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神獣殺しの精霊使い  作者: 氷帝花心(門屋定規)
2章 無の精霊使いと三英雄
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第53話 元英雄


とある一報が城内へと響く。

それは、かつて精霊神の一人として数々の功績をほしいままにした英雄の反逆だった。

――先代、炎の精霊神。


今もなお、最強の一角として数えられ、風の精霊神と並び称される人類の英雄。

そんな彼は初老の精霊士と対峙していた。

暴風が吹き荒れ、辺り一面の岩々が次々と砕け散る。

それは、とある精霊により溢れ出た魔力の一端に過ぎない。


「久しいな。今更何のようじゃ?」

「……英雄カリア。まだ人類の矛として立ちはだかる。だが――老いたな」

「グフゥ」


カリアの周囲に太陽のごとく輝く火炎が顕現する。

風魔法を扱い、炎の行き先を変えていくも、その全てを払うことはできず、カリアの衣服が焦げ付いていく。


「既に時は過ぎた。王の権威は落ち、精霊たちの主は途絶えた。お前がいなくなれば、この世界は閉じる。かつて、そうだったように」

「まさか、貴様の願いは……?」

「終わりにするのさ。精霊諸共、全て地に沈めて」

「グフフゥ」

『カリア、これ以上はダメだ。無駄に終わる』

「バール……そんなことは分かっておる。だが、ここでアイツを放置しても意味は無い。民を亡ぼすと宣言されたのじゃ。ここで引くわけにはいかん」

『はあ……仕方ない』


暴風が更に強まり、辺り一面に無数の竜巻が顕現する。

精霊神カリアの精霊バール。その全ての力を引き出した神威魔法。

それと対峙する元炎の精霊神は小さな笑みを浮かべ。


「――終わりだ」


突如、世界には暗黒が満ちる。

竜巻が消滅し、太陽の光は地上に落ちない。

代わりに、あらゆる光は、男の手元へと集約されていく。

地上には、灯一つ届かず。

底冷えするような感覚に、カリアの前身から危険信号がともる。


「終わりさ。何もかも。ここでな」





――精霊神カリアの死。

その噂は全世界へと瞬く間に広まった。


数日前、王都から遠く離れた、龍の崖と呼ばれる場所で起きた、強力な魔法の権限。

それは王都からも多量の魔力を奪い去り、暗闇が広がる原因となった。

そして、噂では風神が打倒さたともある。

その真相を確かめるべく、現地へと赴いた二人が見たのは、荒れ果てた土地と崩れ落ちた崖であった。


「――これは酷いな。リーナ、これをどう見る?」

「魔法によるもの。それも、高位魔法?」

「俺もそう思う。だけど、普通の精霊には無理な芸当だろこれ。少なくとも精霊神が一人、いや、二人が争ったってレベルだ」


精霊神。

その偉業を知る二人は、目の前の光景を見て、とある英雄の姿が脳裏によぎる。

そして、その方は数日前、この辺りに調査という名目で訪れていた。


「一人は風神ね。だけど、もう一人居たはずよ。だけど、他の精霊神はこの近くには来ていないはず。だから、世界七大獣のどれかと戦った可能性が一番あるかしら?」

「7獣か。雷鳥電王、黒龍の可能性はないか。それ以外で、ここまで苦戦する相手。いくら風神と言え、どれが来てもこうなるのは当たり前か。だけど、国からの報告では最近聞いていない。7獣の可能性は低いかな」


世界七大獣。

その一角のどれかであれば、こうなることもありえる。


「それ以外の可能性はあるかな?」

「ギール、それを調べに来たのよ」

「分かっているさ。数日前の強力な魔法。それがここで使われた可能性が高い。灯を全て奪い去り、爆発を巻き起こす魔法。そんな魔法、聞いたことがない。だけど、この荒れ果て台地を見るに、本当みたいだな。持ってきた地図と崖の淵が合わないし、この辺り一帯が吹き飛んだ可能性がある」

「少し見せて――確かに、地形が違う。でも、これって」

「ああ、どれだけの魔力があれば、ここまでの破壊ができるんだろうな」


地図と目の前の光景を見比べる二人。

見れば見る程、地図が間違えていると感じる程に、地形が折れ曲がっている。


「なんにせよ、ここで戦いがあったのは確かなようだ。そして、風神が行方不明というのも正しいかもしれない。なんにせよ悪夢だな。ただでさえ、王国が崩壊しかけている大事件の後にこれとか……」

「泣き言は後。そんな姿を弟子のあの子に見せる気?」

「……。――ああ、そうだな。戻るか」

「――ギール。ちょっと待って!」

「どうした、何かあったか?」


リーナが駆け寄る先。そこには赤い水晶のようなものが落ちていた。


「それは水晶か? それも炎が込められた魔道具?」

「ええ。これは風神が開発した魔道具の一つ。魔力回廊と呼ばれるもの。魔法を閉じ込める力があるの」

「魔法を閉じ込めるか。それがここにあるということは、風神が戦った相手の痕跡の可能性が高いな」

「そして、これが本当にそうなら、相手は人。それも、炎の精霊使いということになる」

「炎の精霊使いにここまでの使い手が居るかどうかか。流石に、風神を相手にできるのは炎の精霊神くらいだけど……あの二人が戦うなんて想像できないぞ?」

「そうね、人類の二大英雄である、二人が戦ったなんて、それこそ終りね。そもそも、炎の精霊神はこの辺には居ないはず。だから、その懸念はないわ」


カリアと炎の精霊神。二人は、かつて王国騎士団にて、精霊使いを鍛え上げたこともあり、親交はある。そんな二人が戦う理由などない。

そもそも、精霊神同士が敵対しないよう、常に精霊神の周りには王国兵が見張っている。

そしてつい先日の報告で、精霊神同士が近づいたという話はない。


「いくら考えても分からん。だけど、魔法回廊があれば、調べられる」

「うん。これに込められた魔力を解析すれば、どれくらいの使い手か分かるはず。それに、王国兵であれば、魔力解析で誰か分かるはずよ」

「それなら、これを持ち帰るか」

「ええ、だけど面倒なことになったかもしれないわね」

「ああ、敵の仲間か?」


遠くの森林から、おびただしい数の魔物が進軍してくる。

通常であれば、敵対するはずの種族が一体となって、押し寄せてくる。

それはつまるところ、テイマーが居るということだ。


「敵の狙いはそれだろうな。リーナ、支援を任せる」

「ええ、いくらでも回復してあげる」

「行くぞ!」


ギールが走り出すと同時、リーナの支援魔法がギールの魔法銃へと吸い込まれていく。

魔法銃に紅い魔力がともり、魔力循環の効率化が進みきらめく。


「敵の数は数百。気を抜くな、リーナ」

「ええ、貴方こそね」





魔物を全て倒し終ったのは灯が落ちたころだ。

一体ずつ、魔法で燃やし尽くしていく。


「はぁ、疲れた。ここまで戦うなんて、凄く久しぶりだな」

「ええ、そうね。私も戦うのは久しぶりかも」

「姫様の護衛の時は、潜伏して魔力を温存していたしな。はあ、ここにバルを連れてこればいい特訓になったなあ」

「それはルシアが断りそうね。あの子、何だかんだ過保護だから」

「はは確かに。ルシアが必死に説得するのが目に浮かぶ。そして、姫様も一緒に着いてこようとしてひと悶着ありそうだ」

「ふふっ、そうね」


少し前、ギールの弟子となった少年と姫様がどこか危なっかしい。

そんな二人を宥めて止めようとするルシアの姿が思い浮かんだ。


「それにしても、これで終わりか?」

「ええ、近くに私たち以外の魔力はない。だから、少し休めそうね」

「ああ。にしても、魔力回廊の中身を狙いに来たとすれば、いよいよ、重要資料ってことになりそうだな」

「ええ、この魔力が誰のものなのか。それによっては、軍部が混乱しかねない。だけど、ギール。推測はできているのでしょ? これが誰の魔力か」

「まあ、何人かは候補が居る。こんなの元精霊神クラスじゃないと無理だって。だけど、隠居した元精霊神のその後なんて、俺たちみたいな下っ端には知る由もない。だから分からない」

「……やっぱりそう思うわね。そもそも先代の炎の精霊神の情報はない」

「ああ、昔の情報なんて秘匿対象だし、今と違って、昔の精霊神は自由奔放で、誰一人国に所属していなかったからな。どうしても、情報は集まらない。だからこそ、やっぱり、元精霊神の可能性が高い。いや、元精霊神であってほしいな。あんな強者が精霊神以外に居るとすれば、いよいよ国が終わりそうだ」


大きく息を吐く。

そして、目の前の見据える。


「この先、王都がどうなるか分からない。だからこそ、姫様の力になるしかない」

「そうね、あの子がどう国を導くか。それを見るまでは、倒れるわけにはいかない」

「ああ、だからこそ支援は頼むぞ。第二ラウンド開始だ――!」



二人を狙うべく、全方位から魔物が押し寄せる。

それを見て、二人は再び戦闘を開始した。


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