表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

俺、切れる(笑)

とりあえず、俺としては二進も三進もいかないこの会議?にそろそろ飽きた。


「レナ」


俺の声が部屋の中の空気を切り裂いて響いた瞬間、もはや俺のことすら忘れかけていたであろう、保身のことしか考えてなさそうなオッサンたちが一斉に俺の方を向いた。


まぁ、俺もオッサンなんだが心は若いつもりだから、延々とお年寄りのループするお話を聞いている気分だった俺としては、まずはこの機能していない集団を機能する集団に変革することから始めようと思う。


物事を成すには、集団が一定の方向性をもって組織的に動いていく必要性がある。


十人いれば、「十人十色」といって様々な意見が出てくるのは当たり前だと俺は考えている。それは個性であり、特色であり、強みでもあれば、弱みともいえる。


強硬に主張する、粘り腰の交渉ごとも必要なスキルではあるが、そもそも議事進行役だったレナの手にも余るようなグダグタな流れになって来ているのは、もう仕方がないと割り切った。


とりあえず、目の見えるところからやっていこう。


そうすることで自分に都合の良い情報も手に入ってくるはずだ。


視線が集まったところで続けた。


「とりあえずこの、煩わしいカーテンを上げてもらえる?それとこの世界、この地方の地図を持って来て」


指示を出してからまずは立ち上がった。

レナが左右のレースカーテンを開いた。


俺の姿がおっさん達に曝される。


驚愕の表情をしているやつもいる。


口がポカンと開いていて、目を見開いている。


確かに最終人型決戦兵器がこんな若い女だったら俺だってイヤだと思うと思うし、おれは兵器になるつもりは最初からない。


「話しはだいたいわかりました」


ようするに、俺のこと、俺の意思は考えていないことがよくわかった。


「私には大きく分けて2つの選択肢があります」


俺は値踏みをするように見渡して、いったん言葉を切ると、進んで段差を降り、オッサンたちの目線の位置までゆっくりと歩きながら進んだ。


「一つはあなたたちと一緒に魔王と戦うという選択肢です。あなたたちにはこれが一番都合が良い選択肢だと思います。

もう一つは、いますぐここを去ってあなたたちと袂を分かつことです」


自分たちが見捨てられるという選択肢は頭に無かったのだろう。


一斉に慌てて取りなし始めるおっさんたちを睨みつけて黙らせる。


そこへ、地図を持って数名の兵士っぽい格好のおにいさんが入室してきた。


「地図か?そこに置いたら退がれ」


俺はそう言ってからとりあえずファンタズマを二体顕現させる。


SR『不死の王 ディス』命属性 強化レベルMAX

SR『慈愛の天使 ガブリエル』光属性 強化レベル12


不死の王 ディスは、男性とも女性ともつかない不思議な表情の幼児の姿をしている。その正体は魔道を極めた成れの果て。死ぬこともなく、生きることもない、生命を吸いとって自らの生を引き延ばして生きる正真正銘の化け物でもあるが、見た目は幼児の姿だ。だが、禍々しいオーラが溢れて今にもヒトを殺して回っても何らおかしくない殺気が溢れていた。


一方、慈愛の天使ガブリエルは、能面のような表情の平たく言ってしまえばロボだ。光の国から来た正義の使者と機動戦士とアメコミで蜘蛛をモチーフに戦う男の姿を足して割ったような感じだ。光属性にはこういうやつが多いが、きっとデザイナーさんの趣味だな。


「お呼びでしょうか?」ディスが口を開いた。


おや、このファンタズマしゃべったぞ。


えらく冷たい声だな。もちろん、うちの会社のIT技術がどれだけ進んでいても、ゲーム中にファンタズマにプレイヤーと会話をさせる機能はつけていなかったはずだ。


しかし、とりあえずこの場ではどうでも良いことなので流しておくことにする。あとで考えれば良いことだ。


「とりあえず、私を護れ」


「かしこまりました」


「ガブリエルはこの場で待機」


「ジェワ!」


おいおい、天使さんはまるっきりウルト○マンかよ。まぁ、いいや。


まずはおっさんたちの真意を正そうと思って一人一人の目を見ながら言葉をつなぐ。


「そもそも、なんでお前たちを護ってやらないとならないのか、まずはそこから説明してほしいところもあるが、そこはとりあえず触れないでおいてやる。自分たちが侵略されたから他力本願っていう腐った根性は犬にでも食べさせちまえばいいんだが、現有戦力の見極めからして、この私の戦闘能力が不明確な以上、無理もできないし、自分も大風呂敷を広げることもできない。だから、面倒だけど、とりあえず思惑通りに動いてあげる」


レナを含めて、アワアワしながらファンタズマの威圧を受けているおっさんたちの中で流石に比較的まともに受け答えできそうな顔をしているのは、教皇アナスタジウス一人と、軍服っぽい出で立ちのあごひげのオッサンだった。たしか名前はグイン。


「私がファンタズマを出して戦えば、敵も味方も恐慌状態になってもおかしくない。少なくとも、いまのこの反応を見れば、こういう人外の存在は恐ろしい存在として認知されているのだろう?ならば少数の共を連れて、実際に私がどの程度戦えるか、試してみるしかない。レナには悪いが一緒に来てもらうが、少数精鋭で出発するとして仕度はすぐにできるか?」


あごヒゲのオッサンは、ちょっと考えてから発言した。


「半日もあれば、簡単な護衛の用意、兵站の準備などならできます」


「それじゃ、3時間以内に全ての用意を整えなさい。それ以上は待ちません」


俺の指示をきいて、大慌てでグインは大股で退室していった。


「ガブリエルはこの中央神殿の護りに残しておいてあげましょう」


そう言ってからさらにもう一体のファンタズマを呼ぶ。


SR『雷光の韋駄天 ソリューシ』光属性 強化レベル47


見た目は漆黒の東洋の幻獣「麒麟」だ。


俺がこのゲームをプレイしていた時は、光属性で揃えて戦っていた。ソリューシは速く手数の多いファンタズマでバトル中には非常に役に立っていた。


「ソリューシとディスは魔王軍とやらの偵察をお願い。やれそうだったら少しくらいなら戦って来ても良いよ」


そう言うと、ニヤリと不敵にディスが笑って、ソリューシに飛び乗ってあっという間に視界から消え去った。


流石に韋駄天とか書かれているのは伊達ではないということか。物凄い速さだ。


そして飛び去った瞬間から、視界の隅にまるでパソコンなどのように別窓が二つ開いて、そこに映像が表示された。石造りの街並みが見えていたと思ったら、すぐに城壁を軽々と飛び越えて走り去っていく。ソリューシかディスの視界が見えているのか。


どちらがどちらの視界なのか不明確だな〜と思ったら、窓の上に字幕で名前が表示された。


これなら、偵察の任務としては十分だな。


「さて、私としては、昨日目覚めてから、まったく状況が掴めてません。正直なところ状況に流されてここに立っているという自覚があります。なので、魔王軍とやらを相手に戦えるかどうか、一応試すだけ試してみてあげようかと思っています。幸いにしてファンタズマは戦闘力がありますから私が戦うんじゃなくて、ファンタズマに戦わせるんだけどね。あ、これって私も他人任せにしているって部分は変わらないねぇ」


俺は自分で自分の発言にツッコミを入れてクスリと鼻で笑ってみせる。


しばらくすると、ディスとソリューシの視界に人間と戦っている魔物の軍勢が現れた。


一応、即戦闘に突入せず、偵察をこなしてくれているようだ。


『ユウキ様、到着しました。かなりヒト族の軍勢は押されているようです。あの、緑の旗じるし、先ほど地図に見たチェルシーの紋章でしょう。いかがいたしますか?』


いきなり頭の中に響いたテレパシーのようなものにちょっと面食らった。ディスの声だ。


念じることで通話ができるようでありがたい。感覚的にはハンズフリーで普通に通話するのに似ている。


『接敵を許します。無理はしない程度で魔王軍相手に一当てしてみて』


『かしこまりました』


次の瞬間、ディスとソリューシが猛然と魔物の軍勢に突っ込んでいくのが見えた。魔物といってもゴブリンやコボルドが主体の部隊だ。もしもゲームと同様の仕組みならばランクCとランクSRとでは、天と地ほどもその戦闘能力に差がある。


次々と蹂躙していく動画を視界の端に見ながら、俺は言葉をつなげた。まるで誰かがFPSゲームをプレイしているところを横から覗いているような感覚だ。


俺は意を決してさらに2体のファンタズマを呼び出すことにした。そうすることでゲームだった時の召喚コスト限界を超えたときに何が起こるか知りたかったからだ。


SR『灼熱の赤竜 マグナ』

SR『深淵の勇者 リヴァイアサン ・リュージュ』


どちらも使い勝手の良いファンタズマだ。回復もできるし、範囲攻撃もできる。何よりどちらも爬虫類的な見た目から威圧感の塊でもある。


煌めきとともに、二体が顕現した。


どちらも問題なく呼び出せた。


例えばコスト不足ということで、頭痛がしてきたり、めまいや吐き気などの体調異変が起こるわけでもない。これで召喚コストのことはとりあえず忘れていろいろと呼び出してみることにしよう。


「いま、私のしもべ達が魔王の軍勢と思しき部隊に接敵しました。とりあえず、何の問題もなく蹂躙しています。魔王というのがどの程度強力な存在なのかはわかりませんが。とりあえず自分の身を守ることくらいはできそうです。それから、そこの」


俺はそう言って、ガタガタと震えているおっさんその2を指差した。たしか、どこかの国の大使だか何だか言っていたような気がしたからだ。


「とっとと国にかえって、伝えるんだね。アレクサンドリアの守り神が復活したって」

次回は2017年2月8日に更新の予定です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ