第44話 師匠と弟子
次の日、俺は椅子の上で眼を覚ました。
どうやらいつの間にかに寝ていたようだ。隣にはルシアが座り、前を見るとマレイアがぐぅーと眠っている。
「おはようルシア、それで二人は?」
と、眠る必要が無いルシアに訪ねる。
因みに昨日の夜とは異なるお菓子を食べていた。
見た感じパンケーキのような感じだ。
『二人なら、魔力補充の最中ですよ。夕方には出発できるそうですよ』
と、返される。
小型飛行艇。
今まさに乗っているが、これを動かすには相当な魔力が必要なそうだ。
飛行艇の中央にはエネルギー源である魔水晶が組み込まれており、それに魔力を保存することで、いとも簡単に空を飛べるとのこと。
それこそ、前に乗った飛行艇よりも高性能かな。
あれは、風使いの力によって空を飛んでいたから。
「――ぅうん、おはよう……なのだ」
と、マレイアが手で眼をこすりながら挨拶をしてくる。
まるで小動物のように見え、少し微笑ましくにやけそうだ。
「ううん? それは、何を食べているのだ。私も欲しいのだ!」
そして、早速ルシアの手元を見るなり、いきなりフルテンションになった。
やはりルシア同様食い意地が凄い……!
これは、獰猛な獣……?
「欲しいのだ!」
『はい、いいですよ。どうぞ』
と、お皿ごとマレイアに渡すルシア。
それに驚くマレイアと俺。
「いいのだ? 全部食べても……?」
『はい、私は二皿目ですから!』
と、意気揚々と自信気に答えるルシア。
どうやら、俺の契約精霊はとんだ大食い精霊らしかった。
◆
「おはようございます。マレイア姫、それに二人も。調子はどうだい?」
と、魔力の補充を終えたのか、ギールとリーナが戻ってきた。二人とも、少し顔色が優れないように感じる。これは魔力枯渇の影響によるものかもしれない。
それでも、倒れないし流石は王国騎士とでもいうべきか。
「二人こそ、大丈夫なのだ?」
と、二人の主君のマレイアが心配そうに尋ねる。もちろん、手にはお菓子を握りしめている。それでも、一つずつ二人に渡すマレイア。
若干、悲しそうな表情を浮かべてはいたがそれでも部下を気遣った。
「ええ、魔力が低下して少し疲れましたが、それでも昼頃には回復するかと」
「俺も少し休めば大丈夫かな。それよりも、お菓子のおかわりを持ってきますか?」
「頼むのだ!」
ギールが言いマレイアが大きく頷く。それにリーナは軽く苦笑し、それでも紅茶の準備をしにキッチンへ向かうも振り向き、
「ルシア、すみませんが準備を手伝ってくれませんか?」
と、椅子に座るルシアへと投げかける。
流石に5人分の紅茶を一人では大変だったか。それならば、男の俺が行く方がいいのか……?
『あ、バルは休んでください。私が行きますよ……?』
「ああ、頼んだ」
『いえいえ、私の紅茶を飲むのはバルの役目ですから』
えっへん、と無い胸を張り、笑いつつキッチンへと向かうルシア。
「そういえば、マレイアの契約精霊はどんな感じなの? ルシアみたいに少女? それとも大人?」
「うん? 残念ながら、まだ具現化できるほどの力はないのだ。だから光の球体なのだ。バルは、通常の精霊を見たことはないのだ?」
言われてみれば、ルシア以外の精霊っていえばバールくらいにしか会ってないな。それよりも、これだけ色々な人に出会っているのに、精霊自体を見た気がしない。
光る球体ですら、見たのは神獣が殺した祠の精霊だけだ。
「精霊は身近なものじゃないのか、いや……でも精霊使いには会っているし……」
今まで気にも留めていなかったが、この世界の精霊使いは国ごとに偏っているのかもしれない。それならば、未だ精霊をあまり見ないのも納得がいく。それに確か以前訪れた町でバイトをしたときに、この町の精霊使いは極端に少ないとか言っていたな……。
ということは――
「お待たせしました。紅茶をどうぞ」
『バルのは私オリジナル紅茶ですよ、美味しいです、早く飲んでください!』
と、二人が紅茶を持ってきてテーブルへと置き、そして新たなお菓子もギールによって運ばれてくる。
「それじゃあ、お菓子パーティなのだ!!」
「「おーー!」」
とりあえず、今は食べとくか。
◆
「ふう、口の中が甘ったるい……」
一足早くダウンした俺を横目に女子三人は未だにパクパク食べ続けていた。どこに入るのかと思ってしまうほどの食いっぷりだ。それにリーナさんも負けずと飲みこむ。
「ははっ、どうにも甘いものは苦手なようだ」
と、同じくダウンしたギールが隣の席へ腰かけ。
腰に差していた拳銃を取り出した・
拳銃には赤い宝石が組み込まれ、全体を黒い質感が覆っていた。ヒートから貰った拳銃もそうとうな高級品だが、これはそれ以上に見える。
「ああ、これかい? これは竜魔石が組み込まれたこの世に一つだけのオリジナル拳銃さ。かの三宝の一人、ガナルスの作品だ。君はガナルスを知っているかい?」
「いえ、知らないです」
「そうか、ならば教えてあげよう! ガナルスは拳銃の作り手の中でも天才の天才さ。そして、これこそが、彼の作る拳銃の中でも特に高価なオリジナル炎燃銃。紅蓮の刃さ」
と、早口でまくしたて熱烈に語るギール。
「かっこいいですね。でも俺の銃も負けていませんよ。どうです、これもいいでしょ?」
と、俺もヒートから貰った拳銃を取り出し、ギールに見せびらかす。これも10万アルスは下らない逸品だ。少しは驚いてくれるかもしれない。
「うぬぬ、それはまさか……」
自慢げだったギールの表情が少し驚愕へと変わり黙ってしまった。
予想以上だ。もっと、俺の拳銃には敵わないとか言うかと思ったが……。
「大丈夫ですか……?」
「―-―ああ、だけどもそれはどこで、買ったんだ。それはガナルスの作品じゃないか! 俺だって買うのに凄く苦労してようやく部隊長に上り詰めてようやく一流の使い手として認められたのに! 君は、バルはどこでそれを!?」
「どこでって、武器職人のヒートさんから貰いました」
「ヒート……? それはあの三宝のヒートか。確かにヒートさんならばガナルスと交流があるし、持っていてもおかしくはないが……」
「まあ、色々とありまして。死の境地に二人ともなったときに貰ったんです。そのときにルシアと契約して……」
「なるほどな。詳細はおいおいとして、それで君はその銃をどれくらい使える? 弾丸強化は、曲げることは? 精霊の力を宿すことは? 君は、どこまで――ぐぁあ」
「少しは落ち着いた?」
「リーナ、痛いよ。いきなり酷いなあ」
「困っているじゃない。それに腕を強く掴みすぎよ。折れてしまうわ。それに質問攻めなんてギールらしくしないわ。確かに聞きたいのはわかるけど、時間はあるのよ」
ため息をつき、手を頭からどけて俺に頭を下げるリーナ。
「すみません。ギールは昔から熱中したら周りのことを考えられなくなってしまうのよ」
「ああ、すまない。つい」
「気をつけるのだ。それがなければギールはもっと良くなるのだ」
「はい、姫様。善処します」
と、マレイアとリーナに叩かれるギール。
「すまない、お礼と言っては何だが、何か聞きたいことややってほしいことはあるかな?」
とギールが訪ねてくる。
正直、精霊使いのことやギールが口走った部隊長にも興味はあるが。
だが、俺には力が、何物にも負けない強さが必要だ。だから、
「それなら、拳銃の使い方を教えてください!」
「ああ、承った。君は今日から僕の弟子だ」
俺はその日、ひょんなことからギールの弟子となったのだった。




