第三話 初デート?
あれこれしているうちに気付けば土曜日。鈴川蘭と出かける日だ。
女の子とは初めての・・・・お出かけではない。
中学でも何度も友達と一緒に出掛けたことはあった。でも、友達も彼氏彼女はいた。
女の子と二人きりでお出かけは初めて。今まで行ったことのある人なんて聞かれても答えようがない。
天気は絶好のお出かけ日和で俺はあまり派手すぎてもなく地味でもない服装を選んだ。先日鈴川から来た連絡で集合時刻に間に合うよう俺は準備をした。
それにしても持ち物はこれだけでいいのだろうか。俺は言われた通りにしたんだがなんだか少なすぎる気が。
ちなみに鈴川に用意してほしいと言われたものは財布だけ。
本当にそれ以外の物は用意しなくてもいいのかと突っ込みたくなるくらい心配性になってしまっていた。
これで集合場所に着いたら鈴川の荷物がとんでもなく多く運ばされる羽目に・・・・・・という事はなしにしてほしい。それだけは勘忍だ。
けれど行き先も知らされていないのだからその可能性も十分あると俺は確信する。
何せあの鈴川だ。あの鈴川がこのお出かけの日に限って何かしないなんてことはありえないだろう。
「行き先おしえてくれてもいいのにな」
まあ、この前助けてくれたお礼だって言っていたからその辺はいいか。
携帯で時刻を確認するとちょうど家を出る時刻だった。
「そろそろ行くか」
俺は玄関でお気に入りの靴を履きドアを軽快にあけた。
言い忘れていたが俺は女子の私服姿など見たことがない。
女友達と行く時は視たことがあるがあれは俺の中で私服と呼んでいいのだろうか。正直言って体操着。ジャージだ。あれを出掛ける時に着られてはこちらも困る。
俺の鈴川の服装は最低ラインでいけば制服、あるいは夏祭りの時に切る浴衣ぐらいだろうと思っている。。
何が言いたいかというと俺の予想、というより確信している事なんだが鈴川の今日の服装は絶対に私服。毎日制服しか見ていない俺にとって前振りなしのぶっつけ本番である。
そんな紛らわしい考えが浮かんだのは集合場所についてからだった。
集合30分前に来た自分が馬鹿だと思った。
そもそもなぜ30分前に来たのかが自分でも理解できない。遅くても5分前とかその辺の時間だろう。
いろいろ考えているうちに約束の時間が来た。
俺のいる駅前のオブジェ的なものはカップルのデートの待ち合わせにもってこいの場所らしい。
と、鈴川がメールでそう言っていた。
本当なのかどうかは俺は知らないが集合場所は何処だって変らない。時間通りに来ればそれでいい。
「瀬原くーん」
集合時間から少したって鈴川のご登場。確信した通りやはり私服であった。
動きやすそうな格好をしていたのはそれでよかった。
「それで、今日はどこ行くんだ?」
「うーん、どこにしようか」
おい、お嬢さん。今考えるな。
「冗談冗談。いろいろ行きたいところもあるけれどまず買い物に付き合ってくれない?」
「別にいいけど」
「じゃあいきましょ」
と、同時に俺の腕に鈴川の腕が絡まってきた。正確に言うと鈴川が絡めて来たのだ。
これじゃあまるで恋人同士じゃないか。
俺のそんな顔や思考を気にせず鈴川はリズムよく歩いてく。
着いたのは俺もよく行っているデパートだった。
「で、今日は何を買うんだ?」
「ちょっと、新しい水着を買おうかと・・・・・・・・」
「ふーん、水着ね・・・・・・・っておい!!」
「何?」
何じゃねえよ。
何で水着買いに行くのに年頃の男子連れて行くんだよ。お前の思考回路はどうなっているんだよ。まさか男子用の水着を買うのか?
「別にいいじゃない。私が来た水着をあなたが見てそれであなたが失神したらその水着を買う事にするわ」
鬼だ。悪魔だ。こいつ俺を実験台にしようとしているぞ。
「安心して。お支払いは私もちだけどレジに持っていくのはあなたの仕事よ」
「安心出来ねえ!!完全に俺犯罪者じゃねえかよ。来週学校いけないぞ」
「じゃあ、領収書だけでも」
「変わってねぇよ!!間接的に俺が変態だと思われるだろうが!!」
やばい、少し興奮しすぎた。なんで俺こんなに水着で興奮してんだ?
自分があほらしい。
「まあ、いいわ。とりあえず着替えるから目逸らしててね」
「へいへい」
言われた通り俺は目を逸らした。
そういや水着を買うっていう事は今年どっかで着るという事なんかな。
海でも・・・・・ってあいつんちじゃあ海水浴とかいうレベルじゃなくてグアムとか行きそうだな。
「いいわよ。首だけ出してちょうだい」
「首だけね」
さすがに体全体試着室に入れるのはまずいよな。それでも首だけっていうのも・・・・・・・・・。
「!!」
「似合う・・・・かな?」
誰だよ・・・・・。これが鈴川?まず水着がどうとかの問題以前に恥ずかしがっている鈴川見たことないぞ。まさか・・・・こういうの苦手なのか?
「似合っているよ・・・・・うん。すごくいいと思う」
「なんだ残念。気絶しなかった」
おい、さっきまでの恥ずかしがり屋の鈴川は何処に行った。そしてお前は誰なんだ。
「まあ、私もこれが良かったからこれでいいわ。買いに行きましょう」
俺は鈴川に腕を引っ張られてレジへと向かった。
よっぽどあの水着が気に入ったのか満足げな笑みを浮かべていた鈴川は初めて見た。
鈴川が次に行きたいと言ったのは先ほどのデパートから近いゲームセンターだった。
俺も幾度か行ったことがあるがまさか鈴川と行くことになるなんて。
「珍しいよな。お前がゲームセンターなんて」
「あらそう?私だって時々行くけど」
そういって連れて行かれたのはゲーム機がいろいろ置かれている階の一角にあるプリクラだった。
友達に何度かプリクラで取った奴を見せてもらったがやっぱりお互いあの近さで撮るのか・・・・。
「瀬原くーん。はーやくぅー」
気づかぬうちに鈴川はプリクラの中へと入っていた。ったく知らないうちにほいほいどっか行く奴だ な。
俺は多少恥ずかしながらも中へと入った。
実際いうと予想通りだった。中はかなり派手でカメラの許容範囲がかなり狭いという事。あいつあの人数でここに入ったのかよ。
それでも二人は恥ずかしいと思う。
鈴川はすでに準備済みで俺はそれに促されるように隣へと立った。
ぐっ・・・・・近い。
鈴川の髪の香りや香水など俺の鼻腔をくすぐる。なんかやわらかい匂いだな。
「それじゃあ、撮ろうか」
「お、おう」
俺はがちがちのまま二人でプリクラを撮った。撮影されたやつが何枚か出てくる。俺の顔はもちろん緊張したような感じでカッコ悪かった。
「いい顔してるじゃない」
「そうか?めっちゃがちがちだけど」
「いい思い出になったわ」
「えっ・・・・・」
「さあ、次行きましょう」
再び鈴川に手を引き取られ俺はゲームセンターから出た。
気が付けばお昼の時間になっていたので俺たちは近くのレストランへと向かった。
聞くところによればその店は安いし美味しいという事で有名らしい。
実際にメニュー表を見てみれば一目瞭然。見た目的に高そうなものが案外安く俺の財布の中も余裕に残りそうだった。
「どう?よかった?」
「おう、結構いい店だな」
「そう、よかったわ」
鈴川は飯をフォークで弄りながらそう答えた。
それにしてもおいしいな。このカルパッチョ。
こうして俺と鈴川はどんどん話を膨らませていくのだった。
時刻は三時半。俺たちは学校から近い公園に行った。
あまりい一眼のつかないところで俺と鈴川はベンチに腰を掛けた。こうしてみてみれば俺たちはカップル同士に見えるだろうが鈴川本人はおそらく気にしていないな。
「あっという間だったな」
「そうね・・・・」
俺の呟きに鈴川は憂鬱そうな感じで答える。
何かあったのか。
「どうしたんだ?」
「なんでもないわ。ちょっと心配ごとがあっただけ。気にしないで」
気にしないで。と言われると余計気になってしまう。だが本人が大丈夫というのならばそれでいいのだろう。
「今日はありがとうね。こんな御礼じゃあ済まされないだろうけれど」
「そんなこと言うな。人を助けることなんて当たり前だ」
「いいよね、瀬原君て。素直にものが言えて」
最後の言葉がよく聞こえなかった。鈴川が何を言いたかったのか。俺はずっと疑問に思えた。
けれど鈴川には今日楽しんでもらえただろう。もうないかもしれないが今度どっかいくときは俺がどっかに連れて行ってやろう。
「また・・・・・・一緒に出掛けてもいい?」
え・・・・・。
意外な一言が俺に耳に。
「じゃあ、帰りましょうか」
何もなかったように、鈴川はベンチから立ち上がり俺に手を差し伸べる。
「ああ」
手を取るが、何気、先に立ちがる鈴川の表情は何故か悲しげに見えてしまった。
また明後日、学校でいい表情で会えるのだろうか。それが心配で俺は夜も眠れなかった。