α-7 キエタスガタ
◆
とある鍛冶師には、無謀だと言われた。
とある鍛冶師には、理解できないと言われた。
それは、国宝と呼ばれた魔法銃、魔法杖を作り出した鍛冶師二人の言葉だ。
だが、ヒートは反論した。
『俺とこいつなら、冒険できるさ。精霊使いにだって、負けない』
そうだ。
とある鍛冶師の弟子三人。
その中でも、一段と諦めが悪い男だった。
無理、無謀と何百回言われ続けても、考えを変えないヒートに二人は折れた。
師匠でさえ、いつも通り豪快な笑い声で認めてくれた。
だから、最後は晴れ晴れとした表情で飛び出した。
「……リア、俺と契約してくれ」
「うん」
これは二度目の契約だ。
かつて、二度と繰り返すことなど無いと誓った。
そうなったら、二度と精霊とは関わらないとも思っていた。
だけど、横に並び立つ精霊が居た。
精霊は幼く、力を扱うことも不慣れだ。
各上のゴーレムに善戦できるかも分からない。
だが、こいつの眼は——あの日見た精霊と瓜二つで。
そして、精霊の瞳越しに映る、鍛冶師の姿にも似ていて。
「俺が勝つ」
「わたしが、かつ」
ともすれば、無謀な挑戦と思われていそうだ。
自分の命を燃やし尽くしてでも助けようとしたのにと、不貞腐れてしまうかもしれない。
そして、その姿を見るには、まだ早い。
まだ、ルウに会う訳にはいかない。
「こいつらの弱点は炎と水、だが……」
「わたし、かぜ」
相性から言えば良い。
だが、土が硬質化したゴーレムを砕くことは難しい。
「俺の剣で、こいつを叩き割る! そしたらリアは風で吹き飛ばせ!」
ゴーレムへと駆ける。
手元の魔剣は鍛え上げた数々の中でも負けていない。
かつて、ルウと駆け抜けた炎は消え失せ、代わりに風を纏う。
同時に、腰巾着から小瓶を複数取り出しゴーレムに叩きつける。
「これでも食らいやがれ!」
風を纏う刃がゴーレムと辺り、押しのける。
そして、辺りに散らばせた鉄粉が風に纏わりつき、より硬質な剣へと至る。
ゴーレムの胴体を叩き割り、風で飛ばす。
腕を圧し折り、足を貫き渦巻く。
「これで――」
「まって! した!」
ゴーレムを倒しながら、一歩踏み出した途端。
突如、地面がひび割れ、大きな空洞が生まれた。
「リア、俺の手に捕まれ!」
「うん!」
俺とリアは地の底へと落下していく。
ゴーレムも同様に、落ちていく。
落ちながらも、岩々がぶつかり合っては復元していく。
とてつもない、回復量だ。
「リア、風で俺を浮かせるか!」
「や、やってみる」
落ちながらも、何時かは底に着く。
その衝撃はヒートを砕くだろう。
精霊であるリアは実体化を解けば、無傷で済む。
だが、一人で地の底で助かるかと言われれば難しい。
「くそゴーレム、離れやがれっ!」
風により、落下速度を落とそうとするヒートにゴーレムが腕を伸ばす。
そして、ヒートの足首を握りしめる。
「道連れにしようってか!」
ゴーレムが本気を出せば、ヒートの足は原型を失うだろう。
だが、それではゴーレムは助からない。落ちるヒートと一蓮托生の思いで、
掴んでいる。
「みえる!」
リアが叫ぶ。
下を見ると、光る苔に照らされた大広間がある。
その距離、数秒後には落ちる。
「はなしやがれえっ!」
足を砕く勢いで手にした剣を叩きつける。
とてつもない衝撃が右足を襲い、骨が砕けたのか遅れて激痛が走る。
「だが、離れた! リア、風を使えっ!」
ゴーレムの重量分軽くなったこともあり、落ちるスピードが激減する。
そして、ゴーレムたちは地面へと落ちていく。
「俺たちの勝ちだ」
◆
リアの風によって、ゆっくりと地面に降り立つ。
同時に、右足に激痛が走る。
「くそっ、歩けねえ」
大広間から空を見上げるとぽっかりと大穴が開いていた。
そこから俺たちは落ちたのだろう。
「それにしても、洞窟の先にこんな空間があるのかよ、まさか、迷宮か」
迷宮。
とある、精霊が面白半分で作り出したトラップまみれの場所。
それがヒートが聞いたことのある情報だ。
「精霊区が迷宮化したっていうのか?」
博識なルウが居れば、何かしら知っていたのかもしれない。
ヒートの知る限り、数百年以上、生きてきたのだ。
「ま、そんなこと考えても意味はねえが——おい、リア、大丈夫か」
「だ、だいじょうぶ」
俺の魔力がだいぶ持っていかれた。
だが、初めて使う魔法によって、リアの中を魔力が渦巻いている。
恐らくは、魔力によって全身が痺れているはずだ。
「実体化を解いて、休め」
「ええと」
ヒートの言葉にリアは従おうとしない。
むしろ、その姿を維持しよう今もなお魔力を注ぎ込もうとしている。
「ここから、連戦になるかもしれねえ、休めるうちに解いておけ!」
「うん、だけど」
リアは言い淀む。
まるで、この姿から離れたくないと言わんばかりに。
「だって、ルウがくれたから」
その言葉を聞き、ヒートは理解した。
否、理解させられた。
「――そうか、そうだな……すまねえ」
ルウの補助によって、リアは創られた。
いわば、仮初の身体だ。それを解いてしまったら、二度と同じ姿に戻ることは出来ないかもしれない。
いつか、ルウみたいに精霊として成長しても……そこにルウは居ない。
――だが
「すまねえ……ルウ、リア、俺を恨め」
ヒートは魔力配給を断ち切る。
絶望と希望が入り混じった表情を浮かべ、霧散していくリアを見つめる。
「ルウの代わりに俺が護る」
その日、ルウが残した痕跡は完全に消失した。




