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俺はお嬢様が恋をしたことに気付いていない  作者: 海原羅絃
第2章 夏休みとお嬢様
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第四話 緑地公園にて

どうでもいい話かもしれないが、中学の途中まで俺は剣道部に所属していた。正確な年月を言えば、中学一年の秋だけど。

小学校の初めから剣道に励んでいた俺は周りからも、道場の先生からも将来有望な兼同選手になると言われていた。

言われていた(・・・・・・)のである。

小学校から地区大会では毎回優勝。上の学年の人を相手にしても楽々勝ててしまうほどの実力を持っていた。

中学校に上がり剣道をしようとしていたがある日を境に辞めた。

父親の死。

そしてもう一つ。

右目の視力過失である。

原因を言えば、小学校六年のある日、中学生との合同練習があった。合同練習という事もあって練習試合もあった。もちろん、怖いもの知らずだった俺にとって中学生など軽いものだった。

そう、軽い。ただそれだけを感じ取れた。

連戦連勝、その中学の顧問の先生も目玉が飛び出るくらいの驚き。

もちろん、俺は天狗だった。天狗になっていた。

そして、帰り際にその日共に練習をした中学生にこういった。

「先輩俺より弱いですね」

思わずその言葉を口にしてしまった。迂闊だったとその時気づいたのは集団で殴られてからだった。

俺が思わず口にしてしまった言葉が逆鱗に触れ竹刀で・・・・・・・・殴られたのであった。

腹は殴られ、顔を殴られ、俺には至る所に傷ができた。

そして、真っ先に怒号をさらけ出した中学生の最後のトドメは竹刀で俺の眼をついたのであった。

幸い、失明にまでは至らなかったがあまりにも衝撃が強すぎたため、いくら矯正しようとも視力はよくならない。

それが俺の剣道人生を閉ざす道になったのだ。

そしてその時俺が唯一覚えている事。

どうしようもなくなり受ける一方になった俺の目の前に現れた同じ道場着を着ただれか。

はっきり顔は覚えていないが覚えているのは長く、きれいな黒い髪を纏い俺にささやきかける優しい言葉は誰が何と言おうとやさしく、また心強い戦士のようであった。

一目で女の事だと分かった俺はその子中学生を相手に竹刀を振らず受け止めるだけで中学生達を追い出した。

「大丈夫?」

俺はその時号泣した。涙がはれあがるくらい大声で。大人たちが近くによるのも関わらず俺は彼女の胸の中で泣き続けた。

それは今でも思い出せばどこかで聞いたことのある言葉だった。

しかしそれ以降、俺はその人物に出会う事はなかった。

いや、出会えるはずもない。名前も知らず、顔も全く覚えていないうる覚えの記憶であるから。








目が覚めたときは朝日が昇っていた。時計で時刻を確認すると六時半。夏だからこの時間帯で火が出てくるのは日本ではふつうだ。

高校で初めての夏休み初日の朝はまさかの鈴川と共にすることになった。

当の本人はまだ寝ているけれど俺は和室にこきえないような音を立てながらリビングに入っていく。

朝ごはんは何しようかと考えながら冷蔵庫の中をあさる。

しかし結局出て来たのは昨日夕飯で食べた冷やし中華。さすがに鈴川も二回連続で冷やし中華はやだだろう。

そう考えていても冷蔵庫から希望通りの野菜が出て来るなんてそんなファンタジーなことなどない。

スーパーにでも買いに行こうか迷っているがこんな時間帯に空いているところなんでコンビニしかないので鈴川にはしょうがないが冷やし中華で我慢してもらうしかない。

お皿を二つだし昨日盛り付けたハムやキュウリを麺に盛り付けていく。

最後にたれをかけテーブルに持っていく。

「しょうがない。起こしに行くか」

これくらい自分で起きてほしいんだけれど鈴川の性格上、それは無理だな。

案の定、あたりだった。

男子が見れば一発で気絶する(かどうか分からないが)生脚をあらわにし更にはかわいらしい寝顔で寝ていた。正直これはこれで緊張する。

だって、あの学校一美女の鈴川が平凡な生活を送る俺の家に泊まっているんだぞ?毎度思うが俺って周りから喧嘩うるようなことしかしていないよな。

迷惑なんだけど俺が鈴川をかまわないと後が後だからな。

「でもさすがにこの体制はまずいだろ」

健全な男子高校生が見るようなものではない。

さすがに下着までは見えていないが生脚はちょっと・・・・・・・・・・

「おい鈴川、飯できたぞ。今日でかけるんだろ?」

「う、外内、もうちょっとだけ」

すっかり家にいる気分でいるな。

しかしこれだけ声をかけても起きないってどんだけ寝入りいいんだよ。

「起きろよ鈴川」

「あ、おはよう瀬原君」

やっと起きたか。

これが後何日続くのやら。

先が思いやれる。

「とりあえず顔洗ってこいよ。飯はもうできているから」

「分かったわ」

眠たい目を擦りながら鈴川はタオルケットから身を出す。

「げっ!!なんでお前・・・・・・」

「ん?ああ、暑いから寝ているときに脱いじゃったんだよ」

脱いじゃったじゃねえよ。なんで下着姿でいるんだよ。

こいつ、羞恥のかけらもねえのかよ。

「と、とりあえず顔洗ってこい!!」

「ええー、瀬原君そんなに私の下着姿みたいの~?」

おちょくるんじゃねえよ。

動かない鈴川を俺は無理やりと洗面所へ動かす。めんどくさいがこいつは寝ぼけているようだからきっちり目を覚ましてもらわないとならない。

寝ぼけているかどうか知らないけれどな。

鈴川が洗面所から戻ってくること約数分。俺と鈴川は朝食をとる。

「朝から冷やし中華って瀬原君も物好きね」

朝からステーキとか食っている奴にもの好きとか言われたないよ。とりあえず材料がなかったことだけは心の中で謝っておく。

「それで、今日はお前何処に行きたいんだ?」

昨日約束した通り、と言っても半分は鈴川の依頼にもなるんだが買い物に行く約束をしたのでどこ行くか決めなくてはならない。

「どこでもいいけれど駅前のデパートは行きたくない」

「なんで・・・・って、ああそういう事か」

駅前のデパート、大きさはかなりあって広さもそれなり。名前は『スズノカワデパート』である。・・・・・・・なるほど、スズノカワで鈴川か。洒落ているよな。

となるとあそこの系列グループは鈴川んちの父親か。

喧嘩の最中ならばそこに行きたくなくなるのも当然のことか。

「だったらどうする?公園とかにするか?」

「そうね、あまりお父さんが経営している会社には立ち寄りたくないし」

「分かったわ。場所とか全部瀬原君に任せておく」

任された。仕方ないから鈴川んちが経営している会社立ち寄らなければいい話だ。ならばそれ以外のところへ行けばいい。

「何もそこまで急がなくていいからね」

「分かってるよ」

茶化す鈴川に俺は満面の笑みを込めて返事をした。

朝食をとり終わってからも俺と鈴川は準備を早く終えることができたのでともに家をでる。

いつも学校を通っている道を通るが今日は鈴川の要望があるため遠回り、小さな路地など通っていく。

余りこういう場所を好まない俺にとってこんな道を見るのは初めてでよく鈴川が知っているものだと思った。そうすると知らない間に目的地である場所についた。

「ここって・・・・・・・・・」

「緑地公園。見る限り疲れていそうだからさ。まあ、木の陰に入るなりしようぜ。人少ないわけだし」

もちろん、いい意味である。

俺は木陰のあるところを探す。ちょうどよくベンチに大きな日影がかかっている場所を見つけ其処に鈴川を連れ出す。

一息つき俺は地核に自動販売機があることを思い出し鈴川に一言かけてジュースを買いに行く。

そういえば俺たちは休みでも普通は平日なんだっけ。どうりで人が少ないわけだ。

俺は500mlペットボトルのお茶を2本買い、鈴川の元へと走っていった。

「ほれ」

冷たいペットボトルを差し出す。

「あ、ありがとう」

若干頬を染めているように見えるが気にしないでおこう。

「その・・・・瀬原君」

もじもじと挙動不審な動きをする鈴川。

急にどうしたんだ?

「その・・・・・・えっと」

鈴川が何かを言おうとしているが場の空気を涼めようと俺は先に口を出す。

「最近疲れているからさ。遠慮なく楽になれよ」

「・・・・・・・そうね、分かったわ。遠慮なく・・・・・・・・楽になるよ」

そう言った鈴川は頭を俺の肩に乗せかけてくる。

やわらかい髪の毛が俺の肩にふんわりと乗っかる。人形みたいその頭は今でもほんの少しでも動かせば壊れてしまうくらい軽く感じる。

「鈴川・・・・・・」

「いつもわがまま言っているけれど、今だけこうしていたいの」

何もかもがマイペースでお姫様思考を持っている鈴川が甘えてきている。

よっぽど婚約話とか嫌だったんだろうな。

クラスでは特別な存在。周りからも特別な存在という理由だけで避けられ、慕われている。毎日そんなのがやっぱりやだかったんだ。

こいつにも悩みっていうのがあるんだ。

俺は肩に乗せられた小さくて、柔らかな髪を持った頭をやさしくなでるのであった。

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