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襲って来る敵に部下を派遣して各個撃破する簡単なお仕事です

俺は辺りを見渡して、うっすらと笑った。


アレクサンドリアとチェルシーの国境近辺に本陣を置いて、チェルシー領内の地理的な状況を確認し、中央神殿から国境付近まで兵站を伸ばし、そこから補給を受けながらチェルシー領内を侵犯しつつ、魔王軍を個別に撃破していくことにした。


幸いにして、ファンタズマの中には夜目の効くものもおり、夜襲をかけるのも、空中から爆撃機のように襲いかかることができるものも、様々いる。


俺は設営した陣地内で寛ぎながら呼び出したファンタズマをいくつかの分隊に分け、チェルシー領内に分散する魔王軍の略奪部隊を各個撃破していくことにした。


そうは言っても、俺が自ら先陣を切って敵の軍勢に突っ込んでいくわけでは無い。


広域殲滅系のスキルを持つファンタズマに指示してどこかのアニメのように、

「なぎはらえ!」ドカーン!

という感じで殲滅していくのがお仕事だ。


陣を張って二日がたった。


現在の成果はチェルシー領内の敵軍勢三箇所の拠点のうち、二箇所の撃破、殲滅の完了。あと一箇所の殲滅でチェルシーの首都への道が拓ける。ちなみに、チェルシー首都防衛の援軍にはファンタズマのRクラスの部隊を既に先発して向かわせた。率いるのは人間とコミュニケーションがとれるファンタズマということでディスを部隊長に任命し、ある程度の裁量権を与えながら先発させている。


SR『鮮血の支配者 アレン』も、常に俺のそばで助言などをさせてる。鮮血の支配者という称号は伊達ではなく、アレンは吸血鬼としての特性をもっているが闘いを好む傾向にある武者である。


アレンに限らず、ファンタズマは会話をしてみるとそれぞれ様々な性格をしている。ゲームの時に作られたファンタズマの説明文などをいちいち覚えているわけでは無いのだが、このアレンというファンタズマはもともとは人間の将軍が愛する妻と娘を喪った絶望から吸血鬼の真祖となったという設定だったとたしか記憶している。自身が強力な戦闘力をもっているだけでなく、兵を指揮したりする能力や作戦を立案したりする能力ももっているのだ。ちなみに、国境付近で陣を敷き、本陣はチェルシー領内に入らないように進言したのもアレンの案だ。


それに、チェルシーの首都からは、戦況が好転していることに関する感謝の意を含んだ内容の書状が届き始めた。


チェルシー側からはいつでもチェルシー領内に入ってきても構わないという内容の許諾を得ているが、補給物資の関係からそれは行なっていない。腹が減っては戦はできないからな。


しかし、こんなところで昔はまっていた家康の野望のような戦略・戦術シミュレーションゲームみたいなことをすることになるとは思ってもみなかった。


ついでにいま陣地をはっているここを要塞化しておくように指示しておいた。


強固な柵と堀を設け、柵は石の壁で補強する。万一チェルシー領内の戦局が魔王軍にかたむいて、最悪孤立したとしても大丈夫なようにしておきたかった。


アレンからは、地の利に優れているため、ここに城砦の建設まで進言されている。いま、そこまで行う時間的な余裕は無いが、丘の名前をとって、バイオレットヒル砦と名付けた。


一緒にアレクサンドリアからついてきた自称「少数精鋭」の近衛騎士団たちにはちょっと申し訳ないが、もっぱら伝令役として使わせてもらっている。なぜなら騎馬だし、それなりにアレクサンドリア内では身分のあるものが多いようで、伝令としてチェルシー領内や隣のドラッケン領に送った際にはそれなりの働きをしてくれているからだ。


また、一つ気づいたことがあるのは、CやUC、Rのファンタズマは呼び出しても俺の視界に小窓が表示されてそのファンタズマの視界が表示されたり、テレパシーのような念話で会話をすることもできない。彼らはゲームの中でのNPCに近い。指示を与えればある程度の言うことは聞くし、理解もしているようなのだが、SRレベルほどの知恵があるわけでは無いのだ。


たまに、この本陣付近に向けて魔王軍から偵察隊らしきものが送られくることがある。その多くはゴブリンやオーク、コボルドといったファンタジー系ロールプレイングゲームでは雑魚に属する種族の者たちで構成されている。


一度、魔王軍の情報を引き出すために捕まえて、尋問しようと試みたが、言葉が通じないため断念した。


そういうわけで、目下チェルシー領内の魔王軍殲滅大作戦の遂行中だ。


このままならチェルシーは数日で解放できるだろう。


「姫様、順調に掃討も進んでいるようでなによりです」


レナがいつもそばに控えて、色々と身の回りの世話をしてくれるが、俺としては正直、鬱陶しく感じる部分もある。


俺は深窓の令嬢と違って、オッサンの営業マンだから、足を使ってまずは自分の持つ人的リソースの把握から始めた。だから、一人一人の兵士にまでに声がけするし、設営された天幕の中に閉じこもるということもない。


レナだけでなく、何人か近衛の兵士みたいなのが後ろを常についてくるが、ようやくそれには慣れてきた。


まぁ、総理大臣や大統領なら、要人警護のボディガードみたいなのが着いて回るのは当たり前だからだ。


陣地設営したバイオレットヒルは、周囲を見渡せるように丘になっていて、比較的起伏に富んだ地形の中でも、周りよりは一段高い丘になっている。


そのおかげで見晴らしは良い。丘の周囲の雑木林はファンタズマの力で綺麗に伐採しておいた。


林と3キロほど先には小さな集落がある。ここがチェルシーからアレクサンドリアに渡ってくる際の最初の宿場町になる村らしい。人口は100名に満たない農村だ。


この辺りは長閑なものだ。


周辺に展開していた魔王軍の斥候は全て撃破済みだ。だからというわけではないが、それほど俺は周囲に関して警戒はしていない。


もっとも、SR『鮮血の支配者 アレン』が俺の側に着いて歩いているし、レナの他にいつも近衛の兵士が付いて歩いているからプライベートな時間というのは持つことができない。


俺は空を見上げると、ふと嫁や娘のことを思い出していた。


嫁の作る肉ジャガは絶品だ。そして娘の笑顔はまるで太陽のように眩しい。宿題をしながら俺の帰宅を待つ娘の笑顔を脳裏に思い描く。


嫁は俺がいなくなって寂しい思いをしているだろうか?娘は学校で悲しい思いをしていないだろうか?


「姫様、どうされましたか?」


レナが傍らから声をかけてきた。彼女なりに気を使ってくれているのはわかる。


「うーん、ここに来る前のことを思い出していました」


「ああ、神界のことでございますか・・・」


いちいち訂正するのも面倒だからそのまま続ける。


「そういえば、レナたちにはその、『神界』ってどういう風に伝わっているの?」


「はい、とても進んだ文化と文明で、誰もが仲良く過ごす場所だと神話には記されております」


レナは嬉しそうに言った。


「彼方にまします神々と、此方にまします神々が自由に言葉を交わし合ったり、様々な便利な神々の作りし道具が溢れる、神々の地と伺っております」


まぁ、間違ってはいないような気もする。


そのとき、アレンの双眸が凶暴に輝いた。


また、威力偵察の魔王軍が近づいて来ているのだろうか?


「人間の騎馬が近づいて来ております。伝令でしょう。あの服装だと、バルト王國からの使者かと」


✳︎✳︎✳︎




結局、報告のあったバルト王國からの使者は、報告から三時間ほどたってからたどり着いた。


バルト王國はアレクサンドリアと異なり王制をしいた中央集権国家だ。


やって来たのは六人のお供を連れた、見るからに頭の悪そうなオッサンだった。


年齢は四十代前半くらいか?


でっぷりと太っており、体重はおそらく120キロオーバー。ただし、身長は多分165センチくらいだろうか。手足は細く、あまり労働はしていないのか一目瞭然だ。肉は主に胴体や首回りについていて、ニタニタと薄ら笑いが脂ぎった肉に包まれた頭の表面にはりついている、という印象だ。


服装も、朱色のマントと銀の留め具など、豪華な衣装を着ている。


大貴族のおっさんかな?


馬車で来たのも何だか妙な感じだ。魔王軍のことは気にもしていないのか?


デブのオッサン以外は面会に現れた俺の前で一斉に跪いたが、このおっさんは違った。


「我の名はバルト王國第一王子 ユリウス・バルト。そなたがユウキか?」


む?偉いやつか??こんな奴が来るとか聞いてないぞ。


「そうですけどね、なんでバルト王國の王子様がこんなところへ?」


無礼者!とか言ってレナたちがいきりたっていたが、とりあえず他国の王子様なら、まぁ戦時だしどうでも良い。


しかし、オッサンの次の言葉に俺は言葉を失った。


「喜べ、そなたをわが王妃に迎えてやることにした」



・・・


・・・・・・。


うわー、人を見かけで判断しないのが取り柄の俺でも、さすがに鳥肌がたっちゃったよ。

次回の更新は2017年2月22日を予定しております。

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