非現実戦線
妻が家を出てもう半年になる。
何が発端だったかはもう覚えていないが、この国は戦争を始めていた。
私の妻は、赤紙を受け取ったのだ。
今の時代は女が強く、人間本来の生きる力を持っているとかで、率先して戦場に赴き、第一線で活躍すべきは女であるという。
そうして、結婚してたった一年と少し、ようやく落ち着き始めた二人の生活は終わった。
初めの何ヶ月かは毎日、寂しい、会いたいとメールを送ってくれた。
しかし、今は数日に一度、近況を知らせる内容が届くだけ。戦場という事情もあるだろうが、彼女は私に頼らない、己の道を見つけたようだ。
私は空き缶やビニール袋に侵略された、薄暗い部屋の中でテレビを付ける。
ニュースによると、我が国の女性軍はよく統制も取れ、見事な戦果を挙げているという。
かつては待つ事が女の戦いなどと言われていたが、今や、待つ女はいない。残された男も、かつての女のような気高い意味で待つ事はできていないのだ。
そう思うと、確かに女は強く、生きる力を持っていたのかもしれない。
マナーモードの携帯電話が机を揺らし、メールの着信を告げる。
それは妻の帰国を知らせる内容だった。
ついこの前までは国外にいた彼女だが、来る防衛戦に備え、今は北海道に向かっているという。
日本家屋が懐かしいと絵文字が踊る。
我が国が戦場になるとでも言うのだろうか。しかし、戦いが始まれば、勝利の時まで特産品はお預けになるに違いない。
大変なことだ。蟹でも鮭でも、今の内に食べておかねばなるまい。
夕食を決めた私は、久々のご馳走への期待に胸を躍らせながら買い物に出かける。