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俺 VS 脳  作者: 雨夕美
3/5

第3話  酩酊



「で~ あるからして~ 我が社も~」


 おかしい。どう考えてもおかしかった。だが、平社員である俺はもちろんの事、係長ですら巻き込まれている。今はお昼の十二時を越えたところだ。そして何故か昼をも跨ぎ続いている無駄会議。


(はぁ…… 腹減った……)

(「お腹すいた……」)

(早く飯食いたい……)

(「早くご飯を食べて下さい……」)

(フフッ…… ハハッ……)

(「頭は大丈夫ですか?」)

(頭はお前だろっ!? あっ!?)

(「あなたの意識は私ではありません」)

(ふっ…… まぁいい。お前…… 腹が減ってるんだって?)

(はい。ご飯食べて下さい)

(食べれると思ってんの?)

(「なっ!?」)


 俺はこの状況を全く理解していない、アホな脳を完全に馬鹿にしていた。課長が会議を始めれば数時間という時間が過ぎる。それは休み時間など全く考慮されない。課長にとって数時間など、一瞬のようなものだ。


「で~ 我が社でも活用している~ イーサネットを~」


(イーサネット? イーサネットってなんだ? ウチで扱っている商品でそんなのあったっけ?)


 新人の野郎がやっているように、さりげなくスマホをいじりイーサネットを検索する。だが、俺はある程度は気がついていた。何故なら、課長の話しっぷりから十二分に想像出来たからだ。


「昨今~ イーサネットの普及により~ 我が社も~ イーサネットに広告を出して~」


(課長の野郎…… インターネットと勘違いしてやがるな…… )

(「コンピュータネットワークで最も使用されている技術規格の一つですね」)

(偉そうに…… 何が「技術規格の一つですね」だよ…… 俺の目を通してスマホに書かれている文を読み上げてるだけじゃね~か)

(「なっ!?」)

(お前は頭が悪いんだからな? 俺はよく知っているんだぞ? 悲しい真似はするな。アホ脳め。ハハッ)

(「……そういう嫌らしい部分が、にじみ出てるから女の子にモテないんですよ。嫌らしくて、ヤラシイとはこれいかに。ぷぷっ」)

(……)

(「……」)


 頭の中で喧嘩する程に悲しい事はない。それにヒートアップすると会議に影響も出る。仕方なく俺はこいつとの争いを今は避けて、心底くだらない会議に耳を傾ける事にした。


「え~ であるからして~ イーサネットは~ 大変便利なもので~」

「……課長」

「なんだね係長? 話の途中で……」

「そろそろ午後の訪問先に向けて準備いたしましょう」

「まだ出発には時間があるだろう?」

「昨日の会議でコンプライアンスの遵守を大いに学びました。ルールを守る事はとても大事です。それと同じく時間を厳守する事も大事かと思います。交通状況は刻一刻と変化しておりますので、余裕をもって出発したいと考えております」

「そうだな…… コンプライアンスは大事だからな…… よし。それでは会議は終了とする。解散」


(コンプライアンス本当に好きなんだな…… 絶対に係長の時間厳守の話を聞いてないだろ……)

(「でもっ! ご飯! ご飯が食べれますよ~!」)

(……)

(「……どうしたんですか、黙っちゃって? ショックでしたか? 女の子にモテない話は? ぷぷっ」)

(……なんだか食欲がないな)

(「なっ!?」)

(ショックを受けたみたいだ…… 少しお昼はゆっくりしようかな……)

(「大丈夫ですっ!? 大丈夫なんですよっ!? 大丈夫だったんですよ!? モテます! モテちゃいます!? モテちゃったんですよ!?」)


 俺は脳のフォローに耳を傾ける事なく、休憩室の椅子を四つ横に並べて、昼寝を敢行した。だが、彼女の猛攻は尋常ではなく、寝ていられるモノではなかったので、仕方なく遅めの昼食を取りに出掛けたのであった。






「いや~ 係長が課長の話を一刀両断してくれたお陰で、お昼休みが取れましたよ~」

「あぁ…… 流石に俺だって欲しかったからな……昼」


 あれから滞りなく仕事を済ませ、訪問先から帰ってきた係長と共に立ち飲み屋にいる。軽く一杯どうだ、と誘われたので今に至る。


「なんであんなに会議が好きなんですかね?」

「……むしろ自分の作成した資料が好きなんだろうな」

「……なるほど」


 互いに二杯目になるビールを空けて、三杯目を注文する。酒の肴は、茄子の一夜漬けと焼き鳥の盛り合わせ。少なめの肴と立ち飲み屋である理由は、係長が妻帯者で自宅に夕飯が控えているからだった。


「すまんな。付き合わせた挙げ句に、時間指定までもしてさ」

「仕方ないですよ。奥さん大事にしてあげて下さい」

「そうだな」

「それに、こないだの会議で俺が寝落ちしたせいで長引いて…… 係長、奥さんに怒られたんですよね?」

「まぁな」

「本当にすいませんでした……」

「大丈夫だ。数ある内の記念日の一つ。実際に俺もなんの記念日だったか分からん。だが、それをもし妻に聞いたら……」

「終わりますね」

「あぁ…… 状況は終わってるのに、さらに終わるんだ…… 考えたくない……」


 その暗い気分を振り払うかのように、互いに残りのビールを胃に落とし込み、互いの家路へと足を向かわせていった。




「ただいま~」

(「……」)


 酒を飲んだ事によって、俺の脳である彼女は酩酊状態に移行する。この状況では俺の方が格段に有利。この時ばかりは俺様が優勢である。


「今日はもっと飲んじゃうぞ~」

(「……」)


 わざわざ声に出し宣戦布告する。だが、彼女からの応答はない。俺は咎められない状況を好機と判断し、ツードアの白い冷蔵庫から缶ビールを取り出す。


「んっ んっ んっ ぷはぁ~」

(「……」)


 最高の一杯。立ち飲み屋で飲んだ生ビールも美味かったが、安心出来る自宅で飲む缶ビールもこれまた最高である。


「んっ んっ んっ ぷはぁ~」

(「……」)


 同じように二缶目に突入し軽く飲んだ所で、彼女からの応答があった。


(「……これ以上」)

(んぁ?)

(「……これ以上、穢されません」)

(んぁ? あっ…… 身体が…… 動かない…… あっ…… 酔いが…… 急激に…… 目蓋も…… あぁ……)


 そうして俺の脳である彼女を怒らせた俺は、強制的に酩酊状態にされて本日の人生を強制シャットダウンされる事になった。











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