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神獣殺しの精霊使い  作者: 氷帝花心(門屋定規)
A章 とある鍛冶師の昔話
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α-8 アラタナカゼ



自分以外誰も居ない。

それはヒートにとって、久しい感覚だ。


幼き頃、孤児だったヒート。

だが、数か月で師匠に出会い、数年で三宝の二人と研鑽を積む日々を送った。


だから、寂しいと思うのは必然だ。

だが、同時に、目の前にはリアが居る。


同じ仲間であり、姉のような存在を失った精霊は最後まで抵抗した。

ヒートの魔力回路が焼き付くのでは無いかと思う程に、リアは魔力を維持しようと全力で拒んだ。それはルウから貰った姿を大事にしようという心意気からだ。


「すまねえリア、だけど、ここで俺たちが死ぬのをルウは望んでねえ」


何を考えているのか、ヒートには分からない。

自分を恨んでいるのか、絶望しているのか、はたまた自分の弱さを嘆くのか。


――それはリアが決めることだ

――リアが認めることだ


「恨むならそれでもいい、だけど、今だけ……リアの危険が過ぎ去るまで、協力させてくれねえか」

『――ヒートはひどい……だけど、わかった――ヒートも……なかま、だから』


幼き精霊は大事な姉を失った。

だが、もう一人居るのだ。


――お父さんのような存在が

……今もなお、悲劇に囚われ、それでもリアの為に前を先導しようと足掻く存在が


――それだけで、リアにとっては十分だ。





「何もねえな、洞窟にしては整っているが、どこにも出入口がない」


幸いにして、光苔が壁を覆っている為、灯に困ることはない。

だが、それ以外何も見つからない。


「ここが精霊区だとして、何かの部屋かもしれねえ。リア、ここに精霊の痕跡はねえか?」

『あるかもしれない……だけど、なにか分からない』


生まれながらの精霊の知識量は乏しい。

微精霊から精霊に至るまで、周囲を漂い、知識を光景として得る。だが、リアは精霊区で生まれたらしい。それも本来、精霊として覚醒するには早すぎるタイミングだ。

恐らくは、爆炎による魔力がリアの存在力を高めたのだろう。


ルウが居れば、他にも有益な情報を聞き出せたかもしれない。

だが、ルウは二人を助けるために、精霊力を失った。助ける為には、精霊としての存在力を回復させるしかない。

だが、ヒートはそんな荒唐無稽なほら話を聞いたことが無かった。


「何か――何でもいい。ここは、明らかに誰かの手が加えられているはずなんだ」


そう零すヒートの姿にリアは困惑を隠せない。

何故、そう断言できるのか。

そう不思議に思ってしまう。根拠のない自信はどこから来るのだろうかとも……。


だが――――


『あるよ……だけど、この先』


リアの言葉は確証が無いのか、不安げだ。

目の前には、壁しかない。


「隠し扉でもあれば……いや、信じるだろ、俺を」


痛む足を引きずり、壁へと近づく。

近づけば、何か見つかるかもしれないと思ったが、何もない。

光苔があるだけ。


『あれ、何だろう?』


と、ヒートに訪ねるリア。

目の前には、何もないはず。だが、リアは告げる。


『このさき、だよ」

「壁しかねえが……やるか!」


腰に差していた短剣を抜き、壁へと突き刺す。

そして、リアと契約したことによって得た“風の力”を纏わせる。

火炎とは違う感覚、だが、壁に魔力を走らせる。


「これが、風か。壊すだけが取り柄の俺には不向きだ——だが、見つけた」


風を操り、周囲の壁を探す。

眼には見えずとも、魔力が教えてくれる。

これは壁なんかじゃない。これは、障壁だ。


「――魔力の障壁だと……それも、高位精霊の力に似ているな。師匠の精霊がこんな魔力を使っているのを見たことがあるぜ」

『ヒートのししょう?』

「ああ、三宝と呼ばれた鍛冶師の師匠。名工とも呼ばれた師匠だ。その精霊が似た力を使っているのを見たことがある。あれは確か……精霊壁」


精霊壁。

師匠が一度だけ使っていた。


それは全ての魔法を防ぐ。

名もなき精霊使いが生み出した万能魔法の一つ。


「だが、こんな濃い壁なんてあるのか……?」


かつてヒートが見たのは、透明な障壁だ。

それに比べて、目の前の壁は暗い。それこそ、光苔が無ければ、存在すら視覚できないほどに。認識などできるはずがない。


「これを壊す。その為には、リア。お前の力が必要だ」

『なにをすればいい?』

「剣に魔力を込めてくれ」


ヒートは魔石が埋め込まれた長剣を抜く。

それは鍛冶師として、三宝と呼ばれるに至った剣。


ガナルスの破壊光線に匹敵する程の宝剣。

名を“神聖剣”


「いくぞ、リア!」

『――――全ての風よ、従え』


リアの声が凛々しく、幼さが抜けた発声が響く。

それは、未知な精霊が成長する瞬間であり、ヒートにとっては二度目の光景だ。


七色の閃光が宝剣から散る。

それは目の前の障壁を切り裂き、雷光のごとく轟音を立てて突き進む。


「これが――到達点なんて、おこがましかったか……すまねえ」


ヒートの宝剣が砕ける。

魔石は塵とかし、刃も粉々に粉砕する。


鍛冶師にとって、武器の破壊は不名誉だ。

それは三宝のヒートにとっても変わらない。


だが――


「――先は見えたな」


障壁にぽっかりと開いた先。

そこには、神殿のような建物が佇んでいた。


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