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神獣殺しの精霊使い  作者: 氷帝花心(門屋定規)
A章 とある鍛冶師の昔話
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α-9 シロキイサン

ヒートの話を5話で終わらせると書きましたね……

ええ、何が起きたのか9話です。そして、また続きます。

もう暫く、ヒート編にお付き合い願います。



地下に落ちた先には白亜の建物が佇んでいた。

人の気配は無い。だが、精霊が居る可能性は高い。

ここが、精霊区だとすれば――


「精霊は見えねえが、気配はあるか?」

『あるような、無いような、微妙?』


幼さが抜けたリアが答える。

精霊の成長、それは突然起こる。前にルウが言うには、各精霊たちは、原石と呼ばれる水晶と同調することで、知識を得るそうだ。

喋り方ですら、原石が与える。


「リア、気を抜くなよ。ここは精霊区だ。何が起こるか分からねえ。お前なら大丈夫かもしれなが、それでもだ」

『私が大丈夫でも、ヒートは違うかもしれない。私だけ、助かっても意味は無いよ』


会って数時間。

それでも、ヒートとリアの心は通い始めていた。

精霊との相性は悪くない。

だが――


「っ……」


着地の衝撃により、ヒートの足はひしゃげ、不格好な姿勢でしか進めない。

そして、痛みは強くなる。


『骨折したの? 無理しちゃダメ』

「ああ……だが、大丈夫だ。幸い、ゴーレムの残骸に棒になりそうな破片があるからな。これで、支えれば、何とか――」


ゴーレムの一部と思わしき、長い棒。

それは金属のようで、見た目よりも重量がある。だが、鍛冶師として、金属を手にしてきたヒートにとっては扱える範囲だ。


「それにしても、見たこともねえ材質だ。リアと一緒に落ちてきた古書に記載されていた古代文明の遺産って所か」


今の文明レベルでは再現不可。

それが鍛冶師であるヒートが下した結論だ。なんせ、数十秒間にも及ぶ落下衝撃でひしゃげることもなく、ヒビすら入らない。それはあまりにも超次元的な代物だ。

誰が、こんな金属を作り出せるというのか。


「とりあえず、建物内に何かあるかもしれねえ。行くぞ、リア」

『うん』




建物に近づくと、正面に扉があり、何かの生物と剣が合わさった紋章が刻まれている。

ヒートの知る限り、見たことが無い。


「古代文明の紋章か。てっきり精霊区だと思っていたが、古代遺跡なのか? それとも、精霊区に古代遺跡が造られた……?」


扉に手を触れても何も起こらない。それどころか、扉を開ける手段が見つからない。


「隠されているのか、それとも長らく放置されて壊れたのか?」

『ヒート、こっち』

「どうしたリア、そこに何がある」

『ここだけ、微弱な魔力を感じる。たぶん、ここに何かある。扉を開くためのカギかも……ここに魔力を流すのかも』


リアの声の先。

そこには、壁の一部に丸い凹みがあった。

ヒートは手のひらを凹みに押し当て、魔力を少しだけ流し込む。

すると、先ほどまで全く開く気配のなかった扉が開き始める。


「――精霊使い専用の扉ってところか。にしても、こんなカラクリを用意するなんて、何を考えているのか。防衛用か、それとも遊びか?」


古代文明。

国の名称ですら今は分からない。ただ、存在があったとされる。


その文明が残したものは、古代遺産と呼ばれ、扱いに困る物から文明レベルを数世紀早めたものすらある。

そして、一つだけ分かっているのは、とある精霊使いが暴虐非道なモンスターを滅びし、英雄へと至ったこと。

その名は“無の精霊神”


かつて6精霊神と袂を分かれ、敵対した最強の精霊使い。

それが関与しているならば、ここの存在価値は計り知れない。

一国の宝玉すら霞むほどの代物がこの場にある可能性すらある。


「とりあえず、入ってみるか。ここまで来て、入らねえなら、冒険なんてできねえ――リア、ゴーレムの気配があったら教えてくれ」

『分かった』


魔道具で辺りを照らし、入り口を抜けるとホールが広がり、十を超える扉がある。

外から見た広さと一致しない。

部屋の数があまりにも多すぎる。


「拡張魔法ってか? 全く意味わからん。ほんと、古代文明の底が知れねえ」

『全て、扉の先に風が流れる。全て、本物みたい』

「まさか、迷宮じゃねぇだろなあ、ここまで来てトラップだったら笑えねえ。それに、回復薬の一つくらいあるかもしれねえ。探索するぞ、リア」

『うん』




扉を開き、一室目。

そこには何も無かった。窓すらない。ただ、その広さは常軌を逸していた。

かつて訪れた王城の広間に匹敵する。それこそ、舞踏会を開けそうだ。


「誰かの家かと思っていたが、けた外れだな。これが普通だとは思えねえ。だとすれば、ここは古代文明の――王族、高位貴族の持ち家か?」

『そうかも、入り口の紋章と同じのが、床に描かれているよ』


部屋の中央。そこには、確かに紋章が刻まれている。

近くまで行き、床に触れても凹みは無い。

何らかの着色がされているのだろう。


「削ってみても、傷一つつかねえ。これですら、普通じゃねぇのか」

『次の部屋に行こう』




二室目。

そこは先ほどと正反対な程、狭い。

ヒートが入ると、身動きが取れない。手を動かすと壁に当たり、方向転換ですら難しい。

だが――


「なんだこりゃあ、痛みが消えてくだと――!」


ひしゃげた足が元の形へと戻っていく。

そして、数秒で痛みが消え失せ、失ったはずの魔力も全回復していた。


「回復部屋……? ならば、狭いことも納得がいくのか?」

『ここは、大量の魔力が流れ込んでくるよ。だから――えいっ!』


ヒートの胸元に魔力が集まり、人の姿を作り出す。

その見た目はルウにそっくりだ。


「リアか?」

『うん、この部屋、大量に魔力があるから。姿戻せた。だけど――微妙に違う?』


ヒートの魔力は減っていない。

おそらく、この部屋に満ちた魔力を糧としたのだろう。


「恐ろしいな、これが戦場に在ったら、無限に攻撃魔法を撃ててしまう。戦争の常識が一変しちまう――だが、これで歩けるな」

『ここなら、ルウが助かるかも……』


リアの言葉にハッとする。

リアの核はヒートの魔力に刻まれている。

精霊との契約は、精霊の一部を人の身体に埋め込む。


――確かに精霊としてルウは消失した。だが、リアの言う通り、ルウの一部がヒートの中に残っていれば、復活させられるかもしれない。

だが――


それは復活魔法をヒートが知っていればだが。


「すまねえ、復活魔法を俺は知らねえ。ルウが居れば、教えてくれたかもしれねえが」

『ううん、ヒートは悪くない。でも、いつか助けてあげられるよ』

「ああ、そうだな――その為にも、ここから出ねえとな!」


部屋を出る。

そこは代わり映えがしない光景が広がっているはずだった。

だが――


『やあ、人間。ここに何ようかな』


黒い装束に身を包んだ少女が居た。


『ああ、何も喋らなくて構わない――ここで死ぬのだから』


突如、暴風が吹き荒れる。

それはリアが作り出す魔法が遊びと感じる程に桁外れだ。


「てめえは誰だ! なんで俺たちを殺そうとする!」

『同じ精霊だよ、わたし!』


『関係ない。あの方の屋敷を汚すなら、容赦はしない――』


暴風が二人に襲い掛かる。


「うわっ! くそがっ!」


リアの手を引っ張り、違う部屋へと逃げ込もうとする。

だが――


「なっ⁉ 開かねえだと」

『なんでっ!』


ヒートとリアは別々の扉を開こうとする。

だが、その全てに鍵が掛けられているのかビクともしない。


「どうなっていやがる!」

『お前が知る必要などない。この盗人が』

「なんのことだ! 俺は何も奪っていねえ」

『うん、魔力をちょっと借りただけよ』


ヒートとリアは必死に説明する。

少女が何を考えて、二人を攻撃するのか、その理由を知れば何か突破口になるかもしれないと信じて。


「お前は、何を恨んでいる!」

『私たちに教えて!』


『うるさい……』



強い風がヒートを壁へと吹き飛ばす。

リアが咄嗟に、背中に衝撃を和らげる風でカバーしなければ、意識を失っただろう。


「――何が悪かったか、教えてくれ。俺たちは、ここがどこかですら分からねぇんだ!」


『――――そうか』


少女は手を下ろし、風を断ち切る。

暫しの静寂が訪れる。


そして、次に零したのは嗤いだ。

哀しみを塗りつぶすような酷い笑みだ。

まるで、怒りと憎しみで造り出したような、不気味な表情に二人は何も言えない。


『――お前は違うのだな。あの方の知己ではないと……そうか』


少女は苦々しい表情を浮かべる。

そして――


『謝罪はしない。ここはあの方の居場所だ。そこに土足で踏み入れたことは許せない――だが……殺しはしない』


何が少女を変えたのか、それが二人には分からない。

まるで泣きじゃくる子供が、次の瞬間には笑うような光景は不自然だ。


「まあ、いいぜ。俺たちが勝手に入ったのは事実だしな。これ以上、攻撃を受けないなら何一つ、文句はない」

『うん——ヒートがそう言うなら……』


不満げなリアの頭をなでる。

それを見た少女の表情が僅かに和らぐ。まるで、昔の光景を思い出すかのように。


「それでだ――ここがどこか教えてくれないか?」

『ふむ……ここは、とある精霊使いの屋敷だ』

「とある精霊使いか、それは精霊神か?」

『さあな。私が会ったのは一度だけだ。それは分からない』


少女の言葉を聞き、やはり古代遺跡だと分かる。

だが、とある精霊使いとしか答えない。


今の精霊使いで、こんな豪邸に住まう者は思いつかない。

そもそも、こんな場所に住まう変人が居るはずもない。


「名前を聞いてもいいか?」

『無理だな。あの方の情報は漏らせない。そういう契約だ。それに、お前に言っても分からないから意味が無い』

「意味が無い? つまりは、遥か昔の人で、既に居ないってことか?」

『ああ……数千年前にあの方は旅立たれた』


数千年前。

恐らく、古代文明の宮廷精霊士。

現代の精霊軍の上位幹部にすら匹敵する程の人物だろうな。

「なあ、ここって精霊区か?」


ヒートは訪ねてみる。

これは禁忌かもしれない。せっかく和解したにも関わらず、導火線に火をつける愚かな行為かもしれない。

だが、ここが仮に精霊区ならば、誰にも言う訳にはいかない。


戦争を起こす訳にはいかない。

ここから逃げ延びて、あいつらに見つかるくらいない死ぬべきだとヒートは考えた。


「ここが精霊区なら、俺を殺してくれ。じゃないと、精霊神が押し寄せて、戦争が拡大しちまう」


ヒートの言葉を聞き、リアは俯く。

それが事実だと思ってしまうから――


『……どうやら数千年で文明レベルは落ちたか。この程度、あの方が居れば、笑って譲った技術だ。少なくとも、ここは精霊区ではない。伝えたければ構わない。ここまで来られるならば、相応の歓待をしてやろうではないか』


少女が苦々しく呟く。

まるで、ここまで到達するのは不可能と言わんばかりに――。

そして伝える。


『仕方がない。お前たちを、地上へと送ってやろう。邪魔者が居るならば、どうにかしよう』

「なっ……⁉ 地上には精霊使いが大量に居る! 精霊神すら居るぞ!」

『それがどうした――? 私の敵ではない』


少女の言葉は自信に満ち溢れていた。

そして――



『精霊王である私にとって、その程度どうとでもできる』



少女――精霊の到達点である“精霊王”は不遜に笑って見せた。

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