第36話 黒龍討伐
「まずは、炎の魔法で黒龍に撃つのじゃ。それに我が風魔法を付与させる」
風神がそう言うと手から高圧の風が吹き荒れた。
それは塊となり、そして黒龍へと向かっていく。
途中大気を巻き込み巨大化し。
「うわあっ、すげえ、まるでハリケーンみたいだ」
「うむ、これで少しは足止めになるであろう。それに、風は炎に力を与える……いまじゃ、黒竜へと炎魔法を放て!」
「はい」
俺の右手からみなぎった炎が吹き荒れる。
まるで、手のひらが燃え上がるかのように。
そして、それを黒龍へと向けて放った。
「いけぇええええっ!」
俺の声に呼応するかのように炎は一直線に飛んでいく。
炎は風圧でその形を自由自在に変幻させ。
最後は小さな灯ほどになる。
カッコよく言ったものの。
ただ単に魔力不足、距離が遠いためだ。
最初は巨大な火の玉も黒龍の手前付近になると、ビー玉ほどになってしまった。
それこそ、夜空に光る星ほどの明るさしかない。
「くそっ! これじゃあ――」
「ふぬ、まだじゃ、我の魔法を侮るな、若造よ、風爆」
「えっ?」
風神が右手を黒龍へと伸ばし、そして力強く握りしめた。
すると、直後大爆発が起こった。
「えっ、え? どういうことですか!」
「ふぬ、これが付与魔法。名付けて、爆風陣とでも言うかのう、風を高密度で収縮させて炎で解き放つのじゃ」
『これで、少しは鱗にも傷が付いたのさ』
試しに見てみると、確かに爆発を受けた部分の鱗が削れて、血が出てさらに肉がむき出しになっていた。
そして苦しそうに黒龍が唸っていた。
「あの、これって複合魔法は炎と風だけでいいのでは?」
「ふぬ、黒龍の鱗は少々特殊で、今弾けたのは炎、風魔法の相性がいいだけなのだ。だから他の部位は傷一つ負わないのじゃ」
『だから他の部位も壊すために6種の魔法が必要という訳さ。でもカリアは風しか使えないからさ、バルの助けが必要という訳なのさ』
「なるほど……」
ということはだ。
炎と風。
水と土。
闇と光。
これでいいのだろうか?
でも、光と闇って相反するような……。
それに複合魔法って、よくわからない。
「あの、複合魔術って、全ての性質を組み合わせることも出来るんでしょうか?」
「ふぬ、出来ることは出来るはずじゃぞ、初代は出来たのだからな。だが、今の君には無理であろう。だから、2つ、3つ組み合わせた魔法を使うのじゃ」
なるほどな。
確かに、全ては難しくても2つ、3つなら出来るかもしれない。
それこそ、ルシアの手助けなしでも。
『じゃあ、はやく憑依しないと。バルって憑依されるのが嫌みたいで前回も時間がかかりましたし』
あの意識があるのに体が動かないというのは、普通の人間には相当堪えものだ。
それに加えて。
まるで金縛りみたいに、それも動かないのではなくて、勝手に体が動くのだ。
それはいくら感覚が無いからと言っても、慣れそうにない。
「いや、少し待ってくれないか? 俺一人でやってみたい……」
『え、でも、無理だと思いますよ……?』
「いや、やってもないのに言わないでくれよ……炎と風を、組み合わせ――はぁああああ」
……。
右手からは炎、左手からは風。
それらを組み合わせる。
ようは、手を重ねて複合させればいいんだろ!
「はぁあああああああああっ!」
『――だから、言ったではありませか、無理だと思いますよって』
両手を重ねた途端に魔法は消えた。
それこそ、一瞬のうちに、面影もない。
「……――ルシア、頼む……」
『はい、では、えい』
体の一部が固まる。
それは徐々に広がり、そして。
とうとう意識だけが残った。
「ふぬ、これは……バールよ、少し手助けしなさい」
『了解です、ルシア、少しばかり失礼』
バールの手がルシアの肩に触れる。
するとバールの手から薄らと輝く魔力が流れ込む。
『ひゃぁ、な、なに? 何をしているん、ですか?』
前身をくねくねしながらルシアは訪ねた。
それはあれか?
新手の体操なのか?
って、そんなわけはないか。
『ああ、少しばかり手助けさ、おっと、これか、少しばかり魔力経路を変更するよ?!』
『ふにゃっ、ひゅう』
「案ずるな」
「で、でも。いったい何をしているんですか?」
「ふぬ、ただ魔力経路を壊し、新しい道を切り開くだけじゃ」
「?」
ルシアの奇声が止み。
その場にルシアは膝を付き。
そして俺にもたれ掛ってきた。
「おっと、おい、大丈夫か?」
『はい……少しばかり、くすぐったいですが――あ、これって』
「どうした?」
何がどうなってこうなっているのか誰でもいい。
俺に説明をして欲しいのだが。
誰も教えてくれない。
「ルシア、どういうことだ?」
『まずは、これは、何と言えばいいか……』
「ふぬ、つまりは、体を乗っ取る魔法式を使っていたから、それを変えただけじゃよ。これで、体が己の意志で動き、それに精霊の手助けも使えるはずなのだが――」
つまりは、あの硬直状態にならなくても良くなったってことなのか?
だからルシアの姿が消えてないのか。
まあ、それは助かるが、それでちゃんと複合魔術を扱えるのだろうか?
それって、憑依されないよりも難易度がかなり上なような……。
「では、とりあえず、やってみます。まずは――」
とりあえず、物は試しだ。
右手に光、左手は闇の魔力を纏う。
そして、それらを合わせてビームのように――放つ!
「はあああったああ」
適当に掛け声をかけ、魔力を組み合わせる。
先ほどは急に消えてしまったのだが、今度はなんか別の力が魔力を動かしているような気がする。
おそらくは、ルシアが制御してくれたのだろう。
そして、とうとう魔力が組み合わさる。
まるで、螺旋みたいに二つの魔力が回転している。
そして、それは黒龍へと向かい。
[ガァウアアアアアアアアアアッ!]
黒龍の鱗へとぶつかった。
すると先ほどは傷がつかなかった箇所がひび割れていく。
そして、鱗がはぎ取られて肉が見えた。
「ふぬ、やはり魔力活路が変だったか。これで、憑依されずとも精霊の手助けを受けることができるはずじゃ」
『ま、僕に感謝するんだね』
『ありがとう、バール様』
「ほんと、助かりました」
これで気持ち悪くならずにすむ。
なんだか、思った以上に嬉しい。
「ふぬ、気を抜くな。黒龍はまだ倒れぬ。あと、水、土、この二つをぶつけるのじゃ」
「はい」
黒龍。
最強の一角。
俺なんかが太刀打ちできるはずが無いと思っていた。
だけど、今のところ、なんとかなっている。
「これで、終わりだ――」
土と水魔力を合成。
それらをビームにして、放つ!
「いけえええええっ」
「グアアアアアアンツ!」
ビームによって黒龍の絶対防御の鱗が壊れていく。
そして、とうとうむき出しになった。
だが、それでも黒龍は倒れない。
それどころか、少しずつだが、最初に撃った場所の傷が治ってきている。
凄い回復力だ。
「ふぬ、後は我に任せよ――風切」
風神が言うと、突風が辺りに吹き荒れた。
そして、それは黒龍へと向かい。
黒龍の体にすごい勢いで傷がついていく。
「ふぬ、もうひと押し――風砲」
今度は、風神が両手を組み、そして、振り下ろす。
すると、黒龍が突如倒れた。
それに、背中にデカい傷が広がり、血しぶきが飛び出した。
「ふぬ、これで、終わりじゃの……」
「やったのか……」
その日、俺たちは黒龍を倒したのだった。




