出征
俺は、会議で大まかな方針を決めた。
一つ、これから戦ってみて、やばそうならトンズラする。
一つ、戦ってみて、魔王の軍勢に対抗できそうなら協力する。
一つ、協力する場合は俺の命令を全員が聞くこと。つまり統帥権の確保だ。
オッサンたちは、特に反対すらしなかった。
後でレナに聞いてみたら、ファンタズマの存在は知られてはいるものの、おとぎ話の存在らしく、この世界でも珍しい存在らしい。それを複数同時に使役する俺は、まさしく神様、女神様という認識なのだそうだ。まぁ、確かに普通の人間が異世界に来てしまったとしても、あくまで普通の人間であれば魔法も使えなければ、超能力も、ましてやモンスターを使役することもできるはずがない。
反応はなかなか真っ当な反応だとは思うのだが、責任を全て部外者である俺にぶつけて来ているという、その無責任さに俺は腹が立ってしょうがない。
さて、肝心の魔王の軍勢は、隣国全域に広がっているので、ここから馬車で七日ほどで、戦線までは到達できるとのことだ。
会議を解散してレナにも出発の準備をさせながら、俺は出発準備が整うまでの短い間に、10連ガチャを回しまくった。
とりあえず、SRクラスのファンタズマが多数居たほうが戦力になると考えたからだ。
その結果として現状の戦力は以下のとおりだ。
【光属性】
SR『博愛の天使 アリエル』光属性 強化レベルMAX 天使タイプ
SR『慈愛の天使 ガブリエル』光属性 強化レベル12 天使タイプ
SR『勝利の天使 ミカエル』光属性 強化レベル10 天使タイプ
SR『暁の天使 ルシフェル』光属性 強化レベル10 天使タイプ
SR『秩序の天使 サリエル』光属性 強化レベル10 天使タイプ
SR『癒の天使 ラファエル』光属性 強化レベル10 天使タイプ
SR『神炎の天使 ウリエル』光属性 強化レベル10 天使タイプ
SR『雷光の韋駄天 ソリューシ』光属性 強化レベル47 麒麟タイプ
SR『閃光の韋駄天 ラスト』光属性 強化レベル10 麒麟タイプ
SR『円光の韋駄天 パラ』光属性 強化レベル10 麒麟タイプ
SR『女神 マリア・ルイーゼ』光属性 強化レベル10 女神タイプ
【命属性】
SR『不死の王 ディス』命属性 強化レベルMAX 死霊タイプ
SR『血煙の支配者 クリスティー』命属性 強化レベルMAX 吸血鬼タイプ
SR『暴虐の王 グラウル』命属性 強化レベル10 死霊タイプ
SR『戦禍の王 レイド』命属性 強化レベル1 死霊タイプ
SR『血脈の支配者 アイリーン』属性 強化レベル10 吸血鬼タイプ
SR『鮮血の支配者 アレン』属性 強化レベル1 吸血鬼タイプ
【炎属性】
SR『灼熱の赤竜 マグナ』炎属性 強化レベルMAX 幻獣タイプ
SR『焦熱の大精霊 イフリート・クロス』炎属性 強化レベル1 幻獣タイプ
SR『天空の不死鳥 ネオ・フェニックス』炎属性 強化レベル10 幻獣タイプ
【風属性】
SR『成層圏の覇者 アクロス』風属性 強化レベルMAX 東洋竜タイプ
SR『暴風の覇者 ワール』風属性 強化レベル10 東洋竜タイプ
SR『西風の守護神 ゼピュロス』風属性 強化レベル10 風神タイプ
【水属性】
SR『深淵の勇者 リヴァイアサン ・リュージュ』水属性 強化レベルMAX 海竜タイプ
SR『深淵の勇者 リヴァイアサン・アクアマリン』水属性 強化レベル10 海竜タイプ
SR『深海の王 ポセイドン・ネオ』水属性 強化レベル1 海神タイプ
【木属性】
SR『蜘蛛の女王 クイーン・アラクネ』木属性 強化レベル48 昆虫タイプ
SR『地獄蝶 ニューロ』木属性 強化レベル10 昆虫タイプ
ちょっとガチャを回しただけなのだが、見事に偏った。これは、何か作為的なものを感じる。
特にこれだけ回して闇属性が全く出てこないのはおかしい。俺がこの世界に呼ばれた原因の一つなのかもしれないと、ここは冷静に分析しておく。
偏り方が半端ない。特に天使シリーズはすべて揃っちゃうんじゃないかと思われる勢いで次々と出てきた。
そして、やはりLRは全く出ない。
SRの上のレア度であるLRはゲーム内でも出現するユニット数に実は制限がかけられていて、課金すれば手に入るというレア度で無いのだ。LRは全部で124体しか存在しないし、それ以上のレア度も存在しない。
とりあえず、出てきた戦力には、CやUCのランクのファンタズマをSRの生贄にして、レベルをそれなりに上げておく。
ついでに、出てきた装備品で自分の装備も整えておくことにした。
SR『光の女神の冠』光属性 全ステータス+5 光属性ファンタズマの召喚コスト低減
SR『光の女神の盾』光属性 全ステータス+5 光属性ファンタズマの召喚コスト低減
SR『光の女神の宝杖』光属性 全ステータス+5 光属性ファンタズマの召喚コスト低減
SR『光の女神の長衣』光属性 全ステータス+5 全属性ファンタズマの召喚コスト低減
R『紅真珠の腕輪』炎属性 全ステータス+5
R『プラッキオの首飾り』命属性 HP+10% MP+10% 召喚コスト軽減
R『疾風のサンダル』風属性 ファンタズマの行動速度上昇 風属性の耐久+2
なぜか、もりもりと光の女神シリーズが出てきたのであきらめて身に着けることにした。
ただ、ガチャで出てきたのは良かったのだが、どの装備もどうやって実際に身にまとうのかというと、なかなか難易度が高そうなものばかりだったのだが、レナはどの装備品も幻想級だとか、国宝級だとか言って喜んで着せてくれた。
このアレクサンドリアの中央神殿には結局、SR『血煙の支配者 クリスティー』を連絡役として置いていくことにした。テレパシー的にコミュニケーションをとることができるし、指示を出したり、場合によっては援軍の依頼をしたりしなければならない可能性も考慮しての選択だ。
また、会議室に持ち込まれた多数の地図を俺は入念に調べた。
一つ、わかったことは地理的な特徴は関東南部によく似ているということだ。
というのも、俺は地図の専門家ではないから、比べてみないと一致しているかどうかはわからない。
ただ、自宅のある神奈川県横浜市の港北区から都筑区近辺の地図に似ていると、一目見て思った。
ただし、地図の縮尺は異なっている。
現実の地理的な距離と比べると、三倍から四倍くらいは広い。アレクサンドリアのあるのが、新横浜駅周辺とすると、現在魔王軍が駐屯しているのは東京都の方だ。
ここからは馬で二週間くらいかかるのだそうだが、現実の地理であれば朝から歩けば充分辿りつけるくらいの距離しかないはずだ。
川を渡らなければならないのに橋が無いから遠回りする必要があるのかと思ったら、案の定だった。
まぁ、道の整備が進んでいないのは仕方がないと思う。
それに石で舗装された道は、現実の世界で使われているようなアスファルトの道と比べると非常に歩き難い。履き物も、靴底にクッション性は皆無だから定期的に休憩は必要だろう。
そして、そうこうしている内に、馬車と出征の仕度が整った。
兵士の数は二十名。
装備は簡単な皮鎧に大きな盾と長槍を担いでいる。聞いたところによると中央神殿最強の精鋭部隊らしい。
兵糧などを運ぶための荷馬車は全部で十台。
野営しなければならなくなるかもしれないことを考えれば、少ないほうだ。
それに俺とレナが乗る馬車、騎兵が十騎ほどで前後を囲むという、確かに小隊規模といえるだろう。
俺はSR『灼熱の赤竜 マグナ』を偵察も兼ねて上空に待機させることにした。これは戻ってきたSR『不死の王 ディス』が進言してきたからだ。
たしかに、高いところから見下ろせば遠くの様子もわかりやすいしな。
よし、出発だ。
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光の女神様が降臨され、アレクサンドリアの少数精鋭を率いて魔王軍に対する牽制を行うため、単身チェルシー国境付近から場合によってはチェルシー領域まで出征するということで、我らアレクサンドリア近衛騎士団の士気は非常に高まった。
もともとアレクサンドリアは光の女神様の聖地であり、もっとも所縁の深い地でもある。
私自身、元老院議長であるバーゼルの後継者と目されているものの、未だ若輩者であり、近衛騎士団の右備へ次席に席を連ねているが、盗賊狩りなどで戦ったことはあるものの、魔王の軍勢相手に本格的に戦うことなど初めてのことだ。
右備近衛騎士団少将パトリックというのが私の名前だ。部隊や神殿では右近の少将などと呼ばれている。
女神様が馬車での進軍とは言え、チェルシー領域は丘が多く、道もそれほど整備されていないため、補給物資などと一緒に移動することを考えるとそれほど進軍速度は速くはない。
私の仕事は御用馬車の前、所謂前衛だ。万一の際は壁となって女神様を守るのが仕事。
とはいえ、いくら少数精鋭での偵察任務とはいえ、今回は人数も少なく、色々と不安がよぎる。
そういえばドラッケン公国に大使として行っていた元老院議員アレスとその家族、とくに私の幼馴染のセシリアはどうなっただろう。ドラッケンは魔王軍の侵攻に怯まず立ち向かっているというが、多勢に無勢であるということは伝聞で聞いている。
振り返ると御用馬車にまします、あの方の姿が見えた。
光の女神様ユウキ
黄金色の輝く長い髪を結い上げ、細くたおやかなそのお姿は、私でなくともどんな男性でも一目で虜にするに違いない。幼い時に結婚の約束をしていたセシリアがいなければ、この私も一生の忠誠をこの剣とともに捧げたに違いない。事実、今回随伴する近衛騎士団の独身男性の多くが剣と命を捧げていた。
女神様にとって、そうした忠誠は当然のことなのだろう。至極めんどくさそうに彼らの剣を受け取っていたのを拝謁している。
今は、馬車でなにやら奥の院巫女筆頭のレナ様と会話をかわしておられる。そばにはいくつもの地図や巻物などがあり、女神様とて我らのような領民全ての事細かな事情を知るのは難しいのであろう。そもそも、女神様は御前会議では当初、我らを助ける必要性が無いということをおっしゃっていたとグイン将軍から聞いている。しかし、その慈悲の心は我らを憐れみ、その僕を差しむけること、強いては御自ら先頭に立ってアレクサンドリアを守ってくださるとのことだ。
副官のラモスが馬を寄せてきて言った。
「パトリック様、こうして遠目に見ていても、女神様のお姿は絵になりますな。あのようなお美しい方がこの現世にいらっしゃるということが奇跡に思えます」
ラモスは兵士からの叩き上げだが、私が近衛に入隊した時から私を陰から支えてくれている忠臣だ。ちなみにすでに結婚し、三人の子供も設けており、その長男は近衛の予備隊で見習いとして訓練に明け暮れていると聞いている。
「そうだな。だがお美しい方ではあるが、恐ろしい方でもある」
私はそう言って上空に視線をずらした。
そこには彼女の僕にして最強龍の呼び声高い灼熱の赤龍王 マグナが悠然と漂うように上空を旋回していた。神話によれば、灼熱の赤龍王マグナは、光の女神ユウキ様に五度戦いを挑み、その度に敗れ、ついに六度目の戦いに敗れたことで火焔神様のもとを離れてユウキ様の僕になったとか。六度の龍と女神の戦いは子供の頃、敬虔な乳母に良く寝る前に語って聞かせられたものだ。
もしも、女神様が本当に女神様であるなら、もちろん私はそれを露ほども疑っているわけではないが、その力は我らアレクサンドリアの軍勢が束になっても一捻りである。
お美しいだけでなく、畏怖の念を抱かせる光の女神様。
「どうかそのお力をアレクサンドリアの為にお使いいただきますよう・・・」
私は静かに祈ると再び任務に集中することにした。
次回は2017年2月15日に更新の予定です。