第十二話 補習に行って来いや
朝の日差しが閉じていた瞼を照りつける。目を空ければカーテンの隙間から真夏の朝の日差しが差していた。
腰が痛いことに気づき、上半身だけを起こせば床で、正確にはカーペットの上で寝ていたことを認識する。俊哉たちも俺の横で伸びていた。
どうやら昨晩、あのまま俺たちは寝落ちしてしまったらしい。どこまで記憶が残っているのか俺でもわからない。けれど開いていた地図がそのままだっていう事と、空になった皿がそのままであるという事は飯を食ってからすぐに眠りについたという訳である。
携帯で時刻を確認すると七時を少し回ったところ。この時間帯で結構な暑さを感じるという事は昼間はどれだけの暑さなのか想像したくもなかった。
とりあえずこいつらを起こして朝飯の用意しとかなきゃな。
汗ばんだTシャツを変えるべく洗面所へ向かう俺。
窓もさすがにあけっぱなしだったというのに風1つないのはつくづく日本の暑さに愚問を感じさせられる。
Tシャツを脱ぎ脱衣かごという領域に放り込む。どのみちあとで洗濯するのだから直で洗濯機に入れてもいいのだけれど。
真っ白なTシャツが下に偶々あったのでそれを取り、頭と手を通すと鏡に自分の姿が映った。
寝癖が一つ二つ三つ四つ五つ・・・・・・・長くなった分余計に寝癖が増えた。
しかも昨日風呂に入っていなかったので尚更だ。
寝癖を直そうか。はたまたいつも通り適当に水で濡らせておくかで迷った。
まあどちらもでいいのだけれど。
けれど今日鈴川を探すにあたってこの髪形で外に出れば五年間風呂に入らず浸食をしてきたただの廃人とされてしまう。いや、廃神とされてしまいかねない。
まあ歩い程度の寝癖は残してもいいか。癖毛って思われてもいいし。
など、妥当な考えを自分で否定するまでもなく俺は水道に頭をセットし、冷水を頭に明ける。
いやー、冷たくていいねー。
なんか田舎に遊びに来たとき、川遊びで頭から水を盛大に被った感じ。
もちろん田舎などに行ったことはないのだけれど。
そろそろ・・・・・・・・・
冷やした頭をバスタオルで拭きドライヤーで乾かそうとしたの引き出しからドライヤーを取り出す。
温風を最大にしてドライヤーを髪の毛に向ける。生暖かく、温度の高い空気の砲が俺の頭にぶつかる。
にしてもかなり伸びたな。
髪の気を乾かしながら自分の髪の毛の手触りと長さを確かめる。最後に切ったのは高校入学前でそれ以降切っていない。もちろん切りたい時期などはいくらでもあったのだけれどいろいろ時間を探しているうちにその店はもうつぶれていた。なんていう落ちが一回あったなー。
兄さんわんわん号泣していたな。行きつけの店だったし。
そんなことを思いながら俺はドライヤーの電源を切り、元あった場所へ戻す。
ふと思いがけなく時計を見れば、時刻は七時十五分。所要時間はざっと十二分ほど。
バスタオルで髪の気を拭きながら俺は再びリビングに足を踏み入れる。
俊哉たちはどんな夢を見たのか聞きたくなるくらい気持ちよさそうに寝ている。
お前等よくこんな固いところで寝れるよな。
つくづく腰が痛いそうでないことに何となく羨ましがってしまう。
「さて、朝飯の用意でもするかな」
こいつらが寝ている間に飯を作れば時間としては四十五分位だな。まあ八時あたりとなれば起きるだろう。
そんなのんきなことを考えていると重要なことを忘れていた。
その発端は冷凍庫から冷凍食品を取り出した時だった。
冷凍庫から取り出されたいくつもの冷凍食品はレンジでチンすれば簡単にできてしまう手軽な食品として有名で簡単なものばかり。
そんな中の一つ。俺が固有名称としているこの焼売。
通称、『お焼売君』
中華飯店で作られている焼売はどんな味か俺には分からないけれど俺はこの冷凍食品の味しか知らないのは確かな事。だが幾ら冷凍食品だという事が分かっていようと俺はこの焼売が一番うまいと思う。
つまり何が言いたいのかというとだ。
俺が鼻歌で「おしゅーまいー、おしゅーまいー。外はカリッと中ふわっとじゅーしだよー」
などどこかで聞いたことあるようでないへんてこりんで歪なその歌を鼻歌で荒んでいると、忘れていたことを思い出したのだ。
焼売・・・・・・しゅーまい・・・・・お焼売・・・・・・
「ああ!?」
俺は叫び声と同時にすやすやと寝ている俊哉を瞬時に見る。
俺が甘かったか・・・・・・・
甲斐甲斐しく悔やんでいてもしょうがないのでずうずうしく寝ている俊哉をたたき起こす。
「おい俊哉!!お前呑気に人んちで寝ている場合か?寝ている場合じゃないよな。
そうと自覚できたらさっさと起きろ。お前はこんなところで寝ていちゃダメなんだーーーーー」
死んだ愛犬みたいに俺はこいつをビンタのゲリラをぶちまけるがそれでも起きる気配ゼロ。
「むにゃむにゃ・・・・・・おかわり」
「・・・・・・・・・・」
寝言は寝てから言え!!
って寝ているのか。
とりあえずこれだけ揺さぶっても起きないのは重傷っちゃ重症だ。一体こいつの朝どうしているのか知りたいくらいなんだけど。
こんなこと考えている場合じゃなかった。何とかしてこいつを引っ張り上げないと。
しかしその手段が一向に見つからない。もう、こうなったら手段もくそもねえ。強行突破だ。
俺は第三者から見れば明らか俺が変態なことをしていると自覚してしまうくらい変な体勢を取り、耳元にある言葉を吹きかける。
「賀川が今日プールに・・・・・うぎゃ!!」
情けない声にひしゃげた音が聞こえた。
情けない声は俺の小さな叫び。言葉をかけたと同時に俺は顔面に俊哉のヘッドブローがクリーンヒットし、ひしゃげた音というのは俊哉の顔面が俺の額に激突した音。
こいつ・・・・・・石頭だっていう事すっかり脳内にお蔵いりしてた。
くぁー・・・・・・・頭が・・・・・俺の記憶が。
必死に気絶するのをこらえるが痛みが増していく一方。
とりあえずあのバカ起こさねえと。
「おい、俊哉。お前今日補習だろ?」
「ほしゅー????」
寝ぼけているのか半分ふざけているのかわからないくらいむかつく曖昧な返事。
人生の補習でも行かせてやろうか。
そんなリクエストを待っていたがそんなのが来るのはおそらく遠い未来の話だろう。
今先決なのは今言った通り、補習の事だ。
「早く目を覚ませ。じゃなきゃあの世で起こさせるようにしてやるからな」
とりあえず妬みごとを並べこいつを黙らさせる。
「お前、補習はどうした補習は」
今から説教でもしようとする先生ので口調で俺はふざけ半分で怒った。
俊哉は補習。という二文字の単語を聞くとすぐさま体が過剰に反応してしまう。
中間考査の時もそうだった。数学と英語の講座が同じである俺と俊哉はどちらの教科も悪くはない点数だった。入試の時は。
うちの学校は私立とはいえ、一般入試にまで付け込んでいるせいかなにかと競争率が高い。
特別にこれといった制度があるという訳ではないが偏差値もそこそこであるが高校に入ったうえで、端的に言えば高校生活を嗜んでいるうちにその人の隠れている能力が芽生えるだとかなんとか・・・・・・で芸能界でも結構な人が輩出されているって兄さんから聞いた覚えがある。
それが学校の人気なのかどうかは分からないけれど。
どうでもいい話になるが翌年以降、長くて五年間個々の入学者は鈴川目当てで入ってくるとのうわさ。
ホントどうでもいい噂で目が竦んでしまう。
長くて五年間と言えど、私立笹野川学園は珍しく大学付属の学校だ。
いたし、大学は私立ではなく国立での創立になっていて偏差値はなかなか高い。国立だからな。でも参加である高校の人は大抵ここからエレベーター式で入学する人がいる。
高校から大学へのエレベーター式なんて珍しい。
まあ鈴川本人、そこの大学に入学すると思うし、高校と大学って相当離れていないもんな。東京のごく少数、その面積を担っているわけだし。
笹野川学園はそれなりに優秀な生徒がいるという訳だ。
まあ、こいつが新手の補習人間になるとは俺は思っていなかったけれど。
「で、どうするんだ?」
潔く俊哉はその場に座る。
「今から家帰って・・・・・・・準備をしていく」
「あのな、確かにテストも近いっていう訳ではなるのだけれど、
今から家帰っても学校には間に合わないぞ。今回の補習一回休んだらもっかい補習だから」
まあそのような程度はキビしい感じもするけれど時にはやさしい学校だ。そんな学校が全国文字で常にベストテンで取っているなんてあまりにもびっくりしすぎなんだけど。と周りの生徒を見て俺は思った。
まあ数々の成績優秀者がこの学校から出て有名な学校に通うという事にもなるのだが。
そんな話をしている場合はない。
「いいから早く・・・・・脱がせて」
どういったシチュエーションが好みなのか俺は把握できた。
うん、=殺されたいんだな。
「これ以上俺にやらせるとお前の歯を一本ずつ折っていくぞ」
ってか早くしないと始まるし。うちからここまでじゃ10分とかかる。補習が何時からなのか分からないが午前いっぱいやると考えれば帰りはなかなか早い時間へとなる。
「荷物とか大丈夫なのか?」
「ああ、部室に全部おいてある」
部室って・・・・・・・・・安和されたくないところかよ。
そしてかれこれしている間に時刻は八時を上回っていた。
やべ、そろそろ行かねえと。
「俊哉行くぞ
「えー、朝飯はぁ?」
お前はいつから多い注文を頼める身分まで行けたんだよ。
とりあえずお小突いを上げる親の気持ちを理解しながら俺は俊哉にお金を渡す。
「とりあえずこれでなんか買っておけ」
「おつりは?」
「いらん」
どうせ十何円とかで帰ってくる。そんなものもらって正直嬉しくない。
もう極まりなく、タクシーに乗った後運転手さんに釣りはいらねえ!!っていう言葉をかけて去っていく事件を思い出した。
思い出すだけでばかばかしい事だと改めて悟り開いた。
「ってか早く行け。遅刻する」
「はいよ、ところで午前中は何してるんだ?」
そうだな、今日のこの暑さを考えればまだ捜索するには早い時間帯だ。午後の・・・・・せめて夕方位にならなきゃ当てがない。
「午前は適当に過ごしているよ」
「そうか、じゃあまた午後」
「ああ」
玄関で別れを告げ、俊哉は玄関脇に止めてあった自分のチャリのスタンドを蹴り上げ、猛スピードで学校へと向かった。
さて、あとは例の三人をどうにしかしないとな。
とりあえず寝た感じ寝起きが悪そうなやつから・・・・・・・・・・・
いや、別に何か悪いことをしてからじゃなきゃゆっくりと起こす必要なんてないじゃん。
そうかそうか・・・・・・・
じゃあ、
「大野、朝だ起きろ目を覚ませ」
ワンパターンな掛け声とともに俺は大野に問いかけるが爆睡しているようにしか見えない。
くそ、こうなったら・・・・・・
「田中、佐藤。頼むから起きてくれ。じゃなきゃお前らの朝飯が覚めて大変なことになりそうだし午前中は午前中でやることが山ほどあるんだ。
「う、うーん」
俺がそう長い続けた結果、佐藤が一つ大きなのびをする。
「疲れとれた?」
「目覚め最悪」
大きな伸びをしながら二人は起き上がる。
目覚めを悪くしてすいませんでしたね。とりあえず大野は起きていなくてもどうせそのうち起きるだろうし起きないのに強行で起こすっていうのはあしからず。
「大野ってこんなに寝つけよかったったけ?」
ふいに俺が聞いてみる。そんな理由はどんなに揺さぶっていても動揺しないからです。
「あれ?俊哉は?」
「ああ、あいつなら補習に行ったよ。今朝俺が気づいて連れて行かせた」
半ば強硬手段でだけど。
まあこれで大野を除くみんなが起きたわけだからとりあえず朝飯の用意を・・・・・・・・・・
「どうした?」
台所に再度足を踏み入れた俺の顔を見て田中は聞く。
焼売が・・・・・・・・・冷めた。
普通だったらお焼売だなんて言いませんけどねww
お焼売⇒おしゅう⇒ほしゅう⇒補習
つまんねえ(’・ω・‘)ノシ----===卍にゃあ。
顔文字能力ゼロ(笑)




