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神獣殺しの精霊使い  作者: 氷帝花心(門屋定規)
1章 無の精霊と少年
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プロローグ 始まりの日 

「ここは……どこだ?」


 映画館で映画を見ていた筈なのに気が付くとそこは所謂ファンタジーの世界だった。

 眼前には広大な森が広がっており、空を見上げると見たこともない巨大な生物が自由気ままに飛んで行った。


「いったい、なにがおきたんだ……?」


  

 なぜ、このようなことになったのだろうか、俺はいったい何をした?

 たしか、俺は…………。


 

 

 ――――

 ―――

 ―



 以前から熱中していたゲームが映画化されると聞いたのはいつ頃だっただろう。今から一年前、いやそれよりも前だったかもしれない。

 エレメント・ワールド。そのゲームは虐められて憔悴しきっていた俺の心を満たすには十分な神ゲーだった。

 必要なものはPCとやる気だけという、今どき珍しくもない無料システム型ゲームだ。最初は限定アイテム等を確立の分からないガチャで買わせることで収入を得る、今どきの普通のゲームだと思っていた。

 だが、不思議なことにエレメント・ワールド、通称EWは課金要素や広告がなく、時間を掛ければ掛けるだけ強くなれるという無料システム型ゲームだった。


 普通の人にはつまらないゲームだったのかもしれない。

 なんせ、時間を掛けるよりも課金して、他の人よりも優位に進めると言ったことが出来ないのだから。

 だが俺にとっては魅力的なゲームだった。

 

 …なぜなら金は無いが時間はあったからだ。

 

 今から10年前くらいに苛められて不登校になり、ニートと化した俺には普通の人の何倍もの時間があったのだ。

 だからだろう、俺はEWに夢中になっていた。

 不思議なことにこのゲームは、公式イベントは無くプレイヤー自らが、山に行って遺跡を発掘したり、龍の巣と呼ばれる竜が住まう山の財宝を探したりというようなゲームだった。


 だれかが、先に財宝を取ったり敵を倒したら、もう2度と手に入れることが不可能という謎のルールのゲームなのもあり、後発組はやる気が落ち、始発組も先に取られたことでクソゲーと罵り。発表されてから1年後には10分の1が引退してしまうなどゲームとして過疎化に向かっていた。


 当時はこのままゲームとして終わってしまうのではないかと焦り、少しでもプレイヤーを増やそうとネットを活用して躍起になったものだ。

 それでも、いくら過疎化しようとも誰も困らないのがこのゲームの特徴でもあった。

 それは、運営が作り出すCMと呼ばれる仮想人が住んでいたからだ。

 CMは毎日、現実世界の俺と同じように生活をしており、時には町を歩いたり、冒険をし、挙句の果てには話しかけてくることもあり、人が操作するキャラと変わらなくなっていた。


 正直な話、当初は不気味だったものだ、人が動かしていないのに勝手に考え動いて行動する。当時のゲーム技術では不可能とまで言われ、CMは運営が雇った人が操作するキャラなのではないかとまで言われたが、それもCMが1万人が超える時には誰もがそういうものなのだと割り切っていた。

 また、誰が作ったのかは不明なゲームで安全性の信頼に欠けていたが、他のゲームとは世界規模が違く当時では考えれないほどの技術力のゲームだったことや、ゲーム内の世界の広さが現実世界と同等以上の広さがあったことから一定数の支持は集めていた。

 ……だからだろうか。


 俺は発表されてから10年間ゲームをひたすら続けてきた。

 最初はただの冒険者だったのが、いつの間にかに精霊と呼ばれる神の力を使うプレイヤーの中の6人にしか与えられない[精霊神]という称号が与えられた時には、嬉しくて泣いたものだ。


 そして精霊神となってから数日後に、映画化が発表されたのだ。

 [エレメント・ワールド]

 と、そしてとうとう今日、映画が公開された。

 


★ ★ ★



 いつも通りに、ジリジリと鳴り響く目覚まし時計に起こされた俺は準備を済ませて町のはずれにある映画館に来ていた。

 服装はジーパンにTシャツに上着とシンプルな格好であり、靴は紐靴で、腕には10年前に卒業祝いで買ってもらった腕時計を付けていた。

 時間を確認してみると朝の6時過ぎだ。いつもなら寝ている時間だが、今日は映画を見るために早起きし、一番乗りで映画館の入り口付近に立ち並んでいた。


 町の外れの映画館はシアターが一つしかない。また最大でも50人ほどしか入れない、小さな劇場だ。

 それに加え、普段からお客さんが少ないため、予算もなく上映する本数も少ない。そのため人気のない映画館だが、今日に限っていえば違っていた。

 俺が一番乗で映画館の入り口付近に並んでいると、10分後には50人を超える人たちで溢れかえっていた。

 なんだか、違和感のある光景である。

 普段は幽霊の住まう館と名高いここも、今日に限れば、繁盛店である。

 客層は俺と同じく、ニートみたいな奴から、ゲームオタクみたいな奴、興味進から来た奴と様々だ。俺はニートの類だということは言うまでもない。


 朝日が昇り始め7時が過ぎた位だろうか、ようやく、映画館の管理者が隣にある自宅から出勤してきた。

 顔を見てみると、あまりの人の多さに驚いているのか、顔が真っ青だ。

 前に見た時は朗らかで優しくにこやかに見えたため、こんな表情を見るのは初めてかもしれない。そして、俺を見るのも管理者にとっては初めてだろう。だってニートだし……。


「お、おはようございます」

「ああ、あはよう。早いね」


 俺は入り口付近に近づいてきた管理者に他の人と同様に挨拶をした。

 普段は誰とも喋らないため、声が枯れそうになっていたがどうやら、聞き取れたようだ。


「なんで、こんなに混んでいるかわかるかい?」

「ええ、EWが今日から公開されたためだと思います」

「EW? ああ、エレメント・ワールドのことか。 なるほどなあ、それでこの大渋滞か」


 管理者は納得しながら、入り口のカギを開けドアを開けた。

 中は電気が着いてないため真っ暗であり、今にも幽霊が出そうな雰囲気である。

 

「じゃあ、一人ずつお金を先に払ってからシアターに入ってくださいね。混んでしまうから5人ずつだからね」


 管理者は後ろの人たちにも聞こえるように大きな声を飛ばした。

 そして紙で出来た箱を持ってきて俺の前に立ち、差し出してきた。

 これが、この映画館の特徴でもある席のくじ引きである。いい席に座るためには運が必要だということだ。

 俺は財布から1000円取り出し管理者に渡した後、くじを引いた。

 番号は19番、この映画館ではそれなりにいい方の席だ。


「じゃあ、失礼します」


 俺は管理者に軽く会釈し、シアター内へと入っていく。

 シアター内は、館内とは異なり、照明によって輝いていた。

 俺は19番の席に座り、家から持ってきたお菓子や飲み物を食べながら始まるのをゆっくりと待つ。

 下を見ると、少しずつだが他のお客さんが入場してきた。どの人も朝市からくるだけに俺と同じくEWが好きみたいでさっきから、映画の展開について話をしている。


 数十分が過ぎただろうか、席が満席になったのか辺りの証明が暗くなっていく。どうやら始まるようだ。

 俺は今ではどこの映画館でも対応している4D映画専用のヘルメットをかぶり、音量を調節してから、席にもたれかかった。


 周りの人も同じようにかぶり、目の前にはヘルメット集団が出来上がった。何回見ても異様な光景だ。そしてヘルメットのおかげか、さっきまで騒がしかったシアター内が静寂に包まれる。

 

 ‐5‐  ‐4‐  ‐3‐ 

 ヘルメットのディスプレイを見ると数字が点滅し、だんだんと少なくなっている。

 いよいよ始まる。 


 とうとう数字が0となり、ディスプレイに歓迎の文字が表示される。

 そして、恒例のCMタイムが始まった。

 そこまで他の映画に興味が無い俺にとってこの時間は暇である。

 そもそも金を払っているのになぜCMを見なければならないのだろうか?

 まあ、俺はいつもどおり瞑想にふける。


 さて、ゲーム内では主人公が映画を見ている際に不思議な光で飛ばされることで物語がスタートしたが、映画は変わったのだろうか。

 俺はあれこれ想像しながら始まるのを待つ。


 いつの間にかに終わったのか、ディスプレイの光がいったん消え、また数字が表れる。残り5秒といったところだろう。

 


‐3‐  ‐2‐  ‐1‐

 

「それでは、スタートです」


 数字が0になると同時に始まりを告げる機械音声が聞こえた。

 俺は視線を前に向けスクリーンを見る。


 さあ、はじまるぞ。

 そう思いスクリーンを見ようとするが突然、目の前の光景が霞みはじめる。

 あれ、これはいったい?

 俺は謎の睡魔に耐えようとするが、努力のかいもなく目を閉じてしまう。



 


 そして俺の意識は途絶えた。


 

 


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