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俺はお嬢様が恋をしたことに気付いていない  作者: 海原羅絃
第2章 夏休みとお嬢様
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第十四話 位置情報の発信

俺はプールで得られるだけの情報を得て、ブール内を後にした。たぶん鈴川の家もこのくらいの情報は得ているだろう。

 けれどこれは決して競争じゃない。鈴川を見つけ、犯人を捕まえるだけ。

でも仮にそうだとしても俺は鈴川が助かるのを指を咥えてみているだけだろう。

 賀川も別れ際に言っていた。「蘭はあなたが助けに来てくれると思っているはずよ。だからあなたは今得た情報を頼りに自分の足で蘭を探しなさい」

 なんか宣教師っぽく言っている感覚なのかまたは人生のベテランの様な言い方にしか聞こえない。

 確かに賀川の言う通りかもしれない。プールで父親と出くわした時のあの表情はどっからどう見ても鈴川じゃなかった。

 俺は駐輪場まで続く階段をゆっくりとゆっくりと下りながら考える。

 これで犯人が逃走に使った車は分かった。でも問題はその車が今どこにあるかだ。

 この東京の都心、交通網が異常なほどにパンクしている中でベンツを探すのはなかなか難しい。

 ベンツ自体、数は少ないかもしれないがこの街中でいったいどれくらいの車が走っているのか見当もつかない。

 国土交通省にでも行ってベンツだけ判別できる機会をもらってこようと思うくらいだ。

 もちろん、そんな機会があればぜひとも一度はお目にかかりたいんだけど。

「とりあえず大野たちに連絡だな」

 携帯を取出しアドレス帳を開き大野のアドレスを探す。文面を開き、文章には簡単に俺が次移動する場所に犯人の目星がつかめたことだ。

 俊哉の方にも送ろうかと思ったがまだ補習の時間帯だったのでメールを送信するのも気が引けた。

 まあ、あいつのことだから電源は入れっぱなしでマナーモードにもしていないんだろうな。

 返信を待たず、携帯をポケットに仕舞い自転車のスタンドを蹴り上げる

 目指す場所は、渋谷駅。

 そこまでの道のりは、すれ違う人とぶつかるのを気にせず俺は自転車をこぎ続ける。

 駅まではほぼ一本道のようだけれど人だかりをあまり好まない俺はわざわざ裏通りの道をチャリで行く。

 ビルとビルの間を往路するように行けば駅に着く。

 数十分もすれば狭い路地を抜けて駅通りに俺は顔を出した。

 自転車を降りて駐輪場へと止める。

 東京の駅は無駄に大きいと都外の人はまず第一印象からしてそう思うかもしれないがなれればお手者だ。案外楽に感じることも有る。

 人で溢れかえる階段を足取り重く上がる。やっぱり東京は他の剣と比べて二、三度気温が高いっていわれているからなぁ。

 こんな夏に軽井沢とかそんな避暑地へ遊びに行きたいものだと思う。

 いっそこのまま、新幹線にでも乗って行きたい。逃げ出したいという願望が俺の中ではとてつもなくあった。

 けれどやらなければならないことが俺にはある。

 切符売り場でも人口密度は膨れ上がっていた。とお目で見ても分かるようにあんな空間に数十分いるだけで蒸してしまいそうなくらいだった。

 俺は切符をあえて買わず、駅員から整理券をもらいホームに行く。

 階段をおり終わるのと同時に電車が到着したようなので俺はそのまま流れに乗って電車に乗る。

 この時間帯の電車に乗ったのが幸いしたのか、人はそれほどいなく普通に座れるスペースはあった。

 下車駅まで結構な時間はある。

 その時間まで俺は携帯を開きアドレス帳を散策し始める。

 手は次第に早く動いていくが、’鈴川蘭’と表記されたところで手は止まった。

 あれからあいつはどうしているのだろうか。閉じ込められている場所が分からないのに下手に動く理由があるはずない。

 何故か手は知らずうちに鈴川の位置情報受信する機能、つまりはGPS情報のオンボタンをプッシュしていた。

 まあ携帯の電源を切られているのだからそんなはずは・・・・・・・

 データ受信中の画面を見続け、悟り開こうとしたその瞬間、画面が一変した。

 「っ!!」

 声にならない悲鳴が車内を揺るがす。

 携帯に映し出されているのはデータ受信失敗の通知でもなく、代わりに画面全体に映し出されたのは地図だった。

 何が起こったんだ?

 俺は訳も分からず画面を見る。何かのエラーかと思ったけれど違う。確かに鈴川の携帯の一場が今俺の携帯に送られてきた。

 しかも今現在、鈴川はどこかへ移動している。

 要するにこれは鈴川の携帯に電源が入っているという事になるのか?

 それに移動している・・・・・・だとしたら。

 俺は携帯の画面を必死に操作する。

 点滅しているその点の先を行くように俺は地図を動かす。

 場所からして国道。しかも大通りだ。ということは鈴川は車に乗っているという事になる。

 ここから車が通る場所と言えば・・・・・・・・・・・

 六本木か。

 六本木なら次の駅で降りれば近い。走っていけば間に合うくらいの距離だ。自転車がないのは少し降りかもしれないけれど仕方のないことだ。

 でも待てよ。あの人なら・・・・・・・・

 俺は地図を閉じ、ある思い出した人物に電話をかける。

 アドレス帳は開かずにプッシュで電話をかける。

 電車内だろうが関係のない。非常事態だという事には変わりないんだから。

 プルルルルルルルルルルルという電子音が俺の鼓膜を震わせる。

 出てくれ、頼むから。

 強く念を押せば通話相手が出ることを祈っていると受話器をひくような音が耳に届いた。

 『蓮司か?珍しいな。お前が電話をかけて来るなんて』

 その声は紛れもなく俺の兄さんだ。

 俺は車内の中でも気にせず、大きな声を張り上げる。

 「兄さん今どこ?」

 俺は兄さんの最初の言葉を無視して話を進めていく。

 社内ではすでに俺の仕草を気にしているものがいるがそんなことは気にしない。

 「今・・・・・六本木駅だけど」

 占めた!!

 俺は心の中でガッツポーズしてちょうどついた六本木駅の車内アナウンスを聞いてもうダッシュで電車を駆け下りた。







~東京都某観光名所~



 鈴川は退屈そうに外の景色を眺めていた。

 先月閉鎖されたこの観光名所は風化による自然現象やそのほかのトラブルなどによってひどく荒れ果て、栄えたころの姿とは裏腹にさびて今でも鉄骨が堕ちてきそうだった。

 管理人という存在も皆無でいまやここは性分するという話で立ち上がっている。

 その鉄骨も、あちこち錆びた状態でそれを支え、異様なにおいを漂わせている。

 今でも落ちてきてもおかしくないくらいもろかった。

 誘拐されてどのくらいの日がたったのだろうか。まだ一日くらいだろう。

 普通なら誘拐した直後に殺すなどというシチュエーションはサスペンス物で見たことがあるが、彼女を攫った犯人はどうやら殺すことが目的ではないらしい。

 食事はちゃんととっている。もしろ取らせてもらったという方が過言でもない。

 トイレにも行けるし殺意というものが感じない。けれど悪意というものは感じる。

 男の一人は、望遠鏡を眺めなてもう一人の方は携帯の方をいじっている。

 この隙に携帯で助けの要請ができるが、後ろ手を縛られているのでうまく携帯を操作できない。

 「おい、そろそろ行くぞ」

 携帯をいじっていた方の男が望遠鏡を覗き込んでいた方の男に声をかける。

 「悪いな。ちょっとこれから出かけるところがあるんでね。一時間くらいで帰ってくるから待っててくれ」

 どこかへ行くのかは知る由もない。

 しかし、これは彼女にとってチャンスでもあった。

 鈴川は携帯を後ろ手にありながらも男の方へ投げる。

 転がっていく携帯は男の足元にぶつかり勢いが死んでいく。

 「どうしたんだ?」

 「充電が切れそうなの。充電器買って来てくれればうれしいわ」

 こんな出まで通用するのか、確かめてみる価値はあるのかもしれない。

 男たち何事もないかのように鈴川の形態をとりポケットにしまう。

 これなら・・・・・・・・・・彼は見つけに来てくれるはず。

 助けに来てくれるのは彼だけでいい。そう思って彼のアドレスにだけ位置情報を受信できるように設定しておいた。

 あの時離してしまった手をもう一度つかみたい。もう一度彼の手を握り締めたい。

 そんな風に切実に彼女は思うのであった。








「俊哉!!急げ!!」

 俺は向こう側から走ってくる俊哉を見つけ、急がせるよう催促した。

 急きょ合流場所を変えたのだから無理もない。

 大野たちにもすぐさま合流するように連絡がついたのはよかったもののさすがに時間が時間で間に合わない。とりあえずこれから鈴川の携帯が示しているこの車を追う。

 「急に合流場所変わるってどうしたんだよ」

 息をゼエゼエと立てながら俊哉は聞いてくる。

 俺は俊哉に携帯に映し出されている地図を見せる。

 「これって・・・・・・・」

 「鈴川の携帯から送られてきた位置情報だ。たぶん犯人の車に乗っているのだと思う」

 俺が説明していたのを見計らって兄さんが行き先を聞いてきた。

 「で、行き先は?」

 「とりあえずここに行って」

 俺は携帯を兄さんに示し、行き先を教える。

 「じゃあ、ひとっ走り行きますか」

 いつの時代の人だよ。そのうちバイクにでも乗りそうだな。この人。

 兄さんは車にエンジンをかけ、駅の敷地内を出て大通りへと出る。

 「で、話は大体聞いたけど。どうなの?」

 兄さんが口火を切る。そういえば一回家帰ってきたんだっけ?話を聞いたとなれば多分鈴川の家の物からだろう。

 「まあ蘭ちゃんも蘭ちゃんで大変だろうね。留学っていう話はお父さんからの方も相談に乗っていたけどまさかここまでになっていたとはね」

 「ここまでって?」

 「蓮司が絡むまでこの話が膨れがるなんてそうそうないよ。

  まず鈴川家だけの事情に第三者が首を突っ込むなんてまずあり得ないからね」

 言われてみればそうかもしれない。

 鈴川はその事を俺に相談も何もしてこなかった。むしろ自分で解決してやると言う気迫が大きかった。留学や婚約の話ってそこまで第三者に聞かれたくないのか。

 「兄さん。鈴川の家はどこまで動いているの?」

 「聞いたところによるとかなり厳重に捜査しているらしいよ。

 何せ身代金まで要求されているからね。それまでの猶予を兼ねて捜査しているらしいよ」

 やっぱり犯人の目当ては身代金か。

 そうなればそうなるでこっちもおそらく顔を見られているだろうし。

 ここは厳重に追ってどうにか追い詰められたいいんだけれど。

 「やっぱりここは慎重にいかないとね」

 「そう・・・・・だね」

 俺は携帯を握り締め唇はさらに噛みしめた。

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