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俺はお嬢様が恋をしたことに気付いていない  作者: 海原羅絃
第5章 バレンタインと元彼とお嬢様
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第二話 事実

 放課後、特別教室棟三階の第三理科室にて俺を含む七人+おまけ数十名のの男女がいた。

 ちなみに二組のクラスメイトがちらほら。

 そして前方を見渡せば毎度おなじみの青春乙の部員たち。

 この青春乙は鈴川が「青春を掴むために乙を鍛えるため」に結成されたものだと言うがその創部動機はあからさまに誤字がある。

 ちなみに正式名称は「青春を掴むために己を鍛える会」だけれどどこかのお馬鹿さんが『己』を『乙』と表記したのである。

 しかし部活の名前とそっている活動は全くと言っていいほどしていない。

 本来なら青春を掴むために

 今、俺たちが第三理科室にいる理由は、部長兼会長兼顧問である鈴川蘭さんが学校用の活動場所として第三理科室を確保してくれたそうだ。

 授業でもそこまで使わない第三理科室をよくもこう簡単に獲得できたものだな。

 理事長の孫娘という特権でか。

 職権乱用だなこりゃ。

 そんなわけで今日も楽しいおしゃべりタイムになると思っていたけれど・・・・・

 「これはどういった風の吹き回しだ?」

 ホワイトボードに書きだされた文字を見て俺は頭の中でクエスチョンマークを浮かべる。

 『獅子堂玲音 歓迎会』

 とりあえず趣旨がつかめない。

 確かにあたりを見渡せば窓際に装飾されたような感じがしてあるし食べ物などは並んでいないけれど紅茶の匂いがかすかにするのは分かる。

 そして俺の前方には例の転校生。

 目を合わせようとしてもしっかりと合わせる気にならない。

 「なんか彼、この部活に興味を持ってくれたらしくて入りたいそうよ。

 で、二組の生徒と一緒に歓迎会をやろうっていう事なのよ」

 あー、だからこんなに人数が多いわけなのか。

 しかし興味?そんなのハッタリに決まっているはずだ。

 おそらく他のやつらは分からないはずだ。

 こいつが鈴川と(・・・・・・)どういう関係なのか(・・・・・・・・・)

 ただの元クラスメイトなはずがないと俺の直感はそう語る。

 笹野川学園は世にも珍しい。というか大学附属の学校だ。

 鈴川の通っていた中学校はここから少し離れた有名な学校だってことを一度聞いたことある。

 そうなれば元クラスメイトとなれば・・・・・・・・・・

 まてよ、そういや獅子堂って。

 今まで気にかかっていたけれど薄々どうでもよくなってきたような事が今ここで記憶が芽生え始める。

 たしか・・・・・獅子堂って九州やそこらじゃ有名な企業じゃなかったけ?

 関西方面むこうの事はよく知らないけれどたまにテレビで獅子堂食品とか獅子堂電力とかいう名前を聞いた覚えがある。

 「よろしく」

 その御曹司だか何だか知らない奴が俺に手を差し伸べてくる。

 他の男子にはしていないはずの仕草。

 何をたくらんでいるのやら。 

 「鈴川は?」

 顔と同じような色白い手を差し伸べられているのにもかかわらず俺は無視してこの部屋にいない鈴川の居所を探す。

 「蘭なら用事あるからって言ってさっき職員室に行ったわよ」

 「そうか」

 どうせあいつの事だからあそこにいるだろう。今日も天気がいいことだし。

 教室を出ようとるすると自然と獅子堂と目があった。

 冷酷そうで普通なら立っている事さえできなくなりそうなくらいすごい冷たい視線を送っていた。

 その表情通り、口は笑っているが目は笑っていない。

 「俺も用事を思い出しだ。歓迎会なら先にやってて」

 俺は引き戸を開け、第三理科室を後にした。

 その時感じた背中に突き刺さる視線は間違いなく獅子堂・・・の物だっただろう。




 


 ◇





 『青春乙』の部長兼会長兼顧問である鈴川蘭は屋上で風にあたっていた。

 一月下旬に吹く風はどことなく冷たい。

 東京の気温は徐々に下がっていく傾向が多いけれど雪など降ってもそこまで積もらない。

 路面凍結という事もない。

 けれど今日はポカポカと春の陽気みたいな天気で思わず欠伸が出てしまいそうである。

 彼女自身、あまりの日当たりのよさに眠気が押し寄せてくる。

 スカートからひょいっと脚を出して、柔軟運動をする。

 今頃みんなは歓迎会をしているのかー。

 歓迎会を企画したのは彼女ではなく賀川や春富に一年二組の女子生徒によるもの。 

 彼女も参加しなければいけない身であるけれど、心の名残というもので彼に顔を合わせる気になれない。

 あの人の前で彼にどういう顔をすればいいのか。

 あの人の考えていることは分からないけれどおそらく祖父が転入を許したのだろう。

 時期的に考えて彼女にはタイミングの悪すぎる出来事だった。

 これじゃあ彼に・・・・

 「あれ、やっぱここにいんじゃん」

 たった一つしかない屋上の扉から俺は入ってくるとすぐ傍に鈴川がいた。

 正直言って座っている体勢は何とも言えない。

 健全な男子高校生である俺にとってはあまり目にはよくない景色だという事がここからでもよくわかる。

 見えそうで見えないの瀬戸際。

 色は分からない。けれど・・・・・おそらく履いているのはランジェリー系の物。

 待て待て。俺は何で人のパンツを推測しているんだ。

 これじゃあただの・・・・・・

 「さっきから何じろじろとした見ているのよ」

 やべっ、勘付かれてた。

 ばれてはいないはずだろうけれどさすがにこれ以上過剰に見ていると怪しまれる。

 うう、正面に位置していない自分がなんとも悍ましい。

 「まあ、欲情したのならはっきり言いなさいよ」

 「んなわけねーよ!!」

 はぁ、分かっているのに言わないこいつと話すのがなかなか勇気がいることだ。

 にしても・・・・・・そこでの体育座りは明らか見てくださいって言っているような仕草ですけれどそれは俺の気のせいですか?

 「で、何しに来たの?」 

 「いや、部室に行ってもお前がいなかったからもしかしたらここじゃないんかなって思ってきたらここにいたからさ」

 もしかしたらじゃなくてそこにいると分かっていたなんてことはさすがに口が裂けても言えない。

 「どう思ったの?」

 「え?」

 突然の切りだし。

 「私と・・・・・・獅子堂君の関係を考慮してどう思ったの?」

 どう思った・・・・と言われようともどうにも答えられない。

 明らか今の鈴川が獅子堂の名前を口にする時、抵抗があったようにみられた。

 拒んでいるのか。それは分からない。

 けれど考慮。となると考えていたことがあっさりと口にできるわけない。

 「考慮するも何も・・・・お前ら中学校時代のクラスメイトだろ?」

 これ以上は知らないし聞き出したくもない。

 悪い予感。

 それが的中してしまいそうだったから。

 よほどのことで鈴川本人からの口から出てしまったらそれはそれでしょうがないと俺は思う。

 けれど俺は鈴川と獅子堂の関係を聞いたところで何のメリットが生まれる?

 デメリットもあるのか?

 「そう、私は獅子堂・・・・・玲音君と中学校時代、クラスメイトで・・・・」 

 で・・・・の後の言葉がどうしても気になる。

 クラスメイトでもあり、更にその具体性となる関係が・・・・・・・

 だけれど、その言葉がいくら俺が知っていようとも耳だけをふさぎたかった。

 塞ぐ事しかできないようであったけれど。

 聞いてはならないような事であると思ったから。

 しかしそれを阻むことは誰も出来なかった。

 何故なら・・・・・

 「そんなに俺と蘭の関係性を知りたいのか?」

 突然背中に突き刺さる誰かの声。

 振り向かずともわかる。

 噂もすれば影もあり。まさにこの事だ。

 獅子堂玲音が俺の後ろにいた。

 「おい、歓迎会はどうした」

 「ん?トイレに行くって言ったら心置きなくみんな送り出してくれたよ。いやぁ、みんな優しいね」

 俺はがんの利かせたまなざしを送る。

 「おおっ、怖い。それで、瀬川君だっけ?」

 「瀬原だ」

 一回で覚えろこの童顔。

 「僕たちの関係を知りたいんだっけ?どこからどこまで?」

 その範囲まで決めるということはかなり話せば長くなるのか。

 「鈴川が拒まない程度に」

 「そうだね。じゃあ、一つ質問するよ。君は何処まで気づいたの?」

 「まずお前が有名な財閥の御曹司っていう事。今気づいたんだけれどお前、去年の夏に鈴川んちが主催したパーティーにいただろ?」

 大体の結びつきで思いだした。こいつは以前鈴川と行ったパーティーで見たことがあると。

 おそらく本人は気づいていないと思うけれど。

 「ああ、君もあのパーティーに来ていたの。へぇ、それで?」

 楽しそうに俺に質問攻めをする獅子堂。

 こいつ・・・・・教室とは全く逆の立場だな。

 「お前は人が大勢いる前では猫をかぶっているところ」

 「・・・・・・・」

 「これぐらいだ」

 「面白いね。けれど、一つだけ見落としている事が在るよ」

 「なんだよ」

 気に食わない表情をしやがって。

 鈴川も鈴川で覚束ない表情でうつむいている。

 屋上に冷たい風が吹き渡る。

 「俺が、蘭の元彼(・・・・)だっていう事を(・・・・・・・)

 その言葉に綾をかけるように、風がさらに強さを増して吹き付ける。

 その時のおれの思考は一体どうなっていたのだろうか。

 わからないが、これが俺と獅子堂あいつとの戦いの火ぶたを切り落とす一言だという事には間違いないはずだと俺は思う。 

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