第九話 文化祭初日
あけましておめでとうございます!!また今年も『俺はお嬢様が恋をしたことに気付いていない』をよろしくお願いします!!
目が覚めると見慣れない光景が入ってきた。
自分は今どこに居るのかと頭で認識するまで数秒かかった。
そうだ。俺は鈴川の家に泊まったんだ。その証拠として部室兼鈴川の部屋 (とみられるところ)
それに横には鈴川が俺の腕にしがみついている。
数時間前こんな光景があったような・・・・・・・・・・・自分の記憶に疑いをかける。けれど間違いではない。確かにこの光景はあった。しかも数時間前に。
それに今日は文化祭当日。学校には8時半までに行かなければそれこそ準備に間に合わず影響が出てしまう。
と言っても今日は午後からも由があるためそこまで焦らなくてもいいが午前中にクラスパフォーマンスがあるため悠々としてはいられないのである。
という訳なのでまずこいつをはがそう。
経験者が語るがまずこいつはあきらか寝相で見れられても腕力が底知れない。
今だってほら。全然離れようとしない。
脇でもくすぐってやろうと思うが、絶対こいつの場合だと「変態!?」「通報するわよ」など軽々しくそんなことを云うだろう。
さてさて、時刻は七時半と示されている。
そろそろ準備を済ませて学校に行かなければまずい。
「ぐはああああああ!!離れろ!!」
だめだ。ぜってえ離せない。
ここはくすぐるしか・・・・・・・
いやいや!!健全な男子高校生である俺がそんな事するなんて・・・・・
世界が滅ばない限りやらない、はず。
けれどこのままこの体勢でいてメイドの外内さんに見られて大惨事になったらとんでもない。俺の文化祭初日がボロボロで参加することになっちまう。
「頼む・・・・離れてくれー」
「離さないわよ」
寝言かよ!!!
いい加減起きろよ。こいつどんだけ寝入りが深けえんだよ。ありえねえよ。
「お嬢様。そろそろ起床する時間です・・・・・・」
「あ」
それだけが声に出た。
いや、待ってください外内さん。これは・・・・・・・・そんな目で見ないで!!
「こ・・・これはどういう事ですか?」
既に戦闘態勢に乗り移ってますよ!!早まらないでください!!
「お嬢様に手を出すなんていい度胸じゃないですか瀬原様。これはひとつ・・・・・・」
1つ・・・・・お仕置き。なんて言わないですよね?
すでに指がバキバキなっているし、顔が鬼の形相みたいだ。
やっぱり文化祭初日は俺の屍が送られるのか・・・・・・・・
仕方ない。ここは素直に受け止めよう。
「では、覚悟はいいですね」
「でも・・・・・・手加減は」
「問答無用」
え、
速攻で俺の要望を却下され朝の鈴川家には俺のコダマが響き渡ったのだった。
ああ、文化祭始まる前から災難なんですけれど。
俺って不幸者だな。
◇
学校に行ったときは既にくたくたな状態だった。朝飯はろくに食えず(高級食材を使ったものだったらしい)俺は学校に行く羽目になった。
くそう、こうなったら屋台の物食い漁るぞ。
「相変わらず食い意地を張っているのね」
「俺は朝飯くってねえんだぞ?誰のせいなんだよ。誰の」
「さあ」
こいつ、誤魔化しやがって。どうにか昼飯代も込みで俺の朝飯を買わせてやる。
「でも結局さ俺たちがやることって何になったんだ?」
「何もないわよ。ただ単に文化祭を楽しむだけ」
「は?それじゃあ部活の意味なんて全くねえだろ」
「言われてみればそうね。なんで作ったのか私にもわからないわ」
青春を掴むために己を鍛えるっていったのはどこの誰だよ。
ああ、やっぱり予想通り文化祭でこの部は放置状態に持っていかれるな。
基本あそこでだべっていただけだな。
学校について俺たちは教室に行けばクラスメイトがざわめいている。やっぱり文化祭であるのかテンションが高い気がする。あとで俊哉の方も見に行くとするか。
「蓮司、体育祭の練習どうする?」
教室に来てそうそう大野が俺に声をかけて来た。
そういえば体育祭もあったけな。朝からいろいろあったから体力が持つかどうか心配でしょうがないんだけれど。
「時間がある時でいいから声かけて。俺は基本暇だからさ」
「わかった」
そういって大野は自分の席に戻る。
さて、メニュー確認でもするか。
一年二組の教室は、すでに喫茶店と言っていいくらいの模様になっていてすでにメイド服を着ている生徒もちらほら見られる。
俺は厨房兼教卓が置かれていた場所に位置を置きメニューやらなんやらを張り付ける。
ちなみに料理はほとんど俺が担当でウエーターの人数が一時足りなくなるので其処に回った時は春富に任せる形になる。
「さて、準備するとするか」
持参してきたエプロンを使おうとしたがこれじゃあウエーターにもしまわった時のことを考えれば着替えるまでの時間があれだよな。
という訳でスーツを着ようと思ったが制服でいいだろうと妥協しておいた。
簡単なガスコンロにハンドミキサーとこれまたいいものが揃っていた。
これならいいケーキが創れるかな。
調理を初めて一時間弱。
「蓮司-、そろそろクラスパフォーマンス始まるぞ」
「え、もうそんな時間か」
「二組前から4番目だからな」
「片づけてから行く」
とりあえず声をかけてきてくれた男子生徒を先に行かせ俺は後片付けをした。
それから人気のない廊下を駆ける。うちの学校は体育館が二つあり、一個は大体育館。バスケットのフルコートゲームが出来たり卒業式を行ったりする場。
もう一つの小体育館は狭いスペースであるがバレーの競技など少なからずできる。
やたらとデカいのは大学附属の高校であるからなのか。
それとも莫大な資産を持っている鈴川グループによるものなのかは誰にもわからない。
ちなみにクラスパフォーマンスは大体育館で行わる。
中に入るとカーテンで光が全て遮断され誰が誰の顔だから判別できないくらいだった。席は自由であるが盛り上がっている三年生がおそらく最前列。俺たちの様な初心な一年生は控えめに最後列とかに座っているだろう。
「蓮司」
ふいに声をかけられ振り向くと俊哉と大野、田中佐藤のお馴染みの面々が見られた。
「喫茶店の方は大丈夫か?」
「まだ完全ていう訳ではないけれど早めにこっちを出て準備すれば間に合う」
実際のところぎりぎりだしここで抜けたくても外の配属警備員が生徒の脱走が試みられないように監視しているため教室にすらいけない。
一日目のこのプログラムは一般非公開。だからこの学校の生徒しか体育館にはいないのだ。
そんなことを考えていたら突然周りから熱気が漂ってきた。
理由はみんなの歓喜の声。
「みんなぁーーーーーーー!!盛り上がっているかーーーーーーーーー!!」
『おおー!!』
MCらしき生徒(おそらく実行委員の人だろう)がみんなに呼びかけるとそれにこたえるように観客も歓喜の悲鳴を上げた。
うう、耳栓持って来ればよかったな。
あまりに音が響きすぎて耳に来る。
「それじゃあだ第64回笹野葉祭開祭だーーーー!!」
MCの生徒の声と同時に開催宣言がされた。
やっとか・・・・・・
「まずはクラスパフォーマンスから行くよ!!」
『いえーい!!』
初めのクラスは一年一組。
こんな所でも一番だなんて嬉しいのか嬉しくないのか。
テンションたけー。
そんなことでクラスパフォーマンスが始まったのだ。
某ユニットグループの踊りを踊る一組はまあご覧の通り緊張でがちがちであった。しょうがないだろう。初めての文化祭で一番初めの組なんだから。
ちなみにこれは審査員方式での得点を得られる。
生徒会長や文化祭実行委員長などの生徒会役員十人が審査をする。一人十点が限界の採点方式でいいと思ったらそのいいと思った分の点数を入れる。
だけれどその審査員にあの『鈴蘭の会』の会長がいるなんて普通はねえだろ。
どれだけ支持率高いんだよ。
鈴川は・・・・・・審査員席にもいねえな。一体どこに行ったのやら。
「ありがとうございました!!さあ、審査員の得点は?」
一組の発表が終わったようだ。歓声からしてそんなに好評だったのか?
「得点は・・・・・・・63点!!」
うーん。基準としては高いのか低いのかよくわからない点数だな。
「それでは次の組。一年三組です!!」
ブシャーッと煙が派手に上がった。こんな演出まであるのかよ。
そして前から出て来たのは俊哉・・・・・だった。
あれ?あいつさっきまで俺の傍にいなかったか?
そう思ってきょろきょろしていると田中もいなかった。
・・・・・・・・。
「きゃー!!林君!!」
「かっこいい!!」
え、あいつってこんなに黄色い声を浴びれるほどの人物だったけ?
中学校時代からの親友だけれどまさかこんなやつだとは分からなかった。
あれなら賀川じゃない女子とも付き合えばいいのに。
そんな声を浴びながら俊哉は気さくな表情で踊り続ける。
これを見て賀川自身どんな表情で見ているのだろうか。どんな感じで見ているのだろうか俺は分からない。ただ、分かるのは賀川自身、素直でいない事だ。
パフォーマンスが終わりMC役の生徒が感想など述べる。
「さー、一年三組の得点は?・・・・・・・・89点!!
一年生史上最高得点を記録しました!!」
その叫びに一年三組一同は叫びをあげた。
しかし俊哉だけはおぼつかない表情のまま。そんな表情で俺は今の俊哉になんて声をかければいいんだ?
わからない。分からな過ぎる。俊哉の事も・・・・・・賀川の事も。
ただじっと考えているだけであった。
◇
午後の方も暗中模索だった。
仕事の方も身がつかずただぼうっとしているだけであった。
クラスメイトからも、
「具合悪いんだったら休んできなよ」
「どっちも間に合っているから休んで来いよ」
などと多数のクラスメイトから声をかけてもらうものの休むわけにはいかない。いつお客さんのピークが来るのかわからないからだ。
例え人手が足りなくなったその時に俺がいなかったらとなったら責任を持ちたくない。
「瀬原君!!チーズケーキ二個追加!!」
「ああ、分かった」
チーズケーキの材料を取りにそばの引き出しに行く。
簡単なものだから済むもののほとんどは作り溜めだ。そこにトッピングするっていう形になる。
売れ行きがいいともうその時点で生産は終了。だから品物が全て無くなった時点で営業は終了となる。
ちなみにうちのメイド喫茶はなかなかの好評。
さすがに外部から今日は来ていないがこの学校中でおそらく人気の高い催し物なのかもしれない。
鈴川がいるから確かなんだけれど。
仕事なれというか、手練れというか・・・・・・・・・なんか軽々と仕事をこなしている。
うちのクラスはなかなか美男美女がいるとのこと。そのわけか、このメイド喫茶だとそれなりの効果が表れる。
たとえばあそこにいる長髪でさわやか青年と言われているバスケ部の木村君はつい最近まで鈴川のファンだったけれど俺を鈴川の彼氏だと思い込んだらしくあきらめたらしい。正直、そのようなデマがどっから出てどのように広まったのか経緯を詳しく聞きたいところだ。
にしても鈴川の支持率が高すぎて他の女子から反感を買うようになりかねないが女子たちからもそれなりの信頼は得ているらしい。
お菓子で機嫌を取っているなど口が裂けても周りには言えない。
けれど・・・・・・・
俺は作業しながら鈴川の働く姿を見る。
あいつがモテる要素っていったいなんなんだ?俺は全校の男子にそう聞きたいのだった。




