第七話 帰ってきた
昼休み、俺と鈴川は屋上で昼を共にしていた。
今日は俺が弁当を作ってきたというと屋上で食べようと言われた。
偶々なのか鈴川はけさ弁当を忘れたらしくお昼に困っていたらしい。
「あんまりバランスよくないかもしれないけど我慢してくれ」
そういって俺は弁当箱を手渡す。
ふたを開け中身を見て絶賛する。
「瀬原君て案外手際がいいのね」
こいつに言われると褒めているのか貶しているのかわからん。
卵焼きを一口食べ沈黙が走る。
「美味しい」
「よかった。口に合わなかったらどうなっていたか」
「瀬原君も食べてみなさいよ」
そういってもう一つの卵焼きを目の前に差し出された。
あのー、俺が食えってことですか?しかもその箸さっき使いましたよね?
「早く食べて 」
甘い言葉に俺は何の言葉も言い出せない。
ここを乗り越えないと俺の後がない。
「分かったよ」
覚悟をもって俺は卵焼きにかぶりつく。やってしまった・・・・・・・・・鈴川と間接キスしてしまったことに気付いたのは数秒経ってから。
これを知られたら俺の人生ははかなく散る。
まさにサディスト。
わざとやっているようにしか見えない。
「おいしい?」
「まあ・・・自分で言うのもなんだけど口の中でとろけるのがいいよな」
「じゃあ、もっと口の中でとろけたい?」
まるで意地悪しそうな子供の用に鈴川は俺に迫ってくる。
ちょっとまて!!言い方がものすごい悪趣味だぞ!!
俺の心中の言葉を気にせず鈴川は迫りなんと唇を突き出してくる。
やばいやばい・・・・・・・・・心臓が破裂する。
しかし、寸前のところで鈴川はピタッと止まった。
そして目を開けそのまま俺の耳元へと顔を寄せ、
「はむっ」
「!!」
なんと俺の耳を噛ん・・・・・いや、正確に言えば・・・・・・・・・・・
こんな変態プレイをするとは俺は鈴川ともう一度話し合う必要があると思ったがそれはもっと先の話になるだろう。
気絶した俺はまた保健室にいたらしい。
放課後、メールで言われた場所に俺は行った。
校門前だと何かしらの問題になると言っていたから俺はそこから少し行った喫茶店に行った。その喫茶店は、今の時間帯ではすいていて客は俺を含めた3人くらいしかいなかった。
だがここのコーヒーはとてもうまい。
しばらくして鈴川は喫茶店に入ってきた。
俺は鈴川が視界に入った瞬間手足が思うように動かない。
1つ深呼吸をして緊張をほぐす。
「ごめんね。ちょっと頼まれた仕事が出来ちゃって」
「いいよ、で、出かけたいところって?」
「その・・・・・・今度この辺で夏祭りがあるでしょ?その時に着る浴衣が欲しくて・・・・・・・」
「俺と一緒に選んでほしいってのか」
俺の答えに鈴川は首を縦に振る。
まあ友達と一緒に行くことになったんだろう。選んであげるか。
「じゃあ行くか」
俺たちは浴衣が売っている店へと向かった。
その店へ向かうときなぜか鈴川はやたらと俺の方にくっついてくる。
しかも俺の服の裾を掴みながら歩くって・・・・・・
「どうしたんだ?なんか様子が変だぞ」「いや・・・・・・なんかこうしていないと不安で」
大袈裟だな。
けどこいつがそんなこと言うのだから余程のことなんだな。
しょうがない。着くまでこうしているか。
周りからどんな目で見られても別にいい。それくらいの覚悟がなければ無理だな。
店につき俺は鈴川の浴衣を選ぶ。
「お前はどんなのがいいんだ?」
「そうね、柄はあんまり派手なものはやだから・・・・・・・・・」
そういって取り出しの黒の浴衣。
鈴川と言っちゃあ鈴川らしい色なんだけど・・・・・・
「ホントにこれでいいのか?」
念のため聞いておいた方がいいよな。
「私はこれでもいいよ」
黒の浴衣を見てそう呟く。
まあ本人がそういっているからそれでいいよな。
よし!!ここは俺が。
「鈴川これでいいんだな?」
「黒は私が一番好きな色だから・・・・・・・・」
「じゃあ、貸して」
俺は浴衣を受け取りレジへと向かった。
値段は少々高いが気にはしない。
痛い出費にはなったがもう少しで軍資金が送られてくるからいいとするか。
再び鈴川の元へと戻り浴衣の入った袋を渡した。
「ほい」
「え・・・・・・」
突然何かと思えば浴衣のお金が支払われていることに鈴川は驚いている。
「気にするな。これでよかったんだろ?」
「そうだけど・・・・・・料金は」
「そんなの気にするな。昨日のパーティーのお礼だ」
といっても今日の変態プレイで本当は払おうか迷ったけどな。
「・・・・・・・ありがとう」
「これで用は終わりか?」
「そうだけど・・・・・・・・・ちょっとこれから公園によってかない?」
「別にいいけど」
俺は鈴川に誘われて公園へと向かった。
近くのベンチに座り一息つく。
「夏祭りか」
今年もそんな時期か。夏祭りなんて小学校以来いってねえぞ。
「鈴川は今年は誰かと行くのか?」
「三組の賀川利華っているじゃない?その子と行く予定がなんか向こうの用事でつぶれちゃったらしく て」
賀川利華って・・・・・・この前俊哉が可愛いって言っていた人だな。
「二組って・・・・・・他クラスで仲のいい奴いたのか?」
「まあ、利華とは中学校から仲良かったからね」
だからか。と、俺は心の中で手を打つ。
たしか鈴川の次にモテるだとかこの前言っていたな。
「じゃあ、今年は一人なのか?」
「そうなんだ。でも一応浴衣だけは新調したかったから」
まあ、鈴川でも夏祭り位は一年の楽しみだからな。
「今年は俺と一緒に行くか?」
無理強いかもしれないがこいつの楽しみがなくなると退屈で俺を標的にしそうだからな。
「俺だってどうせ暇だし・・・・・・」
今の夏祭りってどういうのか見てみたいしな。
親父臭いけど。
「瀬原君てやっぱり優しいね。これなら私と・・・・・・・・」
「え?」
最後の方が何を言っているのか聞こえなくて聞き取れることができなかった。
最近そういうの多いもんな。
この前のダンスだって何か言いかけてたし。
「瀬原君にそう言ってもらえてうれしいわ。楽しみにしてるよ。夏祭り」
鈴川を家の近くまで送り俺は暗い道を歩く。
暑さが全盛期に入った今日一日、この夜も一段と蒸し暑い。日中とは違う暑さが体中を漂う。
夏祭りかー。
・・・・・夏祭り。
四年前も確か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
そういえばこの夏祭りって。
家に帰って俺は夏祭りの期日を調べた。
「そうか・・・・」
この日は・・・・・
親父と母親の命日。偶然にも何故か重なってしまった二人の命日。
縁起が悪く毎年この日が来るのはさすがに心の中で拒んではいたが、現実、そうにもいかない。
しかも夏祭りの会場と親父たちの墓はそう遠くはない。
鈴川はまだこの事を知らないんだっけな。
俺が独りでいるという事を。
この日は早めにいくかな。線香とかもあらかじめ用意しておいておけば後で匂いで気づかれないだろう し。
そうすればばれずに済む。
だけど・・・・・・それと同時にあいつも帰ってくる。
ガチャリ。
玄関の戸が勢いよく開いた。
この家に住んでいるのは俺だけ。しかしこの家に入ってくるもう一人の人物はあいつしかいない。
・・・・・・・・・・・
「久しぶりだな。蓮司」
・・・・・・・・・この時期にこんなことをなるのは大変だ。




