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6話

午後の授業を前にして、俺は悩んでいた。

カナタやアキラのことではない。そちらはもうそういうものだと割り切ることにした。

先ほど教材を運ぶとき、俺とレントにだけ聞こえるように言っていたのだ。

「おまえたち二人にはこれから迷惑をかけることになる」

荷物運びを今後俺たち二人に頼むことになることを言っているようにもとれる。

しかし俺はもっと大変な意味を持っているような気がする。

それこそあり得ないようなとんでもないことを押しつけられるような気がするのだ。

「随分と悩んでいるようだが何かあったのか?」

「いえ、大丈夫です」

隣の席のお嬢様に心配されるとは。しかし気になるものは気になるのだ。

「何でもないということはないだろう。

教官に呼ばれて戻ってきてからずっとその顔だ。何かあったのは間違いないはずだ」

よく見ている。しかも昼食時まで見られていたようだ。

しかしなぜだ?

少なくとも恨みや不興を買うようなことは今のところしていないはずだ。隣の席だから目を付けられたのか?

「いえ、ちょっと他の人の思わぬ真実を知ってしまいまして。

それで少し困惑しているんです」

嘘は言っていない。アキラやカナタのことでショックを受けたことは本当だ。

教室に戻ってきた頃はそっちのことで悩んでいた。

「それならば私が話を聞こう。誰かに話すことで考えがまとまることは多い」

「いえ、本当に大丈夫ですから」

「遠慮することはないぞ。私たちは同じ道をいく同志だからな」

いや、本当に大丈夫だから。

どうしてこのお嬢様はそんなに俺にかまうんだ?

どうせならば男の俺でなく後ろの席の女と話せばいいだろうに。

助けを求める意味で後ろを向くとみんな寝ていた。

みんなだ。俺とお嬢様以外、誰一人として起きていなかった。


結局、教官が来るまでお嬢様に話しかけられて休み時間だというのによけいに疲れた。

しかもみんな教官が来る少し前にそろって起きた。

「さて訓練生諸君、ゆっくり休んだか?

午後は魔法の訓練を行う。

必要な道具はこちらで用意してある。

また、今日に限らず今後の訓練においては基本的に班行動によって行う。

班分けはすでに入試の成績を元にこちらですましている」

班行動? 何のために?

「これは軍隊が基本的に集団による能力に重きを置くためだ。

たとえどれだけ優れていても集団行動のとれない者に大きな成果は生み出せない。

また常に自分に合った仲間がともにいるとも限らない。

性格、能力、好み、嫌いなもの、苦手なこと、得意なこと。

様々なことが原因となり仲間と上手く行かず、自分自身の能力を存分に発揮できないことも多い。

これはそのような事態に備え対処法を学ぶための訓練でもある。

質問がある者はいるか?」

誰も手を挙げない。手を挙げる必要もない。

少なくともこの第三に来るのは基本的に指揮官のの候補生だ。

みんな相応の知識と技術を持ってこの場にいる……はずだ。

アキラみたいな例外もいるが基本的には問題ないはずだ。

「では班分けを発表する。

まずA班班長、リリエル・アルヴァス訓練生。

B班班長、スイ・ハウスウッド訓練生」

「はい」

「はい」

班長は貴族と豪商のお嬢様達か。

基本平等とはいえあの二人を押さえて上に立つのは大変そうだし妥当なところだろう。

問題があるとすればあの二人のどちらかと一緒にならないといけないことだな。

どちらかと言えばあっちのお嬢さんのほうがまだましか。

「次、A班副班長、ヤエト訓練生。

B班副班長、レント訓練生」

「はい」

「はい」

……こっちのお嬢様のほうか。

前にも言ったが俺は貴族という者が苦手だ。

接した数はそう多くはない。

ただ一人、二年近く付き合いのあったあの男のことも結局よくわからなかった。

だからあまりかかわりたくなかった。

お嬢様のほうを見ると向こうもこちらをじっと見ていた。

「よろしく頼む」

「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします」

挨拶をすませた後もお嬢様はこちらから視線を外さない。

俺は逃げるように視線をそらし、教官のほうを向いた。

「残りのA班はアンナ訓練生、リサ訓練生、アキラ訓練生。

B班はトーラ訓練生、カナタ訓練生、ジジ訓練生だ」

「はーい」

「はい」

「はい!」

「はい」

「はい」

「は、はい」

アキラもこっちか。

レントの次に話しやすい奴なのでいてくれるのは助かる。「さて、班分けが終わったところで諸君達にもう一つ伝えておかなければならないことがある。

すでに何人かは気がついていると思うがこの学科は非常に特殊だ。

そのため入学許可の基準も他とは大きく異なっている」

アキラみたいのもいるしな。

例の魔法兵の素質がどうこうの話だろう。

「具体的に重要視されたのは魔力だ。

今期の試験において全受験生の魔力を検査し、その中でも特に魔力の強い者を合格者とした」

魔力の強さか。

もしかしたらそうじゃないかと思ったがその通りだったか。

「しかしだ」

教官が途中で言葉をとめ、俺たち生徒達を見回す。

「その結果としてその他の試験の成績において合格基準を大きく下回る者を複数人合格者として出すことになった」

複数人? アキラ以外にもいたのか。

「アンナ訓練生、アキラ訓練生、カナタ訓練生、ジジ訓練生、トーラ訓練生、リサ訓練生。

以上の六人は特別合格者として定期的に試験を受けてもらう。

試験の結果次第によっては他の訓練校への転校処置をとることになるため必死に努力するように」

転校処置と言うことは第四以降の訓練校に格下げされるってことか。

それは恥ずかしい話だ。

いや、そんなことよりもだ。

十人中六人っていくら何でも多すぎだろう!


月末月始は忙しいため、次回更新は来週の予定です。

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