数百年後のとある学生二人のお話
通っている学園から自転車で三十分、フルル山の中腹にテオ達は立っていた。
今日は半ドン、歴史部の部活動はゆっくり出来そうだ。
大テーブルクラスもある古びた切り株の上に、テオは立つ。
「ここが『姫君達の円卓』と呼ばれる巨木の切り株。ロッテさん、メモは取ってる?」
「はい、先輩。本当に大きいですね」
今期唯一の新入部員である少女、ロッテはメモに筆を走らせながら頷いた。
銀色のショートカット、小柄な女の子だ。大きく分厚い眼鏡の奥の表情は今ひとつ読み取れないが、少なくともこれまでの態度を見る限り、嫌われてはいないと、テオは思っている。
ジュニアクラスに見える童顔だが、実際若い。年齢は十二歳である。
さて、とテオは説明を続ける。
「うん、当時の宮廷魔術師。あの、ヨハンが木の苗から造ったという伝説が残っている。ここからもう少し先にいけば、彼の別荘だった洞窟があるよ」
ヨハンというのは、この国の中世時代に実在していた宮廷魔術師だ。土と木に精通しており、国で最初の植物図鑑を作った人物だ。様々な逸話がある。
「ああ、子作りに使ったという部屋ですね。大変興味深いです」
隣にロッテも並び、何故かテオの顔を見上げてくる。
「……いや、うん、そういう風にも使われたっていう話もあるけど、一般には騎士隊の演習時の作戦会議室という意味合いが有名だね」
顔が赤らむのを感じながら、テオは少しロッテから身体を離す。
「『山の王と黒真珠の相談室』ですね」
はい、とロッテはメモを取った。取りながら、テオについてきた。
間合いが離れない。
「そ、そう。今でもその部屋には、当時使われていた戦術盤が保管されている。もっとも今は、博物館の雇った警備が管理しているけどね」
『山の王』とはヨハンの、そして『黒真珠』とはその弟子であり当時の国の姫
であったフィーネを指している。なお『山の王』は正当な王位の称号ではなく、騎士隊自主演習時にいつの間にかつけられていたヨハンのあだ名である。
「銀剣のコルネリアは妬かなかったのでしょうか」
ヨハンと共に、最も多くの逸話の残る女騎士の名前をロッテは挙げた。
「その辺の公私混同はなかったみたいだね。もっとも、洞窟には銀剣の私室もあったようだけど」
「その洞窟のベッドが何故か一つだけしかなかったというのは、本当なんでしょうか?」
「……それに関してはイエス」
だから、どうしてそこで僕の顔を見上げるのか、とテオは聞きたい。
しかし何故だろう、本能的な何かがそれを口走るのと止めていた。
「少なくとも三人は、泊まれる洞窟なんですよね?」
「正確には拡張されて、九人が住めるようになっているね。ヨハンの幼馴染みの水精エレオノーレ、義娘である火炎鳥フリーダ、師匠の仙女カヤ、義兄妹の契りを交わした龍神エルヴィン、世界樹の主従契約者・コ族の狩猟者ラウラ、黒真珠と同じ弟子でもある海底女帝ティティリエ……だったかな」
「よく憶えてますね」
「専門分野だからね。これが古代とか近代になると、途端に僕の知識は怪しくなる」
「では、私も先輩と同じ分野を専攻します」
「他の時代も、面白いよ? 今日はまず一番近くの遺跡だったここを案内したけど、この街の歴史は深いし遺跡も多い。もうちょっと考えた方がいいんじゃないかな?」
しかし、ロッテは首を振った。
「私としては、一つの分野を極める方がいいですから。何より先輩と相談出来る機会も増えますし」
「ま、まあ、自分が興味を持った分野が一番だね」
「はい。ところで一つ疑問があるのですが」
「何だろう。僕に答えられる範囲ならいいんだけど」
「水精や火炎鳥……ずいぶんと大御所な方達ばかりですが、どうしてこんな山で逢瀬を繰り返していたんでしょう」
ああ、そこか。
うん、とテオは頷いた。
「……それはね、当時の王様が、城が壊れるから余所で会えってヨハンに言ったそうなんだよ。まあ、本当かどうか知らないけど逸話として残ってる」
「興味深いです。ところで先輩。私、お昼ご飯を作ってきたんですけど、食べませんか。二人分、あります」
ある意味、ガストノーセンの原型ともいえるお話でした。
あと六時間区切りで更新も、ひとまずここでストップです。




