常識
~フィーナ 視点~
里を出たときわたしはあの子たちを一人で守ると心に決めた。けれど出会ってまだ半日ともたたない隆司さん、卓弥さん、由希さん、春香さんに砕かれてしまった。一人でなんて許さないとばかりに、一瞬で。わたしに拒否権はないのだと、だからもうこの家に住めと。
半ば強引に、でもわたしの事を思ってくれて。申し訳なさと感謝の念から涙が出た。本当はしっかりとお礼を言いたかったけど、なぜか小さな声しか出ない。これでは彼らに届いてないだろう。もっとしっかりと伝えないと...でも大きな声が出ない...涙が止まらない...そんなわたしを彼らはただただ静かに待っていてくれた。
「さて、もう少し具体的に話を進めたいんだけど」
隆司さんがそう切り出すと由希さんが話を中断させる。
「待った。時間も時間だしそろそろお風呂にしない?」
「そうねぇ、そろそろ入りたいわぁ」
......お風呂って何?
「あたし一番風呂もらうね!」
「あ、あの...」
「どうしたのぉ?」
春香さんが怪訝な表情で聞いてきた。
「お風呂って...何ですか?」
わたしの言葉に女性2人が固まり、男性2人が目を点にした。......本当にお風呂ってなんなの!?
「フィーってお風呂入ったことないの?体とか洗ってないの?」
し、失礼な!わたしだつて女ですよ?体くらいしっかりと洗ってます!
「ちゃんと洗ってますよ水浴びは毎日してましたから」
さらに女性2人が固まり最早石化状態になり、男性2人は目が小さくなりすぎてごま粒のようになっている。
「隆司ぃ、先ずは常識からぁ、教えるべきだと思うわぁ」
「みたいだね......とりあえずフィーナ連れて風呂に行ってくれ」
「そうするわぁ、由希ぃ3人で入ろぉ」
「え、ええそうね...」
またわたし抜きで始まる会話、わたし何かおかしなこと言った?......戸惑っていると由希さんと春香さんに連れられていく。
「えっとまずお風呂っていうのは、お湯をためたもののこと...でいいのかな?」
わたしに聞かれても...
「結局水に浸かるんですよね?水浴びとかわらないんじゃぁ...」
「全然違う!」
「全然違うわぁ」
即座に否定された。2人になにか熱狂めいたものを感じるのは気のせい?
「浸かるのはぁ、水じゃなくてぇお湯よぉ」
「水とお湯の違いを身をもって知るといいわ!」
2人の勢いは止まらない......どうして?
「あの、由希さん春香さん?お2人のお風呂に対する思いは伝わったので...」
「お風呂をぉないがしろにしてはぁ、いけないわぁ…それとぉ」
「あたしたちのことは名前で呼んでね、さん付け禁止」
話題が急に変わった。今度はどうしてその話になるの?
「同じ場所に住むんだから、さん付けはか禁止。あと遠慮も」
「どうせならぁ、楽しくぅ陽気にぃ過ごそぉ?」
本当にこの人たちは......
「好きなようにぃ、呼んでくれていいわぁ。ただしぃさん付けはなしぃ」
少しくらい意趣返しのつもりで言ってもいいわよね?
「わかりました。ハル」
ハルは少し唖然としたあと満面の笑みになった。
「いいなぁハルは、愛称があって...」
「それは仕方がないをじゃないですか?ユキ?」
「あれ?」
わたしの発音が違ったのが違和感があったのか、でも意味は伝わるはず。
「えへへ、ありがと!」
そんな話をしながら歩いていると目的の部屋に着いたみたい。
「さて、愛称で呼んでくれるフィーには、もれなくお風呂の常識を叩き込みます」
「文字通りぃ、手取りぃ足取りぃ、ねぇ」
2人の好意は嬉しいのだけど、何故だか笑顔が怖い。
「お、お手柔らかに......」
結果としてみっちりとお風呂の常識を叩き込まれました。でもそれ以上に、お風呂に浸かったときの気持ちよさが衝撃的だった。
もっと早くお風呂を知りたかったな......