第46話 犠牲と清算
二年半お待たせ致しました。
これからもよろしくお願いします
「見えてきたのだ、あれが王都なのだ」
マレイアの声が部屋に響く。その姿はどこか無理をしているように思えた。
ルシアも心配しているのか、俺の裾を引っ張り見つめている。
……小型飛行艇が飛んで一週間。巨大な森を抜けて海を渡り、小さな集落を抜けた頃、
俺たちはマレイアに引っ張られ、デッキへと来ていた。
冷たい風を感じることができ、気分は上々だ。
だが、マレイアの眼は虚ろだ。
『マレイア、無理しないでね』
「そ、そんなことないのだ。私は元気、元気なのだ」
思わずルシアが声をかけるも、作り笑顔を返す。
窮地の状況から何とか逃げ出せたが、部下を失った傷は癒えてないみたいだ。
——前に鬼に乗客が殺されたとき、俺は自分のことを憎んだ。関わったことのない人なのに。もし、あれがヒートだったら俺は立ち直ることができただろうか……
いや、無理だろうな。
あの時もルシアが俺を元気づけてくれた。ルシアが居たから今がある。
だったら、マレイアは……騎士の二人は何をしているのだろうか。
思わず、師匠とリーナさんを気に掛ける。
「ははは、ギールにも言われたのだ。お嬢様の責任ではないって、頭では分かっているのだ」
マレイアがポツリと零す。
それは、分かり切っていない表情だ。全ての責任を負う覚悟をしている眼だ。
師匠たちも、救いたいとは思っていたようだ。だけど、騎士である二人からマレイアに何か言っても、たぶん意味がない。
下手をすれば、二人だって死んでいたのかもしれないから——
「俺もさ、自分の力が未熟で助けられなかったことがあるんだ」
俺の言葉にマレイアが顔を上げる。今にも泣きそうな顔が見える。
両手をきつく握りしめ、陽気な姿は無い。
きっと、隠し通すつもりだったのだろう。
だけど、俺には通用しない。
だって、俺とマレイアは——
「だから、マレイアの気持ちが分かる。大事な人たちを失って、何をどうすれば良かったか悩んで自分を責め立ててしまうのもさ」
「……バルも誰かを失ったの?」
「ああ、飛行艇で移動中、テロにあってさ俺以外の乗客が殺された。俺はその時、助けることができなかった。目の前で死んでいく光景が今でも忘れられない」
『っ——』
ルシアが何か言いそうだが目で制す。
「それは悪くないのだ。私は、私が下した命令で、死に追いやったのだ」
「結果としてだ。部下の人たちは、マレイアのことを嫌っていた?」
「ううん。みんな、私に生きれって、貴方が生きるのが嬉しいって言って、くれたのだ」
そう。部下たちが憎んだのはマレイアではない。
たぶん、マレイアが今抱えているように、彼らも主を救えない自分を責め立てたのだろう。
だから、マレイアは生きている。生きることができた。
「マレイアは生きなくちゃいけない。それも、ハッピーエンドで終わるような未来で」
「わ、私には似合わないのだ。不幸であるのが良いのだ……」
『マレイア、それは違います。リーナとギールを見ていたから分かります。誰も、そんなことは望んでいません』
ルシアが静寂を破り、マレイアへと抱き着く。
それを振り払うことはせず、マレイアは俯く。きっと、心の奥底ではこのままじゃあダメだと理解しているのだ。
だけど、一人で前に進むことができない——怖いのだ
『大丈夫です。バルと違って、マレイアには私やバル、リーナ、ギールがいます。それに妹だって——みんな、マレイアの幸せを望んでいます』
唐突に、悪口を言われたが今は黙っておく。
いや、俺だって心配してくれる人はい、いるし!
「ありがとう。ルシア、それにバルも」
俺はおまけかよ。
だけど、良かった。先ほどまでの表情とは変わり、今は前を向いている。
扉の外で聞き耳を立てていた二人も安堵したのか、息を吐いている。
「それでだ、マレイア。俺たちは風神の学園に通おうと思っているんだが、よければマレイアも来ないか?」
「え、私も」
「ああ、確かマレイアも学園に通うだろ? ならさ、俺たちと同じ学園に行かないか?」
少し悩む素振りを見せる。
もしこれで断られたらどうしよう、なんか恥ずかしいな。
だが、そんなの杞憂だったようで——
「うん、そうするのだ。二人と一緒なら、楽しい学園生活になりそうなのだ」
「お嬢様、お菓子をお持ちしました」
マレイアが頷く。すると、ちょうどリーナがお菓子を持ってきた。
きっと、タイミングを伺っていたのだろう。
紅茶が冷めている。だがマレイアはお菓子を頬張りそれどころじゃないみたいだ。
「——ありがとう、貴方のお陰でお嬢様は自分を取り戻すことができたみたい」
「ああ、昔みたいだ。最近は無表情でいることが多かったからな」
と、二人が俺へと声をかける。
マレイアはルシアと話している為、聞こえてないみたいだ。
それに、そよ風が吹いている。どうしても、聞いてほしくない話みたいだ。
「いえ、短い期間ですが仲間になれたと思っています。仲間の為に、何かするのは当然でしょう? それよりも風神の学院に通うことになりましたが、いいですかね」
「ああ、そうだな。学院の話は寝耳に水だが、大丈夫だ」
「ですね、私たちが護衛しているのです。どこでもいいのです」
二人の許可も取れたことだし、よかった。
マレイアと一緒に居るとルシアが嬉しそうだからな。
それに、俺自身もルシアと同じくらい信頼できている。
この縁は貴重だ。
「それで、学院にはどれくらい通うつもりだ?」
「そうですね、少なくとも一年は予定しています」
「そうか、なら銃術の基礎をマスターできるレベルには持っていけるな」
「えっ、良いんですか? てっきり、飛行艇の間だけだと思っていました」
「三宝のヒート様が認めたんだ。恩を売っておくのは悪くないだろ?」
にやけた表情でからかわれる。きっと本心ではないだろう。
それにしても、ギールの教えを受けられるのは嬉しい。今の所、基礎の基礎だ。
騎士から直接指導してもらえるなんて、幸運だろう。
「私も、何か教えてあげましょうか?」
リーナが会話に入ってくる。
確か、水系統魔法が得意だったか。俺は無属性だからぜひお願いしたい所だが……
「おいおい、こいつは炎の精霊使いだ。お前に教えられることなんてないだろ」
「制御の仕方なら教えられるわよ」
「いや、それも俺が教えるから大丈夫だ。なんたって、俺の弟子だからな」
弟子を強調するギール。
それに対して、リーナも負けず劣らず俺に教えてくれるという。
話がまとまらなさそうだから、ここは逃げるか——
『私、無の精霊だから水も使えるよ』
いつの間にかにルシアが俺の横に立っていた。そして、二人に告げてしまう。
俺が、6属性全てを使える無属性だと。




