表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

部誌投稿シリーズ

帰り道、公園、カーテン。

作者: 蚊帳野夕人

「わりぃ! 部活で遅れた。」

 放課後、いつもの場所に現れた彼は焦ったように声をあげた。

「別にそんなに待ってないよ。それじゃあ、帰ろっか?」

「ああ、そうだな……。」

 校舎が夕陽でオレンジになる頃。校門の前で私は彼と毎日待ち合わせている。

 別に、私は彼と付き合ってる訳ではない。

 告白出来る勇気でもあったら良いのだが、生憎そんなものは私には無い。

 いっそ彼から告白してくれれば気が楽なのだが、それも望み薄だ。

 どうやら彼にとって私は、ただの幼馴染に他ならないらしい。

 つまり今の私にできるのは、毎日一緒に過ごす事による他の女子への威嚇、くらいに留まる事になる。

 いや、情けない事も、このままじゃいけない事も分かってはいるんだけど……。

 このいつも通り、って感覚が心地良過ぎてついつい先延ばしにしちゃったというか……。

 実際、こうして二人で帰れるのは嬉しいし、楽しい。

 他愛の無い会話も、ふざけた受け答えも、彼の笑顔も、全部が大切な宝物だった。

 ……告白したところでこの関係はきっと変わらない。

 彼は私の幼馴染であり、私は彼の幼馴染なのだから。それだけは絶対に変わらないはずだ。

 分かってはいるんだけど、……どうにもね。


   ◇◆◇◆◇


 私は、彼の事が好きだ。

 小学生の時も、中学生の時も、高校生になった今でも。

 ずっと彼と一緒にいて、ずっと変わらない想いがあった。

 放課後に一緒に帰れること、それがどんな時間よりも大切だった。

 でも、それと同じくらいに彼女の事も大切だったのだ。

 小学生の頃はどんな時も三人一緒だったはずなのに、いつの間にか彼女はいなくなっていて、気が付けば私は彼と二人になっていた。

 どんなに好きでも、彼に想いを伝えられないのは、 もしかしたらそれも関係しているのかもしれない。

 ……なんて、勇気の無さを彼女のせいしてはいけないか。

 彼女も、かつては彼の事が好きだった。だからこそ小学生らしい争いも何度かあった。

 それは高校生になっても、色褪せない思い出。これからも忘れられない記憶だ。

 彼女は小学生の最後に引っ越しただけ。それ以来連絡は取れていないけれど、別に死別したわけじゃない。きっといつかまた、この街に戻ってくるだろう。

 その頃には、彼女は彼の事なんてどうとも想っていないだろうけど、それまでは私が彼を見ていよう。

 そう、勝手に一人で決めていたのだった。


   ◇◆◇◆◇


 ……彼との時間は驚くほどに早く過ぎて行く。

 毎日の別れは公園の前だ。

「んーじゃ。また明日なー。」

「うん。また明日。」

 いつも通りの別れの言葉。この場所で二人は別々の帰路につく。

 そして、いつもの私ならすぐに家に帰るのだが、今日は違った。

 今日の会話で、昔の事を思い出してしまったのだ。

「……昔は、この公園で良く遊んだなあ……。」

 今はもうそんな事は無い。こうして昔を思い返す時に利用する程度になってしまった。

 あの頃から今まで、長い時間を過ごした気がする。

 その頃の私はわんぱく盛りで、彼はいたずらが大好きだった。拠点はこの公園のすべり台で。

「……あの頃は、あの子もいたっけ。」

 いつも、私たちを見ていた彼女。

 それを見かねて、私がむりやり仲間に引き込んだんだっけ。

 それからはいつも三人一緒だった。小学生の終わりに彼女が引っ越すまでは。

「………あ。」

 気付けば周りが真っ暗だ。外灯が暗く道を照らしている。

 思ったより時間を使ってしまったらしい。早く帰らなくてはお母さんに怒られてしまう。

 女の子がこんな時間まで外で何しとるかー!

 ……って感じに。

 小走りしながら公園の出口を通った時、

「………?」

 ふと、視線を感じた。

 その方向には、彼女の家が……いや。家だった所がある。今は違う人が住んでいたような、いなかったような。

「……まあ、気のせいでしょ。」

 昔を思い出したせいで、そこに彼女がいるような錯覚を覚えたのだろう。そうに違いない。

「って、そんな場合じゃなかった。早く家に帰らないと……。」

 私はすぐに公園から去った。


 ……気付くはず、無かったのだ。

 彼女のものだった部屋の、カーテンの奥。

 そこから私を見つめている赤い眼の事なんて……。


   ◇◆◇◆◇


 どうして?

 どうして。わたしは、そばにはいられないの?

 どうして? こんなにおもっているのに。こんなにすきなのに。こんなにあいしているのに。

 どうして。どうして、わたしはそばにいられない?

 どうして、わたしだけあんなめにあわなくちゃいけなかったの?

 どうして、わたしだけこんなからだになってしまったの?

 どうして。どうして……どうして?


 わるいのは、だれ?

 わるいのは……かのじょ。

 わるいのはぜんぶ、かのじょ。


 かのじょのせい。ぜんぶ、かのじょのせい。

 かのじょがいなければ。かのじょさえいなければ。

 ……そう。そうだ。


 彼女さえ、この世にいなければ。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ