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俺はお嬢様が恋をしたことに気付いていない  作者: 海原羅絃
第2章 夏休みとお嬢様
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第九話 離別

更衣室を出てすぐのところでおれと鈴川は落ち合った。

俊哉たちはもう少し泳いでいると言って俺はその言葉を真に受けたうえでプールを上がった。

プールでぬれた髪の毛をタオルで何度も服がかわく気配がない。

まあ日差しですぐ乾くんだけれど。

久しぶりに市民プールに来たので懐かしい感じと共に疲れもあった。

学校のプールで泳ぐのとこういうところで自由に泳ぐというのはやはり違和感などが出る。腕や足といった普段あまり使わないところに筋肉痛らしき症状が芽生えてくる。

と、俺はそんな気持ちで鈴川が来るのを待っていた。

女の子は大抵、着替える時間が遅いのは分かっている。

だからと言ってわざわざ急かすようなまねは男としてするのもデリカシーにかけてしまう。

そんなかんなで暇になってきたので携帯を取出し、メールのチェックなどをする。

メールなど来ていないのにこまめにチェックするというのは心配性かと思われるがまあ、なんというか・・・・・・・・・・一種の癖?みたいなものだ。

自分でもよくわからないが。

「お待たせ」

しばらく待っていれば鈴川が来た。

髪の毛は大方乾いているが、額に若干残っている水滴は取れていない。

取ったやろうかと思ったが、場所が場所。こんな公共なところでやるなんてあほ以外の何物でもない。

「林君たちはいいの?」

「ああ、あいつらはいいよ。どうせプールに上がった勢いで俺んちに上がりこんでくるだろうし」

俺がそう答えると鈴川は気弱そうな返事をする。

疲れているのかと思っているのだがそんな表情には見えない。

プール熱というのもあると聞くが、まさかプールに上がりかけでなるとは流石にならないと思う。

小さな坂道を俺たちは上る。

そんな思い足取りをしている鈴川の手を俺は取る。

「疲れているんなら引っ張っていってやるよ」

なんてカッコ良さげなことを言えば鈴川はからかってくる。と俺は予想をしていた。

しかし代わりに鈴川から放たれた言葉は予想と反していた。

「なんか今日の瀬原君妙にやさしいね」

は?俺が妙にやさしい?

いつもの俺は、やさしいと周りは捉えるかもしれないけれどいつも通り普通に接している。少なくとも鈴川はそうだ。手を取るなんてこいつがつかれているから取ってやったんだから。

「どうしたんだ?」

「いや・・・・・・別に」

鈴川が下を俯いたとき、俺は声をかけようとしたその瞬間。

「蘭」

誰かが鈴川の名前を呼ぶ声が聞こえた。

その声は俺の後ろから聞こえ振り向けば真夏だというのにスーツを着込んで、ネクタイを律儀に締め後ろに何人かの男を控えていた。

もちろんその男たちも鈴川に声をかけてきた人物と似たような恰好をしている。

どこからどう見ても・・・・・・・・・・・・

「父さん・・・・・・・」

鈴川が悶絶するくらい震える声で言った。

この人が・・・・・・・・・・鈴川の父さん。

外見からして大金持ちに見えるが悪党に見えるような人ではない。

むしろ温厚な人でも言った方が正しいか。

「迎えに来た。早く車に乗れ」

車に乗れ。という事は脇にあるリムジンがその車っていう訳か。

鈴川の目を見れば明らか父親に対して、更に後ろにいるボディガードに警戒心を抱いているのに違いない。

やっぱり喧嘩のことでか・・・・・・・・・

「なんでここに来るの。瀬原君がいるところでは顔を出さないって言ったじゃない」

俺がいないところで?じゃあ、まさか俺と最後に分かれたうえで迎えに来ていた車に乗るっていう事だったんか?

しかし俺の仮説はあまりにも信じがたくなかった。

「お前の決断が遅すぎる。まさかこんなところで時間をつぶしていたとはな」

「決断て・・・・・じゃあまさか」

俺の思考はぐるぐる回り続けていく。もう何がなんだかわからないし今の状況をうまく飲み込むことができない。

呑みこみたくないという願望がある。

「どの道私はイエスの選択肢しかないのよ。けれど行きたくなかったけど行くしかない。だったら最後だけ時間が欲しかった」

「という事だ。今の話を理解してくれたか?瀬原君」

今の話を理解できたか?ふざけるな。

俺はそこら中から沸き上ってくる体温を抑え、手の中の汗を握る。

目頭がだんだんと熱くなり、目の前が何か一転にしか集中しなくなる。

一発殴りたかった。一発殴ればすべてがなくなると思っていた。

「じゃあ、お前は自分で心の準備をするために、それを紛らわすために俺の家に来たのか」

俺の言葉に鈴川は下を俯いたまま。

冗談じゃねえぞ。

さっきまで握っていた拳は無意識に開き、考えてもいない行動が繰り出される。

「っ!?ちょっと待て君!!」

俺は知らずと鈴川の手を取り、先ほど出たばかりのプールへ行く。

鈴川も、鈴川の父もボディガードも驚きの表情を見せるだけで動こうとはしなかった。

「追え!!追うんだ!!」

何拍か遅れて鈴川の父は声を出して鈴川の追跡を始めた。

もちろん、プール内に入った俺たちを見て、スタッフは茫然としてた。

「ちょっとお客さん?」

俺に声をかけるスタッフの声を無視して俺はプールサイドに出て、縦横無尽に走り回る。

おそらく学校に報告だな。

あ、でも鈴川名義でどうにかなるか。

「瀬原君!?何やってるの?」

「お前を攫ってるに決まっているだろ!!誰があんな答えで納得すると思っているんだ。俺は認めねえぞ、お前の留学」

人混みを無理やりかき分け俺たちはボディガードを巻く。

これだけ逃げればさすがに大丈夫だろう。

「やっぱり瀬原君て強引ね・・・・・」

荒い息を立てながら鈴川は言う。

俺を強引にさせたのはどこの誰なのか分かっているのか。

周りに人たちは俺たちの光景をじろじろ見ている。それはそうだ。水着でもない、普通の私服といった格好でプールサイドに飛び出してくるんだ。

あとはここからどうやって外に出るかだな。

このプールは若干屋根のようなものでおおわれていて、上空だけ何も覆っていないという構造になる。だから外に出られるとしたら先ほど着た場所か、あるいはこの上空から行くかに限る。

あとは出入り口のみだな。

ここで時間を割いていれば後々ボディガードたちが追ってくるだろう。そんなことになってしまえば後がない。

「走れるか?」

「私を攫うんでしょ。だったらどこへでも連れて行きなさいよ」

ったく、よく喋るお嬢さんだ。

さすがにお姫様抱っこまではできないが俺は再び鈴川の手を取り走り出す。

この時間帯、妙に人が多い。このプールは例年に比べてこの時間帯は少なかったはずなのに・・・・

なんかのイベントがあるのか?

それにしても人があまりに多すぎて通るにも通れない。

そして俺はあることに気付く。

人がみんな空を見上げている。そう、あの中央の上空だけ見える空をみんな見上げている。

何が始まるのか俺もつられてみた瞬間、花火のようなものが何発か上がる。

なんだ・・・・・・・花火か。

それより早くここを抜けなきゃな。

止まってた足を踏み出そうとした瞬間、

鈴川の手がそこにはなかった。

正確に言うと鈴川がそこにいなかった。

逸れた。それしか考えられなかった。

俺は逃げるのをやめ、辺り一帯、鈴川を探し回る。走りながら携帯をとりだしある電話番号へコールする。

鈴川の電話番号だ。

しかし何度コール音が耳元で響いても一向に出ない。

人混みでまさか出れないなんて・・・・・・・・

鈴川にかけるのをやめ、今度は違うところにコールする。

「俊哉!お前たち今どこに居る?」

「今・・・・・・シャワーのところだけど」

シャワーというと更衣室に入るところの前か。

「そこに大野たちもいるんならそいつらにも言ってやってくれ。

鈴川とちょっとした事情で今プール内を逃げ回っていたんだけど途中で逸れちまったんだ。探すのに手伝ってくれないか?」

「プール内を逃げ回るって・・・・・お前らどんな修羅場を築いているんだよ

分かったよ。大野たちにも言っておいてやる」

「頼む」

人数の多い方が確率的には一番いい。とりあえず俊哉たちと合流するまで俺はそこら中探しまわった。

しかしどこにもいない。

挙句、ほかの人にも聞いたがいないとのこと。

本当にどこ行ったんだよ。

蒸し暑いこの中でこの姿で走っているっていう事はなかなか珍しい事だからな。

汗がぐっしょりでシャツに張り付いて正直気持ち悪かった。

そんな文句を言っていても涼しくはならないので同じところを入念に触れていく。

人混みをかき分けほんの少しの隙間出ようとしたところで誰かとぶつかる。

いてててててて、かなりの大男だな。身長だけで190はあるだろう。

しかしその人は良く見れば先ほど鈴川の父さんの後ろに控えていた人である。

「鈴川は!!鈴川は何処に行ったんですか??」

興奮状態の俺は訴える。

「我々も今探しているところだ。君はおとなしく家に帰ってくれないか」

そんなことできるわけねえだろ。

俺は咄嗟に掴まれた腕を払いのけ鈴川を探しに行った。

本当にどこに居るのか。突然いなくなった鈴川。

俺には予知できない。

これから何が起こるのか、これから俺は何をしようとしているのか。

今日は短めでお願いします

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