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8話

第三訓練校に入学してから五日が過ぎた。

今日は入学後初めての休日だ。

普段は放課後でもあまり街を見て回る余裕はないため、今日は一日かけて生活に必要な物を扱っている店の位置を確認しておかないといけない。

そのため俺は朝食の後すぐに必要な荷物をまとめ、街へとくりだした。



第三軍事訓練校がある街、トルカはシエル王国の中では中規模の街だ。

街全体を覆うように高い防壁が立てられている。

訓練校はこの街のおよそ二十分の一を占める。

もっともその敷地の大半は国軍の軍事施設であり、有事の際に軍が駐留するための施設である。

また、有事の際には近隣の村の人々を避難させるための施設でもある。

街道沿いにあるうえ治安もいいため、人の出入りが豊富だ。さらに訓練校に新入生が入ったばかりのこともあり、今の時期の市場はいつも以上に活気づいているらしい。

らしいというのはこの話が出かけに寮母さんから聞いた話だからだ。

市場のほうをぐるっと回り、めぼしい品を確認していく。

一通り見て回り、必要となる予算を計算する。

それが終わったら今度は寮母さんに教えてもらった、魔法陣を取り扱っている店を探す。

この規模の街になると魔法陣を扱っている店は結構な数にのぼる。

さらに言えば取り扱っている魔法陣の品質も様々だし、値段もまちまちだ。

そもそも魔法陣は同じように作っても出来によって値段が違ってくるため鑑定する技術がなければ正しい値段は付けられない。

自力でいい店を探そうとすると今日一日ではとてもではないが足りない。寮母さんの教えてくれた店がいい店だといいんだが。

「あれ? ヤエト君?」

「ん?」

声をかけられ振り向くと、そこにはアンナがいた。

「こんなところでどうしたの?」

「必要なものの買い物だ」

「あ、そうなんだ。おんなじだね」

「ああ、そうだな」

たしかにアンナは大きめの布袋を持っている。

不思議なのはかなり厚めの手袋をしていることだ。

「アンナは何を買いに来たんだ?」

「練習用の魔法陣を買いに来たんだよ」

「魔法陣?」

たしかに三人には練習するように言っておいた。ただ寮の部屋には水の魔法陣と光の魔法陣がある。

その二つを使って練習するように言ったはずだ。

そもそもそれ以前の問題がある。

「発動させずに持てるようになったのか?」

触るだけで魔法を発動させてしまう状態ではとうてい買うことなどできない。

「えーとね、こうやって手袋をして、魔法出るなーてがんばって念じながらなら大丈夫だよ。

袋に入れていればもっと大丈夫」

「……そうか」

そのための手袋か。

しかしさすがに三日程度ではそれがやっとだろう。

むしろ三日でそれだけできるようになったなら十分立派だ。俺も普通に魔法陣を持ち歩けるようになるまで一月ぐらいかかった。

「行く店は決まっているのか?」

「うん、教えてもらったよ」

そう言って見せられたのは俺が寮母さんからもらった地図と同じものだった。

「俺の行き先と同じか。

よかったら一緒に行くか?」

「本当!?

ありがとー、実は初めてだから不安だったんだ」

それから店に着くまで少し話をした。

アンナは王都に店舗を抱えるそこそこ裕福な商人の生まれらしい。

そのため商人としての勉強はしてきたが、魔法陣には近づかせてももらえなかったらしい。

魔力が強い場合、感情の揺れ動きの激しい子供の頃は、感情が高ぶると近くの魔法陣を発動させてしまうことがある。

おそらく不用意に魔法陣に近づいて発動させてしまったのだろう。

そのため魔法陣から遠ざけられてきたのだろう。

「だから魔法科に行くって決まってとっても楽しみだったんだ」

そういう人もいるんだな。

俺にとってはいまだに魔法科が必要だと思えないんだが。これまで魔法にふれたことのないアキラやリサもアンナと同じように感じているのだろうか。

「あっ、あのお店かな?」

「ああ、そうみたいだな」」

寮母さんにもらった地図と同じ場所だ。

さほど大きな店ではない。

店幅は広くないし、奥行きもさほどでもない。

左右の壁に売り物の魔法陣も携帯用の小型で安めの商品ばかりだ。

その中で特別目を引きやすい魔法陣があった。

他の魔法陣が木や石でできているのに対し、これは鉄でできている。

インクもただのインクではない。

固まったインクの中に同じ色の石がそのまま埋まっている。

表示されている値段も他の物と比べて桁が二つ違う。

他より一回り大きいことを考慮しても高い。

「うわぁー、すっごーい」

「わかっていると思うが触るなよ」

念のためにアンナに釘をさす。

その魔法陣も悪くないが、俺が一番気になったのはその隣の魔法陣だ。

これだけは値が伏せられている。

見た目は黒い石に赤いラインの入っただけの少し変わった火の魔法陣だ。

それだけならばそう珍しいわけではない。

だがあれは何かが違う。

「おじさん、これ少し見せてもらってもいいかい?」

「隣のじゃなくていいのかい?」

「ああ、こっちがいい」

奥のカウンターから俺たちをニヤニヤと見ていた男は俺の返事にニヤリと笑った。

「いいぜ、じっくり見な」

許可を得た俺はその魔法陣を手にとってみた。

ツルツルとして手触りは丁寧に研磨された証だ。

宝石のような透き通った輝きはないが、磨き抜かれた表面は光を反射し輝いている。

描かれた魔法陣のラインは丁寧に描かれていて歪みがない。

何より気になるのはインクに使われている素材だ。

それを確認するため、魔法を発動させないように注意しながら、薄く少量の魔力を流す。

これは魔法陣の鑑定の際に使われる技術の一つで、こうすることでどのように魔力が流れるか、どれだけの力が残っているのかを判別することができる。

そしてその結果は恐るべき物だった。


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