第一話 名家のお嬢様
思いました。自分にはバトル物は向いていないと。
シリアスですね。ようは。
勝手ですいません。
人生にはいろいろな体験があると俺は思う。
その体験は人それぞれなはず。
だって人生もそうだろ?
二億円の宝くじが当たっちゃうとか、学生時代好きだった人と結婚できたとかドラマでなりもしなかった役になっちゃうだとか人それぞれの体験はあると俺は思う。
しかし俺、瀬原蓮司の体験したことはそんなものではない。
まさに偶然。とまでなのかどうかは分からないが俺が体験したことはこの世で俺だけかもしれない。
かの有名な財閥のグループの一人娘、しかも学校一美女である彼女が俺の真上に降ってくるなど天国の親父も思ってはいなかっただろう。
それが俺と彼女の恋の始まりの予兆だったのかもしれない。
それを知っているのは神だけであろう。
いや、神も知らない。
だって俺がであったそいつはありえないほどSで悪魔だったから。
生まれて十六年がたち、運動神経は普通、成績も中位であり女子からもそれほどモテないのが俺の今までの人生というか日常であった。
そんな俺がとある昼休み、購買から食料を調達し終え中庭を歩いていた時の事だった。
「今日も暑いな・・・・・」
まだ夏ではないが今は六月。
梅雨が真っ盛りのこの時期は、じめじめして何かとイライラする。
高校に入学してから一年目の六月でこの時期になるとだいたい初夏に突入する事は既に感覚でわかっている。俺はワイシャツをパタつかせながら中庭を歩いていた。
ワイシャツの下にはタンクトップのシャツを着ているが、かさばってなかなか風が通らない。
手に提げている袋には先ほど購買で購入したクリームパンやあんパンなどその他ものもの。早く開封しないとこの暑さで早急にやられてしまう為、俺は今こうして教室へ戻ろうをしていた。
だがそんな時だ。
校舎後者の間にある中庭。
そこは購買へと行くための俺の近道ルートである。
そのルートを鼻歌交じりに歩いていたら駄。
突然俺の真上に影が出て来た。
別に嬉しくないわけではない。だってこんな暑い日に陰で着て来るなんて嬉しくも極まりないだろ?
でもおかしい事が在る。陽が出ている方と影の場所から考えて俺の周りにはそのような植物は存在しない。
もちろん中庭には木が植えられているが何処をどう見ても、俺が今歩いている道にはそんな背の高い植物は存在しない。なのになぜ俺の真上には影ができたのか。
それは上を見上げればわかっていたことだった。
人が降ってきたのだ。
比喩ではない。
実際に人が降ってきた。
もう少し具体的に言うと女の子。それにその人は学校内ではとてつもなく有名である女子生徒だった。
名前は鈴川蘭。
鈴川という名字を聞いて分かるとは思うがこの東京半径200キロ以内で、いや、全国で鈴川と言えば有名な『鈴川グループ』の一人娘だという事は分かるだろう。
その一人娘が降ってきたのだ。
俺の真上を。
突然の出来事に俺は手に提げていたビニル袋を手から放し鈴川を受け止める体勢に入った。
本来ならばここでカッコよくお姫様抱っこのような感じで受け止めるのだが俺のあほらしい妄想は一瞬でかき消された。
手におさまったまではいいとしてその後である。位置エネルギーがどれくらいだが知らないがその影響で俺の貧弱な腕では支えきれず我が身と共につぶれてしまったのだ。
もちろん鈴川は気絶したまま。俺は有り余った意識を振り絞り保健室へと連れて行った。
この出来事が成績が普通で運動も普通、女子からもあまりモテない俺の人生が高校に入学してはや、3ヶ月のゼロからのスタートへと導くのであった。
頭が痛い・・・・・・・・
頭痛の様な脳震盪のような子の痛さ。
目が覚めると真っ白な天井。どっかで見たことのある風景。
間違いない。ここは何度も見ても保健室だ。
だが俺はなぜ保健室にいるんだ?
その疑問は隣にいる人物を見て思い出した。
隣にいるのは鈴川蘭。あの鈴川蘭である。
かわいらしく寝息と立てて寝ている。もちろんその光景を見たのは全校では間違いなく俺だけであろう。しかしそんなことはどうでも言い。なぜ彼女がこんなところにいるんだ?
確か屋上から鈴川が降ってきて俺が・・・・・・・・
受け止める予定がつぶされたんだっけ。
「う・・・・・うーん」
ようやく鈴川がうっすらと目を開け体をゆっくりと起き上らせる。
まて、今思えば保健の先生がいない!!
しかも時間帯的に授業中。
この場は俺と鈴川二人だけという事になる。
俺はその場を離れようとした時だった。
「どこ行くの?瀬原蓮司君」
いきなりフルネームで呼ばれ俺はびくっとした。
振り向くと完全に目を開き起き上っている鈴川の姿が。
「よ・・・・よう。具合はどうだ?」
「あなたがクッションになってくれたおかげで大したことにならなかったわ」
クッションって・・・・・・受け止めたつもりなんだけどな。
でも見る限り怪我などしてなかったそうだ。よかったよかった。
「しかし迂闊だったわ。まさかあんなところにバナナの皮が落ちていたなんて」
バナナの皮・・・・・・まさかそれに足を滑らせて落ちたのか。
「危うく私は死にそうだったけど・・・・・・・・瀬原蓮司君。あなたのおかげで私の人生はまたやり直 せそうな気がしてきたわ」
「大袈裟だな。人生をやり直すなんて」
「そう?けれど私は今屋上から落ちる前の記憶なんてほとんど存在しないわよ」
「・・・・嘘だろ?」
「嘘よ」
・・・・・・こいつ詐欺師だ。
詐欺かどうかは分からないがあまりにお膳立てしすぎてる。
「けれど人生をやり直せそうっていうのは本当よ」
「生憎だが、俺も人生をやり直したいところなんだがそう簡単にはいかないからな」
そう言い捨て保健室を出ようとしたらワイシャツの裾をグイッと引っ張られた。
振り返ると可愛げな顔をしてこっちを向いている鈴川が視界に入った。
「私まだ立ち上がれないの。私が立ち上がれるようになるまでここにいて」
こんな喋り方でしかもこんな可愛げな顔されちゃあ断れないかもしれないが俺は先ほどの鈴川の言動で彼女の性格をだいたい見抜いた。
「鈴川」
「何?」
「お前って・・・・・・・人をうまく乗せられる奴なのか?」
・・・・・・・・・・・・・
しばしの沈黙。
鈴川が口を開いたのは秒針が約半周したところだった。
「あーあ、瀬原君は引っかからなかったか」
瀬原君はっていう事は他の男子にはやっていたのか。
凶悪だなこの女は。
「今私の事を凶悪だがなんかと思ったでしょ?」
ないない。断じてないという気持ちを入れながら俺は思いっ切り首を横にぶんぶん振った。
まあ、仕方がない。まだ俺も頭が痛いことだしここにいるとするか。
「いいよ、別に俺も今授業に出ても持たないし」
「ふふっ。瀬原君て案外悪なのね」
お前に言われたくないわ。
「にしてもまた屋上から落ちて来るなんて・・・・・なんでバナナの皮で滑ったんだ?」
「うーん、私にもわからない。青空が綺麗だったから見ていたら知らない間に・・・・・」
こいつ、天然も兼ね備えているのか?分からん女だ。
「けど、助けてくれてありがとう。瀬原君」
「む・・・・」
改めて学校一美少女に礼を言われると照れる気がする。
捨てがたいが、俺の人生もゼロからスタートするかもしれないな。
「じゃあ、だいぶ良くなってきたことだから私は先に戻るわね」
ベッドから立ち上がり鈴川は先に出て行ってしまった。
鈴川とこんなに長く喋ったのって初めてだな。
話したといっても何か頼みごととかするだけだったし会話といったものがなかった。
これも進展というものなのか。
だが、俺の人生が大きく変わる出来事はまだまだたくさんあるのだ。