第四話 誘い
鈴川とともに出かけてからの後、俺は何をしていたのか覚えていなかった。
いや、何かをしていたんだけれど何をしていたのか認識できていなかったん。
だが机の上に課題が広げられていたのでやっていたのだろう。携帯は充電スタンドにさっしぱなしで触れた記憶がなかった。
土曜日の翌日、日曜日は何をしていたのかどんなことを考えていたのかあんまり記憶にない。
一日中、ボーっと過ごしていたと思う。
その原因はなんなのか。それすらも分からない。
家には元から誰もいないのにいつもより侘しい孤独感が出てくる。隣に誰かがいなきゃいけない感覚がありましてや一人ではいられないというのが多かった。
しかし、そんなネガティブな思考は一本の電話によって停止された。
耳元で鳴り響く着信音。決められた波長をにひかせ、
俺が誰から電話やメールが来たか分かるように設定した個人専用の着信音が響く。
この曲は・・・・・・・・・・
携帯を手に取り発信源が誰なのか分かっているのにもかかわらずディスプレイに目を移す。
鈴川蘭。
時刻は22時。いつもの俺ならこの時間前に寝ているはずが今日は不思議と目がさえている。
だからといって電話を切るわけにもいかないので応答のプッシュを押す。
「もしもし」
『・・・・・瀬原君?起きてた?』
「ばっちり目が冴えてるよ」
『そう。私もなぜか目が冴えてて・・・・・今日お昼寝したからかな?』
昼寝・・・・そういや鈴川の寝顔ってみたことないな。
しかも昼寝って俺もするけど鈴川が昼寝っていうとなんか子供っぽいな。
『ちょっと、何がおかしいの?』
俺の小さな笑いが電話越しの鈴川に聞こえてしまったらしい。
「で、どうしたんだ?こんな時間に」
『いや、なんとなく』
なんとなくで電話をかけて来るのか。面白い奴だな。
「じゃあ、もう切るぞ。また明日学校で」
『そうね。また明日。お休み』
『お休み』の一言がなんだか柔らかく感じた。
ツーッツーッツーッツーッと俺の耳元で流れる電子音。
何だこの安心感・・・・・・・・
さっきまでの有耶無耶とは何だか違う。
鈴川と話したからか?
・・・・・・・・・・・・
「まさかな」
人をうまく乗せることができて案外サディストっぽい美少女と話したくらいで。
話したくらいで・・・・・・
「こんなに楽になるのかな?親父」
俺はベッドへと体を預け、眠りについた。
俺には兄弟がいない。というか便宜上の事であるが、友達から「何人兄弟?」って聞かれ「一人」と答えると世間で言われる一人っ子と分類される。
確かに何回か兄弟が欲しいと思った。一緒に遊んでくれる兄や弟。姉もほしいときがあった。
何が言いたいとかというと兄弟がいるいないだけでもし、両親が何かあった時一人では乗り越えられな い分兄弟と協力して乗り越えていける。
けれど俺は違う。
俺は一人で乗り越えてきた。
俺が生まれてすぐ母親は他界。父も俺が中一の時に末期癌で他界。以来俺は一人ぼっちだったのだ。
だから高校に入学するための資金や生活費、家のローンなど一人でバイトしてやってきた。
それから俺の隣にいる人はいなくなった。唯一の家族であった父が死んでからというもの俺は中二の時引きこもってしまった。改心して中三からまた通う事になりどうにか学力は取り戻して今の状態に至るが変わらないのは隣に誰もいないという事。頼れる人はもういないのだ。
べつに学校の席で誰かの隣になるのとは少し違う感覚。唯一無二の存在と言った方がいいのか。
それとももっと別の空間 での隣りあわせ。
俺はその感覚がたびたび 出始めた。
鈴川と出会ってから。
いつも通り学校に来るとなんやらクラス・・・いや、学校中騒がしかった。
教室に向かう途中、何度も怖い目で見てくる男子がいて嫌な予感がした。
案の定それは当たった。
なぜか俺のクラスの階だけの掲示板に俺の写真が張り出されていた。
・・・・・・・まさか。
土曜日に出掛けたことが誰かにばれたのか。
ばかばかしくなって俺は教室に入るといきなり強烈な波に襲われた。
「瀬原!!どういうことだ・・・・・・あの鈴川様と一緒にデートだなんて」
やめろ・・・・・・重すぎる。
肺がつぶれる・・・・・・・・・・
「こんなものまで撮って!!」
一人の男子生徒が見えてきたのは紛れもない。土曜日に二人で取ったプリクラだった。
ってかなんで持ってるんだよ!!
「一緒に水着を選んでいたし・・・・・・羨ましい!!」
ちょっとまて。お前ら絶対鈴川のところをストーカーしてただろ。
それに当の本人は・・・・・・・
こっちに視線を向け面白そうな顔をしてみてた。
完全に遊ばれてる。
でもほんと待ってくれ・・・・・肺が・・・息できない。
おれの思考はそこで止まった。
また保健室行か・・・・・・。
ん、くすぐったい・・・・・・・
俺の体に何かが這ってる。
気になって目を開けるとそこには鈴川が。
「・・・・・うわ!!」
驚いて俺はベッドから飛び跳ねた。
「おまえ・・・何してんだよ」
完全に俺の体で遊んでいたよな。ベッドの上を四つん這いになってしかも俺の体を下にして手で体をなぞっていたよな?
凶悪な女だ。
「何って・・・・・あなたの看護をしているのよ」
可愛げな笑いを見せながら言う鈴川。
ごまかしても無駄だ。
「肺がぺちゃんこになりそうな瀬原君を助けたのは誰かな?」
「はいはい、紛れもなく鈴川さんですよ」
「労いの言葉は?」
俺の体をなぞっていた奴に労いの言葉なんかあるか!!
まあ死にそうになっていたところ助けてもらったからいいか。
「ありがとな」
「なんだ、もっと可愛く言うと思ったのに」
「お前は俺に何を求めているんだよ!?」
ったく、話してても飽きない奴だな。
「で、授業は?」
「見てのとおりサボりよ」
こいつ、単位過小で留年しろ。
「さて、そろそろ起きようか」
そう言いながら体を起こすがなかなか起き上がらない。
原因は分かっている。こいつだ。
にしても鈴川って体重重い・・・・・・・・・・
「失礼ね。私の体重は標準以下だよ」
標準以下って・・・・・・どれだけ高いんだよ!!
「仕方ないわね」
仕方ないと言っておきながらも仕方なさそうにしていない鈴川はベッドから飛び降りた。
さて、授業に戻るか。
そう思った刹那、鈴川がこっちを振り向き何か言おうとしていた。俺は話の内容は口が開く前からだいたい見当はついていた。どうせろくな話じゃないだろう。
「そういえば明日私の家のグループが主催するパーティーがあるんだけど瀬原君行かない?」
はい?パーティ-?パーティーってあのパーティーだよな?
三〇矢サ〇ダー掲げて乾杯する奴。
「やだ?」
「いや、別にやだとかいう訳じゃないけれどそれって結構有名な人とか来るんだろ?」
大財閥の令嬢とか天皇とか来るとかよく聞いたことある。
「まあ来るわね」
そんなところに一般人である俺が足を踏み入れてもいいのか?
だが一生に一度の機会だ。行ってみるのも損ではない。
「どうせ家には一人だし行くよ」
「あらそう。嬉しいわ」
そういって鈴川は機嫌よくスキップしながら保健室を出て行った。
「はぁ」
俺は疲労を交えた溜息をつきながらも窓の景色を眺めていた。
そういえばパーティーってどんな服装で来ればいいんだ?
 




