第三話 ずっと・・・・・・
鈴川が風呂に入っている間、俺は洗い物など済ませるものを済ませ、隣の空き部屋に寝床を用意した。
隣の部屋は和室となっていて部屋一帯畳に式積まれている。
押入れから布団を一式だす。毎年来るいとこが寝る用の布団なんだが親父が死んで以降、連絡もつかなくなり、泊まりに来ることもなくなったため埃がかなりかぶっている。
布団を掃えば埃が部屋中舞い上がりアレルギーではないがくしゃみが出そうになるので窓を開ける。夏だが涼しい風が吹いてくると同時に遠くから聞きなれた音が聞こえてくる。
「一晩降ってきそうだな」
暗くてよくわからないがおそらく雷雲が広範囲に広がっているのが分かる。音もだんだんと近づいてきている。さすがにまだ雨は降っていないが一晩でかなりの量が降るはず。
寝る前に戸締りの確認をしないと。
「さて、あとはタオルケットかな」
布団と枕を出し終え、タオルケットを取りに二階へ行く。
確か俺の部屋にもう一枚あったような。
自室に入りクローゼットから使っていないタオルケットを引っ張り出す。
「・・・・・・・猫柄って」
趣味が悪いというか子供染みぽいっていうか。
このタオルケットを鈴川に見せた時の顔を思い出す。
・・・・・・まあいっか。
部屋の電気を消して、俺は部屋を出る。
和室にタオルケットを放りリビングに入る。鈴川はソファーでくつろいでいた。
泊まりに来てよくそこまでくつろげるよな。関心はするけどマイペースすぎるぞ。
「寝床作っておいたから」
「ありがと」
頭にバスタオルを乗せたまま鈴川は答える。
髪の毛にはまだ水滴がついていて、いくら夏だからと言って髪の毛にこれだけ水滴がついていれば風邪もひきかねない。
自分でも心配性であることは分かっているのか、俺は鈴川の濡れている髪を頭に乗っているバスタオルで髪を無理やり拭かせる。
「ちょっ・・・・くすぐったい」
ふざけ半分で俺は鈴川をいじる。
「おい、じっとしてろよ」
ったく、子供じゃねえんだから。
ドライヤーは・・・・・・・・・いいか。そこまでしなくても。
濡れているバスタオルを触る。ったく、拭きもしていなかったんかよ。
「お前な、髪の毛ぐらい拭けよ。夏だからって油断していると風邪ひくぞ」
「いいじゃない。死ぬわけじゃあないんだから」
そう言う問題じゃねえだろ。
鈴川と言ったら・・・・・・・・・・
使用人の・・・・・外内さんだっけかな?その人も大変そうだな。
こんな世話のかかるお嬢様に仕えているなんて。
「で、いつまで泊まっているんだ?」
「瀬原君が死ぬまで?」
いや、答えになっていないし何故に疑問形?つまり言いたいことは一生同棲ですか?
真面目に答えるつもりなんてさらさら無いよな。
「まあ、事情が事情だからしょうがないけど父さん困っているんだろ?」
「別にいいのよ。ホントに喧嘩しただけなんだから」
俺んちに泊まりに来るくらいの喧嘩って・・・・・・・・
想像もつかない。
俺が思いつく大富豪の喧嘩って言ったら・・・・・・・・・
「どんなのが思いつくのよ」
考えが表に出ていたのか、鈴川はおっとりとした顔で聞いてくる。
「俺が考え付くのは、たとえば誰かと婚約するかしないかとか、留学とか他にもいろいろあると思うけれど俺んちに泊まりに来るほどだからな。今言った二つかな?」
あくまで主観的だけど。
鈴川はテレビに目を向けたままこう話す。
「実をいうとね・・・・・・・・」
ゆっくりとなんだか冷たく感じる口調で鈴川は訳を話す。
今、鈴川がどんな表情で話しているのか俺には分からない。
「最初に言った二つが正解。ずっと前から婚約と留学について父さんと話してて。最初は抵抗していて父さんも父さんだったけど時間が経つうちにそうにもいかなくなって・・・・・・・・・・・
今日学校から帰って来てもその話。それで私は我慢できなくなって急いで荷物をまとめてここに来たの」
帰って来てからすぐ荷物まとめるってどんだけ前以ていたんだよ。
けれど婚約と留学って相当な荷重なやつだな。
この前のっパーティでもどこかの御曹司に声をかけられていて・・・・・・・
って、じゃあ、
「あのパーティからずっと婚約の話が上がっていたのか?」
「正確にはそうだけど。留学はもう早いうち決まっていたから」
留学の事は別として婚約はなかなか急な話だな。
婚約か・・・・・・・・
「何?私がほかの男と結婚するのがそんなにやだ?」
からかい半分で聞く鈴川だがそれに反応するまでもなかった。鈴川がほかの男と結婚するってなるとそれだけ鈴川という存在が遠のいてくことになる。
けど・・・・・他の男って・・・・・・・
「なんか俺がお前の女になったみたいに聞こえるんだけど」
「あれ?違かった?」
悟り開いたように聞くなよ。気が狂っちまう。
でもそれだけ大事だっていう事は留学も婚約も破棄する形でいるってことになるだろ。それじゃあこいつの将来は・・・・
「前にも言ったでしょ?私は用意された幸せは要らないのよ。
幸せは自分で掴むもの。違う?」
違くない。違くないけれど・・・・・・・
それじゃあ鈴川蘭という人物が歩んでいく人生はどこにあるんだよ。
でもそれが本当に鈴川の人生なのか、彼女の将来なのかと考えればそうそう他人事ではなくなってくる。もう、鈴川と一緒にいる時点で他人事ではないが。
「でも、大丈夫よ。大体の決心は着けているから。
あ、でもあと二日くらいは泊まらせてもらうから」
その言葉を聞いて俺は口を紡ぐぐらいしかない。ここまで来たら状況もくそもない。泊めてやるしかない。
「もう、ずっとここに居ろよ」
言葉を出すと同時に俺は鈴川の頭を自分の胸中へとおさめた。
「瀬原・・・・・・くん?」
自分でも何をしているのか何故かわからなかった。ただ、無我夢中に一心な状態で俺は今の鈴川を受け止めた。
鈴川も、最初はおどけたような顔をしていたが数秒もたたないうちに鈴川は俺の背中を強く腕でしめたのであった。
あれから嘘のように鈴川は悟り開きいつものごたごたが続いた。
読んで字の如く、さっきのあの激下がりのテンションだった鈴川は何処へ行ったのだろう。記憶を思い探ったとしても証言にも何にもならないからいなかったことにしよう。
で、そのごたごたというのが・・・・・・・・
「一人で寝れねえのかよ!?」
「しょうがないじゃん。もともとそういう体質なんだから」
それ体質の問題じゃねえだろ。
ったく、さっきのテンションとは逆に急に悟り開きやがってさっきの気まずい状況からまさかの下着姿だけでかなり焦った俺はホント無謀なやつだったな。
それに今の状況はというと、見たくもなく見てしまった鈴川の下着姿はかわいらしいパジャマ姿へと姿を変え今日から鈴川の寝室である和室での会話が先ほどの会話である。
完全に芝居だと思うがどうやら鈴川は一人では寝れないらしい。
使用人の外内さんと毎晩一緒に寝てると言うが本当かどうか今すぐにでも確認したいくらいだった。
「頼むから一人で寝れないのかよ。小学生じゃないんだから」
小学生でも一人で寝れるやついるぞ。
大富豪の子ってみんなそうなんかな?確かにお気に入りのぬいぐるみがないと寝れないっていうのはよく聞く説だし。
でも鈴川はそんなような奴じゃなさそうだし。
「今晩だけでも・・・・・・ね?」
「うっ・・・・・・・・」
さすがにそこまでされると・・・・・・でも待てよ?
「お前俺んち以外の男子の家に寝泊まりしたことあるか?」
念のため聞きたいことを聞くため俺は一つ質問する。
「記憶にはあまりないけれど聞いた話だとお父さんと仲のいい系列グループの社長の一人息子と泊まった事が在るって外内から聞いたことある」
幼少期か・・・・・。まあその時代は好きとかそんな言葉知ってても意味は知らずに使ってた年齢だからな。今なんて・・・・・・・
「1つだけ聞くけどいいか?お前俺と一緒に寝るなんて普通の高校生が考える限り絶対的にありえねえ考えだ」
もっとも、こいつが普通であるのならばの話だ。
まあ、普通であるかなんて一目見ればわかるんだけどな。
そんな甘い誘惑には簡単に乗らない俺はあきれ返り鈴川の寝室から出ようとする。
しかしその道先は鈴川の手によって阻まれる。
「お願い」
「あぁー、分かったから。けれど一つだけ条件がある。
寝るのはさすがに非常事態じゃなきゃダメだ。その代り明日買い物に連れて行ってやる。それで我慢してくれるか?」
「瀬原君てそんなんで女の子を釣る最低な男の子だったのね」
まて、偏見を持った言い方をするな。というかそれで女子を釣ったことなど一度もない。
ってかどんだけ俺と寝たいんだよ。
本当に高校生かよ。
疑わしくなるくらい俺はあきれ返る。
「分かったわ。でもそれを通して1つ私からもお願いがあるの」
「なんだ?」
どうせ荷物運びとか・・・・・・・・
「今後どこか出かける際には私のボディーガードになってほしいんだけど」
「は?」
今なんて言ったんだ?
ボディーガード?ボディーガードってあのあれだよ。俗にいうSP。(ちょっと違うが)
ボディーガードは普通黒人でサングラスかけて筋肉ムキムキの人じゃなきゃダメなんじゃないのかよ。
俺の勝手な妄想だが。
「私を守ってくれるんじゃないの?」
まあ、女の子をどこか知らない変な人に、しかも身元が鈴川グループの一人娘だと知ったらどんなことをされるか想像をしたくないものである。
ボディーガード、黒人でサングラスかけている人までは行かないがとりあえず明日一日鈴川と一緒にいればいいってことなんだな。
「分かったよ。でもその代りお前とは寝ないからな。いいな?」
「分かったわ。じゃあお休み」
こいつ都合のいい事ばっかり・・・・・・・・・・
既に布団にもぐりこんだ鈴川に「おやすみ」と声をかけ、和室の電気を消す。
ずっとここに居ろ・・・・・・・か。
ぱたんと閉めた和室の戸を背に俺は床につく、夏の夜だが床はとてもひんやりとしていて俺の今の体じゃあ冷たすぎるぐらいであった。
第二章の三話にしては早すぎかもしれないですけどここからが・・・・ですから




