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2 プロローグその2

プロローグその2です。

社長室に呼ばれた次の日から、俺のデスクは社長室のとなりの部屋に置かれることになった。


なんでも役員室の一つが空室になっていたらしく、物置になっていたその部屋が網膜投影型情報端末(社内のコードネームは『メガネ』に決まっていた)の事業推進室になった。


専任担当者は俺一人。今までは営業でしのぎを削っていたわけだが、まずは大急ぎでどのようなコンテンツを用意するか検討を開始するために、さまざまな既存のゲームをやってみることになった。


スマートフォンアプリやパソコンのオンラインゲーム、コンシューマーゲーム機のものなどをいろいろと試した結果、いくつかの機能が初期仕様として決定された。


ロールプレイングゲーム(いわゆるRPGと呼ばれるタイプのゲーム)

スマートフォンをベースに行うので過度なデータストリーミングはできない

ゲームは無料でアプリをダウンロードできるが、課金要素としてガチャをいれる

メガネには骨伝導を使った音声の再生機能もつけ、ハンズフリーによる通話も対応させる


部署が移動したとはいえ、引継ぎは特にない。従来の仕事はそのままに、但し新規で開拓中の案件は他の担当に引き継ぐことになった。


なので、必然的に以前の部署のメンバーがもっとも俺の部屋に入り浸ることになった。


そして、なぜかこの新規事業推進室には永山さんのデスクもあった。もっとも彼女のデスクは広報部にもあるので、一日の大半は座っていない。


ゲームとしてのコンテンツは、サイバーパンク的な方向で専門のデザイナーに外注することになった。

シナリオライターも外注だ。


そして作業はとんとん拍子で進んでいった。


グラスノーツインストゥルメンツの買収発表

網膜投影技術の情報開示と、それを含むコンテンツラインナップの発表

医療目的で開発された技術なのだが、治験も終わっており発売のタイミングも発表される

もちろん、ゲーム関連や医療機器関連の各種展示会などでのお披露目的意味合いでの出展も行った。

ゲーム雑誌など、複数のメディアや地方紙だが新聞の取材も受けたりもした。


発表が進むにつれてメンバーはどんどん増えていき、仕事はどんどんハードになっていった。

締め切りがある仕事はこういうときに本当につらい。


そして、テストサーバーとして「UN-0」というサーバーが立ち上げられた。ゲーム的な仕組みはほとんど完成しているが、実際にデバッグを行ってみないといけないということで、フィールドテストも兼ねて社内から100名ほどにハードウェアが支給されたわけだ。


アプリの公開と端末の発売日は7月7日。


このフィールドテストは俺も参加した。

基本的に、ガチャは無制限にでき、パラメーターは高めに設定してあるため、ゲームとしてのゲーム性を確認するのではなく、どちらかというと動作の確認などのためのテストだ。


***


「ようこそ、セカンドアースプロジェクション・オンラインに」


システムメッセージが頭に響き、今日も仕事中にゲームだ。はっきり言ってたまには他のゲームやら、商談やらが懐かしい。


セカンドアースプロジェクションは基本的にプレイヤーVSプレイヤーをメインに設定したゲームだ。


プレイヤーは「ファンタズマ」というモンスターの一種を使役する、いわゆる召喚士的な位置づけで戦いをするのは使役するモンスターの仕事。プレイヤーのレベルを上げることで使えるモンスターの上限を上げることができたり、同時に使役できるモンスターの数が増える。


「まずはあなたの名前を入力してください。それともあなたのフォイスブックアカウントと接続しますか?」


ピコンとシステムログが流れて(Y/N ?)という選択肢が現れる。


「イエス、イエス」


投げやりに聞かれる内容をイエスで進めていく。


「室長、いまフォイスブックに接続しました?」運営担当の川島君だ。


「おう、したした」

「じゃ、このアカウントか。レベル限界値まで上げておきますので、確認してください」


「あ、いまステータス画面の数値が変わった」


初めてなので一通り、いわゆるチュートリアルが始まる。


まずは守護天使と呼ばれるシステムログナビゲーターの選択だ。


さまざまな色合いのキャラクターが表示されるので「右」とか「左」とか、音声認識でカーソルを動かして、選択するのだ。意外とカーソルの操作は面倒だ。


「娘と同じ名前だからレナにするか・・・」

そう言って髪の赤い、少女のキャラクターを選択した。


次に所属する陣営「リージョン」の選択だ。

このゲームは8つのリージョンのどれかを選択肢、プレイヤーはこのリージョンに所属して活動する。別のリージョンに属するプレイヤーとは敵同士となるのでプレイヤー対プレイヤーでバトルを行うことも可能だ。


ゲーム内に組み込まれたシナリオをこなしたり、プレイヤーとPVPを行うことでプレイヤーは経験値を蓄積してレベルをあげていく。レベルが上がればプレイヤーに設定された能力値や召喚できるファンタズマの数を増やしたり、強力なファンタズマを常に召喚していることができるようになる。


PVPが推奨されているゲームなので、当然だが常にファンタズマは召喚していたほうがバトルをする上では有利だ。


俺はとくにこだわりも無いので「アレクサンドリア」というリージョンを選んだ。Aで始まるリージョンで最初に表示されていたからだ。


すると、目の前に先ほど選択したシステムナビゲーターのレナが視界の外からふわりと飛んできた。

「ようこそ、アレクサンドリアにお越しくださいました、召喚士さま」


目の前に表示されたキャラクターは3Dテキスチャーなので実際にそこに立っているように見える。

ちらりとメガネを外してみると、もちろんそこには誰もいない。最初にテスト環境でこれを見せられた時は本当に驚いたものだ。さすがに毎日扱っているので最近はそれほどでもない。


「まずは召喚士さまに最初のファンタズマを召喚していただきます。ファンタズマの属性にご希望はおありですか?」


このゲームではファンタズマはさまざまな属性を持つ。

炎、水、風、土、光、闇、木、命の8属性だ。


システムやシナリオは細かくは把握していないが、たしか光属性が一番レア属性が高かったはずだ。

「光で」

「光ですね、かしこまりました~」

レナはそう言うとおどけて敬礼のようなしぐさをしてからどこからか水晶球を取り出すと俺の目の前に示した。最初のパートナーはSR確定だ。


「水晶球に手をかざして『ガチャ』とコマンドを入力するか、端末から操作していただくこともできます」

レナに言われて、そういえばゲームを起動している端末から操作することもできるのを思い出した。

最初くらいは音声入力でいいだろう。

「ガチャ」


すると水晶球の周りに光がまとわりつくようなエフェクトが一瞬発生した。

「ユウキさんはLR『美と光の女神 ユウリ』を召喚しました!」


あれ?SR確定じゃなかったっけ・・・


「みなさーん、それじゃ、今日から1ヶ月間、なるべく日常生活もログインしたままでお願いします。治験上は10時間連続で使用していると眼精疲労などが発生します。ですから食事のときはログアウトするのが良いと思います。パソコン組みも同様ですよー」と、川島君の声が響いた。


川島君は工業系の大学を卒業してそのまま当社で仕事をバリバリとこなす制作・開発のエースだ。このゲームはスマートフォンアプリで行うが、パソコンでもできないことはないので、ノートPCやタブレットを使った使用を想定した実験も同時に行っている。


「無理にバトルする必要はありません。バトルシステムのデバッグは別にやってますから。でもクランシステムもオンにして、今回は3つのクランにランダムであらかじめ入れておくので、バトルしていただいてもかまいません」


川島君がいろいろとハードを渡されたテスターに説明をしていると、メッセージの視界の中で着信があった。社長からだ。


「もしもし、お疲れ様です」

「どう、そっちの様子は?」

「今、自分も含めてゲームを起動してからテスターに川島君からブリーフィングしているところです。みんな仕様はわかった上でやっていますが、守るべきことは守らないといけませんしね。自分もゲームのシステムの中から通話をとったんですよ?」

「ラグや違和感は無いね。普通に通話できている」

「はい」

「あとで、自分の分のアカウントも作っておくように指示しておいて」

「川島にやらせて、後ほどアカウント情報をご連絡いたします」

「うん、よろしくね」


さて、それじゃまずはガチャだ。

この手のゲームでは一番「楽しい」側面だと俺は思っている。悲劇もあれば喜劇もあるという面でね。


スマートフォンのほうの画面を使っても操作できるので、俺はタップしてガチャの画面を表示させる。


ブホッ


あやうくコーヒーを噴出すところだった。


ガチャ券 9,999枚

10連ガチャ券 9,999枚



次回は2017年1月10日更新の予定です。

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