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大迷惑

 オフィスに入ると、形式ばった朝礼を終え、仕事に就く。

 こんなのやらなくていいのに。

 すぐにピンク色のロングヘアーの女性が近づいてきた。オフィス用アンドロイドだ。

 「アダムさん。各デポットからの情報が来ました」

 「そうか」

 デポットとは、シロアリを駐機、管理する施設の事である。先述したN久手の万博公園跡地がその一つだ。仕事の際はデポットから、目的の造成地点まで国土交通省所属のテールローター機が、シロアリを運ぶ。

 もう伝えてあるが、シロアリは全て特殊回路でコントロールされてるため、事故が起こることは無い。

 「それで?」

 「N久手、S那河内のデポットは問題ありません。ですが、A曇野のC-7と陸前T田のC-133が寿命のため死去。既に焼却処分に取り掛かったとのことです」

 「他は?」

 「T津川のC-87に知力低下、Y張のC-227に体力低下が見られ、新しく就任した南A蘇のC-33がコンクリートの味覚承認に拒否反応を示しました」

 「そうですか・・・。

  C-87にアンプルQ、C-227にアンプルJを投与、回復が見られるまで2個体は、当分の間稼働しないように通達してください。

  それとC-33はしばらく様子を見るように。それでも改善されないのなら、回路に問題が発生している可能性がありますので、その時は再度知らせてください」

 「了解しました」

 アンドロイドは軽く頭を下げると、その場を去った。

 入れ替わるかのように、スバルが現れた。

 「いよう!アダム」

 「ああ、生きてたの?」

 「ひどい挨拶だな。まあいい」

 スバルは声を潜めていった。

 「あのブルーレイ、いくらになったと思う?」

 「さあな」

 「23万だ」

 「冗談だろ?サラリーマンの半年分の給料より高いじゃないか」

 因みに、この時代のサラリーマンの月収は3万円前後。

 「いやー儲かった。今日の帰りは寿司と洒落込もうじゃないか」

 「おおっ!」

 「無論、回転な?」

 そう言うとスバルは笑い、アダムは落胆した。

 「いつもの貧乏性。今日くらいは封印しないか?」 

 「倹約家と言え!今日はオマケに、すし屋のカルボナーラを注文することを許可するぞ」

 「ああ、いつもの安ーいトコか」

 「文句言うなら、おごらんぞ」

 「悪かった。ココア先輩にも知らせた方がいいか」

 「そうだな」

 噂をすればなんとやら。ココアが慌ただしく現れた。

 「ココア先輩!」

 「ああ、アダム君」 

 「今日、一緒に夕食でも行こうと思うんですけど」

 すると、彼女はバッグを持ち上げて言う。

 「ごめんなさい。妹の母親承認試験の面接で、立ち会うことになっちゃって」

 「代行サービスでも頼めなかったんですか?」とスバル

 「公務員が代行なんて、けしからんと思わない?」

 「そうですか・・・分かりました。またいつかしましょう」

 「早退するけど、後を頼むわね」

 彼女は早々にオフィスを後にした。

 すぐにアダムの元に、上司のムナカタが来た。

 「アダム君。急で申し訳ないんだが、F市へ行ってくれないか?」

 「え?今からですか?」

 「そうだ」

 青天の霹靂。それには訳があった。

 造成開拓には、本部の視察が必須である。それによって造成の必要性が認められると、期間や規模、その後の土地の利用方法などが検討される。

 この視察は国家最優先対策省の職員、特に視察班が担当しているが・・・

 「もう、3回行きましたよ?K本町だって―――」

 「それは承知だ。だが、ココア君が早退したことでF市への視察ができなくなったんだ。残りの視察班はもう、所定の場所へ出張中だし、頼めるのは君だけなんだ」

 職員は研修中に視察方法を教えられているので、上司の許可があれば、別の班の職員が向かうことも可能なのである。

 「でも、そんなに早急に行かなくても」

 するとスバルは言う。

 「F市って言えば、最近ニュースで取り上げられている、深刻な自治体消滅のケースとして取り上げられた都市ですよね?」

 都市?アダムは耳を疑った。

 「そうだ。そのためにも現地の状況を把握し、これから起こりうる都市消滅の未来を何としても防がなければならんのだ。

  これには、内閣も非常に深い関心を示している」

 アダムの知らないところで、話が進む。冗談じゃない。

 「そこまで言うなら、そのニュースを深く知るスバルに―――」

 その彼は、自分の手をアダムの肩に置き、告げた。

 「申し訳ないんだが、昨日のK本町の経過説明を、上層部の方々に説明しなくてはいけないので」

 「それは、俺が―――」

 「ムナカタ部長、彼は働き過ぎです。ニュースを見ると鬱になるほどなんです。だからF市の事も知らないのです。

  このスバル、部長に何卒、小休止としてアダムに視察に向かわせることを提案します。

  この東京から離れれば、彼もリフレッシュすると思いますよ?」

 逃げた。アダムは察した。

 彼は昔から饒舌で、どんな人間でも言いくるめてしまう。

 このご時世、馘首を食らっても、こいつは生き残るとアダムはいつも思っていたが、今回だけは、その口が憎たらしい。

 ムナカタは少し考えると、スバルの言葉を呑んだ。

 「アダム。本部はこっちに任せて、行ってきなさい」

 そう言って紙の切符を渡した。時代遅れの代物が使われているのは、異郷の在来線だけだ。

 「新幹線でO駅まで行ってT本線に乗り換え、K平駅で下車してくれ。F駅は既に閉鎖されている。

  後はそこから徒歩5分の役場で聞いてくれ」

 「あの―――」

 有無を言わさず、ムナカタは自分のデスクへと帰って行った。

 スバルも、頑張れよと言い、にやけながら。

 「あの野郎!」

 部長からのプレゼントと、同僚からの押し付けを両手に抱え、スバルはオフィスを後にした。

 F市まで約3時間半。アダムはタクシーを拾うと、東京駅へ向かった。

 「母親免許制度の馬鹿野郎!!」

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