第二話 公開処刑?
俺の夏休みは瞬く間に散った・・・・・・・の方が表現はいいのか。
いや、この場合この言葉でしか通用しないかもしれない。理由としては今現在おれの思考回路ではこの単語しか出てこないからである。
そのわけは・・・・・・・・・
「瀬原君あーん」
「まて、なぜおまえが食わせるんだ」
「別にいいじゃない」
よくねえ。
やっぱりこいつを家に上がらせたのは間違いだった。家に上がって早速のこの始末だ。リンゴ剥くよと言いながらも嫌な予感が的中し今の状況に。
状況を把握できない自分を恨む。
にしても・・・・・・・・・・・・・
「これは拷問に近いぞ?」
「あらそう?私にとってはとてもいいことなんだけど」
あー、神様。どうか僕を楽園の地へと連れて行ってください。忌々しい悪魔がいる場所は嫌です。
「もー、しょうがないわね」
にやり。と鈴川の口元が緩んだ。
しまった。これは来る・・・・・・
鈴川が出た行動は俺の予想とだいたい当たっていた。
いや、予想以上だったかもしれない。その行動とはフォークに刺さっていたリンゴを引き抜きなんと自分の口に咥えたのであった。
でも鈴川がそのまま食べるっていう考えもあながち悪くはない。うん、おそらく鈴川が食べるんだ。
そう思って閉じていた眼を開けたのが運の尽き。災厄なことに目の前に鈴川がいたのである。避けようとしたのだが反応できず口の中にリンゴが押し込まれる。
「うっ!!」
そのまま鈴川は口でリンゴを押し込んでいく。
待て待て。なんか危ないぞ!!
そう思って目をつぶろうとするがつぶれない。鈴川が俺の顔を抑えて目を閉じないようにしている。
鈴川は寸前のところで止めリンゴから口を離す。危うく・・・・・・・死ぬかと思った。
「ふふっ、どうだった?」
もうやです。お前を上がらせなければよかったわ。
「疲れた。風呂入ってくる」
「私はちょっと食器洗ってくるね」
たった数分の出来事で俺の汗は半端じゃないほど出ている。さっきスポーツか何かやったっけ?
そんな記憶がないのに以上につかれている。
洗面所で服を脱ぎバスルームに足を踏み入れる。
シャワーをひねり熱いお湯を体に浴びせる。
あー、気持ちいい。今年の夏休みもこんな感じだったらなー。
「瀬原君。湯加減はどう?」
「いいんじゃねえか?ちょうどいいし」
そういえば鈴川の声が聞こえたな。まあいいか。
「じゃあ私も一緒にいい?」
「あ?・・・・・・・はぁ!?」
ちょっと待て!!今なんて言った?
「ちょっと鈴川・・・・待つんだ」
「何で?」
なんでじゃねえよ。そりゃあこっちのセリフだ。今さっきなんて言ったんだよ。
嘘だと思うが鈴川の影が向こうから見える。しかも動作的に服を脱いでいる・・・・・・・・・・・・
ガチャ
ドアが開く音・・・・・・って待て!!
「待て待て待て待て待て待て待てまた待て待て!!」
「へ?」
しかし時はすでに遅し。
鈴川はタオル一枚だけで俺のいる風呂場へと入ってきたのである。
何ちゅう女なんだよ。有名グループのご令嬢のプライドは何処に吹っ飛んだんだよ。
「おおおおおおおお前!!何入って来てんだよ!!」
「いや、家に泊めてもらったお礼として背中位流さなきゃいけないと思って」
「・・・・・・・お前は天然なのか?」
「私は燃えないわよ」
不燃じゃねえよ!!ってかつまんねえボケするなよ。
その前にこの場から消えてくれ。
「その眼は何?」
「いや、お前がいなくならないと俺が上がれないんだけど」
「あら、せっかく背中流してあげようと思ったのに」
要らないです。そのようなご奉仕は。
「取りあえず上がってくれ」
「しょうがないわね」
そういって鈴川は着替え始める。
しかし・・・・・・・いろいろあるよな。
また今度何かが起こるぞ・・・・・・・・・・
浴槽の縁に頬杖をつき俺はため息を吐いた。
考えていても仕方ない。
シャワー浴び終え着替えを済ませた俺がリビングに入るとそこにが見慣れない光景が。
いや、見てはいけない光景なのか?
鈴川がメイド姿でリビングにいるのだ。
いつから俺ん家は秋葉原という聖地になったのだ?
大袈裟に周りを見回すがやはり俺ん家だ。
・・・・・・・・夢だ。夢に決まっている。
こんなのは現実では絶対にありえない事なのだあってはいけないのだ。
俺の背筋がブルルと震える。
「今度はなんだ?」
「瀬原君の耳を掃除してあげようと思って」
いつの時代のキャバクラだよ。
「さあ、おいで」
こいつは本当に鈴川なのか・・・・・・あの学校一美女の鈴川が。
ファンクラブ多数で玉砕人数300人のこいつがこんな性格って・・・・・
別に今知った事じゃあないんだけど。
それにしてもなー。
あそこは地獄だぞ。
他の人に取っちゃあ天国かもしれないが俺にとっては地獄。奈落の底だ。
「どうしたの?早く来なさい」
若干キレ気味なのは気のせいか。行かなきゃ後が悪い気がするから恐る恐る俺は行く。
一歩、二歩踏み出しと瞬間。
途端に腕を掴まれ俺は瞬く間に鈴川の膝の上へと寝転がる姿勢になった。
・・・・・・・・・・
何と言えばいいのか。
やばい。
「それじゃあ行くわよ・・・・・・」
恐る恐る鈴川は俺耳元へ手を添えようとする。
「いやああああああああああああああああああ!!」
俺はあっという間に鈴川のおもちゃとなってしまったのだ。
その日の夜は仕方なく俺が手に振る舞って作った料理を食べさせた。
とはいっても麺にきゅうりとかハムを乗せたい冷やし中華だけど。
にしても俺はいつから寝ていたんだろう?全く記憶がない。鈴川の膝元へ寝るまでの記憶しかないけれど。
そう思うと何をしていたのか想像してしまった。怖い怖い。
俺は止まっていた手を再び動かし始める盛り付けが終わり皿を鈴川のいるところへ持っていく。
そういや今日こいつと泊まるんだっけ?
何か変なこと言いだしそうでいやだなー。
当の本人はさっそく冷やし中華を美味しそうに食べている。でも似合わないよな。鈴川と冷やし中華なんて。こいつなんて毎日豪華なものとか食ってそうだし。それもそうか。お嬢様なんだし。
わずか数分にして俺と鈴川は冷やし中華をペロッと平らげ俺は食器を運ぶ。
「美味しかったわ。ありがとね瀬原君」
「泊めるやつに対してこれぐらいは当然のことだ」
食器を洗いながら俺はそう言う。
「お前は風呂とか入ってきていいぞ」
「瀬原君も一緒にどう?」
「いいから入ってこい」
お玉をこつんと鈴川の頭ではたきながら突っ込みを入れる。鈴川は「じゃあ、ゆっくりしていくね」と言って部屋を出て行った。
マイペースだなしかし。
そんなないペースの鈴川と関わって数か月か。と言っても真面にかかわったとしてもまだそこまで日は経っていないけど。
それでも時が経つの速いものだ。今俺が生きている時間なんてほんの一握りにしか過ぎないもんな。
俺しかいないリビングでただ食器を洗う音が淡々と響いているだけだった。
これから何が起こるのかも考えずに。




