5話
一夜明けて翌日、教室に向かうために部屋を出た。
ちょうど隣のアキラもこれから向かうのか、扉が開いた。
俺はとりあえず挨拶をしようとして固まった。
部屋から出てきたのはアキラではなく、かわいらしい少女だった。
茶色の髪は窓から入り込む朝日の光を受けてきらめいていて、やや幼さを残す顔に思わず見とれてしまう。
「あ、おはようございます」
「あ、ああ、おはよう」
俺に気がついた少女はさらにかわいらしい笑みを浮かべて挨拶し、去っていった。
…………あれはたしか、カナタか?
午前中の授業はつつがなく済んだ。内容としては軍人としての心得と軍隊の仕組み、取り決めなどの基本的なことの復習だった。
それでもアキラは始終よくわかってなさそうな顔をしていたし、途中で寝ていたりもしていた。
その度に教官に叩かれていたが特にこたえた様子もなかった。
「男子三人、午後の教材を運ぶので食事の前に手伝うように」
「わかりました」
荷物運びか。となると午後は外で訓練か。
アキラを見るとまた寝ていた。
置いていったらこいつはまた教官に怒られるのだろうし起こしてやるか。
「おい、起きろ。教官が呼んでいるぞ」
「んー、わかった」起きたアキラを連れ、レントと合流して教官室に向かう。
「ちょっと待ってよ、二人とも。置いてかないでよ」
どうしたのだろうと振り向くと、なぜかカナタが追いかけてきていた。
「どうしたんだ?」
「どうしたって、一緒に呼ばれたじゃないか。
なのに二人とも僕だけ置いていくし。ひどいよ」
カナタのことを呼んでいたか?
俺はアキラと違ってしっかりと起きていたし、聞き間違えてもいないはずだ。
教官は確かに俺たち男三人を呼んでカナタのことは呼んでいなかった。
レントの方を見るとやはり同じように考えていたようで首を傾げていた。「いや、呼ばれたのは俺とレントとアキラの三人だろ」
「えー、違うよ。
というよりも何でアキラちゃんがいるの?」
「ヤエトが教官が呼んでるって言ったからだけど」
「え? 呼んでたかな?」今度はカナタが首を傾げている。
どうもお互いの考えがすれ違っているような気がする。
俺とレントが呼ばれたことは共通している。
しかし俺たちはアキラが呼ばれたと思っているが、カナタはアキラは呼ばれたと思っていない。
これはアキラが自分のことを女だと言っているのを聞いて信じたのかもしれない。
しかしカナタは自分が呼ばれたと思っているのはなぜだろうか?
まさか自分のことを男だとでも思っているのか?
いや、さすがにそれはないだろう。
「まあここで話してても仕方ないんじゃね?
それよりも早く教官のところに行こうぜ。
このままだと昼飯食う時間がなくなるぜ」
たしかにレントの言うとおりだ。
教官のところへ行けば疑問も解決するだろう。
教官室ではすでに運ぶべき荷物を用意して教官が待っていた。
「思ったよりも遅かったな。今はまだいいが実戦では一人の遅れが全体に影響する。
可能な限り迅速に、余裕を持って動くようにするように」
「了解しました」
四人全員で敬礼をし、返事を返す。
それを確認すると今度は怪訝な顔をする。
「私は男三人を呼んだはずだがなぜ四人いる?」
やはり男三人だけだ。ということはやはりカナタは呼ばれていなかったようだ。
「あれ? ならボクは呼ばれてないんじゃない?」
「何を言っているんだアキラ。教官は男三人と言っただろう」
「そうそう、つまり俺とヤエトとアキラの三人で女の子のカナタは呼ばれていなかったってことだ」
「ボク男の子じゃないよ!」
「僕は女の子じゃないよ!」
「うぉ! あー、そうだな」
驚いた。アキラがそう言うのは予想していたがカナタが叫ぶの予想していなかった。
しかしそうか、まさかとはおもったがカナタは自分が男だと思っているのか。
こんなにかわいいのにかわいそうなやつだ。
「……ヤエト訓練生、レント訓練生、勘違いをしているようだがその二人が言っていることは本当だ」
「え!?」
「マジ!?」
改めて二人をみる。
訓練校の制服は男女共通のため同じだ。しかし人によって着方は違ってくる。
例えば俺ならきっちり一番上までボタンをとめるがレントの場合一番上を開けている。
カナタもレントと同じだ。
アキラの場合第二ボタンまで開けてさらに両袖を肘までまくり上げ、よく鍛えられた腕が見えている。
見た目で判断すれば二人の違いは明白だ。
可憐という言葉がよく似合うカナタに対し、活発でやや幼さが残る顔立ちのアキラは年下の少年のようだ。
「どう見てもカナタが女の子でアキラが男にしか見えねえ」
「同感だ」
レントの言うとおり、俺にもそうとしか見えない。
しかし教官が嘘を言っているとも思えない。
つまり、まあ、うん、本当のことなんだろう。
「男、か……」
ため息とともに言葉を漏らすレントの気持ちはわからないでもない。
これだけの美少女が男だというのは俺でもショックを受ける。
「……荷物、運ぶか」
「……そうだな」
「荷物ならそこにある箱を教室まで運んでくれ。
それなりに重いので気をつけるように」
「了解しました」
俺たちは六箱ある小箱から二箱ずつ持ち上げるといわれたとおり教室に運んだ。
余談だが、カナタは一箱持ち上げただけでふらつき、結局アキラが残り二箱を持っていった。
……やっぱり性別逆じゃないのか?






