第十五話 助けに来てくれるって信じてた
第二章にも拘らずスリルがあり、なぜか難しい話ですww
俺たちの乗っている車は慎重に鈴川の携帯から発せられている位置へと行く。慎重に言えどもさすがにこんな車がわんさか溢れている中でゆっくりなんて言っていたら狩られてしまう。
さすがに交通渋滞までとはいかないが夏休みが三分の一を過ぎたところでそろそろお盆が到来する時期だ。
「向こうも信号で止まったみたいだ」
携帯の地図を見て俺は言う。
俺たちが乗っている車通っている車との距離は依然と変わらぬまま。割り込みといった方法もあるけれどこんな密集地帯じゃあ嵌ってしまったらどうしようもない。
「これだけ車があっちゃあ下手に動けないよな」
「先回りするか?」
ハンドルの縁をコツコツとリズムを刻みながら兄さんは俺に聞いてくる。
「先回りしても途中でルートを変えられたらそれこそ意味がなくなる。先回りするならもう少し待ってからの方がいいよ」
とはいったもののここから先回りできるルートなんてあるかどうかするらわからない。六本木の裏道を使えばどうにかなると思うけれどそこから犯人に差を開かれたらもうおしまいだ。
なら無理強いして乱入するか?無理だ。たとえそうできたとしても後先考えれば大体わかる。
「捕まえるっていうけどさ、まずは犯人を追いつめたりするのが先だよな?」
ふいに俊哉が思いついたようにつぶやく。
「まあ、それが最優先事項だからな。いきなり車の近くに行って、ハイ、捕まえた。なんて小学生のする鬼ごっこじゃあるまいし」
そうだよな。鬼ごっこじゃないんだ。追いつめて捕まえる。それが一番ベターな考え方だ。
捕まえるにもまず、捕まえるための前提、つまりは追いつめるにはどうしたらいいのか。
「なんか嫌な雲行きだなー」
窓の外を見ながら俊哉は言う。
「確か今日の降水確率80%らしいよ」
そういわれると外も風が結構吹いていてこの時期で言えば台風か。そう思えるくらい風は強く音を荒くたてていた。
こんな自然的なことが起これば、外にいる人たちは中で待機しているんだろうな。
中で待機か・・・・・・・・・・
自然的に・・・・・・・・
そうか、自然的におびき寄せればいいんだ。
わざわざ強引にまでおびき出さなくてもいいんだ。おびき出すまででいいんだ。
端的に難しいことは考えなくてもあいつらは捕まえられる。
けれどどうすればいい?自然的にかつ簡単にやるなど言葉では楽そうに思えるかもしれないが、実際やろうと実行を移せばそれなりに苦労はする。
でも相手は誘拐犯。何を装備しているのかわからない。銃にしたってナイフにしたってどちらも高校生ある俺に勝てるような代物じゃない。
鈴川の家に身代金を要求する位の輩だ。
いくらなんでも武力行使は無理だ。自己防衛もやれるものならやってみたい。
混み合っている中では下手に動いても何の意味もない。
ここは時間まで待つのが無難なところだろう。
「動くぞ」
兄さんがそういうのと同時に、車が動き始める。
どうやら犯人の車も動き始めたようだが、少し打ちにくい。
さて、始めるとするか。
俺は携帯のアドレス帳から鈴川の携帯番号を引っ張り出す。
たとえ白が出ようと黒が出ようと犯人につながる形になる。
けれどどういった手順で調べれば・・・・・・・
仮にこれが成功したとしてもその後が本番だ。あいてが戦闘狂が戦闘に入ったなら即日に排除するぞ。
今の俺には勝算がほぼ皆無。
ならば鈴川の家に応援を頼むか?どうやって?
たとえ鈴川の家がそうだっとしても仮にOKが出されるとしてもだ。
そのぎくしゃくとした感覚は戻るのだろうか。
兄さん名義ならどうにかなると思ったけど。
こうなれば覚悟の上か。
俺は一か八か。犯人と口論でけりをつける。
「俊哉。大野たちに連絡してくれないか?俺たちが今向かっている場所に全員がいつ来るのかとか犯人の車が分かったと言ってくれ」
「分かった」
俊哉は言われるままに携帯を取出し連絡する。
三人には行ったり来たりと悪いかもしれないけれど自体が混乱している今、しょうがない。
「ああ、大野?おれだ。
蓮司からなんだけど・・・・・・・」
大野が俊哉からの電話に出たらしい。
こうなったら徹底的にやるしかないな。
「で、何か策はあるのか?」
運転席で運転しながら兄さんは聞いてくる。策はあると言われてもそれほどのものではない。
「ちょっとしたことやるだけだよ」
「まあせいぜいお前に頑張れよ。さすがの俺も余計な手出しはできないからな」
言っている意味がさっぱり分からないんだけど・・・・・。
「蓮司、大野たちはどうすればいい?虎ノ門駅についたらしいけど」
「早いな。それじゃあ十分以内に六本木通り沿いにあるアメリカ合衆国大使館にこれるか聞いて」
「了解」
これで大野たちを拾って奴らに電話をかければうまくいく。
気分は策士のようだ。
「蓮司、それじゃあ俺が言った通りになっちゃうぞ」
う、どうやら内面が思いっ切り顔に出ていたらしい。相変わらず人の心を読んじまういやな兄だなとつくづく思う。
それはそうと。
「大野はどうだった?あいつ朝すごかったからさ」
寝癖ぼさぼさでとてもじゃないが表に出せるような恰好じゃなかったからな。
「なんか生き生きしてたよ。サスペンスドラマみたいな展開だなって」
にゃろう、あとでシバキ倒してやるか。
車は坦々と六本木通り沿いを走る。あいつら間に合えばいいんだけど。
向こう側に見える信号が青から黄、そして赤へと変わり車は止まる。
地図を見返してみると点滅している点は止まらず動き続けている。
やべっ、信号の計算を入れてなかった。
これで逆に差をつけられたら元も子もない。どうにか前の車を追い越さなければ・・・・・・・
こうなったら始めるしかないか。
「兄さん。信号渡ったら二番目の角を曲がってほしい。そこから裏通りに入れるから」
「了解」
俺は地図を閉じ、アドレス帳を開くという反復法を行い鈴川の携帯番号にかける。
できれば鈴川が出てきてほしいところだけど、犯人が出てきてくれれば尚更だ。車が再び動き出すのと同時に俺の通話が始まった。
「くっそ、よりによって渋滞かよ」
運転席にいる男が愚痴をはく。まだ帰省ラッシュの時期ではないけれど都会だから車が多いのは仕方のないことだ。
とは言ってもいつものこの時間帯よりはさぞかしましな方だろう。
そこまで混んでいなく割とスムーズに進む。
「どうする?裏道でもとおっていくか?」
「そうだな。その方が早いし表に出て下手に警察の検問にひっかかるなんて言うオチはやだからな」
ここ最近誘拐事件というのが連続で勃発しているため、警察の検問は耐えかねなく、いくつかの場所で行われている。
そんなことをしてしまった彼らにとって表に出るという事はそれほど度胸があるという事になる。
彼らは仕事を失った者同士。いくつもの企業を就職したものの数少ない日数でクビになり当てもなくこの場所を探していた。
お金もなく、毎日の食糧は裏地にあるゴミ箱の物ばかり。そんなのが彼らの生活だった。
しかしある思い付きによってその生活ともおさらばとなった。
それが大手企業の御曹司あるいは令嬢を誘拐し身代金を要求。最終的には囚われたほうの身柄は確保されるものの要求された身代金は彼らの手の中へと。
それが三件くらい続いた。
幸いにも死者を出していないものの犯罪紛いのことはしている。拳銃をこめかみに当てつけることなど簡単なことだ。けれど彼らは人の殺し方を知らない。人を殺したことがないからである。
人を殺したことがないから人が死んだときの絶望感を知らない。
だから誘拐した人のこめかみに銃を当てた時の手の震える感じは相当なものではないと彼ら自身心で語る。
「とりあえず次の曲がり角で裏に行こうぜ」
信号から赤から青へ変わったのを確認してからアクセルを踏む。
その瞬間、助手席に乗っている男が持っている紙袋から振動が伝わってきた。
「お前の携帯か?」
「いや、俺のは胸のポケットに入っている・・・・・・」
「ってことはあの嬢ちゃんのか?」
「親とかだったらどうする?」
かの有名な財閥が特殊部隊を送り込んでもおかしくないと思うくらい強力な家だという事は彼らも承知の上だ。
男は袋からいまだ振動が続いている携帯を取出す。
「おい、男だぞ」
液晶に映し出された表記をみて男はそういう。
「どうする?出てみるか?」
「一応パチこいておこうぜ。そうすれば彼氏も納得するだろうし」
「ああ、そうだな」
男はそう言いながらも恐る恐る携帯を開き応答ボタンを押す。
「ああ、ううん!!もしもし」
芝居がかった席を凝らしながら男は瀬原蓮司からかかってきた電話に出る。
きた!!
相手はやっぱり犯人だ。よし、これならいける。
「あの・・・・鈴川さんは?」
俺は少し芝居がかった口調で話す。
携帯には拡声器をつけ、運転している兄さんにも後部座席に座っている俊哉にも聞こえるように俺は音量を少しづつ上げていく。
こちら側の声や外部の音は向こう側には入ってこないため、何をしようが分からない。
『あ、鈴川さんは今買い物に行っております。ですのでもう少しお待ちを・・・・』
バレバレだっつーの。
こんなんで時間をかけても無駄かな。
「買い物に行っているんですか?僕たち今鈴川さんを探しているんですけど」
『ど、どういったご用件で?』
「先日鈴川さんが誘拐されたって聞いたんですよ。あの連続誘拐犯に。
それですよ。僕たちが探している理由は。あなたたちが一緒にいるという事はもう見つかったんですね?」
『ええ・・・・まあ、はい』
あまりにも俺はこの男との会話のキャッチボールができていない。むしろ遠ざけようとしているといった方が正確か。
俺はさらに追い打ちをかける。
「おかしいですね。ならば既に検問なんてやっていないはずですし・・・・・・・」
ここで動揺をしているのならばもう確信かな。分かっていると思うけれど俺はトドメの言葉を言った。
「普通なら執事や使用人がお嬢様の携帯を勝手に使うなどあり得ないですよね?」
普通ならありないことだ。
いくら俺でもこれくらいはさすがに知っている。
さすがにこれで確実に奴らだということは断言できる。
あとは・・・・・・・・。
「もう隠さなくてもいいですよ。まあ検問がそこをまっすぐ行ったところでやっているので念のため確認してもらいましょうか」
『おい、曲がれ!!』
男の焦った声が拡声器を通して車内を響かせた。
電話は切断され俺は恭しく地図を開くと車は俺がさっき言った通り、信号から二つ目の曲がり角で急にまがった。
「車が動いた!!」
奴らが動いたことを知らせると兄さんは急に車を止めた。
大野たちがそこにいたからだ。
「お前ら早く乗れ!!」
「あっちこっち行かせておいてそれかよ!!」
田中の突っ込みに俺は内心謝る。
いや、ほんとすまないと思っている。
「誠意がこもっていない謝罪は受け付けないから早く乗らせて」
はいはい。どうせ俺には誠意など籠っていませんよ。
ぶつぶつ陰で言いながら俺は大野たちを乗せる。
「それじゃあ行くよ」
兄さんの合図とともに車は急発進する。
時刻は四時半。この時間帯でもまだ明るいけれどさすがに今日は分厚い雲が空一面を覆い尽くしている。雨もパラパラと降って来ていて夕立どころか本降りと落雷が来そうな勢いだ。
車は余裕で交通規制の時速内に反しながら裏道をかけていく。
こりゃ、道交法違反で決まりだろ。
「見えた!!」
俊哉が指差す場所にはベンツが見える。
「兄さんもう少し早く!!」
「そらよっと!!」
思いっ切りアクセルを踏んだら車が思わぬ速さで行く。ちょっとこれは速すぎないか?
次第にベンツに追いつき兄さんはハンドルを思い切りきりドリフトする。
火花が散るのがよく見え、車はベンツの前に止まる。
男二人の驚いた表情が車のフロントガラス越しから見える。
「捕まえたの同然だ!!」
俺は勢いよく車から出てベンツのドアを思い切り乱暴にあける。
そして運転席にいる男の胸ぐらをつかむ。
「お前等か。鈴川を誘拐したのは」
「お・・・・お前か」
「GPS機能でとっくにお前等だっていう目星もついている。助手席に乗っている男の持っている携帯がその証拠だ。
鈴川を返してもらおうか」
俺は動物を狩るような目でにらみ白状させようとする。
しかし 男はうんともすんとも言わない。
「お前らはもう終わりだ。さっさと白状しろよ!!」
「わ、分かった・・・・・・俺たちの負けだ」
負けも何も勝負すらしていないのになぜこいつはそんなにそんなことが言えるのか不思議だ。
けれどこいつらが全てはくまで俺はここから立ち去らないと決めている。
「・・・・俺たちが攫ったお嬢さんは今東京タワーの中にいる」
東京タワーって・・・・つい最近閉鎖して近日取り壊しになるっていう東京タワーに?
しかもあそこは鉄骨だか支柱の部分がもろくなっているっていうから立ち入り禁止のはず。もし鈴川に何かあったら・・・・・・
こいつらを警察に届ける余裕なんて今あるはずがない。
「大野!!お前らはこいつらを警察に届けろ!!」
「な!!俺たちがそんな大役無理だろ!!」
しょうがねえだろ。俺はそんなことしている暇なんてねえんだから。
「兄さん。東京タワーお願いする」
「話は大体分かった。じゃあ、いくよ」
兄さんはアクセルを思いっきり踏み大通りへと軽々出て行った。
俺は着くまでの間携帯を取出し警察へ誘拐犯が捕まったことを連絡する。
「もしもし、先ほど誘拐犯を捕まえました。場所は・・・・・です。はい。はい。分かりました。
お願いします」
端的にいきさつを説明して俺は電話を切る。
その瞬間、轟音が俺の耳に届いた。
なんだ?この音。
かなり大きな音だったから雷でもなったのか?それにしても金属的な音がした気がする。
金属的な音?
窓を開け、周りがざわめいていることに気付く。
車に乗っている人は気づいていないのかどうかは分からないけれどさすがにあの轟音だと気づくはずだけれど。
助手席の窓から身を乗り出しざわめきの声を聞き取る。
(なんか東京タワーの支柱が一本崩れたらしいぞ)
(ああ、確か強風で耐えきれなかったらしいな)
(酸化していたりして長年放置していたからね)
東京タワーの支柱が崩れた?
「兄さん、急いで。東京タワーの支柱が崩れてる!!」
「よし」
豪快にハンドルを切り裏道を通る。
ここから近いという事なのか確かに数分で表に出て東京タワーが見えている位置に来た。
しかも東京タワーは傾いていた。
支柱が崩れたせいだろう。バランス悪く傾いていて今でも全部崩れそうなくらいだった。
よりによってあいつらが携帯を持っているなんて・・・・・・・・・
「着いたぞ」
気づけば東京タワー近くの神社に車を止める。
「どうやって助ければいいんだよ」
唇を噛みしめ俺は高い背高のっぽの電波塔を見上げる。
ここからの高さをどうやって助ければいいんだよ。ヘリや救助隊を呼ばなきゃ助けられるような問題じゃない。支柱は一本、完全に錆でやられていた。
ヘリ・・・・・ヘリか。
心当たりが一個ある。けれどこれで行けるのか?自分の手で助けなくてあの人の力を借りるのか・・・・・・・
けれど今はそんなことを言っている場合ではない。
「兄さん、鈴川の親父の携帯番号知っているか?」
兄さんなら鈴川の父さんとなる関わりはある。なんならここは共同でやるしかない。
「何するつもりだ?」
「応援を要請する」
携帯電話を耳に当て俺は喉をごくりと鳴らす。
口が渇き喋れそうな感覚ではない。どうせなら舌を噛み切りたいくらいである。
『もしもし』
出て来た声はどこかで聞いたことのある声。それもそうだ。先日俺はこの人と会ったんだ。鈴川の父親と。
「知っていると思いますがすぐにヘリを二機出動させてください。
理由?そんなの人を守るに決まっているじゃないですか」
力強く俺はそういうとすぐに通話を切る。
頼むから強風や雷よ堕ちないでくれと心で強く念ずるのであった。
十分後、ヘリは二機到着し俺はそのうちの一機に乗る。
兄さんはもしものために待機し俺は鈴川家の使用人である外内さんが操縦するヘリへとのることになった。
にしても・・・・・・・
「お久しぶりです。瀬原様」
使用人が・・・・といってもメイドだがメイドが飛行機の操縦て・・・・・・
あまりにも似合わな過ぎる気がするんだけど。
むしろそのフリルとか邪魔でしょと思うけれどあまり気にしていないし取らないのかなと思ってしまう。
「では発進します」
飛行機は徐々に上へと上がり次第に前へ前へへと進んでいく。
「まさか君のようなものが私にそのような要請をしてくるとはな」
「僕はただ、鈴川を助けたいだけなんです。ただ、助けたいだけです」
いつもマイペースで人をうまく扱い、学校では特例の存在。頭脳明晰、運動神経抜群、容姿端麗と三拍子がそろった彼女を何故か助けたくなってしまう。
何故だかわからない。けれどそんな風に俺は思い、行動へと移る。
あのひ、屋上で彼女と出会ったところから。
俺は分かったのだ。
鈴川を守るのは俺で鈴川が守られるのは俺という事を。
単純明快な事なんだよ。この鈴川の親子げんかも。
簡単なんだ。
「はっきり言って俺は鈴川の留学に反対します」
「君がそんなこと言う権利はないが、その根拠は何なんだ?」
その根拠・・・・それは・・・・・・・
「自分で自分の人生を決めるのが、生き甲斐だからだと思います」
根拠かどうか分からないけれどこれが俺が示す唯一の言葉だと思う。
鈴川の言っていた自分で自分の幸せをつかむとの同じなのかもしれない。だから、あいつには自分で決めた人生を歩んでいってほしい。
「けれど、留学はいいですけれど。婚約には断固反対ですからね」
「気に入った」
白い歯を見せながら鈴川の親父はにかっと笑った。
「瀬原様。そろそろ蘭様がいる場所まで上がります。準備を」
「分かりました」
気分はハリウッドスター。と茶目っ気なことを考えるけれどこれは遊びではない。明日新聞の一面にドカッと載るかもしれないな。
さて、行ってきますか。
火災用の防護服を念のため着て俺は飛び移る準備する。
ガランッ!!
嫌な音が下で響く。
早めに助けないと後が大変だな。
「気をつけろよ。蓮司君」
え?俺は飛び移る直前、そんなようなことを言われて思わず驚きの顔をした。
体は宙へと上がり重力に従って段々と下へと落ちていく。
俺はの体は窓側ラスを突き破りわずか三メートルのところで着地し俺は受け身の体勢を取る。
「鈴川!!鈴川!!」
窓ガラスの破片が刺さっていることを気にせず俺はまだ二次災害など起きていないか確認する。けれどグラグラと揺れいてる感触はある。
ここであっているはずなんだけど・・・・・まさかあの犯人。
でもあそこで奴らは人を殺すような目つきでないのは確かだ。
「くそっ、鈴川!!」
何処で名前を呼んでも返事が来ない。
ったく、こういう言うときでも。
俺はあたり探そうと止まっていた足を踏み出そうとした瞬間にまた轟音がなった。
ガシャーン!!
とけたましい音が響く。
こう言うときに限って・・・・・・
「鈴川!!鈴川!!」
「・・・・はらく・・・・せ・・・らく・・・・・・・」
かすかに聞こえる誰かの叫び声。
この声は鈴川だ!!
どこだ・・・・・どこに居るんだ!?
「鈴川!!どこだ!!」
「せ・・はらく・・・・・・こ・・・よ」
どこだどこだどこだどこだ。
俺は必死に探し回るけれど鈴川の声は遠ざかっていくばかり。
「どこなんだよ!!」
わからない・・・・分からな過ぎる。
「せはら・・・・くん」
さっきより大きな声が俺の耳に届く。けれど俺の眼の前には崩れたがれきがいくつもの・・・・・
まさか!?
俺は目の前にある瓦礫を必死にかき分ける。
手が痛かろうが爪がはがれようが俺は全力で岩などをひっぺがえす。
そしてがれきと瓦礫の隙間から白い手がスッと伸びてくる。
俺は迷わずその手を取り残った瓦礫を取り除いてく。
「鈴川!!」
「瀬原君・・・・・やっと会えた」
おお、やっと会えたな。やっと・・・・・・・
けれどここで再会を喜んでいる場合じゃない。脱出が先だ。
「鈴川、歩けるか?」
「うん。なんとか」
「よし、じゃあ行くぞ。ヘリコプターが待ってる」
なんとか俺が鈴川を担ぎ入口としてはいった場所に移動する。
しかしヘリコプターは何処にもない。
ピリリリリリリリリリリリリ
携帯の着信音が響く。
電話主は俊哉からだった。
「どうした?」
『風がかなり強くてまともに飛べる状況じゃねえんだ』
「じゃあ、俺らはどうすればいいんだ?」
ここから飛び降りると言ったって250M位は軽くある。そんなところからどうやって・・・・・・
だからと言って風が治まるまで待つと言えどここがいつ崩れるか時間の問題だ。
こうなれば・・・・・・
「俊哉、今風向きはどっちの方向だ?」
『そんなの高い位置にいるお前が一番わかるだろ?えっと・・・・・東から西方向だ』
「よし、隣にホテルがあるだろ。そこに飛び移る」
『分かった・・・・・って!!飛び移る?着地の時はどうするんだよ!!』
「クッション代わりになるもの使えばいいだろ。鈴川の家ならそんなもの用意するのは簡単なはずだ」
だよな?と言う顔をしながら俺は鈴川に聞いた。
もちろん彼女は劣らぬ笑顔で答える。
「ということだ。それでいいか?」
『よくねえよ!!責任はだれがとるんだ?』
んなもん決まってるだろ。
「俺がとるさ」
『俺がとるって・・・・・・断言できる根拠はなんだ?』
「絶対にこいつを助けるからだ」
『・・・・・ああ、もう分かった分かった。全ての責任はお前に委ねるよ』
「頼りにしているぞ。相棒」
『人生の相棒は俺じゃねえけどな』
あとで殺すか。
悍ましい会話がようやく終わり俺は一息つく。
「瀬原君」
「なんだ?」
「あなたが助けに来てくれるって信じてたよ」
なんだよ、そんな改まった言い方は。
なんか久しぶりに話したから気が狂いそうだな。
「まあ、元は俺のせいだからな。プールじゃなくてもと違うところに連れ出せばよかったな」
「でも嬉しかったよ。あの時、瀬原君から手を引いてくれるなんて思ってもしなかったし」
頭を切ってなおかつ出血しているのにもかかわらずかわいらしい笑みを浮かべる。
綺麗な顔が台無しでしょうがない。俺も言えたもんじゃねえけれど。
ガラス張りのドアを思い切りぶち破ったからどこら中ガラスの破片が刺さっている。
剣道をやっているときの方がよほど痛かった覚えがある。
「お、どうやらえらいデカいのを持って来たな」
俺は下を見て感嘆の声を出す。俊哉もどえらいものを頼んだな。
「お前の親父さんも相当溺愛しているな」
「甲斐性なしだからね」
小さな笑みを浮かべながら鈴川は下を見る。
「そうだ、約束してほしいことが二つある」
「なに?」
「1つは着地するまで絶対に手を離すな。それと二つ目。帰ったらその傷をどうにか治してから学校に行け」
「学校なんてまだまだ先じゃない。何焦ってるのよ」
くすくすと笑いながら鈴川は飛び降りる準備をする。
「じゃあ、行くぞ!!」
俺と鈴川は同時に廃墟となった東京タワーから飛び降りたのだった。
~第二章 夏休みとお嬢様 完~




