第三話 部活動を作るようです
なんだか言ってもう土曜日。時が過ぎるのは早いものだ。気が付けばもう週末。そして気が付けばもう文化祭という形になる。
今日は約束した通り俺は鈴川の家に行くことになる。
鈴川んちにははじめていくが、家がどんなものなのか大体の予想は立てられる。
お嬢様だからそこらへんは当然だよな。
いつもの休日より早く起きた俺は学校に行く時間帯に準備をする。朝ごはんは軽いものでもいいか。
とりあえず買いだめしておいたパンを適当に食べることにした。
クッキーは昨晩の内に作っておいたから既に机の上にはクッキーがいっぱい入った袋が置いてある。それと学校に行く時とは違う鞄を部屋の隅から引きずり出し、筆記用具類や飲み物などいろいろ詰め込む。昼までかかるかどうかすら言わなかった鈴川の事だ。どうせ昼飯まで御馳走する気でいるだろう。
そんなところまで俺はされたくない。むしろ御馳走させたい方である。
だからおにぎりをいくつか握っておく。鮭に梅、おかかや明太子といったおにぎりのベースとなる具材を詰め込み詰め込みバスケットへと投入する。
「こんなものかな」
まんぱんになったバスケットを見て俺は呟く。
おにぎりがいくつも詰められている中、一玉デカいクッキーの袋が隣にドスンと置かれている。
「これならいつでも腹が減ってもいいくらいだろ」
これで弁当類はいいとしてあとは・・・・・・・・
無事鈴川の家までたどり着けるかが一番の問題だな。
メールで送信されてきた地図をアップロードし鈴川の家がどの辺に位置しているか確かめる。
ここらへんじゃ・・・・・・・商店街沿いをまっすぐ行ったところか。
ここなら歩いて20分。自転車で言った方が速いな。
時計で時間を確認した俺はいつもの靴を履いて家を出た。
◇
鈴川がから送られてきた地図を頼りに歩いて35分。俺は無事鈴川の家についた。
いや、この旅は長かったよ。
なんかの迷路をくぐっている感じがしたからな。にしてもこいつの家までの道はあまりにも複雑すぎる。
こいつの地図も適当なのかもしれない。俺んちから近そうな道を適当に線を引っ張りやがっておかげでこっちはあっちこっちいって息ゼエゼエですよ。
とりあえず、こいつんちに入んなきゃ。
モンスターに大ダメージの攻撃を喰らった勇者のように俺は手を震わせながら大きな門のインターフォンを押す。
数秒して女の声人らしき声が聞こえてきた。
「はい、どちら様でしょうか?」
「あ、鈴川さんの友達の瀬原と申します本日鈴川さんに呼ばれてこちらへお伺いしました」
「分かりました。今すぐ門を開けますので少々お待ちください」
女の人の声がそこで途切れるのと同時に門の鍵が開く音がした。
なんかこの声どっかで聞いたことあるな。
思い出しそうなことを考えながら俺は鈴川の家の敷地内へと足を踏み入れる。
いや、率直な感想を言うと予想以上。
だって普通のお嬢様の家にプールが二つもあるか?あるわけないだろ。
こんな物作る金がどこから湧いてくるのかぜひとも本人から聞き出してみたいものだ。
聞く勇気はさらりとないのだけれど。
それでも誰でも興味を示してしまうほど無駄に広い敷地内だった。
家の方も無駄にでかかった。某テーマパークのお城を連想させてしまうくらい大きく綺麗なものだった。
周りを興味深く見ながら歩いていると、玄関の扉が見えた。俺はもう一度インターフォンを押す。
するちガチャリとした音が聞こえてきた。
入ってこい・・・・・なのか?
ここで侵入して不法侵入の疑いで逮捕されたら俺は間違いなくへこむ。
しかしここで待っているのも何かと分が悪い。仕方なくおれは中に入ることにした。
中はかなり豪華でパーティーなんかでよくあるシャンデリアが普通にいくつもの釣り下がってあった。それにステンドグラスもお手の物だ。なんかの動物だか何だかわからないがそれなりの美味い絵がいくつも細かに描かれている。
さて、どうしたものか。
あまりにも広すぎて鈴川がどこに居るのかすらわからない。他の皆も来ているかもわからないわけだし。こうなったら片っ端からある部屋ある部屋あけていくか。
けれど・・・・・・・・・
たとえば鈴川が着替えていたとしよう。そこにドアを盛大にあけて入ってきた馬鹿がそこにいる。嫌われる。ありえない。通報される。
俺はそんなデリカシーのない人間ではない。とりあえず使用人さんとかに話聞いてみよう。
でも連絡するって言ってもどこに?俺には思い当たる節の人が存在がないんだけど
やっぱり外内さんか。けれどメアド持ってないし。
「ったく、部屋がある場所くらい早めに教えてくれろよな」
呆れ交じりの溜息を入れながら場所をはかっていく。
当てもなく歩いていると地図らしき標識が壁一面に張り付けられていた。
見るからに怪しいものだがこの家ならこの地図があってもおかしくはないはずだ。
それにここの部屋は30室あるな。
「・・・・・・ここホテルかよ」
まあ、さすがに誰の部屋があるまでは書かれていないよな。でもホテルと同じ部屋番号って・・・・
めんどくさくなったので俺は携帯を取出し鈴川に電話をかける。
同じ建物にいるのに電話をかけるなんて・・・
『あら、誰かと思えば瀬原君。まさか私の家に来る途中でかわいいカラスを助けようとして車にひかれたから助けに来てほしいとでも』
勝手に人を事故ったように言っていますね。完全に人をけが人としているよな?
「んなわけあるか。分かっているだろ。お前の部屋がどこにあるのかわからねえんだよ」
『どうせ建物の案内図のところにでもいるんでしょ?だったらそこからまっすぐ歩いて突き当りを右に。そこは行き止まりだからその三つの扉が私の部屋よ』
「お前部屋多いな」
部屋1つ・・・・・となると俺んちのリビングの約三倍。それを三つとして・・・・・・
だめだ。ぜいたくすぎる。
『もうみんな来ているからあまり待たせないでね』
「はいはい」
それから鈴川は小さく笑いながら電話を切った。
これで俺だけ迷ったとなれば相当な笑いものになるぞ。
「さて、行くとするか」
携帯をぱたんと閉じ、俺は鈴川に言われた通りの道筋で行くとした。
◇
三つのうちのどれかを開けようか迷った。
なんか正解は一つだけで残りの二つの開けると地獄の道へと・・・・・・
なんてことはさすがにないと思うがどれを開けるのか流石に迷う。どうせ鈴川の事だろうだから片方は小麦粉だらけの部屋でもう片方は・・・・・・・・・・
だめだ。想像すればそれなりに怖くなる。
まて、なんで俺はここで躊躇っているんだ。しかも人んちの中で人んちの部屋の前で。
これが公共の場だったら完全に変人扱いだな俺。
とりあえず正解の方を開けるんだからな開けるだけだし。
違かったら違かったらで見なかったことにすれ済む話だ。
さて、
「とりゃあ!!」
中二病全開のやつみたいに俺は盛大に扉を開ける。
ちなみに明けたのは真ん中の扉。
その先に見えたのは!?
「よー、遅かったじぇねえか旦那」
「お前が来るまで暇だったんだぞー」
・・・・・あたり?正解?ビンゴ?
俺はきょろきょろと辺りを見回す。
その視界にあるものが映った。
扉が二つ。
扉が二つだ。俺は他の二つの扉と視界に入ってきた扉を照らし合わせる。
一致・・・・・してるのか?俺は部屋の中のドアを見ては廊下のドアを見るという反復法を繰り返す。ちなみに中にいるやつらからは変な目で見られている。
「瀬原君。挙動不審な行動をしているカピバラみたいな動きをしていないで早く中に入って来てよ」
「俺はいつからカピバラになった」
「ごたごた言ってないで早く来いよ。話が進まねえんだよ」
鈴川、俊哉から非難の声を浴びらされるも俺は部屋の中に入る。
へえー、ここが鈴川の部屋か。
ざっと俺の部屋と比較して5倍くらいはある。まず部屋の広さが俺ん家のロビングの広さよりもあるという何とも羨ましいに越したことのないお部屋であること。
「で、話って?」
「先日も言った通り文化祭についての情報交換よ」
「具体的には?」
「なんか作戦とか組むんだってよ。どうやったらお客さんがいっぱい来るとか売れ行きが良くなるのか」
「俺たちはいつから商売をするような人間になったんだ」
「ちなみに今回は連合を組むわよ」
「戦争にでも行くんですか?」
「ブルータス討伐よ」
「中世時代の兵士ですか!?」
・・・・・・なんか趣旨がそれているボケ突っ込みが起きているんだけどこれはまさか俺のせいですか?そんなわけないよね?
「ちなみに文化祭を機にこのメンバーで部活動を創部させようと思うの」
「はい?」
俺は疑問をそのまま口にした後、視線で俊哉と語り始める。
<今あの人なんて言った?>
<部活作るんだと>
うん。あながち俺の聞き間違いではなかったようだ。
「動機はなんだ?」
「それは一生に一度しかない高校生活なのよ。それを部活に入らずに青春を謳歌するなんて不可能に余裕で達するわ。そのためにも私は部を創部させるわ」
あー、余計にわからなくなってきた。聞かなきゃよかったのかもしれないな。
「で、活動内容は?」
「笹野川学園の生徒がよりよい高校生活を送れるために私たちが困っている人をサポートし、更にはその外の人でも助けられるような活動よ」
早く言えば中二病だな。考え方だな。
まさか鈴川がここまでお子ちゃまな奴だとは俺は思いもしなかったな。
来る家間違えたんじゃなかったのか?
「春富さん。例の物を」
「はい、会長」
会長?誰のこと言っているんだよ。春富。
しかもお前が敬語って・・・・・似合わな。
春富は鈴川に言われた通り鞄からよく書初めで使う和紙を取り出した。
そこには達筆と言っていいほどきれいな字で墨で書かれていた。
『青春を掴むため乙を鍛える会』
は?乙を鍛えるってどう言う意味だよ。
・・・・・なるほど、己と乙を間違えたのかよ。
にしてもさっぱり意味の分からない部活だな。
「ちなみに略称は『青春乙』よ」
略称なんてどうだっていい。
しかもなんか胡散臭そうで活動内容がめっちゃずれそうな部活にしか俺は想像できないんだけれど気のせいか俊哉君。
アイコンタクトを必死に求めるがあいつ賀川と仲良く談笑しやがってる。
くそっ、あとで覚えてろよ。
「で、何をするんだ?」
「字を見ての如く、青春と掴むために自分自身を鍛える部活よ。
「それは様々な観点からの決定事項ですか?」
「さあ?」
おい、この人さあっていったぞ。さあだぞ。
創部動機を一番投げやりにしたらそれこそ本末転倒だぞ。
「でも部員がたしか最低でも八人いなきゃ立てられないんじゃなかったけ?」
「いるわよ。八人」
俺は周りを見回す。
まず楽しそうに談笑している俊哉と賀川。
その横ではカードゲームらしきものに没頭している佐藤、田中。
俊哉と賀川同様楽しそうに談笑をしている春富と大野。
そして俺の眼の前にいる自称会長の鈴川。
「一人足りねえじゃねか」
「ここにいるわよ」
ピッと鈴川は人差し指を突き出してきた。その方向は俺。
え?俺が部員?
「冗談じぇねえよ。ただでさえ家の家事とかで忙しいのに」
「別に運動系とかそんなタフなものじゃないわ。基本駄弁ったりしているだけだから」
んなもん、喫茶店でやってろよ。
「という訳で瀬原君も部員だからね」
もう決まりかよ。
まあ、これ以上口出ししても意味ないだろうし一応籍だけ置いておくか。
「では、メンツもそろったことだから。そろそろはじめようか」
ドアの前ずっと佇んでいた俺の手を鈴川を引っ張る。
なんだかんだ言ってこいつも自分の青春を掴みたいだけなのか。
それもそうか。こいつも高校生だ。それくらいの念は持っているはずだ。
にしても・・・・・気になる部活動内容。
あー、俺修羅の『自らを演出する乙女の会』略称自演乙とはなんの関係もないですww




