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神獣殺しの精霊使い  作者: 氷帝花心(門屋定規)
1章 無の精霊と少年
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第25話 ケーキ・バイト

 まさかの想定外で大会に敗れた次の日。

 俺とルシアは、町のケーキ屋さんに来ていた。別にどちらかが誕生日という訳でも何かの記念日というわけでも無い。

 ただ、ルシアがケーキを食べたいと言うから来ただけだ。


 ケーキ屋さんは、個人経営であるため小ぢんまりしているが、その割には様々な種類のケーキがショーケースに並んでいた。

 イチゴショートケーキやチョコケーキなどの普通のものばかりではあるが、全てがとてもおいしそうで、隣のルシアも先ほどから目が輝きながら次々と注文をしていく。


 そしていつしか、俺の目の前には、豪華なケーキの山で溢れていて、総金額がとんでもないこととなっているような気がする。

 いや、絶対にそうだ、そうだとしか、考えられない。


「……ルシア、そろそろ勘弁してはいただけませんかね?」

「……もう少しだけ……食べる」

「そうですか……はあっ」


 ルシアと約束してしまった、なんでも願い事を叶えるという約束の代償を、次の日にしっかりと払わされていた。

 てっきり、もっと違う形かと思っていたけど。

 まあ、ルシアも喜んでくれたみたいだしいいか。


 だけど、ルシアが食べるほど、俺の財布が空となる。

 5万円くらいはあったはずだが、この調子だと、全て使い切ってしまいそうだ。


 折角、昨日、宝くじで、偶然にも商品券を手に入れたのに、それもすぐに手元から消えてしまいそうだ。

 だけど、まあ。

 現金は一円たりとも減っては無いからその点ではいいか。

 むしろ、ルシアがその辺も考えてくれたのかもしれない。


「ゆるす!」


 と、全てのケーキ類を食べきったのか、皿を空にして、ルシアは笑顔で俺に言ってきた。


「ありがと。それで、これからどうする?」

『この国に居る必要はもう無いと思いますが、もう少し情報収集してから出発したほうがいいかもしれません』


 もう少し滞在か。俺的にはもう、次の町を目指して、最終的には王国にたどり着いて神獣をお金と交換してもらいたいんだけどな。

 でも、ルシアの言うことも一理あるし、ここはもう少し滞在することにするか。

 でも、そうとなると、お金を稼がないとダメだ。それこそアルバイトか何かしないと、でも、確かバイトは全て断られちゃったんだよな。

 ほんと、どうするべきか。


『そういえば、バイトなら、先ほど張り紙を見つけましたよ? 確か、年齢、学歴不問。必要な物は炎の精霊と契約している人っていうのが』

「なんだか、それはとても魅力的なうたい文句だね。明らかに怪しいよ、それ……でも、これ以外には見つからないし仕方が無いか。早速面接に行ってみよう」

『はい、そうしましょう』


 会計を済ませ、ルシアが見つけた張り紙に書いてあった場所に着くと。

 どうやら、何か食べ物を加工して作る工場みたいで。なんだか、とても美味そうな匂いがプンプンする。

 もしかして、キャラメルかな?



「あれ? もしかして、君たち張り紙を見て来てくれたのかな? いやそんなわけないか。君たちみたいな子供がね……」


 と、工場の入り口付近に貼っているアルバイト情報を見ていると、いつの間にかに俺たちの目の前に30代位の男性がいた。

 男性の手元には金属で出来たボールがあり、凄い勢いでかき混ぜている。


「いえ? まさかの通りです。僕は炎の精霊使いです。だから、あの張り紙を見てバイトをしたいと思ってきました」

「え? ほんとに? それはありがたいよ。それで、そちらの御嬢さんは?」

「ああ、こっちはルシア。僕の契約精霊ですよ」

「これが契約精霊? ほんとのほんとに? これは美人さんだねえ」

『バルをよろしくお願いします』

「はいよ! じゃあ、早速だけど仕事をしてもらってもいいかな?」

「はい、大丈夫です。それで、どのような仕事をすればいいのでしょうか?」

「ああ、君たちには、我が工場の、火元管理をしてもらいたいんだ。そこに、おおきな金属製の鍋があるだろ?」

「はい」

『なんだか、とても美味しそうな匂いがしているね!』

「ありがとうね……その中には、今度新商品として発売する予定の、菓子があるんだ。本当は、一日中煮込みたいのに、こんな日に限って火登板の人が休んでしまって」

「ああ、なるほど。だから、アルバイト募集をしていたんですか」

「うん。それで、君は本当に火を使えるだよね?」

「はい」

「なら、今すぐ仕事をしてもらおうかな……報奨金は、250ラルスでどうだろう?」


 250ラルス?

 確か、ヒートが言っていた値段は、アルスだよな?

 それに宿泊しているホテルもアルス表記だったはずだ。ということは、どこか別の国のお金表記なのか?

 250アルスなら、日本円で1万円くらいか。ということは、1アルス=1ラルスでいいのかな。


「あの、ラルスってアルス表記だとどれくらいなのでしょうか?」

「あれ、君たちもしかして他国から来たのかい?」

「はい」

『そうですよー』

「なるほどねえ、だったら知らないか……ラルスは、この国の限定通貨なんだ……1ラルス=10アルスだから、2500アルスでお願いできないかな?」


 2500アルス……確か、日本円で言うと40×2500は10万円くらいか。

 アルバイトとしては、破格の値段だ。日本でこれだけの高収入を手に入れるとなると、表の仕事では無理だろう。それこそ裏の仕事でないと。


「一つ聞いてもよろしいですか?」

「いいよ、何かな?」

「どうして、そんなに報奨金が高いんですか? 一日2500アルスということですよね?」

「うん、そうだよ?」

「だったら、なんでそんなに高いんですか?」

「あれ? 君知らないの?」

「どういうことですか?」

「他国はどうか知らないけど、この国は精霊使いが極端に少なくてね、だから少しでも精霊使いを他国に流出させないようにするために、精霊使いの費用は一般人の10倍にするという法律があるんだよ」

『へえー、すごいね! ということは、ここで、10日働けば、他国で働いた場合の100日分を貰えるんだ!』


 ああ、そうなるか。ルシアが言うまで気が付かなかった。

 

「うん、そうなるね。でも、君たちを雇おうとする人はほとんどいないと思うから、目的があるのなら、早く出発したほうがいいと思うよ」

「それは、僕たちを雇おうとすると、どんなに簡単な仕事でも精霊規格の値段の賃金を払わないといけないからということですか?」

「そういうこと、僕は偶然にも火登板の彼が風邪で休んでしまったから、君たちに頼んでいるけど、他の仕事、能力を必要としないのは全部断れるだろうね」


 だから、どこに行っても雇ってくれなかったのか。でもそうなら、最初から言ってくれればよかったのに。

 そうしたら、ここまで悩むことも無かったのにな。

 

「では、仕事を頼むよ」

「わかりました」


 それから、3日間。

 僕は、ひたすら火の管理と、鍋の中身を混ざす仕事をつづけた。

 そして。


「はいよ、これが3日分の給料ね」

「ありがとうございます」

「いやいや、こちらもずいぶんと助かったよ。あと、これはキャーメル。渾身の新菓子さ」

「すみません」

「いいよ」


 そして、僕らはこの国から旅立った。

 目的地は、ラルトルス国。



『すごく甘くて美味しいね、これ!』

「そうだね」


 貰ったキャーメルは、日本の生キャラメルそのものだった。

 だが、この世界のほうが柔らかく、美味しい。

 もしかした、魔法がかかっているのかもしれない。


「それで、次はどうする?」

『そうですねえ、まあ、この道を進めば、いつか別の王国に属する町に着くと思いますし、適当に歩き続けばいいと思います』

「そうだね」



 

 と、僕らは歩き続ける。

 その時の僕らは、まだ王が死んだことや、ラルトルス国が別の何かに変わったことなど知っている訳もなく。

 いま思っても、のん気に旅をしていた。

 これから、起きることなど露知らず。


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