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9話

この魔法陣の持つあまりの力に戦慄すら覚える。

まず力の容量がとてつもなく多い。

本来これだけの容量を持つには少なくとも俺たちの使っている教室の床ぐらいの大きさが必要なはずだ。

それだけではない。

魔力を通した時、通常ラインに沿って魔力は流れる。

そして土台へと広がって幾分がロスとなり、魔法陣が使えなくなるのも早くなる。

魔法陣が歪んでいるとその分ロスが大きくなり、結果的に力の容量が落ちるのだ。

だがこの魔法陣はそれどころの話ではない。

魔力を通した際、土台へ魔力が漏れるどころか逆に土台からラインに向かって魔力が流れ込んできた。

通常こんな現象は起きない。

なぜなら魔力という物は生きている物の中にしかないからだ。

鉱石などはもちろん、死んだ生き物からも魔力は生まれない。

そして蓄えておくこともできない。

俺も今までこんな現象は見たことがない。

そう、見たことはない。

だが聞いたことはある。

昔、あの男から聞かされた話の中にそんな話があった。

死してなお、その体に魔力を残す生物の話。

もしこれがそうだとしたらこんなところにあっていいようなものではない。

俺は思わず自分の胸、より正確には首から下げて服の下にしまってある御守りのある場所に手をやった。

昔からある癖の一つだ。

最近はそうでもないが、以前はひどく不安になったりした時によくやっていた。

それに手をやると少し落ち着いた。

さらに深呼吸を一回、心を落ち着けてから口を開く。

「おじさん、何でこんな物があるんだ?」

「そりゃ売り物だからな。

店にならんでいるのは当たり前だろ」

そんなわけあるか!

叫びたくなるのをこらえ質問を変える。

「これ、いくらだ?」

「そうだな、そいつは少しばかり値が張る。

30ギギエルてところだな」

「えー、何でそんなにするのー!?」

アンナが驚くのも無理ない。

壁に掛けられている魔法陣の値段が100ミリリル、鉄製の高級品が10シエル。1シエルは1000ミリリル、1ギギエルが1000シエルに相当する。

つまり30ギギエルは使う頻度のもっとも多いミリリルになおすと3千万ミリリルになる。

法外な値段だ。間違いなくふっかけている。

しかしこれが本物だとすると絶対にあり得ないとは言えない。

「あれ? いいの?」

特に何も言わず魔法陣を元の場所に戻す俺をアンナが不思議そうに見ている。

残念ながら俺にはこれに値段を付けることはできない。

これはそれほどの品だ。

「おじさん、こんな物どこで手に入れたんですか?

幻獣を材料にした魔法陣なんて初めて見ましたよ」

「ほう、そこまでわかるか」

幻獣、魔獣、神獣。

呼び方や種別は様々であるが共通の特徴を持つ。

それは体の中に魔力を蓄えることができるということだ。

人間にしろ魔物にしろ魔力を蓄えることはできない。

体内で作られた魔力は常に外へと流れ出してしまう。

「そいつは以前持ち込まれたもんだ。

とうてい買い取れるもんじゃなかったがどうしてもと言われてな。

正規の値段は払えねえって安く買いたたいたもんだ」

よっぽど困ってたんだろうなと呟いたおじさんもまた、この魔法陣の扱いに困っているようだ。

「なんせ物が物だけに生半可な値段じゃ売れねぇ。

しかもこのレベルの物だとまともに使える奴すらいねぇ」

「でしょうね」

仮に買い手がついたとしてもその目的は観賞用だろう。

「ねえ、どういうこと?」

「魔法陣には発動制限があるんだよ」

魔法陣が大きくなればなるほど力の容量が大きくなる。

だが大きければ大きいほど、魔法を発動させるために必要な魔力も多くなる。

そのためあまり大きくすると簡単には使えなくなる。

そのうえ発動する魔法の出力は他と同じように決まるため、弱い出力で使うことができなくなる。

つまり普通に生活に使う分には全く使えないのだ。

そして大きさ以外の方法で容量を大きくしようとしても同じように発動させるための魔力も大きくなってしまう。

「そっか、需要がないからダメなのか〜」

「そういうことだ」

もっともそれ以外の使い方をするなら意味もあるんだけどな。

そう、たとえば戦争に使うとかな。

まあそれは今俺が考えることじゃない。

「アンナ、予算はいくらぐらいあるんだ?」

「こんだけ」

そう言って1シエル銅貨を八枚取り出して見せた。

「もうちょっとであっちのが買えたんだけどなあ」

「買うなよ、あんな粗悪品」

あの魔方陣は一見立派そうに見えるがその実たいしたものではない。

土台もインクもしっかりとしたものであるが魔法陣の完成度としては低い。

彫りは浅く、線も曲がっていた。

あれでは魔力がしっかりと流れてくれず、ロスが大きく消耗も早い。

価値としてはせいぜい半値がいいところだろう。

「あれは見せ掛けフェイク。

おそらく店に来た客を試してでもいるんだろう」

「へー、そうなの?」

まあきっと見る目がなくて金が持っていそうなカモがいたら売りつけるつもりなんだろうけどな。

「くっくっくっ、まあそういうこった。

良かったな嬢ちゃん、見る目のある彼氏がいてくれてよ」

「え? 彼氏?」

不思議そうに俺を見て悩んでいる。

ただそういっていたほうが売りやすいってだけのセールストークだろう。

「そっか、これデートだったんだ」

何でそんな結論に至ったかは知らないが、放っておく。

それよりも先に自分の用を済ませよう。

机に向かい、持ってきた荷物を下ろす。

「持ち込みも受け付けているって聞いてきたんだけど」

「ほう、見せて見な」

荷袋の中から箱を二つ、さらにその箱の中から各十五枚ずつ、合計三十枚の魔法陣を並べる。

大きさは全て同じ。この店に並んでいる物より少しだけ大きい程度の持ち運びやすい大きさだ。

「土台はカール木材、インクは魚の骨と鱗を乾燥させた物を細かく砕き、市販の絵の具と混ぜたものだ」

材料としてはありふれたものだ。

安価で手に入りやすく、なおかつ比較的良い魔法陣が作れる材料だ。

今出した物も全て、だいたい四リットルの水が望める出来だ。

「……悪くねえな。

一つ30、全部で900でどうだ?」

「それで頼む」

なかなか悪くない値段だ。

今後もこの店を利用するのも悪くないかもな。

「それにしてもこいつはおまえさんが作ったのかい?」

「まあな」

「なかなかいい腕しているじゃねえか。

大物もやるのかい?」

「いや、材料費も馬鹿にならないからな。

基本的に小物ばかりだ」

「しかたがねえな。

まあいいもんできたら持ってきな。

サービスしてやるからよ」

「できたらな」

百ミリリル銅貨を九枚受け取ると中身のなくなった箱を荷袋に詰める。

後ろを振り返るとずいぶんと嬉しそうににこにこと笑うアンナが待っていた。

「買う物は決まったのか?」

「うん、今日のところはやっぱりいいかなって思って」

「まあそうだな。

せめて誤って発動させない程度のことはできるようになってからだな」

「うん、そうするね」


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