものなら警察行きは免れないと思うのでそんなことしないけど。生き物好きはただでさえ肩身が狭いのに。
「全く朝っぱらからお盛んなことで。」
相手は人間ではないので理解できるはずもないしそもそも魚の交尾の性質上しょうがないとわかりつつも嫌味を込めてつぶやいた。
「どうです?私たちもやりますか?幸いこの辺はホテル多いですし。」
こう来るとなんとなくわかっていたからである。ちなみにこの辺りで鯉の交尾が多く行われている原因はこのホテルが多いということに起因すると思っている。コイは本来水草に卵を産み付けるのであるが、本来その対象は何でもいい。だから近頃のは水草が見られなくなったためビニール袋などのひらひらしたゴミに産卵することが多くなってきている。
ラブホがある→結婚してない段階でお金もムードも関係なく複数回にわたり性行為をするウェイな方々が集まる。→当然ごみのポイ捨てが増える。→コイが産卵しに来る。
我ながら完璧な推理である。というかさっきのコイはビニール袋ではなくパンティに産卵してたのでほぼほぼ間違いではない推理であるといえる。いったいどんなプレイだよ。
などとちょっとあれな妄想をしながら歩いていると※特殊な性癖を持ち合わせているわけではありません。ゴミが多いあたりを抜けたあたりで対岸のほうを移動する影が見え、立ち止まった。
「どうしたんですか?」
「・・・・・」
青華が何か言ったような気がしたがとりあえず気にしないでおこう。
「あの・・まだ怒ってます?」
服の裾をぎゅっとつかみながら青華が言った。まぁ、あんなことをした後にホテルもちょっとイラついたが、話を無視した原因はそれではない。
僕はそれを刺激しないように無言のままそれを指さした。
「イタチですか?」
「手を見ろ。」
「手ですか?」
「水かきだ。」
イタチには水かきは無い。
「二ホンカワウソの生き残りですか?」
「そうとは限らない。この川は護岸されているし見晴らしもいい。今まで発見されないということはありえないだろう。」
「では外来種?」
「その可能性が一番高い。しかもここは太平洋側、誰かが放さない限り本来いなかったカワウソがいる可能性は無いのだ。」
後ろの方から何かヒソヒソと話す声が聞こえたが気にはならなかった。
「追いかけますか。」
「僕はそうする。ここで見逃してしまえばもう見つからないかもしれない。そうなれば駆除にしても保護にしても不可能になる。」
「私もお伴します。」
それから一時間ほどが経過した。
「ずっとここから動きませんね。」
「そうだな。」
カワウソは常に水中に潜っては魚を捕り、岩の上に並べるという行為を繰り返している。ちなみにこの行動は獺祭といい昔から絵の題材などになってきた。
その時学校のチャイムが鳴った。
「あっ、カワウソが驚いて移動し始めました。」
その声と同時に僕はカワウソが向かった方角へと駆け出した。
学校が始まったことなんて全然知らない!
「はぁ、はぁ、どこまで移動するんですかね。」
「本当に学校が恨めしい。あんなタイミングでチャイムが鳴らなければゆっくりと移動していたのに。」
「ほんとにそうですね学校なんて爆発すればいいのに。」
自称優等生さんの名言であるが、生き物好きは生き物のことになると理性が吹き飛ぶ。おそらく一瞬の判断が採集の成果をいいものとし、逆にその判断を誤れば死に至ることもあるそんな自然とかかわっているからだろう。実際に根暗なオタク風の人がちょっとしたことでブチ切れて怒鳴ったり、80を超えた老人が坂道を全力疾走したり、臆病な人が無数のスズメバチの真ん中に挟まっているクワガタを引っこ抜いてスズメバチに追いかけられたりとその例は枚挙にいとまがないし、生き物好き同士ではそのことを理解しあっているため問題が起こることはめったにない。きっと自然の中で培うおおらかさがそうするのだろう。そう考えれば彼女のこの発言も特に問題はないのである。で、何が言いたかったかといえばおおらかさと闘志を併せ持つ生物好きの男子こそもてるべきである。なんかちょっと違うね。
「どこまで行くんですかね。もう海ですよ。」
夢中になっていたため気づかなかったがもう川も河口に差し掛かり潮の香りが漂い始めている。ちなみに僕らが住んでいる丘崎市は海に面しておらず、現在太陽は頭の上にある。
「まぁ昔は海で生活してたカワウソもいたみたいだし海まで行く可能性もなくはないけど・・・、」
ちなみにこういう都市伝説がある。カワウソ絶滅後も四国ではちょくちょく魚を盗みに来たカワウソが養殖用の網にかかっているらしい。仮にそれが本当だとしても言い出せないよね。でってわざとじゃないのに下手すれば懲罰の対象だもんだもん。虫を取ってるとまれに意図せずして天然記念物を網に入れたり粉砕したりすることがある。その場合だいたい見なかったことにしてその場でキャッチアンドリリースするし、周囲にいる人も見て見ぬふりをする。他人がやる分にはいいネタだが、自分がやらかした時には背筋が凍りつき全身から嫌な汗が噴き出すような感覚に襲われる。天然記念物採ったわけでもないのに煽ってくるのマジ禁止。
「海なんかに行ったらもう学校に行けないじゃないですか。」
相当今更である。
「そういえばカワウソはどこに消えた?」
「さっきそこの水路に入って行きましたよ。」
「早く言え。」
ただでさえ疲労が溜まってる足に鞭打って全力疾走した。
「あっ、カワウソが林の中に入って行きます。」
近づいてみるとその林は管理されなくなった砂防林だった。下草は生え、植えられた松の木は細々としており光は通っていない。とても不気味な様相だ。
「本当にこんなところにカワウソが入ったのか。」
「フンがありました。」
カワウソの仲間特有のタール便だった。僕が仮に哺乳類類屋であればこのフンを棒でつついて中身を確認し、持ち帰ったのだろうがさすがにそれはやらない。ちょっとつついたけどそんなに細かく中身は確認してない。
もちろん林の中に入るけど。
「いませんね。」
林はクロマツを中心とした典型的な砂防林だった。この地方では三河黒松という独特のブランドが形成されるほど立派な黒松が多いことで知られているが木々はやせ細り、下草が生え、ごく少数残っている幹が太い木はキクイムシに食われており目も当てられない状況となっているおそらく人の手が入らなくなりタブにでも入れ替わってる最中なのだろうが、古くから沿岸部の人の暮らしを守ってきたこの林がなくなるとなると少し寂しい気がしてしまう。渡り鳥や海鳥の棲み処にもなってるしね。ちなみに同じ松の仲間でマツタケと共生関係にあることでも有名なアカマツの林も人の手入れによって保たれている。個人的に松の林が手入れされなくなったことが近頃のマツタケの価格の高騰の理由であると思っている。
林に入ってすぐに獣道が見つかったため今はそれをたどっている最中だ。
「獣道が見つかった以上その先に何かあるのは確実。」
ただ、追いつけるかっどうかは別だが。
「今更イタチなんじゃないかと不安になってきましたよ。」
「さっきから腐ったジャスミンティーみたいな匂いが充満してるから、それに関しては問題ない。」
カワウソのフンからはジャスミンティーに似た匂いがする。ちなみにその匂いは個体によっても違い、カワウソはそこから相手の年齢、性別、生殖状況を読み取ることができる。ちなみにそのフンに群がってるのはセンチコガネの仲間。こいつら汚いもの食べてるくせに体はきれいな色をしているんだよな。
「あっ」
「どうした。」
「腐った魚踏んずけて転びました。服がべたべたです。」
「紛らわしいから悲鳴を上げるな。」
「地味にひどい!」
「どうせ土がついたとかその程度だろ。」
「でも、なんかこの土いいにおいがするんですが。」
「香水だ。」
昔は香水をイタチの糞(正確に言えば分泌物)から作っていたことがある。つまりイタチの中まであるカワウソの排泄物は香水であるのだ。
「でも、u・・・」
「独特の香りを持った世界で最も高いコーヒーと同じものだ。」
正式名称コピルアク別名イタチコーヒー。ちなみにジャコウネコの糞でありイタチの糞ではない。
「でも、u・・・」
「バイオマス発電の材料だ。」
ちなみにバイオマス発電に向くといわれているのは草食動物の糞である。
「困りましたね。これじゃあ先輩とスカトロプレイをした後みたいになっちゃいます。」
「まるでしたことがあるかのように言うなよ。」
「ありますよ。」
「どこで?」
「うーん・・・私の頭の中で。」
だめだ、もう末期だった。
「・・・」
そうしてしばらくけもの道を歩くと明るい場所が見えてきた。
「あそこですよね。」
「多分」
そこにいるであろうカワウソを刺激しないように一歩ずつ音をたてないように慎重に歩いていく。一歩一歩進むたびに心臓の鼓動が高まるのがわかる。1歩・・・3歩・・・・6歩・・・9歩・・・・15歩そうしてその場所の一歩手前に来た。その時、いつしか聞こえなくなったものがまた聞こえた気がした。
―どうしよう見つかりそうだ。―
―また別の場所に行くの?―
―もう人間は友達じゃない敵なんだ。―
「帰るぞ。」
「え、でも。」
「いいから。」
そのまま唖然としている彼女を強引に引っ張りくるときに通った獣道を引き返した。
「どうしたんですか。」
帰路についてから1時間以上が経過し帰路も中盤に差し掛かったあたりで初めて今まで続いていた沈黙が破られた。
「ただ、なんとなくやめといたほうがいいと思っただけだよ。」
「あれが外来種だったらどうするんですか。」
「多分それはないよ。」
それから先は学校に着くまで特に会話もなく歩き続けた。
「なぜこんな時間に登校したんですか。」
「教育法によれば学校は勉強だけをする場ではありません。将来役に立つことを学ぶところです。にもかかわらず学校では勉強ばかりを教えているのでそれ以外のことを学んでいたら遅くなりました。」
今は午前3時、現在学校では1日の最後の授業(六時間目)が行われている最中だ。そんな中僕らは職員室にいた。
「何をどうすればこんな時間に泥だらけで登校するんですか。」
多分ウンチである。
「なぜ言わなければならないんですか。プライバシーの侵害ですよ。」
「あなたがいうように将来役でつことを学んでいたのなら言っても問題はないはずです。逆に言えないようなやましいことをしてたのなら物事を学習する時間である授業時間に学校を休むという行動は容認できません。」
「・・・・」
ニホンカワウソ追いかけてましたと言ったところで信用されるわけもない。現場を見せろと言われるに決まっている。
「もう一度聞きます。何をやっていたんですか?」
「ヤッてました。」
無表情であった先生の顔がみるみる赤くなっていく。
「え、いまなんて・・」
「だからヤッてました。ねっ、先輩。」
思わぬキラーパスである。だが、のった。
「はい、性行為を行ってました。」
誰がしたとは言ってないのでセーフ。魚かもしれないし、鳥かもしれないし、虫かもしれないし、人かもしれない。
「ふ、不純異性交遊のどこが役に立つんですか。」
「逆に生物としての本懐が子を成して遺伝子を後世に残すこと以外にあるとでもいうんですか?」
「そうではなく、なぜこの年齢で実技を行う必要があるのかという意味です。」
「それはもちろん既成z・・・」
フザケンナ
「6年間も付き合った相手に満足できないというような理由で振られないようにするためです。」
会心の一撃だ。
「そうよね、私なんて今はまだ20代だけど四捨五入すればアラサーだし、ずっと付き合ってた彼には振られるし、しかもバンドマンだし、合コンに参加しても変な人しかよってこないし、家に帰ってもお酒飲んで寝るだけだし、何かペットでも飼おうかしら・・・」
WINNER
少しオーバーキルした気もするが。
「じゃあ、僕らはこれで行きますね。」
そう言ってなるべく視界に入らないようにしつつその場を離れ、職員室から出た。
「レポートは提出してくださいね。」
なんてこった。こうして僕らは最悪の爆弾を抱えて部室へと向かった。
「はい、申し訳ありません。」
全く、さっきから同じ話の繰り返しで嫌になる。だいたいさっきから常識だの何だの。もう一回教育法勉強し直してこいよ。お前が言う学校は勉強をするところなんて理屈はどこにも書いてない。まだ子供の方がちゃんと勉強してるわ。だいたい勤務年数で権限が変わるなんてのはおかしいでしょ?そんなんだから日本の経済は衰退するし無能な公務員はのさばるんだよ?お前なんかに教わる子供がかわいそうだわ。
「困るよ、いくら自分が初代部長だからと言って生物部ばかり贔屓するのは。全く少し頭がいいからってつけあがっちゃってこれだからゆとりは。」
「すみません。」
でも私はいくら怒られようと構わない。