ガチャなどやってみた
さて、インベントリに入るものは一通り試してみた。
テーブル、イス、食器、果物など、ゲーム由来のもともとインベントリ内にあったもの以外の物品、食料も問題なくインベントリに出し入れすることができた。
基本的にアルファテスト、ベータテストの時にゲームは一通り試していたのでファンタズマもそこそこ揃えてあるし、アイテムも充実している。そして、どうやら俺のテストアカウントに紐付けられたゲームのキャラクターアカウントに、近しい状況のようだ。
さて、問題はガチャだ。
ゲームではナビゲーターであるレナが水晶球を持って来てくれていた。
インベントリの中には水晶球は収納されていないのも確認した。ということは、聞いてみるしかない。
「レナ、ガチャしたいんだけど?」
「ガチャってなんですか?」
そ、そうきたか。そうですよね、ガチャって言ってもわかりませんよね。
「えーっと、新しいファンタズマを呼ぼうかなと、思ったんだけど」
「はい、かしこまりました」
今度は通じた!
レナはそう言うと、腰にぶら下げていた巾着袋の中からゲームでもガチャの時に使っていた水晶球を取り出した。水晶球の大きさは硬式の野球ボールくらいだ。
レナはそう言って捧げるように俺の前に差し出した。
そして、ここではたと気づいた。
どうやったらガチャできるんだろう。
試しに手にとってみようと思って左手を水晶球にかざした瞬間、水晶球がまばゆい光を放った。
それとともにいくつもの魔方陣のようなものが周辺の空間に表示され、あたりの空気が変わる。
そして一際まばゆい光が輝くと、そこには一体のウサギが出現していた。
見た目がゲームの時と同様ならば確か、C『クラウドラビット』のはずだ。
レナはクラウドラビットをモフモフしようとして蹴りかえされて涙目になっている。
ガチャができるということは、ファンタズマを使って、いざとなったら身を守るために戦うこともできそうだ。
もう一度、今度は両手をかざしてみると、いわゆる10連ガチャの発動を確認できた。
SR『成層圏の覇者 アクロス』
R『大空の眷属 ケツアルコアトリス』
どちらもなかなか強力な固体だ。CやUCに相当する雑魚モンスターやアイテムはとりあえずすべて収納に放り込んだ。生贄にしてSRの強化に使おうかとも思ったが、それはとりあえず後回しだ。
ついでに、最初に召喚したクラウドラビットも収納しておく。ガチャによる呼び出しなどもゲームとほとんど変わりが無い。
とにかくうじうじしていても仕方がないので、まずは現状の環境や状況の把握が先決だ。
俺は立ち上がると、まずは俺が横になっていた祭壇状のベッド?を確認した。
不思議そうにレナが付いてくるが気にしない。
台座は石のような、コンクリートのような不思議な素材でできており、その上には布が敷かれている。しかしクッション性はあまりないので、正直言ってもう一度ここでねむりたいとは思えない。
部屋の壁に掛けられたタペストリーは、色とりどりのししゅうがほどこされているが、模様は幾何学的な模様ばかりで意味を理解できるかと言われると、ちょっと無理だ。
言葉は、たぶん自分が使っているのも日本語のような気がしていたが、音感が何だかことなって聞こえているようにも思える。俺自身は英語は人並みにできるかな、という程度の語学力しか持っていないので、外国語のリスニング、ましてや異世界語のコミュニケーションなどできるはずもないが、なぜかレナとは会話が成立しているし、あまり深く気にする必要もないのかもしれない。
自分の服装は、先ほどレナに着せてもらったゆったりとしたトーガのような服装だ。色合いは茶色い、自然色な色合いだ。ワンピースではない。
ただ、腰のところで金のベルトのようなもので抑えているので、動きやすさを阻害するという感じではない。袖も長く、裾も長い。裾は長すぎて結構引きずってる。印象としてはどちらかと言えば和服、それも男性用の浴衣のようなイメージだが、裾の長さから女性のそれもウェディングドレスにも近いものがある。
足元はサンダルだ。革製品と一目でわかる。
色合いは黒くてなかなか丈夫そうだ。若干堅いが、それは新品だからということもある。
足首のところで巻いて結んで固定している。そういえば、ジッパーはおろかボタンのようなものも無い。
出で立ちはこんなものか。
そう言えばインベントリの中にレア度Cの短剣かなんかあったな。護身用ということであればC『青銅の短剣』で十分だろう。そもそも刃物の扱いなんてまったくわからないしな。
自分の装備や環境を確認しながら、まずは現状の再認識だ。
1:当座生きていくのに必要な状況の確認
2:できれば帰還する方法の確認
とりあえず自分にもっとも優先されるのはこの二つだ。
飯が食えて寝るところがあればとりあえずは問題ないし、嫁や娘、会社の業務も気になるからな。
俺は決してワーカホリックではないと思うが、業務の引き継ぎすらしていない今の状況では、俺の不在で色々と仕事は不便な状況になっていることだろう。
それに生活水準的なものはどう考えても帰還したほうが良いに決まっている。
自宅のベッドの方がずっと快適に睡眠をとることができるし、食事も醤油や白米がないとなかなか厳しいからな。以前、アメリカの展示会視察でラスベガスに行った時も、結局2日に1回は日本食レストランで白米食べてたし・・・。
水道はそこそこ設備されているようだ。少なくともトイレは水洗のものがあった。汲み取り式ならまだ我慢できるが、中世ヨーロッパみたいにオマルにすることになるかと心配してしまった。
だが、当然携帯電話もパソコンも無い。テレビも無ければ電気製品は一切ないわけだから味気ないにもほどがある。
さて、次はこの部屋の周囲の確認だ。
この部屋は天井も高いが陽の光が差し込まないのでなんだか陰鬱なかんじだ。窓から差し込んでくる光を見ると、今は日中であろうことは想像できる。
俺は出口とおぼしき方向に向かってとりあえあずスタスタと歩き始めると、レナが声をかけてきた。
「姫様、そちらは厨房なのですが、先程のお食事で何か問題などございましたでしょうか?」
「えっと、問題などは特になかったのだけれど、美味しかったから一言言っておこうかなと思って」
苦し紛れな言い訳だったがレナは特に不信に思うこともなかったようだ。
「かしこまりました。そう言えば姫様はまだこちらには馴染んでおられないご様子。一通り奥の院をご案内しますね」
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厨房をまずは覗いた。中には石造りの竃などがあったが、どう見ても江戸時代かそれ以前の調理場だ。先程の食事も香辛料などはほとんど使われていなかったようだ。塩はあるのか塩の味付けはされていたけど素っ気ない味付けなので現代の食事に慣れている俺には物足りなさが優先する。
厨房の他にも、巨大な浴場(俺専用なのだそうだが、広さだけでもかなりの大きさがあり、露天風呂やサウナなどもあった。ちょっとしたスーパー銭湯よりははるかに充実した設備だ)などがあった。浴場は、もしも俺の嫁がここにいたら、たぶん泣いて喜んじゃうんだろうな。嫁は温泉大好きだったしなぁ。
中庭や庭園などもあり、あちこちで下働きが施設の維持のために働いている。
そして、下働きはみんな女性ばかりだ。
年齢は様々だけど、服装はみんなレナと同様の服装だが、肩からかけている丈が背中の真ん中くらいまでの短いマントの色合いだけが違う。レナのマントは真っ赤だが、あるものは水色、あるものは黄土色といった感じだ。男子禁制なのかもしれないなと思った。
レナと俺が通りかかると、みんな仕事の手を止めて一斉に跪いて顔を伏せる。
まるで将軍様が大奥を練り歩いているような感じだ。こそばゆいな、としか感じない。
「奥の院で働く女官の数はおそらく100名くらいですね。アレクサンドリアの中央神殿全体ならたぶん500名くらいはいるかと・・・」
レナは得意そうにツアーガイドよろしくアレコレと説明してくれる。
俺はふと気づいた、大きな青銅色の扉を指差した。
「あの扉は?」
「ああ、あれは礼拝堂や教皇庁につながる大扉ですね。アレクサンドリアの教皇がましますのが、教皇庁です。姫さまが目覚められたことは伝えてありますから、明日あたり御目通りを願って教皇様や枢機卿たちが御目通りを願ってくると思いますよ」
「教皇?」
ローマ法皇のような立場ということか?
「はい、私の不肖の父親が教皇座を預かってます。第四十六代教皇アナスタジウスです。でも、立場としては奥巫女である私の方が上ですし、ユウキ様は光の女神であらせられますから当然この国の最高権力者でもございます」
ん?いまの、何気に爆弾発言だよね?
俺、女神なの?どういうこと??
最高権力者ってどういうこと?
俺が絶句しているとレナはさらに続けた。
「まぁ、教皇アナスタジウスは私の父親で多少は頼りにはなりますが、ユウキ様の使用人であることには変わりありませんから、特に気にされることもございません」
レナはそう言うと振り返って続けた。
「アレクサンドリアはこの戦乱の世にあってはファンタズマを呼び出せる女神様が最大最強最高の存在です。姫様のような女神様が降臨されましたことで、これからは国土の回復も望めるかと思うと嬉しくて仕方ありません。
魔王の侵攻にここ数年で瞬く間に中原藩国八州のうち四州は蹂躙され、二州は最前線として滅亡の淵にいます。ここアレクサンドリアと隣のバルト、そしてチェルシーとドラッケンの四州の力を結集させれば、きっと魔王の侵攻をはね返すことができるに違いないです」
・・・。
やっぱいるのね?この手のお話にありがちな魔王って。