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山手線から見たTOKYO

 夜の首都を淡々と走るステンレスカー。

 東京駅が近づいてきた。

 車窓左端から新幹線が出てきた。白い車体は錆と掃除不足で、茶色くなっている。

 かつて日本経済を支えてきた新幹線は、リニアにその座を取って代わられ、今では各駅停車のローカル線にまで成り下がっていた。

 すぐに電車は東京駅を出発。

 丸の内―赤レンガ駅舎と高層オフィスビルを持つエリートの街は、品川と比べて煌煌と輝いていた。

 神田に停車。周囲のビルには白く塗られた看板や、テナント募集の張り紙が目立つ。

 駅を離れると、焼け焦げた鉄塔が現れ始めた。そう思いきや、次の駅を通過する。電気も付いていない荒れ果てた無人駅を。

 秋葉原―それは、日本から捨てられたエリア。

 かつては電気街として、21世紀初頭にはアニメやメイドカフェといった「クールジャパン」の発信地となった。

 だが、西暦2018年。その様相は一変する。

 多発した原因不明の凶悪犯罪。「犯人の部屋にアニメポスターや美少女フィギュアがあった」、「被害者との接点はアニメ」、「犯行が某アニメで主人公が行った方法と類似」などの報道により、アニメは異常犯罪者を生み出す根源と見なされた。無論、科学的心理的根拠はない。

 遂に西暦2023年、国内で製作されたアニメ、漫画、その他関連作品を発禁、永久処分とし、それ以降の製作を全面的に禁止する「アニメ規制法」が国会で可決され施行。政府は犯罪抑止に大きく前進すると語った。

 だが、それは大きな間違いだった。国内からアニメや漫画が消え、職を追われたり、犯罪に加担したと誹謗中傷されたクリエーターや作家、声優の自殺の連鎖を生み出しただけ。特に、施行16か月後に起きたアイドル声優の自殺は、全国で40人余りの後追い自殺者を生み出した。

 これ以降、法案の即時撤回を求めるデモが起きたが、この秋葉原は凄まじかった。

 デモが暴動に変わり、自爆テロすら起きる地獄。たった4日で秋葉原は無法地帯と化し、地図から消滅。

 それでも法案は撤回されることなく、日本で見られるアニメはディズニーだけとなった。

 今では、発禁処分を受けた作品など、危ないブツを売りさばくヤミイチが秋葉原の正体。スバルは、ここで例のアニメのブルーレイを売りさばこうというのだ。

 駅前の倒壊したビルの壁面には、美少女戦士の巨大なタペストリーがはためき、時折、銃声が聞こえてくる。

 電車は、地図上では存在しない駅を通過し、御徒町駅へ。

 秋葉原の治安の悪さが飛び火したのか、ビルには落書きや、割れたガラス。ホームには、人なんていない。

 「じゃあ、ここで降りるから。また明日」

 「ああ、気をつけろよ」

 簡単なあいさつを済ませ、足早にホームへ降り立つスバル。その足は、どこか軽い。

 扉が閉まり、電車が動き出した。カーブを曲がりすぐに駅。

 上野―東京で治安の悪いエリアの1つだ。

 先述した失業外国人と不法入国者のスラム。ここ上野公園も、そんな居住地区になっている。

 春は花見で一杯になり、国立博物館や不忍池など、都民の憩いの場だったが、今ではトタン小屋が林立し、窃盗なんて生温い、都民すら近づけない場所と化した。

 公園の周辺は鉄条網が敷かれ、国立博物館の収蔵品は福岡に送られた。西郷隆盛像も知らぬうちに消えていた。誰かが溶かして売って金に換えてしまったのだろう。

 新宿御苑も、井の頭公園も、東京外なら名古屋の白川公園、大阪の天王寺公園も同じ末路。

 ふと見えたアメ横の入口には、窓に鉄板を貼ったパトカーが横転している。

 駅を利用する人は、東北本線や常磐線から乗り換えてきた乗客ぐらいだ。

 電車は鶯谷、日暮里、西日暮里、田端、駒込と停車する。

 おばあちゃんたちのオアシスと呼ばれた巣鴨。スマートフォンを華麗に操るお年寄りが、次々と乗降していく。

 大塚駅を出ると、次はアダムの住む池袋だ。

 電車を降り、駅前に出る。

 老朽化し、解体中のサンシャイン60が辛うじて見守る街。駅前では落書きだらけの都バスが、市民を運んでいる。ホームレスの数も、今日は嫌に多い。

 家のある方向に歩く。

 100メートル間隔で林立するコンビニ。だが、どこに入ろうか迷う必要はない。ほとんどが電気の消えた空き店舗。

 過剰な出店と吸収合併のおかげで、郊外のスーパーチェーンと同じ末路を辿った。24時間オープンしていても客は利用しないし、ホームレスや不良がたまり、犯罪が次々と起きる。

 コンビニとて、今では開業当時と同じ、7時オープン10時クローズの店がほとんどだ。

 牛丼店、ファストフード店も犯罪多発と同時に、家なき若者がたむろし営業にならないということで、早々に営業を取りやめている。

 アダムは閉店前のコンビニに入り、弁当売場へと歩く。

 造成開拓後に各地に建立された農林水産都市のおかげで、日本の食料自給率はこの時点で7割を超えていた。異常気象や世界情勢に左右される輸入食材より安心で、安定的な供給ができる。

 閉店前だからだろう、弁当もパンも全くない。

 仕方なく、冷凍食品売り場、ドリンクコーナーと廻って、レジへ向かった。

 彼の2つ前には小学校低学年くらいの男の子が、重たいリュックを背負って並んでいた。手には新発売のスティック状のポテトチップスと500mlで税込890円のコーラ。

 格好からして塾帰りだ。このご時世に子供を塾に行かせられるとは、この子の親は相当羽振りがいいらしい。

 でも、こんな時間に買い物なんて・・・ほらね?

 店を出ると、黒色のワゴンが停車し子供を押し込むと、走り去る。

 誰かが裕福な家を脅すようだが、警察も捜査がずさんだ、と言うよりしない。他の目撃者もみて見ぬふり。冤罪で逮捕されてしまうからだ。九分九厘、あの子は生きては帰ってこないだろう。

 空しく店先に落とされた商品に、みすぼらしい服装のストリートチルドレン十数人がたかり、流血騒ぎだ。

 無論、大人も警官も見て見ぬふり。

 次の客はOLだ。レジの前に来ると、口にしたマスク越しに「58番」と言う。

 店員が慣れた手つきで、背後の棚から出したのは、タバコでなく風邪薬。

 さらに追加でホットデリカを注文。ラーメンか・・・住民税の支払いより時間がかかりそうだ。

 「少々お待ちください」と言い、店員は調理スペースに。下の冷蔵庫から生麺を取り出すと、網に入れスイッチを押す。自動的に麺は沸騰した湯の中へ。

 その間に支払を済ませ、薬の説明書を確認させる。

 いちいち説明しなくていいのに・・・まあ、ロボットだから仕方ないか。

 網が湯の中から現れた。店員は素早く容器に麺を入れ、スープを注ぎ薬味をのせ、蓋をした。

 次にアダムの支払いだ。合計税込、1万5734円。これでも全国民の平均的な食費と比べると安い方。

 彼が店を出た後、ドアが施錠されシャッターが閉じた。

 ここから、住んでいるマンションまで徒歩5分。

 駅前繁華街を抜け、大通りにかかる陸橋を渡る。パトカーがサイレンを鳴らし、大型ダンプとカーチェイスを展開していた。

 街灯もまばらな住宅街を抜け、やっとマンションについた。

 家賃2万、中の上くらいのレベル。

 指紋認証キーで扉を開けると、熱風渦巻く部屋が、彼を迎え入れる。

 スマートフォンを部屋のパネルにかざすと、エアコンが作動し、照明が点灯。その足でキッチンに向かい冷凍食品を電子レンジに入れる。

 登場から間もなく1世紀になるが、登場から変わらぬ形を保っている家電は、こいつしかいない。

 電子レンジから取り出した食品。

 ご飯からおかず、味噌汁まで一つのプレートに盛られた通称“便利定食”。2040年、超高齢化社会を迎える日本のヒット商品だ。

 卓に置き、フローリングの床に座る。

 遠くで爆発音が響く。外を見ると、廃墟となった渋谷駅ビルから火の手が上がっている。

 それでも続く爆音と、消防車のサイレン。連日だが、飯を食う気分にはなれない。

 アダムは、仕方なく遠くの喧騒をBGMに、便利定食をつつくのだった。

 こうしたまた、地獄に近い町、TOKYOの夜が更けていく。

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