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神獣殺しの精霊使い  作者: 氷帝花心(門屋定規)
A章 とある鍛冶師の昔話
52/67

α-1 ゼントタナンナイチニチ

これは三宝のヒートがバルとルシアと出会う前

まだ、彼が世界を仲間と旅をしていた頃


メインストーリーを進める前の断片です。

本編には絡める予定です。5話程度となります。


彼は精霊使いに憧れていた。

それは物心つく前の頃からであり、童話から神話まで様々な物語に英雄として時には正義の味方として輝く精霊士に今もなお憧れていた。


精霊士は彼にとっては無くてはならない存在であり、正義そのものだった。

だから、彼は思わなかっただろう。

まさか、その精霊士たちに殺さそうになる日が来ようとはーー。



「だからね、言ったでしょ? ヒートの考えは甘いよって⁉︎」

「ああそうだな、ルウの言う通り、俺のせいだな」


山の中腹に位置する洞穴にヒートたちはいた。そして、ヒートを諭すように訴えてくるのは小柄な少女のルウである。

ルウは、ヒートの手元にある地図を覗くと次々と印をつけていく。


「こことーーああここもダメね」


そして地図には50を越えようかという印が付けられ、それらはゆっくりとではあるが右往左方に動いて行く。


「とんでもねえ場所に入り込んでしまったみてえだな」

「ええ、そうね。ヒートの悪運もここまで来てしまうのね」


ヒートは「確かにな」と言いつつ、情報が記された地図を見ては線を引いて行く。

そして、


「まさか、盗賊の住処に来ることがあろうとはなあ。それも精霊士までもが所属してるってえことは、ここが王国から指名手配されている、反乱軍の一角ってことか」

「情報だけで100万アルスは下らない組織ね」


今もなお、山々の至る所からは爆発音や銃声が響き渡り、その度に地面が振動している。それに時折人の話し声も2人のところに反響しながら届いていた。


「俺たちを見逃さねえよってか。まったくしつこい奴らだ」

「うん、でもヒートが宝玉を取らなきゃこんなことにはならなかったのよ? 取ったせいで宝玉を奪われたって勘違いしちゃったんだもん」

「いやいや、上から落ちて来たら取るしかないだろ」


ルウの言い分は正しい。だが、イレギュラーな場面に遭遇したヒートからすればたまったもんじゃあないだろうし、普通ならば到底ありえないことだった。

なぜなら、上から落ちて来たのは古ぼけた手記と、


「まさか精霊が落ちてくるなんて誰も思わないよ……」


生き物の頂点に君臨せし、

〈精霊〉が眠る宝玉であったのだから。


「だけどよ、精霊が水晶の中にいるなんてありえるのか?」

「うん、別に不可能ではないよ。だってこの精霊はまだ生まれてないからね。精霊の生まれる場所は森の木々の中が多いけど、それでも石や水の中からだって生まれるんだ。だからね、水晶から生まれる精霊がいてもおかしくはないかな」

「そうなのか、封印は無理でも生まれるとなると別ってことか」

「うん、そういうこと」



辺りも薄暗くなる頃。

ヒートは精霊と一緒に落ちてきた年期の入った手記を読み始める。

それにはかつて栄えた旧王国の記録、そして数千年前からの言い伝えが記されていた。


手記には様々な出来事が記され、最後にはとある者の想いが綴られていた。

今を生きる者たちが誰も知るよしがない失われた記憶が。



〝〟


〈精王歴250 年 王国資料 no.21 〈無と王〉 〉


……


精霊王は昔々は英雄と一緒に旅をしていたという言い伝えが王国の資料に残っている。

英雄の名はミヅキ‥‥‥魔術師であり〈無の精霊神〉と呼ばれていた。

本来ありえない、6大魔術の行使を可能とし、さらにオリジナル魔法〈無〉を使えた理由は契約したのが精霊王だったからと他の精霊神たちは口を揃え言った。

当時〈無の精霊神〉を討ち滅ぼせし者は、炎の精霊神を含め誰1人現れなかった。竜種の頂点の一角、〈雷鳥電王〉でさえ、消失を恐れ近づくことは生涯なかった。

だが、〈無の精霊神〉はある日を境に消え、代わりに二つの宝玉を世界に残している。


一つは、彼の契約精霊である精霊王。

一つは、彼の都市を丸ごと包み込む不可視の防御結界を。


かくして、彼は伝説となった。

誰もが不可能と信じた〈古の魔法〉を長きに渡り維持する力は神技に等しいことである。

だが、それも数百年、数千年経てば話は変わるだろう。伝説の精霊王でさえいつの間にかに人々に存在を忘れられ、永遠に影の底に沈むはずだ。今の私ですら伝承を探した結果見つかったのが、こんなちっぽけな情報なのだから。


だが私は思う。

精霊王は、また脚光を浴びることになるのかもしれないと。

無の精霊の主は消えた。そして精霊王ももはや誰とも契約を結ぶことはなく、〈精霊区〉で眠り続けるだろう。


だが、精霊王としてではなく、〈精霊球〉。

世界を消失させることさえ可能な魔力爆弾として復活することがあるかもしれないことを最近私は知った。

だから私は精霊たちと共に守り敵を滅する。

この世界を終わらないために。


……

水の都ローレライ 元首 〈水の精霊神 サァニ〉



それが書記に記されている全てであった。

それを読んだヒートは驚きすぎて今にも倒れそうだった。


現在の文明の遥か前、そこには今よりも遥かに高度な文明がいたであろうことは、噂されていた。

黄金の橋や大陸一つ消失させる雷光などが有名であり、それはヒートも聞いたことはあった。


「だが、まさか〈無の精霊〉についての情報があるとはな。これが本物の手記かは分からねえが……」

「無の精霊王……記憶……」

「どうしたルウ?」


手記を読んだ後、ルウは難しい顔をしていた。普段あまり見せることのないルウの姿にただ事ではないとヒートは思う。

もしもこれが本当の情報であれば、ルウの願いは簡単に叶うだろう。それくらいに無の精霊神の情報は希少価値がある。


「……精霊王なんて初めて知ったわ。これは凄い情報よね。でも、これは売らない方がいいと思う」

「どうしてだ? もしかして反乱軍の制裁を気にしているのか? それならレイアを頼れば安全だろう。それか、闇の精霊神にでも金を出して依頼するって手もあるぞ。それくらいの額は簡単に手に入るし、お前の願いだって叶うんだぞ」


ヒートは必死にルウを説得する。別に生活する上でお金には何一つ困っているわけではない。それくらいには最近は羽振りがいいのだ。

ただ、ルウの願いを叶えてあげたい一心であった。

勿論その事を知らないルウではない。

だが、それでもルウは首を横に振る。


「うん、ダメだね。これはダメ。隠す必要がある。ヒートが読み取った情報を酒場で喋るのはいいよ。それくらいならいいと思う。でも、この書記を売るわけには……反乱軍の手元に置くわけにはいかないよ」

「何がダメなんだ?」


ルウがここまで頑固な時はほとんどない。そのルウがここまで言うのだ。きっと何か理由が、それこそ無の精霊神以上にヤバい情報があるのかとヒートは困惑し、そして自分が恐れている事に気づいた。


「……これはね、古代文明の遺産だよ。そして、ヒートには見えない文字も書いてあった。〈精霊球〉について」

「精霊球? 確かに聞いたこともねえが、それはそんなにヤバいのか? 名前からすると球体に精霊が封印されてるとでもいうのか?」


精霊を球体に封印するなんてことはヒートは聞いたことが無かった。そもそも精霊は人とは異なる神に近い存在だと人々には考えられてきた。だから人々は己の肉体を器にすることで精霊の力の一部を借受ける形で使えるのだ。

それは精霊と契約を結んだものや、祠の精霊から力を借りる者なら誰もが知っている。


「精霊を完全な状態で封印なんて無理だよ。精霊が望んだとしても、それを叶えられる器はこの世には存在しない。人だって封印なんてしようものなら数分で身体が保たなくて爆発するか、燃え上がるだけだよ。おとぎ話の英雄みたいにね」


と、ヒートの気持ちを汲んだのかルウは言う。

それは、遥か昔から精霊が居るのにも関わらず今もなお契約を新しく結んだ精霊士が居ることからも明らかであるとヒートは思う。もしも封印できるのなら強力な精霊は封印してでも手元に残したいとどの国も思うはずだが、そんな噂はない。

それにおとぎ話〈アンドロメダと黒姫〉に登場する英雄も最後は己の命と引き換えに精霊の封を破り自らを依代とし世界を救ったとされている。


(もしも封印を出来るのであれば、古代文明が栄えたときに全ての精霊を封印して何らかの戦争兵器として使ってるって可能性も高えな……)


だが、そんな情報は国には何ひとつ残ってない。


「国が〈精霊球〉についての情報を全て揉み消した線も捨てきれねえが……吟遊詩人の言い伝えや英雄記に何もそんな話はねえな。流石に旅人を殺してまで隠すなんてアホらしい。精霊士なら逃げきれた奴も居たはずだろうしなあ」

「うん、だから封印ではないよ? それこそ思考の根本から全て違うよ。〈精霊球〉はね、精霊が封印された球体ではないの。〈精霊区〉が終わりを迎えた時に出来上がるのが〈精霊球〉なの」

「ッ⁉︎」


それを聞きヒートは2度目の驚きに見舞われた。


「精霊区って言えば……」

「うん、死んだ精霊たちが再臨するための湖の場所だよ。そして、精霊区が消失する代わりにできたのが〈精霊球〉。この書記にはその精霊区についての情報が書かれてるの。でも、それがわかるのは知能が高い精霊、そして古代国の文字を知っている昔から人と関わっていた精霊だけ」

「つまりはお前のような精霊のみが読めるということか」

「うん、だから反乱軍の精霊士には読めないと思う。でも、高等精霊士ならわかる精霊もいるかも。だから危険なんだ。〈精霊球〉の殻が破れたら辺り一面に魔力が一瞬で溢れて最悪、国ひとつ滅びるだろうね」


そこまで聞いてヒートは考える。

精霊区には、かつて栄えた大国ロンバルが敵国を後一歩まで追い詰めた理由とされている高密度の魔力の溜まり場があると言われている。もしもそこが明るみになったら精霊神や王国騎士団らが軍事に使う可能性が高いだろう。それに、精霊区が精霊球なる爆弾に至る可能性すらもあるというのならばこれは危険な情報である。


「戦争は今はまだダメだな。風はいるが、敵国の炎や闇が攻めてきたら抑える力は今の国にはない」

「うんそうだね。2人とも全然衰えないし、敵対したくないよね〜」

「ならば、これは燃やすか?」


と、書記を処分しようとヒートは考える。

これは今はまだ世界に広まっていいものでは無い。

ヒートが隠し持ち、いつか公表することも出来るが、おそらく精霊神たちがこの世から消えない限りは、強い者が〈精霊区〉の権利を争い続けるだろうとヒートは思った。


「うんそれが一番だね。お金はヒートが剣をいっぱい作ればいつか十分に溜まってるだろうし、うん」


ルウも賛成し、早速炎魔法を手に発動させたのかルウの両手が燃え上がる。


「燃やすよ、ファイアー」


そして手が書記に触れ燃える寸前。

突如目の前の光が消え暗闇に覆われ、


「よけてっ!!」


と、ヒートの身体をルウが覆った直後。

2人は爆炎に飲み込まれたのだった。



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