第47話 無の精霊
「全て使えるだと……」
ルシアが言った言葉を繰り返すと、二人とも表情が一変する。
「おいおい、嘘だろ。つまりは無の精霊神が実在していたってことで、バルは無の精霊神の候補ってことか⁉」
「全て使えるなら問題ない。私の魔法、全て教えてあげられる。最初は球体からかな、それとも槍かな……」
驚くギールに対して、リーナは冷静だ。
むしろ、何の魔法を教えるか考えだす始末だ。
『あれ、言っちゃダメだった』
ルシアはいまいち状況が理解できていないようだ。
それは俺もだが——
今まで、無系統だと打ち明けた際、ここまで驚かれることは無かった。
だけど、それは風の精霊神や炎の精霊神だ。彼らは既に無を知っていた。ならば、これが普通の反応なのかもしれない。
それにしても、無の精霊神の候補か。
確かにそうだ。むしろ、俺以外に無系統の精霊士が居なければ、自動で成るのかもしれない。
「おい、お前そんなこと言ってないよな。それならなんで炎銃を使っている。なんでも使えるなら、風とかの方が軌道修正し易いし、戦いに向いているぞ?」
「そうね、炎しか無いギールと違って優秀みたいね」
またもやリーナさんが師匠をからかう。それに対して、炎の有効性を説明しだす師匠。
爆発力が凄いのは分かったけど、それは師匠しか使えないような……
「うん? どうしたのだ?」
マレイアがお菓子をもってこちらに駆け寄ってくる。
興味津々といった感じか。
「いや、ルシアは無の精霊だから、俺は6系統使えるって話だよ」
「うん?知っているのだ?」
「えっ、いつから?」
「雷鳥電王の雷撃から逃げるときに、地面に沈んでいったのだ……あれは、土魔術。それに空を飛んだのが風魔術、雷撃を受け流すときに水も扱っていたのだ。複数見ているのだ」
言われてみれば確かに。
雷鳥電王から逃げる為に、土、風、水を使っている。
普通、複数の精霊を扱えう者は少ない。少なくとも、3つは人外か。
であれば、古より伝わる無の精霊の方が現実味があるか。
「それに、ルシアから聞いているのだ。なんたって、私とルシアはお友達だから」
『そうですよ。マレイアが何てことないように受け入れてくれたので、いいのかなって』
ルシアが打ち明けたのはそういう理由か。まあ、別に隠し通すつもりなんて無かったから別にいいけど。無系統ってバレる度にこうやって驚かれるは面倒だな——
「なるほどな。流石、天才である俺の弟子だな。うんうん、そうだな」
何がそうなのだろう。
師匠は、説明が少ない。自己完結してしまう。
「そうね。面白い子だとは思っていましたが、想像以上です。これは、ぜひ王国騎士団に入って頂きますか」
「それいいな。弟子が居れば、結構楽になる事が多いからな。それに、まだ子供のバルが数年後、どうなっているか楽しみだ」
何やら勝手に王国騎士団に入ることになっている。
いやいや、俺はルシアの仲間を助けに行く必要があるのだ。勿論、鍛える必要はあるが。
学院を卒業後、王国兵ルートだけは勘弁してほしい。
「あ、逃げたのだ」
マレイアの声に二人が振り向くも、俺は既に通路へと飛び出している。
そして、光学迷彩マントを被りしゃがみ込む。
数秒後、二人が飛び出しアイコンタクトで左右に走っていく。
勿論、マントで隠れた俺に気が付く様子はない。
「ははは、王国兵か。安定はしているんだろうな。けど、それはルシアの願いを踏みにじる。それだけはダメだ」
『ありがとう。私の為に無理させてごめんなさい』
少し顔を上げるとルシアとマレイアがこちらを覗き込んでいる。
マレイアは疑わし気にこちらを見ている。ルシアは確信している眼だ。
「ルシアは悪くないよ。むしろ、弱い俺と契約したんだ。それくらい喜んで聞き入れるさ」
「うわっ、いきなり現れたのだ」
マントを掴み二人の前へと現れる。
マレイアはマントの中に隠れたはずだが、外から見たのは初めてか。
「マレイア、友達としてお願いしたいことがある」
「うん、いいのだ」
「何も言ってないんだが……」
「命の恩人であるバルの頼みなら断れないのだ。それに無茶なお願いをしないことも分かるのだ。だったら、私の全てを掛けて、聞き入れるのだ」
仲間だと思っていたのは俺だけじゃなかったってことか。
「なに、そんな難しい話じゃない。俺とルシアは原石である無の精霊を探さなくちゃいけない。だから、王国兵になって国に縛られるのは避けたい」
『マレイアの助けにはなりたい。だけど、一人だから私。我儘だと思っています。生きているか分からない同胞を探すなんて、おかしいですよね』
俺とルシアの話を聞いても、マレイアはきょとんとする。
こいつら何を言っているのだ、とでも言いそうだ。
「二人とも何を言っているのだ?」
「ははは」
想像通りの返答に思わず笑ってしまう。
だが、マレイアの眼は真剣だ。
「バルもルシアも仲間なのだ。仲間だから、王国兵にはならないのだ」
自信満々にそう答える。
王国兵にはならないと王女であるマレイアが言った。
であれば、師匠たちはどうにもできない。
「それに、学院を卒業したら、私も二人と一緒に旅をするのだ」
と、何やら雲行きが怪しくなっていく。
なんで、このタイミングで戻ってくる⁉
「姫様、それはどういうことですか? 王国兵を抜けるということですか?」
「流石にそれは無理ですよ。ギールはともかく、私が許しません」
と、鬼の形相でマレイアを止める二人が現れる。
なんだか、さっきよりも面倒なことになりそうだ。




